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〇〇〇マン結成
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第三王子は歯がゆい思いをしていた。
こうなった以上、宰相の仇を取り、カティの安全を脅かす相手を徹底的につぶすしかないと思っていた。
しかし、バートランド国の暗殺や魔獣襲撃の証拠がなく、こちらからの宣戦布告となると周囲国との関係もあり避けたいところなのだ。しかも相手は魔法優位の国、エドヴァルドを失った今、なかなか難しいものがあった。
感情だけで政は動かせない、そういう国王にヴィクトルは歯を食いしばるしかなかった。
あの日から、一切の感情が表に出なくなったカティが心配だった。
じっとしていられず、ヴィクトルは公爵邸へ向かった。
ヴィクトルは寂しさや不安を共有してやりたくて、カティを膝に乗せ抱きしめていた。
「・・・少しは落ち着いた?」
「うん。平気。」
「・・・。ごめんね、僕では何も力になれなくて。陛下は戦争になると民が一番に苦しむからと他の解決方法を模索している。」
「うん。わかってる。」
あまりにも淡々としているカティに不安が募る。
「何かしようと思ってないよね?」
「・・・。」
「思ってるんだ・・・やっぱり。」
「まさか。こんな子供に何もできないよ。だから、事情だけでも教えてほしい。誰も肝心なこと話してくれないの。」
カティがバートランドの血筋であること、その血縁者から命を狙われていることは秘密事項とされていた。
「僕も子供だからさ・・・詳しく教えてもらってないんだ。」
「そっか。仕方ないね。」
カティは密かに決心した。
レオに、バートランドに行かせてほしいと頼もう。いくら何でも赤ん坊の身体で何週間もの旅は出来ない、宿をとるにしても食事をするにしても大人の保護者が必要だ。
「お願いだから、無茶をしないで欲しい。バートランドの狙いは君だ、君が乗り込むのは勧められない。」
「うん。わかってる。ありがとう、ヴィ―。今まで仲良くしてくれてありがとう。」
「カティ・・・」
カティの不吉な挨拶に肝が冷えた。
彼女はたった一人ででも戦うつもりなのだ。
「僕に・・・出来ることはある?」
「ありがとう、でも王族が手を出したら戦になるでしょ。・・・それに私何も考えてないって。赤ちゃんだもん、心配しないで?」
ヴィクトルは嘘と分かっていても頷くしかなかった。
カティの頼みをレオがうんと言うはずはなかった。
しかしエンヤだけはわかってくれた。
「じゃあお師匠様、連れて行って。とう様を探すの。」
「しかし、狙われているのは嬢ちゃんじゃぞ。」
「とう様をひどい目に合わせた奴を許せないの。だからお師匠様、何があったのか、なんで私が狙われるのか教えて。」
「エンヤ殿!いけません!」
レオが止めるがエンヤはすべて隠さずに話した。
「・・・そっか。また・・・身内から殺されるんだ、私。」
「嬢ちゃんの爺様を殺した疑いもあるようじゃ、そうまでして王位につきたいのだろう今の代理王は。」
「くだらない・・・・私そんな王位なんか興味ないのに。ほっといてくれればいいのに!そんなもののせいでとう様を・・・・絶対に許さない。」
「本気か?」
「ええ。お師匠様が駄目なら、誰か雇って。子供の私をバートランドまで連れていってくれる護衛と侍女を。」
「嬢ちゃんが強いのは知っておる。じゃが、狡猾さと実践に関してはまだまだじゃ。」
「でも!」
「わかっておる。じゃからわしも行こう。宰相を嬢ちゃんのもとに連れて帰ってこれなかったわしの責任でもある。」
「お師匠様!」
レオはあきらめたように
「それをいうなら私にも責任はあります。私も同行いたします。」
「レオは駄目。公爵邸を・・・とう様の代わりに来る人を支えてくれないと。」
「ですが・・・。私もエドヴァルド様をお探ししたいのです。公爵邸は・・・カティ様が成人するまで陛下が後ろ盾になってくださいます。執務も信頼のある者を派遣してくださるとおっしゃっておりますし、執事がおります。ですから!」
「・・・とう様に怒られるよ。」
「はい。怒っていただけるのなら本望です。」
生きて怒られるのなら、そんな奇跡がおこるなら、どれだけ怒られようとも凍らされようとも構わないとレオは思った。
「じゃあ、この三人だけで。」
「・・・いえ、よろしければミンミを同行させてよろしいでしょうか。女性がいる方が何かと都合がよろしいですから。カティ様のお世話係が必要です。」
「危険だから駄目。」
「覚悟の上です。彼女自身も瀕死となり、カティ様も一度は命を奪われ、今度はエドヴァルド様まで・・・ミンミも一矢を報えないか思いつめております。私だけ行くことは許してくれないと思います。」
「・・・ミンミには二度と辛い思いをしてほしくないの。私の側にいたせいで何度も痛い目にあって、負わなくていい罪悪感を背負って・・・ミンミの事大好きなの。苦しんで欲しくないの。」
「ミンミも同じです。カティ様が大好きであなたのためなら何でもしたい。あなたが行くのなら一緒に行くのは当たり前のことなのです。」
「・・・。ミンミに危険性を伝えて。それでも行くといってくれたなら・・・いい。」
そして四人でバートランドに殴り込みをかけることが決まった。
その面々を見て「ハ〇グマン結成!」と一瞬、ほんの一瞬、頭の隅っこに思い浮かべてしまった。
