上 下
58 / 98
連載

カティ 黒幕と対峙する

しおりを挟む
「何・・・者だ?!」
 尋常ではない圧を身体に受け椅子から身動きできないでいながらも、威圧してくるトルスティ代理国王はさすがだった。
「なぜ・・・他国の公女の命を狙う?」
 エンヤが問う。
 カティはミンミに抱かれて一応赤ちゃんの振りをして無垢な目で見ている。

 レオは黙々と、重力に押しつぶされている王の護衛や側近たちを縛り上げている。
 カティは重力を操り、相手の結界の中の重力を重くした。そして魔法も使えないように封じていた。
「その子供か・・・ふん、わざわざ死に急ぎにつれて来たか。苦労して作り出した魔獣を殺したのはお前たちであろう。ただで済むと思うな。」
 国王は憎々しい目でレオ達を睨む。
 レオも、きつい瞳で睨み返す。そのせいでエドヴァルドを失ったのだ。

「この魔法はなんだ?・・・そのじじいか?」
「そうじゃよ。魔法はお前たちの専売特許だとでも思ったか。貴様らの魔法など赤子の手をひねるようじゃわい。」
「・・・どうするつもりだ?」
「殺されたくなければ手を引け。こちらはこのようにいつでも国ごと制圧できる。」
「はっ!甘いことだ。」
「もう一度問う。幼い子を殺める理由は?」
「理由をいえば解放するとでも?」
「ふん。解放してほしい?覚悟もなく大それたことを・・・しょせんその程度の器という事じゃ。」
 エンヤが言い捨てると、トルスティの顔がゆがむ。
「とうたまは?とうたまどこ?」
 状況がわかっていないだろう子供が無邪気に聞く。

 そんなカティに苛立つように
「お前が・・・お前さえいなければ私は真の王になれたのだ!」
「しんの王?あたまもちからもよわい・・・おうたまにはなれないよ?」
「なんだと?!お前さえさっさと死ねば!」
「・・・。」
 ぐっとまた結界内の圧が強まり、押しつぶされて意識を失うものまで出ている。
 それに負けて椅子から転がり落ちた国王をレオは拘束する。
 カティはミンミに降ろしてもらうと国王の前に立った。

 エドヴァルドの事を想うと悲しみと怒りで何かが体の中から飛び出してしまいそうなのを必死に堪える。周囲の壁や調度品にピシピシとひびが入る。
 無様に崩れ落ちて身動きできないトルスティ、この男と血がつながっているとは思えない。憎くて苦しくて・・・きっと今、自分の気持ちのままに力を解放すると大勢の命を奪ってしまう。
 一度深呼吸をして震える体を落ち着けた。
 同じ舞台に上がらない。この男と自分は違う。
 落ち着かなきゃ・・・落ち着いて。

 トルスティの身体が急に軽くなると逆に浮きはじめ、天上にたたきつけられるかと思った瞬間、今度は床に向かって落下した。
「うわ~?!」
 床まであと数センチというところでピタッと止まった。
 そして薄い膜のような球体で囲まれる。
「何の真似だ!」
 その球体は広い部屋をコロコロ転がり始めた。初めはゆっくりと転がりトルスティはその中で歩き、バランスを取る。
「おい!ふざけるな!」
 腹が立って足を止めると中で転がってしまう。どんどん早く転がる球体に合わせ、どんどん早く足を動かすトルスティ。しまいには全力で走るが、球体は止まる様子もなく室内をコロコロ転がりまくる。
 足がもつれたトルスティは転倒し、ごろごろ上へ下へと球体の動きに翻弄されてみっともない姿をさらす。
 トルスティは屈辱に怒りをあらわにするが、どうしようもない。目も回り、ふらふらになったころやっとやっと球体がはじけるように消え、地面にたたきつけられるように落ちた。

 カティは、重力に押さえつけられなくてもふらふらで床に這いつくばるトルスティの額に「偽国王」、左頬に「ダメ」そして右頬に「絶対」と書いた。
そしてスッと鏡を前に差し出した。
「き・・さま!私を誰だと思ってる!」
「まけいぬ。」
「殺す!卑怯者!正々堂々と勝負しろ!」
 レオが鼻で笑い、怒りをあらわにする。
「赤ん坊に暗殺者を送り込む貴様が言うな!」
「とうたまかえして。」
「さっきからなんだ?!とうたまとうたまって!」
 レオが沈痛な面持ちで
「あの魔獣を倒した英雄の事だ。あれと一緒に湖に沈んだ・・・」
「ふはははは!こいつの義父が死んだのか?いい気味だ!あの湖はその後崩れた山からマグマが流れ出し湖の水で爆発を起こし、あたり一面埋まったわ!もうどこがどこかも分かるまい!」
 大笑いする国王の口に猿ぐつわを嵌めるとレオは心配そうにカティを見た。
 ミンミが涙をこらえながらカティを抱きしめる。
「・・・レオ、初めて人に死んでほしいと思ったの。」
「・・・。当然です。わたくしがやります。」
「ううん。こんな人間の為にレオの手と心を少しでも汚すわけにはいかないの。」

 トルスティの側近から今回の事件のあらかたが判明した。

 バートランド国は直系が王位継承し、儀式を経て正式な王と認められる。
 儀式とは、迷路になっている洞窟を無事通り抜けて王宮につながる扉に到着すること。
 バートランド国王だけがもつ「直観」、その力のない者は通り抜けることが出来ない洞窟。そして不思議なことにその力は、正統な王位第一継承者にしか引き継がれないのだ。
 トルスティは前国王の一人息子ユリウス王太子を暗殺していた。前国王が崩御した時、すぐに自分が正統な後継者だとその儀式を行った。しかし儀式は失敗した。
 正統な継承者がどこかにいるのだ。
 トルスティは前国王の隠し子を探したが見つからなかった。
 しかし必死に調査した結果、殺害したユリウスに子供がいたことが判明した。だがその子供であるクラウスも死亡していることが分かり、そしてさらにその子どもがいることも。
 その子供を処分しない限り、自分は真の国王と認められない。甥を殺してまで手に入れたはずの王位。
 周囲からささやかれる疑惑や落胆の声が許せなかった。そのための努力は惜しまず必死でやってきたのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!

酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」 年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。 確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。 だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。 当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。 結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。 当然呪いは本来の標的に向かいますからね? 日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。 恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。