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カティ とう様との距離
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カティは勢いよくエドヴァルドの部屋に飛び込んだ。
カティを見て一瞬戸惑う表情を浮かべるエドヴァルドにほんの少しだけ胸が痛む。
しかし!そんなことは気にしない。
「とう様!調子はいかがですか?」
「大丈夫だ、君のおかげだ。」
「・・・」。
(「君」・・・とう様にしたら知らない女の子と一緒なのかな・・・だけどそんなの認めないんだからっ。)
「体、重くない?」
「ああ。」
レオがコホンとわざとらしい咳をする。
先ほど、カティへのよそよそしさを指摘したばかりだ。
この十三年間のカティを見ているだけに、レオはかわいそうで仕方がない。以前のようにカティに接してあげて欲しいと頼んだところだというのに。
「とう様!抱っこ!」
「カティ様、令嬢として流石にそれはちょっと・・・」
レオの忠告は無視してぴょんとエドヴァルドの膝の上に飛び乗り首にしがみついた。
そして急に真面目な顔で
「レオ、これは甘えではありません。治癒魔法師として治療をほどこしているのです。」
そう言って実際に治癒魔法を施す。
(嘘だ、絶対嘘だ。甘えたいだけでしょうが。)
後ろめたい時、カティは畏まった話し方をしてごまかしていることに本人は気が付いていない。
「とう様、今日はもう用事は終わり?」
「・・・ああ。少し休む。」
「カティも一緒に休む!」
「いけません。昨日は大目に見ましたが、カティ様はもう立派なレディにおなりなのですから。」
「いやだもん。絶対離れないもん。またいなくなったら嫌だもん!」
カティはエドヴァルドの首にしがみついて駄々をこねる。
「お八つ減らしますよ!」
「ううっ、ひどい。けど・・・いいもん!」
エドヴァルドは首にしがみつくカティを見て呆れたような、しかし懐かしそうに
「お前は成長しても変わらないのだな。・・・分かった、一緒にいよう。長い間寂しい思いをさせてしまってすまなかった。」
ぎゅっと抱きしめると頭のてっぺんにキスをした。
(きたー!!頭のてっぺんキスきたー!)
あれほどキスされる度にギャーギャー騒いでいたというのに、これほど待ち望むとは思わなかった。やっと以前の関係に戻れたと心の底から喜びと安堵が湧き上がり、涙がにじんだ。
その日からカティの赤ちゃん返りが加速した。
自分の体重を軽くできるのをいいことにエドヴァルドにしがみついて離れない。
ご飯を食べるのは膝の上、寝るのも一緒。十三年前の赤ん坊状態である。とにかく目を離すと消えそうだからと離れることを怖がる。
カティが湯あみや着替えで席を外している間に、エドヴァルドが移動して不在になると不安そうに泣きながらエドヴァルドを探す。
それを見た医師はカティが分離不安に陥っている可能性があり、しばらくは好きにさせるようにとアドバイスし、エドヴァルドもレオも納得し了承した。
エドヴァルドは、カティのおねだりをすべて受け入れているうちに戸惑っていた気持ちも薄れていった。
「はい、とう様。美味しい?」
カティは一生懸命ケーキを掬ってエドヴァルドに食べさせる。
「ああ。美味しい。」
お礼にクッキーをカティの口に運ぶと嬉しそうにカティは口を開ける。
「美味しい!これ、とう様と食べたかったの。」
膝の上に座ってるカティの頭を撫でる。
今日も、天気の良い庭でエドヴァルドとお茶をしている。
「お前のおかげでまたこうしてお茶が出来るのだな。」
「国と私を守ってくれたのはとう様なの。」
「しかし、私をあきらめないで探してくれたお前のおかげだ。それとバリアもな。」
「そう、バリア!とう様使えたの?」
「お前が教えてくれたから幾度か試すと扱えるようになった。あの時、一か八かだったが・・・長い間すまなかったな。」
「・・・とう様。・・私のせいでごめんね。」
「カティのせいではない。お前を守れず力不足のわが身を恥じ入るばかりだ。」
「ううん、守ってくれたよ?私こそ・・・とう様の事守ると言ったのに守れなくてごめんなさい。」
「ちゃんと守ってくれた、だからこそこうして再び会うことが出来たのだから。」
「もう・・・いなくなっちゃやだ。」
ぐすぐすといいながらエドヴァルドにしがみつく。
エドヴァルドは、カティの大きくなった背中を撫でる。
泣くだけ泣くとそのまま眠りについたカティを横抱きにする。
カティを受け取ろうとレオが進み出るが、目で制しそのまま寝顔を見つめる。
片手で抱けるほどの赤ん坊だった子が、いきなり15歳の美しい令嬢になっていた。それが「とう様」といい、ぐいぐいと距離を詰めてくるのには戸惑った。
しかし見た目だけは貴族令嬢だが、言動が記憶にあるカティそのもの。とても公爵令嬢として教育されてきたとは思えない愛嬌と素直さとちょっぴりの抜けぶりが、今回の件での懊悩を吹き飛ばし、救ってくれた。
想像をはるかに凌駕するカティの能力。レオの話を聞いてその力に畏怖さえ感じた。しかし、腕の中の赤子のような無邪気なカティを見るとそんなことは微塵も感じられない。それどころか繊細で傷つきやすいカティ。
