27 / 29
今度こそ
しおりを挟む
それからも二人の交流は続き、一年ほどして、アルフォンスとセシルは婚約した、
何気ない会話を積み重ね、安心と信頼を与えてくれた誠実なアルフォンスのおかげで、セシルの心の傷は少しづつ癒えていった。
お互いの事情を知り、人の怖さも、受ける傷の深さも良く知っている二人。それでも乗り越えてきた二人は、互いを尊重し、大切に思うようになった。
そしてアルフォンスはセシルに求婚した。
だが子爵家から籍が抜けていないとはいえ、自分は平民のつもりだからとセシルは、一度は断った。
セシルにとってもアルフォンスは大切な相手になっていた。
それでも侯爵家を継ぐアルフォンスの足手まといにはなりたくない。今のようにこうしてときどき話をする関係でいい。
アルフォンスが結婚したらそれさえ失ってしまうけど・・・それでもその方がいい。
「シル。私は、結婚はしないと宣言していた。親戚から養子をとることに父も了承しているんだ」
「え? どうしてですか?」
「・・・母というものに・・・女性そのものに嫌悪感を抱いていたから。でもシルと出会って私の気持ちも変わった、あなたと過ごしたいと思った。」
「アルフォンスさま・・・」
「だから父は反対しない。私が結婚をする気になった・・・それだけできっと喜んでくれる」
だが、問題はそれだけではないのだ。
下位貴族から高位の貴族に嫁ぐというのは大変な苦労があるのだ。そもそも教育課程やマナー、学ぶものからして違ってくる。
夫人として社交界に出るなら、教養として様々なものを周知の上で魑魅魍魎の中で上手く立ち回らなければならない。
アナベルの事で世間を騒がせたシャリエ家の人間を、しかも家出して平民同然のセシルと婚姻するなど、ヴァロワ家の恥にしかならない。
「そんなこと言うのなら、私の母だって罪人だよ。公にならなかっただけだ。たしかに、結婚すれば社交の事も夫人としての立場や仕事などたくさん苦労があると思う。だが、内情は話した通り、高位貴族として胸を張れるようなうちではない。社交はしなくていい、執務補助や使用人たちに対する教育・管理だって専門家を雇う。私の側にいて欲しいだけだ、あなたもそれを望んでくれるならすべての憂いをはらして見せる。」
アルフォンスの熱い求婚にセシルは頷いたのだった。
その夜、ルルが大泣きをしてふたりでココアで乾杯をした。
セシルはアルフォンスと侯爵家を訪れた。
アルフォンスの父、ヴァロワ侯爵に招かれたのだ。
セシルは、侯爵家の使用人たちやヴァロワ侯爵にも冷たい態度を取られると覚悟をしていたが、皆優しく迎え入れてくれた。
一時期、心を完全閉ざし、結婚など絶対にしないと言っていた、大事な坊ちゃんが初めて好意を抱いた女性を連れてきたと、執事はじめ何人かが涙ぐんで迎えてくれた。
アルフォンスは恥ずかしそうに、やめてくれと言いながらもその表情は可愛らしくて思わずドキッとしてしまった。
ヴァロワ侯爵からは、最初にすべて事情を知っていると言われた。
牽制かと思ったが、だから何も心配しなくても良いと言って下さった。アルフォンスの心に寄り添ってくれてありがとうと。
それはこちらのセリフですとセシルは涙ながらに応え、ヴァロワ侯爵へ嫁ぐことへの不安は薄れていった。
こうしてセシルは幸せな日々を過ごしてはいたが、ふいに昔の事が頭をよぎる。
ここまできてまた裏切られるかもしれないという不安。またアナベルや義母が何かしてくるかもしれないと不安にさいなまれる。
アルフォンスは多忙で、そう毎日店に顔を出すことは出来ない立場である。当たり前だと分かっているが、もしアナベルに誘惑されていたら、アナベルでなくとも誰かと会っていたら・・・どうしても過去のトラウマがセシルを苦しめる。
だが、それは自分が乗り越えなければならない事でアルフォンスに泣き言をいうわけにはいかなかった。それはアルフォンスを信じないということになってしまうから。
だから、セシルは不安になるとアルフォンスからもらったお守りを一人握りしめて、心を落ち着けていた。
しかし、アルフォンスはそれに気がつき、すぐに一緒に暮らそうと言ってくれた。
セシルの胸に渦巻く灰色の塊が不安とともに消えさり、温かいものが胸を満たした。しかし、ルルの店は二人で頑張って成り立っている店なのだ。セシルが抜けると切り盛りが難しい。
かといってアルフォンスの屋敷から歩いて通うのには遠い上に、警備上の問題が出てくる。次期侯爵夫人というだけで格段に危険度が増すのだ。
アルフォンスがそう言ってくれただけで、セシルはもう十分だと言った。
それでも、アルフォンスは護衛と侍女を付け、新しい従業員が見つかるまでルルの店で仕事が続けられるように手配をしてくれた。
セシルはアルフォンスの思いやりのおかげで、呪縛からようやく解放されるように感じた。
何気ない会話を積み重ね、安心と信頼を与えてくれた誠実なアルフォンスのおかげで、セシルの心の傷は少しづつ癒えていった。
お互いの事情を知り、人の怖さも、受ける傷の深さも良く知っている二人。それでも乗り越えてきた二人は、互いを尊重し、大切に思うようになった。
そしてアルフォンスはセシルに求婚した。
だが子爵家から籍が抜けていないとはいえ、自分は平民のつもりだからとセシルは、一度は断った。
セシルにとってもアルフォンスは大切な相手になっていた。
