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連載

カティの死

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 王宮に出仕していたエドヴァルドのもとに侵入者ありとカティから伝令が届いた。 
 急ぎ 屋敷に戻った時、屋敷中大騒ぎになっていた。

 護衛三人が重傷、侍女一人も瀕死の重体だった。そして・・・カティの小さな体が静かに横たわっていた。
 ミルカがカティの側で横に首を振った。
 エドヴァルドは無言のままカティの胸に手を当てて何かをつぶやいた。その途端、あたりに乾いた音と稲妻が走り、カティの体に直撃した。
 カティの小さな体が跳ね上がる。
「エドヴァルド様?!何を?!」
 まわりの雑音など無視し、今度はぐっぐっとリズムをつけて胸を押し始めた。そして時折口から息を吹き込む。
 エドヴァルドは手を止めずに、胸を押し、息を吹き込み続けた。

 こふっとカティの口から息が漏れた。
「カティ様!!」
 レオとミルカが叫んだ。
 エドヴァルドはカティを抱き上げてしばらく無言で抱きしめていたが、ベッドに戻すと
「ミルカ、後は頼む。」
 そういい、部屋を出た。

 カティ達が倒れていたという森の側に行くと公爵家の騎士たちが警備と調査をしていた。
「エドヴァルド様!申し訳ありません!」
 この屋敷の警備担当の騎士が膝をついて謝罪する。
「詫びは後にしろ。状況説明を。」
 そういって周りに倒れている賊の死体を見渡した。
 五名の男たちが倒れていた。
 エドヴァルドから冷気がほとばしる。
「この者たちの剣に血が付いておりましたので、侍女と護衛を切ったのはこの者らに間違いありません。しかしこの者たちの死因がわかりません。どこにも傷がないのです」
「身元は?」
「何も身につけておりませんでした。」
「そうか。」
「森の奥から侵入したようで、犬たちが殺されておりました。侵入防止の結界も破られており・・・かなりの魔法の使い手がいるかと。」
 エドヴァルドは破られた結界を再び封じ、屋敷に戻った。

 カティはしっかりと意識を取り戻し真っ青な顔で震えていた。
 そんなカティをエドヴァルドは抱きしめてそっと頭のてっぺんに口づけた。
「侍女のもとに行きたいとおっしゃっているのですが・・・」
 カティが母とも慕う侍女が瀕死の重体なのだ。おそらく数日持たないだろう彼女のもとにカティを連れて行くわけにはいかない。カティとて先ほど息を吹き返したばかりなのだから安静の必要があるのだ。
「とう様・・・ミンミ・・ミンミが。」
 泣いて頼むカティの顔を見る。
「ミンミは厳しい状態だ、それでも会うか?」
「私をかばってくれたの、だからミンミが・・」
 震える声でエドヴァルドにささやいた。
「そうか、連れていこう。」
「エドヴァルド様、いけません!ミンミはもう・・・」
「や~あ。ミンミ!」
 うわ~と泣き出すカティを連れてエドヴァルドはミンミのもとに向かった。

 側にいた侍女長が頭を下げた。侍女長の目にも涙が浮かんでいる、もうダメだと分かっているのだろう。一緒に来たレオの目も潤み、こぶしを握り込んでいる。
「ミンミ!」
 ベッドの上に降ろしてもらい、顔色が悪く冷たいミンミの顔に縋りついて泣いた。
「ごめ・・ごめんなさい。ミンミ・・ミンミぃ~!」
 縋りついたカティの手から急に光があふれ出た。先ほどの杖の時と同じく強い光。小枝の時とは比べ物にならないほど強い光がミンミの全身を包んだ。
「おお?!」
 誰かわからないが驚きの声が上がる。
 すると少しづつミンミの顔の色に赤みが差してきた。
 レオと侍女長が喜びの声を上げる。
 自分の手の平から光が出て呆然としているカティの頭をエドヴァルドは撫でた。
「とう様?」
「能力が上がったな。カティ、お前がミンミを救った。よくやった。」
「ミンミ・・・助かる?」
「大丈夫だ。」
 カティは嬉しくてまた涙が出た。そしてはっと気が付いた。
「護衛さん・・・」
 自分を逃がすために戦って切られたはずだ。

 エドヴァルドに連れられ、三人が寝かされている部屋についた。
 そこには医者がおり、傷に薬草から作られた薬を塗り込んでいた。
「カティ、頼む」
 頼むといわれてもどうやったらあんな光が出るのかわからない。さっきはただ悲しくて必死に死なないで欲しいと願っていただけだ。
 どきどきしながら護衛の手を握り、一生懸命意識が戻るよう、傷が治るように願った。
 すると先ほどと同様に光が放出された。
 意識を失っていた護衛が目を開いた。そしてすぐに起き上がると
「エドヴァルド様?!カティ様?!」
 床に降りて礼を取ろうとしたのをエドヴァルドは止めた。
「気分はどうだ?」
「問題ありません!たしか・・・切られたと思ったのですが。カティ様がご無事でよかった!」
「傷が治癒したとはいえ、ずいぶん血が流れ出ただろう。当分ゆっくり休め。ご苦労だった。」
 エドヴァルドは守り切れなかったとはいえ、重傷を負い任務を遂行しようとした護衛たちにねぎらいの言葉をかけた。
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