これからはこの子の心を守っていこうと改めて決意した。
カティを見て一瞬戸惑う表情を浮かべるエドヴァルドにほんの少しだけ胸が痛む。
しかし!そんなことは気にしない。
「とう様!調子はいかがですか?」
「大丈夫だ、君のおかげだ。」
「・・・」。
(「君」・・・とう様にしたら知らない女の子と一緒なのかな・・・だけどそんなの認めないんだからっ。)
「体、重くない?」
「ああ。」
レオがコホンとわざとらしい咳をする。
先ほど、カティへのよそよそしさを指摘したばかりだ。
この十三年間のカティを見ているだけに、レオはかわいそうで仕方がない。以前のようにカティに接してあげて欲しいと頼んだところだというのに。
「とう様!抱っこ!」
「カティ様、令嬢として流石にそれはちょっと・・・」
レオの忠告は無視してぴょんとエドヴァルドの膝の上に飛び乗り首にしがみついた。
そして急に真面目な顔で
「レオ、これは甘えではありません。治癒魔法師として治療をほどこしているのです。」
そう言って実際に治癒魔法を施す。
(嘘だ、絶対嘘だ。甘えたいだけでしょうが。)
後ろめたい時、カティは畏まった話し方をしてごまかしていることに本人は気が付いていない。
「とう様、今日はもう用事は終わり?」
「・・・ああ。少し休む。」
「カティも一緒に休む!」
「いけません。昨日は大目に見ましたが、カティ様はもう立派なレディにおなりなのですから。」
「いやだもん。絶対離れないもん。またいなくなったら嫌だもん!」
カティはエドヴァルドの首にしがみついて駄々をこねる。
「お八つ減らしますよ!」
「ううっ、ひどい。けど・・・いいもん!」
エドヴァルドは首にしがみつくカティを見て呆れたような、しかし懐かしそうに
「お前は成長しても変わらないのだな。・・・分かった、一緒にいよう。長い間寂しい思いをさせてしまってすまなかった。」
ぎゅっと抱きしめると頭のてっぺんにキスをした。
(きたー!!頭のてっぺんキスきたー!)
あれほどキスされる度にギャーギャー騒いでいたというのに、これほど待ち望むとは思わなかった。やっと以前の関係に戻れたと心の底から喜びと安堵が湧き上がり、涙がにじんだ。
その日からカティの赤ちゃん返りが加速した。
自分の体重を軽くできるのをいいことにエドヴァルドにしがみついて離れない。
ご飯を食べるのは膝の上、寝るのも一緒。十三年前の赤ん坊状態である。とにかく目を離すと消えそうだからと離れることを怖がる。
カティが湯あみや着替えで席を外している間に、エドヴァルドが移動して不在になると不安そうに泣きながらエドヴァルドを探す。
それを見た医師はカティが分離不安に陥っている可能性があり、しばらくは好きにさせるようにとアドバイスし、エドヴァルドもレオも納得し了承した。
エドヴァルドは、カティのおねだりをすべて受け入れているうちに戸惑っていた気持ちも薄れていった。
「はい、とう様。美味しい?」
カティは一生懸命ケーキを掬ってエドヴァルドに食べさせる。
「ああ。美味しい。」
お礼にクッキーをカティの口に運ぶと嬉しそうにカティは口を開ける。
「美味しい!これ、とう様と食べたかったの。」
膝の上に座ってるカティの頭を撫でる。
今日も、天気の良い庭でエドヴァルドとお茶をしている。
「お前のおかげでまたこうしてお茶が出来るのだな。」
「国と私を守ってくれたのはとう様なの。」
「しかし、私をあきらめないで探してくれたお前のおかげだ。それとバリアもな。」
「そう、バリア!とう様使えたの?」
「お前が教えてくれたから幾度か試すと扱えるようになった。あの時、一か八かだったが・・・長い間すまなかったな。」
「・・・とう様。・・私のせいでごめんね。」
「カティのせいではない。お前を守れず力不足のわが身を恥じ入るばかりだ。」
「ううん、守ってくれたよ?私こそ・・・とう様の事守ると言ったのに守れなくてごめんなさい。」
「ちゃんと守ってくれた、だからこそこうして再び会うことが出来たのだから。」
「もう・・・いなくなっちゃやだ。」
ぐすぐすといいながらエドヴァルドにしがみつく。
エドヴァルドは、カティの大きくなった背中を撫でる。
泣くだけ泣くとそのまま眠りについたカティを横抱きにする。
カティを受け取ろうとレオが進み出るが、目で制しそのまま寝顔を見つめる。
片手で抱けるほどの赤ん坊だった子が、いきなり15歳の美しい令嬢になっていた。それが「とう様」といい、ぐいぐいと距離を詰めてくるのには戸惑った。
しかし見た目だけは貴族令嬢だが、言動が記憶にあるカティそのもの。とても公爵令嬢として教育されてきたとは思えない愛嬌と素直さとちょっぴりの抜けぶりが、今回の件での懊悩を吹き飛ばし、救ってくれた。
想像をはるかに凌駕するカティの能力。レオの話を聞いてその力に畏怖さえ感じた。しかし、腕の中の赤子のような無邪気なカティを見るとそんなことは微塵も感じられない。それどころか繊細で傷つきやすいカティ。
これからはこの子の心を守っていこうと改めて決意した。
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