それでも侯爵家を継ぐアルフォンスの足手まといにはなりたくない。今のようにこうしてときどき話をする関係でいい。
アルフォンスが結婚したらそれさえ失ってしまうけど・・・それでもその方がいい。
「シル。私は、結婚はしないと宣言していた。親戚から養子をとることに父も了承しているんだ」
「え? どうしてですか?」
「・・・母というものに・・・女性そのものに嫌悪感を抱いていたから。でもシルと出会って私の気持ちも変わった、あなたと過ごしたいと思った。」
「アルフォンスさま・・・」
「だから父は反対しない。私が結婚をする気になった・・・それだけできっと喜んでくれる」
だが、問題はそれだけではないのだ。
下位貴族から高位の貴族に嫁ぐというのは大変な苦労があるのだ。そもそも教育課程やマナー、学ぶものからして違ってくる。
夫人として社交界に出るなら、教養として様々なものを周知の上で魑魅魍魎の中で上手く立ち回らなければならない。
アナベルの事で世間を騒がせたシャリエ家の人間を、しかも家出して平民同然のセシルと婚姻するなど、ヴァロワ家の恥にしかならない。
「そんなこと言うのなら、私の母だって罪人だよ。公にならなかっただけだ。たしかに、結婚すれば社交の事も夫人としての立場や仕事などたくさん苦労があると思う。だが、内情は話した通り、高位貴族として胸を張れるようなうちではない。社交はしなくていい、執務補助や使用人たちに対する教育・管理だって専門家を雇う。私の側にいて欲しいだけだ、あなたもそれを望んでくれるならすべての憂いをはらして見せる。」
アルフォンスの熱い求婚にセシルは頷いたのだった。
その夜、ルルが大泣きをしてふたりでココアで乾杯をした。
セシルはアルフォンスと侯爵家を訪れた。
アルフォンスの父、ヴァロワ侯爵に招かれたのだ。
セシルは、侯爵家の使用人たちやヴァロワ侯爵にも冷たい態度を取られると覚悟をしていたが、皆優しく迎え入れてくれた。
一時期、心を完全閉ざし、結婚など絶対にしないと言っていた、大事な坊ちゃんが初めて好意を抱いた女性を連れてきたと、執事はじめ何人かが涙ぐんで迎えてくれた。
アルフォンスは恥ずかしそうに、やめてくれと言いながらもその表情は可愛らしくて思わずドキッとしてしまった。
ヴァロワ侯爵からは、最初にすべて事情を知っていると言われた。
牽制かと思ったが、だから何も心配しなくても良いと言って下さった。アルフォンスの心に寄り添ってくれてありがとうと。
それはこちらのセリフですとセシルは涙ながらに応え、ヴァロワ侯爵へ嫁ぐことへの不安は薄れていった。
こうしてセシルは幸せな日々を過ごしてはいたが、ふいに昔の事が頭をよぎる。
ここまできてまた裏切られるかもしれないという不安。またアナベルや義母が何かしてくるかもしれないと不安にさいなまれる。
アルフォンスは多忙で、そう毎日店に顔を出すことは出来ない立場である。当たり前だと分かっているが、もしアナベルに誘惑されていたら、アナベルでなくとも誰かと会っていたら・・・どうしても過去のトラウマがセシルを苦しめる。
だが、それは自分が乗り越えなければならない事でアルフォンスに泣き言をいうわけにはいかなかった。それはアルフォンスを信じないということになってしまうから。
だから、セシルは不安になるとアルフォンスからもらったお守りを一人握りしめて、心を落ち着けていた。
しかし、アルフォンスはそれに気がつき、すぐに一緒に暮らそうと言ってくれた。
セシルの胸に渦巻く灰色の塊が不安とともに消えさり、温かいものが胸を満たした。しかし、ルルの店は二人で頑張って成り立っている店なのだ。セシルが抜けると切り盛りが難しい。
かといってアルフォンスの屋敷から歩いて通うのには遠い上に、警備上の問題が出てくる。次期侯爵夫人というだけで格段に危険度が増すのだ。
アルフォンスがそう言ってくれただけで、セシルはもう十分だと言った。
それでも、アルフォンスは護衛と侍女を付け、新しい従業員が見つかるまでルルの店で仕事が続けられるように手配をしてくれた。
セシルはアルフォンスの思いやりのおかげで、呪縛からようやく解放されるように感じた。
351
お気に入りに追加
3,029
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング

留学してたら、愚昧がやらかした件。
庭にハニワ
ファンタジー
バカだアホだ、と思っちゃいたが、本当に愚かしい妹。老害と化した祖父母に甘やかし放題されて、聖女気取りで日々暮らしてるらしい。どうしてくれよう……。
R−15は基本です。


「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。
曽根原ツタ
恋愛
ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。
ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。
その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。
ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる