転生赤ちゃんカティは諜報活動しています そして鬼畜な父に溺愛されているようです

れもんぴーる

文字の大きさ
上 下
72 / 98
連載

公爵邸 お客様 1

しおりを挟む
「え?イレーヌ様が?」
「はい。お祝いに来られるそうですよ。」
「久しぶりに緊張しちゃう。」
 国王がマナーのサポート役として派遣してくれていた高位貴族のご令嬢だ。
 きちんとした指導には年配の夫人が来てくれていたが、お手本として、また話し方のお相手として比較的若いイレーヌ・シモンがサポートにあたってくれていたのだ。
 エドヴァルドの帰還のお祝いとカティの様子が気になると会いに来てくれるという。
 この時ばかりは身だしなみとマナーをきっちりとしなければならない。楽しくないお茶会になりそうだが、イレーヌに会うのは嬉しい。
 エドヴァルドがいない間の辛い気持ちをよく聞いてくれ、慰めてくれていた。

「カティ様、お会いしたかったですわ!本当にようございました。」
「はい、ありがとうございます!」
 お天気が良く、庭にお茶会の用意がされている。
 久しぶりに背筋を伸ばし、指先まで神経を張り巡らせてカップを持つと指がつりそうだ。若干プルプルするのでいつもよりお茶が進まない。お菓子もほとんど口にせず、修行のようなお茶会。
「それでお父様はもうお元気に?」
「はい。もう全く以前と変わりありませんわ。後ほどイレーヌ様にご挨拶をすると申しておりました。」
「まあ、光栄ですわ。エドヴァルド様といえばこの国をお守り下さった英雄ですもの!なかなかお姿を拝見することが出来ないので皆残念がっておりますのよ。」
 十三年もたつと、近づくものをその視線で射殺す氷の宰相の噂も若い者は知らないのだろう。イレーヌは嬉しそうに話す。

 そうこうするうちにエドヴァルドが姿を現した。
「ユリ公爵家当主エドヴァルドです。カティが大変世話になった、お礼申し上げる。」
 イレーヌはさっと頬を染めると
「とんでもございませんわ!ユリ公爵様にお会いできて光栄です。この度は無事の御帰還おめでとうございます。」
「ええ。では、ゆっくり過ごされるといい。」
 さっと踵を返すエドヴァルドに
「あの!ご不在の間のカティ様のご様子をお伝えしたいですわ。ご一緒いたしませんか?」
 と声をかけた。
 客とはいえ、大変失礼な声掛けだった。しかもカティのマナーのサポートをしていた侯爵令嬢にしてはお粗末すぎる言動だ。
「いえ、結構。失礼する。」
 さっと歩き去る無表情のエドヴァルドに気に留めることなくイレーヌはその背中を見送った。
「カティ様!うわさでは聞いておりましたが、素敵なお父様ですね。」
「ええ。自慢の父ですわ。」
 イレーヌはしばらくエドヴァルドの事をほめちぎって帰っていった。

 カティはふ~っと力を抜き、姿勢を崩すとお茶を入れ替えてもらった。
「背中つりそ・・・」
 久しぶりのイレーヌ訪問は思ったより疲れた。
 しばらくすることのなかった公爵令嬢としての振る舞いに心身ともに疲れた。おまけにイレーヌがエドヴァルドの話しかしなくなったからだ。彼女はまた来ますと言い残して帰っていった。

 カティがホッと一息ついていると、エドヴァルドがやってきた。
 カティはちゃっかりエドヴァルドの膝に乗せてもらう。
「先ほどは姿勢も所作も綺麗だった、この十三年どれだけお前が頑張ってきたのかよく分かったよ。」
「えへへへ。」
 エドヴァルドがご褒美にとお菓子を口に運んでくれる。
 カティの心が安心で満たされる。その時、
「まあ、カティ様!はしたないですわ!公爵令嬢としてあるまじきことです!」
 とイレーヌの声がした。

「お父様とはいえ殿方の膝になどと・・・せっかくマナーを教えて差し上げましたのに。ユリ公爵様、申し訳ありません。わたくしのサポートが足らなかったのですわ、こうなれば今後もわたくしがご指導を・・・・」
「必要はない。で、何の用だ。先ほど帰られたはずだが。」
 エドヴァルドが低い声で問う。
「あ、あのカティ様にお伝えしたいことがありまして・・・。」
 カティにマナーの先生として招くよう頼むつもりだった。
「ではさっさと伝えていただこう。」
「いえ、カティ様だけに・・」
「ここで言えないような話ならば聞かせる必要はない。話はすんだ、お帰りいただけ。」
 レオが承知しましたとイレーヌを連れて行った。

「・・・ごめんなさい。」
 カティはしょんぼりして膝から降りようとした。
 エドヴァルドは抱きかかえなおすと
「謝る必要も降りる必要もない。」
「でも公爵令嬢らしくないって・・・はしたないって。とう様に恥をかかせてしまいました。」
 カティの心の傷を知りもしない令嬢がずかずかと心を踏みにじる。
 カティが世話になったからと顔を出したが、先ほども失礼な態度を取ったうえに今回の無礼。
 この礼はきっちりとさせてもらおう。
 ついでに紹介者である国王にもくぎを刺しておかねばならないだろう。

「私はお前がこうして頼って甘えてくれるのは嬉しい。恥というのならあの令嬢の方が無礼で恥さらしだろう。あのような者がマナーをサポートしていたとは。」
「その時はきちんとお相手してくれたの。マナーの先生が一緒だったからかもしれないけど嫌な感じはなかったよ。」
「もう付き合う必要はない。お前は今まで通りで良い。」
 そういうと、カティは安心したように頷いた。
しおりを挟む
感想 498

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。