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カティ 王宮にて

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「無事に帰ってきてほんと良かったよ。襲撃犯の黒幕もおおよそ分かったんだって?」
「うん。でも詳しく教えてくれないの。とう様が解決してくれると思うけど。そうだ!探検の事、とう様に言いつけたでしょ!」
「え?言いつけてなんか・・・ただ宰相からカティと会う予定を聞かれて・・・嘘をついいたらただでは済まない気配がしたからまあ・・・その・・・」
「おかげで私はこの短い脚で正座よ、正座!」
「ごめんよ。お詫びに約束通り隠し部屋に案内するよ。あそこは危険なことはないし、宰相も了承してくれたから。」
「とう様知ってるのね・・・ヴィー、とう様の軍門に下ったのね。」
「心証を良くしておくのに越したことはないから。」
「ん?」
「何でもない。」
 ヴィクトルは王宮にいくつかある隠し部屋を教えてくれた。
 エドヴァルドは、カティの身の安全性が高まるからと今回の探検を許可したのだ。一度場所を認識すれば、カティなら転移で移動できる。

「うわあ、すごい。秘密基地みた~い。」
 小さい部屋だが居心地よく整えられている。
「こういう部屋が色々なところにあるんだ。カティは小さいから自分で仕掛け外せないけど、いざという時は侍女や護衛に指示できるでしょ。」
 うんうんとうなづきながら、今度叱られた時、転移で逃げ込もうと考えていた。
「この部屋隠し通路とつながってないの?」
「・・・緊急事態に使うものだからそりゃあね。」
 だが隠し通路には二度とカティを連れていきません、とエドヴァルドと約束している。
 修行から戻ってきたカティの成果を詳しくは知らないヴィクトルは、隠し通路を教えてくれなかった。
「もう大丈夫なんだけどなあ。」
「駄目。カティが王族になってからね。」
「え?王族なんかなれないけど?」
「そんなの分からないよ。人生何が起こるかわからないからね。」
 ヴィクトルは楽しそうにカティを抱っこして他の隠し部屋を案内した。

 探検が終わり、エドヴァルドの執務室まで送ってもらった。
 ヴィクトルはレオにカティを渡すとエドヴァルドに
「いざという時の避難場所はお伝えしましたのでご安心を。責任をもってここまでエスコートいたしました。」
「王子自ら申し訳ありません。今後とも(その調子で弁えて)よろしくお願いします。」
 エドヴァルドの行間を感じ取ったヴィクトルは顔をひきつらせた。

「楽しかったか?」
「うん!いろんなところに隠し部屋があったの!」
「何かあればそこに逃げ込むんだぞ。」
「はい!あ、とう様も・・・」
 そう言って、隠し部屋の場所と開け方という超機密情報をエドヴァルドに余すことなく報告した。
「貴重な情報だな。だが、それは誰にも言ってはいけない。私にもな。」
 エドヴァルドはそう言いながらもカティを抱っこして褒めるように頭のてっぺんキスをする。
 カティはここの所獲得したスルースキルを発動する。
「ええ?!どうしよう?でも・・ヴィーは私に教えてくれたの。陛下に怒られない?」
「あの親子はまだ懲りないらしい。」
 エドヴァルドは冷たい笑いを顔に浮かべた。
 カティはぞくっとする。ヴィクトルと陛下に心の中で手を合わせた。

「カティ様がいらっしゃると執務室の雰囲気がいいですね。」
 レオも嬉しそうにしている。
 どことなく顔色の悪い宰相補佐のマティアスも頷いている。
(・・・とう様のオーラに皆びくびくしてたってヴィーが言ってたなあ。)
 カティはリュックからお八つと一輪の花を取り出して、マティアスの足元まで歩み寄った。
「カティ様?」
 マティアスがかがんでくれると
「いつもとうたま助けてくれてありあと!」
 お菓子とお花を一本渡した。
「カティ様・・・。カティ様がご無事で・・・こうしてまた同行されるだけで何よりでございます!もう二度とエドヴァルド様からお離れにならないよう切にお願いします!」
 懇願されて、ちょっと引く。
「・・・わかりまちた。」
 マティアスはそっとカティの耳元に
「エドヴァルド様にもお菓子を差し上げてください。私の身が危険ですので。」
 震える声で囁いた。
 ぐるっと顔を向けるとエドヴァルドは書類を見ている。
「え?べつに・・・」
「殺気が飛んでます。ささ、お早く。」
 カティが体の向きを変えたとたんレオにさっさと抱き上げられエドヴァルドの膝に座らされた。
「・・・・。」
「カティ様、お茶をお入れしますね。エドヴァルド様もちょうど休憩のお時間ですから。」
 マティアスはスッと頭を下げると下がっていく。
「とう様、はい。」
 カティはエドヴァルドにお菓子を渡そうとするが受け取ってくれない。
「今は手が離せない。」
 エドヴァルドはそう言い書類を捌き続ける。
 レオが口を指さしている。
 カティがそっとエドヴァルドの口元にお菓子を持っていくと、食べてくれた。

 レオはほっとした。
 カティがマティアスにお菓子と花を渡したときに吹き出た殺気。すぐにその気配は消えたが、隠しようのない殺気に気が付いた可哀そうな宰相補佐はまた胃薬を飲みに行ったに違いない。
 カティのフォローでまた機嫌が戻った様子で、逆にカティにミルクを飲ませている。

 この一カ月の王宮の厳戒態勢が嘘のように穏やかな日々が戻ってきた。
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