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お師匠様と悪人退治

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 エドヴァルドはエンヤに杖を使っての指導を依頼した。
 エンヤは「杖とは?」と不思議がったが、カティの魔法のきっかけとなったことを聞き、杖を介した魔法のコントロールを指導した。
 カティも気の合うエンヤとともに練習に励み、うまくコントロールが出来るようになってきていた。
 しかし、盲点だったのが、エンヤが非常に杖を気に入ったことだ。

 カティと一緒に天に向かって何やら雄たけびを上げながら杖を振りあげ、カティは超高速空気砲を、エンヤは真っ黒な雷雲を呼び寄せた。
 二人は夢中で魔法の特訓に励み、周りは大いに迷惑をこうむることになった。公爵邸の庭は日々ボロボロになっていく。たまりかねた執事の懇願により、修行は山奥で行われるようになった。
 周囲の木々が風で切り倒され整備され、カティが大きな穴を開けたところには、エンヤが雷雲により大雨を降らしそこここに湖が出来た。
 しばらくして、十二湖と名付けられ観光名所になったとか。

「嬢ちゃん、やるな。」
「お師匠様のおかげです。」
「今度、嬢ちゃんの空気砲で悪者退治しに街に行かんか?」
「え?」
 カティはキラキラを目を輝かせる。
「それでじゃな。悪者から罰金とって「栗のお山」買いに行かんか?」
「お師匠様・・・お供いたします。」
 幼女と老師の二人はくっくっと笑って悪だくみをまとめた。
 このように二人は非常に気が合った。ミルカの危惧は当たっていた。

「でもお師匠様、命を狙われているから、とう様から護衛なしで外に出たらいけないと言われているの。」
「あ奴はうるさいからの。わしがいるから大丈夫じゃ。許可なんぞ貰いに行ったら風魔法で悪人退治なんて許してくれんわい。」
 そして二人はひそひそと内緒話をした。

 そしてエンヤはカティを大きな長いローブの中に隠し、一緒に公爵邸を出た。二人は手をつなぎ、わざと裏通りの方に行き、獲物を探し始めた。
 獲物を探すのは犯罪者側も同様で、貴族っぽい幼い女の子を連れた年寄りなど格好の獲物だった。
 早速、3人の破落戸に囲まれた。
「おい、じじい。金を貸してくれよ。」
「ええぞ、利子はつけるがの。」
 男たちはいきり立つ。
「調子に乗ると痛い目に合わせるぞ!おい、このガキ可愛い面をしてるじゃねえか。こいつも連れていくぞ。」
「や~、じじさま、たしゅけて~。」
「嬢ちゃん、棒読みじゃ。まったく緊迫が足りん。」
「や~!たしゅけて!」
「その調子じゃ!」

 破落戸たちは青筋を立ててカティの腕を引っ張り、エンヤの胸ぐらをつかんだ。
 そのとたんカティは杖を振り、エンヤも杖を振りあげた。
 カティの腕を掴んでいる男は、道の反対側まで吹っ飛ばされて転がった。エンヤを掴んでいる男は一瞬にして火に包まれた。大きな悲鳴を上げて道を転がり、火を消そうとする男を仲間が服で叩いて火を消そうとする。
「ふん。」
 そういうとエンヤは炎を消した。
「相談じゃが、このままお前たちを強盗と誘拐未遂で突き出してもいいんじゃが・・・・示談でもよいぞ。」
「ふ、ふざけんな!殺されかけたのはこっちだ!」
「そうか、残念じゃの。じゃあ、わしのガラスのハートが傷ついた罰として死んでもらおうかのう。幸い目撃者はおらんしな。」
 エンヤはさっと杖を掲げた。
 先ほど火に包まれた仲間を見ているだけに、男たちは懐から財布や金を出して震えて謝り始めた。
「・・・ふむ。ま、許してやらんでもない。あ、またこんな事したら今度こそ殺っちゃうよ。」

