19 / 29
デート
しおりを挟む
ルルにもずいぶん心配をかけたが、このままお付き合いは続けることになった。
マルクの言う通り、セシルとマルクの運命が回りだすのか。それともやはり運命は決まっているのか・・・
セシルは胸の奥底に一抹の不安を抱えながらも、二人で運命に立ち向かおうと決心した。
マルクはあれから毎日また食事にくるようになった。
マルクは、ルルに、「悪いのはアナベルだが、あんたにも反省すべきことはあるよ!」と怒られて謝罪し、セシルを幸せにしますと約束したのだった。
セシルは一時の興奮が落ち着き、今回の事を冷静に振り返ってみた。
シャリエ子爵と令息は今回、セシルを助けるために迅速に動いてくれた。おかげで、自分は直接傷つけられることも会うこともなかった。アナベルはマルクに近づき、あることないこと吹き込みセシルと引き離そうとしたのだろうがそれも失敗した。
だからシャリエ子爵には感謝したのだが、よく考えるとそう簡単に抜け出せるような生活環境だったということだ。
酷い虚偽やいじめ行為、そして殺人未遂。それだけ罪を犯した人物を領地に幽閉しているとはいえ、自由にさせていたのだろう。そう思うと感謝の気持ちも半減する。牢に入れるなり、警備を厳しくするなりしていれば今回の事は起きなかった。
マルクとの間にわずかでも不信感が芽生えることもなかった。
今回の決着はどうつけるつもりだろうか・・・領地にまた幽閉して幕引きとするのだろう。
所詮私は他人なのだから、実の子を何とか助けたいのは当たり前だろうから。
そう考えると、少し絆されていた気持ちがスーッと冷えていった。
勘違いをしてはいけない。彼らは善良な人間だったから、自分たちのした事を後悔し、償っているだけだったのだ。
決してセシルを愛しているわけではないのだから・・・
(うん。今回も慰謝料遠慮なく請求しよ・・・)
むなしい思いでセシルはそう思った。
そしてマルクとやり直してから二週間。
今日は、マルクが新しくできたカフェに連れて来てくれた。
あれから休みの度にどこかに遊びに連れて行ってくれる。
マルクは昔に、アナベルとは会い、セシルと会った事がなかったのはサミュエル達から冷遇されていた証だと察したようだ。それを取り返そうとしてくれているかのように誘ってくれる。
「そんなにいつも誘ってくれなくていいのよ。仕事が大変なのだから、たまにはゆっくり休んでね。」
「優しいな、シルは。俺が会いたいからいいんだよ。ここのメニューを食べて欲しかったんだ。」
そう言ってガラスの器にジェノワーズと生クリーム、ピスタチオクリーム、アイスとオレンジが盛り付けられ、そこにフロランタンが添えてある一品。
街の女性たちに大変人気で、セシルもお客さんのうわさ話を聞いて一度は食べてみたいと思っていた。
「ふふ、ありがとう。」
あれからもずっとマルクは謝り続け、セシルはもういいと許した。
悪いのはアナベル。翻弄され、苦しんだマルクをこれ以上責めることは出来なかった。自分の心にはまだ確かな傷は残っているけれど、時間をかけて癒すしかないのだ。
「とてもおいしいわ。さすが人気になるだけあるわね。今度ルルさんにも食べさせてあげたいわ。」
「ルルさんは本当にお前の母親みたいだな。」
「うん。とても大事にしてくれるの。」
「・・・。そうだな。家族になるのに血のつながりなど関係ないということだよ。」
「人に寄るわ。ルルさんはそうだろうけど・・・そうじゃない人もいるわ。」
「確かにそうだけど・・・少なくともサミュエルはシルの事いつも気にしているよ。この間だって。」
「それは感謝してる。でも彼らの不手際から起こった事だから、考えたら当たり前のことだなあと思って。これからだっていつあの子が現れるかもしれないとずっと思って生きていかなきゃならないのよ?」
セシルは不安そうに視線を窓の外に向ける。
「シル・・・」
マルクはテーブルの上のセシルの手を握り、
「王都を離れよう。誰も知らない街に行って二人で暮らそう。シルがもう不安にならないで済むように。」
「そんなのだめよ。騎士になるためにどれだけ訓練と勉強が必要なのか知っているわ。気持ちだけで・・・そう言ってくれただけで十分よ。ありがとう。」
シルもマルクの手を握り返し、二人は見つめ合いお互いを大切に思う気持ちを再確認したのだった。
マルクの言う通り、セシルとマルクの運命が回りだすのか。それともやはり運命は決まっているのか・・・
セシルは胸の奥底に一抹の不安を抱えながらも、二人で運命に立ち向かおうと決心した。
マルクはあれから毎日また食事にくるようになった。
マルクは、ルルに、「悪いのはアナベルだが、あんたにも反省すべきことはあるよ!」と怒られて謝罪し、セシルを幸せにしますと約束したのだった。