カティはこんな時にも思いついてしまう自分の性(さが)にがっくりしつつ、殴り込みの前でも通常運転できてる自分に安心した。
こうなった以上、宰相の仇を取り、カティの安全を脅かす相手を徹底的につぶすしかないと思っていた。
しかし、バートランド国の暗殺や魔獣襲撃の証拠がなく、こちらからの宣戦布告となると周囲国との関係もあり避けたいところなのだ。しかも相手は魔法優位の国、エドヴァルドを失った今、なかなか難しいものがあった。
感情だけで政は動かせない、そういう国王にヴィクトルは歯を食いしばるしかなかった。
あの日から、一切の感情が表に出なくなったカティが心配だった。
じっとしていられず、ヴィクトルは公爵邸へ向かった。
ヴィクトルは寂しさや不安を共有してやりたくて、カティを膝に乗せ抱きしめていた。
「・・・少しは落ち着いた?」
「うん。平気。」
「・・・。ごめんね、僕では何も力になれなくて。陛下は戦争になると民が一番に苦しむからと他の解決方法を模索している。」
「うん。わかってる。」
あまりにも淡々としているカティに不安が募る。
「何かしようと思ってないよね?」
「・・・。」
「思ってるんだ・・・やっぱり。」
「まさか。こんな子供に何もできないよ。だから、事情だけでも教えてほしい。誰も肝心なこと話してくれないの。」
カティがバートランドの血筋であること、その血縁者から命を狙われていることは秘密事項とされていた。
「僕も子供だからさ・・・詳しく教えてもらってないんだ。」
「そっか。仕方ないね。」
カティは密かに決心した。
レオに、バートランドに行かせてほしいと頼もう。いくら何でも赤ん坊の身体で何週間もの旅は出来ない、宿をとるにしても食事をするにしても大人の保護者が必要だ。
「お願いだから、無茶をしないで欲しい。バートランドの狙いは君だ、君が乗り込むのは勧められない。」
「うん。わかってる。ありがとう、ヴィ―。今まで仲良くしてくれてありがとう。」
「カティ・・・」
カティの不吉な挨拶に肝が冷えた。
彼女はたった一人ででも戦うつもりなのだ。
「僕に・・・出来ることはある?」
「ありがとう、でも王族が手を出したら戦になるでしょ。・・・それに私何も考えてないって。赤ちゃんだもん、心配しないで?」
ヴィクトルは嘘と分かっていても頷くしかなかった。
カティの頼みをレオがうんと言うはずはなかった。
しかしエンヤだけはわかってくれた。
「じゃあお師匠様、連れて行って。とう様を探すの。」
「しかし、狙われているのは嬢ちゃんじゃぞ。」
「とう様をひどい目に合わせた奴を許せないの。だからお師匠様、何があったのか、なんで私が狙われるのか教えて。」
「エンヤ殿!いけません!」
レオが止めるがエンヤはすべて隠さずに話した。
「・・・そっか。また・・・身内から殺されるんだ、私。」
「嬢ちゃんの爺様を殺した疑いもあるようじゃ、そうまでして王位につきたいのだろう今の代理王は。」
「くだらない・・・・私そんな王位なんか興味ないのに。ほっといてくれればいいのに!そんなもののせいでとう様を・・・・絶対に許さない。」
「本気か?」
「ええ。お師匠様が駄目なら、誰か雇って。子供の私をバートランドまで連れていってくれる護衛と侍女を。」
「嬢ちゃんが強いのは知っておる。じゃが、狡猾さと実践に関してはまだまだじゃ。」
「でも!」
「わかっておる。じゃからわしも行こう。宰相を嬢ちゃんのもとに連れて帰ってこれなかったわしの責任でもある。」
「お師匠様!」
レオはあきらめたように
「それをいうなら私にも責任はあります。私も同行いたします。」
「レオは駄目。公爵邸を・・・とう様の代わりに来る人を支えてくれないと。」
「ですが・・・。私もエドヴァルド様をお探ししたいのです。公爵邸は・・・カティ様が成人するまで陛下が後ろ盾になってくださいます。執務も信頼のある者を派遣してくださるとおっしゃっておりますし、執事がおります。ですから!」
「・・・とう様に怒られるよ。」
「はい。怒っていただけるのなら本望です。」
生きて怒られるのなら、そんな奇跡がおこるなら、どれだけ怒られようとも凍らされようとも構わないとレオは思った。
「じゃあ、この三人だけで。」
「・・・いえ、よろしければミンミを同行させてよろしいでしょうか。女性がいる方が何かと都合がよろしいですから。カティ様のお世話係が必要です。」
「危険だから駄目。」
「覚悟の上です。彼女自身も瀕死となり、カティ様も一度は命を奪われ、今度はエドヴァルド様まで・・・ミンミも一矢を報えないか思いつめております。私だけ行くことは許してくれないと思います。」
「・・・ミンミには二度と辛い思いをしてほしくないの。私の側にいたせいで何度も痛い目にあって、負わなくていい罪悪感を背負って・・・ミンミの事大好きなの。苦しんで欲しくないの。」
「ミンミも同じです。カティ様が大好きであなたのためなら何でもしたい。あなたが行くのなら一緒に行くのは当たり前のことなのです。」
「・・・。ミンミに危険性を伝えて。それでも行くといってくれたなら・・・いい。」
そして四人でバートランドに殴り込みをかけることが決まった。
その面々を見て「ハ〇グマン結成!」と一瞬、ほんの一瞬、頭の隅っこに思い浮かべてしまった。
カティはこんな時にも思いついてしまう自分の性(さが)にがっくりしつつ、殴り込みの前でも通常運転できてる自分に安心した。
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