 エンヤは男たちを拘束した。
「・・・お師匠様。これ。」
「そうじゃな。」
 二人は男らが差し出したお金や財布を破落戸とともに騎士団に渡すことにした。どう見ても男たちの財布ではない、誰かから奪い取ったものだろう。
「このやり方じゃとうまくいかんな。」
「こっちが強盗になっちゃう。」
「そうじゃのう。」
 そう言いながらエンヤはカティをひょいと抱えると防御壁をはった。
 カティの目の前でパキンと短剣がはじかれた。

 突然の攻撃だった 。
「嬢ちゃん!特訓の成果を見せよ!」
「ひい~っ。」
 カティは急な攻撃に恐怖と驚きで対応ができない。
「仕方ないのお。」
 エンヤは顔を引き締めると、短剣を投げてきた男を火だるまにした。
 仲間を放置してさらに剣で襲って来るもの、魔法攻撃で防御壁を破ろうとするものまでいる。先ほどの破落戸とはわけが違う。
 それをエンヤはひょいひょいとかわす。

「嬢ちゃん!修行の成果の見せどころじゃ!」
 カティは怖くて泣きそうになる。
 自分が殺してしまった賊の事を思い出し、体が震える。恐怖で頭が真っ白だ。
「嬢ちゃん!」
 エンヤはカティを抱っこして攻撃を避ける。
「嬢ちゃん、一人につき栗のお山二個でどうじゃ。」
「え?」
 急に力の抜けるようなことをいう師匠に、少し気持ちが落ち着く。
「いつもの練習通りじゃ。さっきと同じように吹っ飛ばすだけでよいんじゃ。わしがついとる。」
 何のために魔法の練習をしてきたのか。
 大切なミンミを殺そうとした者、自分を殺そうとした者から身を守るためにエンヤの特訓を受けていたのに。

 カティは杖を構えると、えいやあ!っと襲撃者に向かって力を放った。超空気砲が賊にぶつかり男が吹っ飛ぶ。そして次々に襲撃者の意識を奪っていった。
 カティは伝令でエドヴァルドに伝えようとしたが、エンヤがとめた。
「その必要はないわい。」
 すると思い切り顔をしかめたエドヴァルドが多くの護衛たちと現れた。
「と、とう様!うわ~ん。」
 緊張がとけるとカティは泣きエドヴァルドに抱き上げられた。
 泣くカティの背中を撫でながら、エンヤを睨んだ。
「老師、実地訓練にしては危険すぎでは?」
「すまん、予想外じゃった。そこらの破落戸を練習台にするつもりだったのだがまさかこんな奴らが現れるとは思わなかった。じゃがお主もずっと監視していただろう。」
「もちろんだ。老師がいれば大丈夫だろうと思ってはいたが。」
 襲撃開始直後にエドヴァルドは鋭い氷の剣で何人かを貫き、戦闘不能にした。しかしカティが人を攻撃できるのか、身を守ることが出来るのかを確認する必要があり全員を仕留めず我慢をしていた。

「これでずっと監視されていることが分かったな。」
 今回の敵の襲来は予想外だった。
 おそらく以前、カティを襲った仲間だろう。エドヴァルドも護衛も同行しない初めての外出を狙われるとは、ずっと監視されているに違いない。
 破落戸は騎士へ引き渡し、襲撃犯達は屋敷に連れ帰るように指示した。
「大丈夫か、よく頑張ったな。」
「ごめんなさい、おうち抜け出てごめんなさい・・・うっく・・うう・・」
「ああ、大丈夫だ。老師が実施訓練をしないといざという時、恐怖で体が動かないからと言って報告は受けていた。」
「・・・そうなの?」
「だが、これは想定外だ。よく冷静に動けたな。怖い目に合わせて悪かった。」
 再び涙があふれてくるカティを抱きしめると屋敷に戻った。
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