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エピローグ

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「ええ?視察に? 私が付き添ってもよいのですか」
「ああ。シルは孤児院で不備のある所によく気がつき、助言しているから。収監施設とはいえ、何か気がつくところがあれば教えて欲しい」
 そう言って、騎士団の管理下にある収容所にセシルを連れていった。

 派手さはないが品のある衣装に身を包んだセシルを、騎士団総団長の制服に身を包んだアルフォンスがエスコートする。
 すれ違うもの皆が二人に礼をとっていく。
 セシルは珍しそうに周囲を見渡しながら、騎士様たちの休憩はどうなっているの? などと一生懸命考えてくれている。
 セシルの質問に答えながらアルフォンスはちらっと三階の窓を見あげ、少し笑うとまたセシルへ視線を戻した。



 その日だけ地下から窓のある部屋に移されていたアナベルは、眼下に身分の高そうな男にエスコートされて幸せそうに寄り添うセシルを見た。
 その途端、大声でセシルの名を叫び、窓を手で叩き割ろうとした。
 すかさず見張りの騎士に取り押さえられ、再び灯りのささない地下に移される。

「なんでよ!なんであいつがあんな幸せそうにしてるの! あいつは貴族じゃないわ! ただの養女なのに! あの場所は私の物なのに!」
 地下で喚くアナベルのもとに、先ほど窓から見た男がやって来た。
 あの日、自分を取り調べた男だった。
「あんたは・・・セシルの色仕掛けに騙されてるのよ! あの子は私をいじめたの、殺そうとしたのよ! 私の事を信じないとあなた後悔するわ」
「いい事を教えてやろう。お前の両親はもうこの世にいない」
「は? 何を言ってるの! お父様は・・・」
「子爵ではない。お前をこれまでで育ててきた父母だ。」
「父さんと母さんが⁉」
 アナベルはひどく驚いた顔をした。
「なんで!・・・なんで死んだの⁉」

 アナベルは子爵に頼んで、自分を育ててくれていた大好きな養父母のもとにお礼としてずっとお金を送っていた。
「処刑だよ」
「処刑!?」
「お前のせいで彼らは死ぬことになった。欲をかきさえしなければ、バレずに済んだのにな」
「私のせいってどうしてよ⁉ なんで父さんたちが殺されなければならないのよ!」
「それは平民が貴族に対して詐欺を働いたからだ。乗っ取りを企んだとして罰せられた。」
「詐欺って・・・父さんが何をしたっていうの?」
「お前を赤の他人と知りながら貴族の子だと偽った」
「そんな・・・私は確かに子爵家の娘で・・・」
「お前の身元が判明する少し前に街を変わっただろう。あれは赤ん坊から幼少期にもずっとその村にいたことがばれない様に引っ越したのだ。そのうえで拾ったブローチを証拠に名乗り出てきた。明らかに計画的だ。」
「そんなの嘘!」
「お前は何の権利もないのに、貴族の家に入り込み好き勝手をし、一つの家族を壊し、何人もの人生を狂わせた。」
「でも・・・でも! セシルが養女で貴族というなら、私だって!」
「お前が妬みも焦りもせずにいれば、貴族としての生活を享受し、お前の両親もお前から金を送ってもらえたのだろう。欲をかいたな。ただ、お前は知らなかったから、処刑は許してやる。自分が何をしたのか死ぬまでここで考えるんだな、モニカ。」
 最後にアナベルに本当の名で呼ぶとアルフォンスはその場を去った。
「まって!お願い! 本当に? 本当に私はモニカなの? アナベルじゃなかったの? 父さんも母さんも私のせいで死んじゃったの!?」

 自分さえ、セシルを虐げなければこんなことにはならなかった。実の両親を処刑に追い込むことはなかった。
 モニカがいくら泣こうとも、後悔しようとももう誰も相手をする者はいなかった。



 一方、シャリエ子爵から離縁された元夫人は、アナベルを求めて収容所の周りをさまよう。アナベルは無実なのだと、セシルに皆騙されているのだと大声で吹聴するようになり、皆が遠巻きに見ていく。
 そこに一人の騎士が近づき、真実を告げる。アナベルは実子ではなかったと。
 元シャリエ子爵夫人はショックで気を失い、病院に運ばれたが目を覚ますと生死の分からぬ本当のアナベルを想い、涙を流した。
 そして目が覚めたようにセシルに対して謝罪を繰り返しているという。
 それを知ったシャリエ子爵は彼女が身を寄せている教会に、匿名で寄付を送った。



 だが、アルフォンスはセシルにはそんなことは知らせない。
 セシルには、もう彼らはこの国から追放されたと言い、今後何も心配はないと伝えた。ホッとした顔でほほ笑むセシルにアルフォンスはいつか一緒に行きたいところがあると言った。

 ヴァロワ侯爵領には見渡す限りの花が咲き乱れる美しい丘がある。領地の人々は家族や大切な人とそれを見に行くのが楽しみの一つだった。
 だがアルフォンスは通りがかったことはあっても、大切な誰かと見に行ったことはなかった。だから、セシルと一緒に見たいと言ってくれた。
 セシルはうんうんと泣きそうになりながら、アルフォンスの胸に飛び込んだのだった。



 それから数年後のアルフォンスとセシルの結婚式にはシャリエ子爵とサミュエルの姿があった。
 セシルは、全てを水に流せたわけではない。ただ、彼らに対して哀れさが勝るようになった。
 必死でセシルの為に手を尽くしてくれた二人。
 大切な妻であり母を失い、娘であり妹を失った二人をとても可哀想に思った。 
 そう思えたのもアルフォンスがゆるぎない愛情を示してくれたおかげだった。心の安定が、相手を思いやる余裕を産んだ。

 仲の良い親子になる必要はない、家族としての役割くらいは果たしてもいい。
 娘として時々実家に顔を見せに行ってあげてもいいかな。そうすれば社交界でのシャリエ子爵の立場も向上するだろう。
 もう、対価など求めないから。
 


 そして、今セシルは夢のような世界に立っている。アルフォンスが連れてきたいと言っていたヴァロワ侯爵領の小高い丘。
「セシル、綺麗だよ。」
 アルフォンスが、セシルと本名に戻ったセシルに声をかける。
 数多の白い小さい花が咲き乱れ、まるで雪景色のように広がっている美しい景色の中に、真っ青な美しいドレスを着たセシルが嬉しそうに笑顔で立っている。

 まるで真っ白な雪に覆われた世界に青い花が咲いたように。

 終わり

 

 最後までお読みいただきありがとうございます(*´▽`*)

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