セシルは一時の興奮が落ち着き、今回の事を冷静に振り返ってみた。
シャリエ子爵と令息は今回、セシルを助けるために迅速に動いてくれた。おかげで、自分は直接傷つけられることも会うこともなかった。アナベルはマルクに近づき、あることないこと吹き込みセシルと引き離そうとしたのだろうがそれも失敗した。
だからシャリエ子爵には感謝したのだが、よく考えるとそう簡単に抜け出せるような生活環境だったということだ。
酷い虚偽やいじめ行為、そして殺人未遂。それだけ罪を犯した人物を領地に幽閉しているとはいえ、自由にさせていたのだろう。そう思うと感謝の気持ちも半減する。牢に入れるなり、警備を厳しくするなりしていれば今回の事は起きなかった。
マルクとの間にわずかでも不信感が芽生えることもなかった。
今回の決着はどうつけるつもりだろうか・・・領地にまた幽閉して幕引きとするのだろう。
所詮私は他人なのだから、実の子を何とか助けたいのは当たり前だろうから。
そう考えると、少し絆されていた気持ちがスーッと冷えていった。
勘違いをしてはいけない。彼らは善良な人間だったから、自分たちのした事を後悔し、償っているだけだったのだ。
決してセシルを愛しているわけではないのだから・・・
(うん。今回も慰謝料遠慮なく請求しよ・・・)
むなしい思いでセシルはそう思った。
そしてマルクとやり直してから二週間。
今日は、マルクが新しくできたカフェに連れて来てくれた。
あれから休みの度にどこかに遊びに連れて行ってくれる。
マルクは昔に、アナベルとは会い、セシルと会った事がなかったのはサミュエル達から冷遇されていた証だと察したようだ。それを取り返そうとしてくれているかのように誘ってくれる。
「そんなにいつも誘ってくれなくていいのよ。仕事が大変なのだから、たまにはゆっくり休んでね。」
「優しいな、シルは。俺が会いたいからいいんだよ。ここのメニューを食べて欲しかったんだ。」
そう言ってガラスの器にジェノワーズと生クリーム、ピスタチオクリーム、アイスとオレンジが盛り付けられ、そこにフロランタンが添えてある一品。
街の女性たちに大変人気で、セシルもお客さんのうわさ話を聞いて一度は食べてみたいと思っていた。
「ふふ、ありがとう。」
あれからもずっとマルクは謝り続け、セシルはもういいと許した。
悪いのはアナベル。翻弄され、苦しんだマルクをこれ以上責めることは出来なかった。自分の心にはまだ確かな傷は残っているけれど、時間をかけて癒すしかないのだ。
「とてもおいしいわ。さすが人気になるだけあるわね。今度ルルさんにも食べさせてあげたいわ。」
「ルルさんは本当にお前の母親みたいだな。」
「うん。とても大事にしてくれるの。」
「・・・。そうだな。家族になるのに血のつながりなど関係ないということだよ。」
「人に寄るわ。ルルさんはそうだろうけど・・・そうじゃない人もいるわ。」
「確かにそうだけど・・・少なくともサミュエルはシルの事いつも気にしているよ。この間だって。」
「それは感謝してる。でも彼らの不手際から起こった事だから、考えたら当たり前のことだなあと思って。これからだっていつあの子が現れるかもしれないとずっと思って生きていかなきゃならないのよ?」
セシルは不安そうに視線を窓の外に向ける。
「シル・・・」
マルクはテーブルの上のセシルの手を握り、
「王都を離れよう。誰も知らない街に行って二人で暮らそう。シルがもう不安にならないで済むように。」
「そんなのだめよ。騎士になるためにどれだけ訓練と勉強が必要なのか知っているわ。気持ちだけで・・・そう言ってくれただけで十分よ。ありがとう。」
シルもマルクの手を握り返し、二人は見つめ合いお互いを大切に思う気持ちを再確認したのだった。
254
お気に入りに追加
3,029
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング

留学してたら、愚昧がやらかした件。
庭にハニワ
ファンタジー
バカだアホだ、と思っちゃいたが、本当に愚かしい妹。老害と化した祖父母に甘やかし放題されて、聖女気取りで日々暮らしてるらしい。どうしてくれよう……。
R−15は基本です。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

【完結】見返りは、当然求めますわ
楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。
伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかし、正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる