所詮私は他人でしたね でも対価をくれるなら家族の役割を演じてあげます

れもんぴーる

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マルクの縁談 《余話》

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「縁談?いや、断ってください。」
 マルクは父の子爵にそう言った。
「お前ももうそろそろ婚約者を決めないと。ちょうど、婿入りを探している家があってな。騎士も続けても構わないそうだ。」
「俺は別に婿入りなどしなくても、このまま騎士でやってきます。」
「何を言っている。このままだとお前は貴族と言えども爵位は継げないんだぞ。」
「別に構いません、平民になってもいいと思ってます。騎士として十分やっていけますから。」
「馬鹿を言うな。騎士など若いうちだけだ。怪我や病気でいつまで続けられるかわからん。」
「それでも嫌です。俺は心に決めている人がいます。」
「何?」
「・・・食堂の娘で気立ての良い子なんです。」
「平民か?何を考えてる!絶対に許さんぞ。」
「俺の自由にしていいと言っていたではないですか。」
 これまで三男だから好きにしろと言われていた。
 兄に迷惑をかけないよう、兄が家を継げば出て行くように言われていたのだ。それなのに貴族から婿入りの話が来たとたん、欲が芽生えたようだ。

「お前が平民を選ぶなど思ってなかったからだ。この縁談を進めるからな。貴族にとって家同士のつながりは大切だ、そうすることで自分たちを守るんだ。平民と結婚してもなんの後ろ盾もない。逆に身内に弱点を抱える事になってしまうではないか。」
「・・・彼女は貴族です。子爵家の娘なんです。」
「なんだと!? そんな令嬢がなぜ食堂で働いているんだ。」
「少し事情があるようですが、家族はその子を気にかけていますし、家同士のつながりは持てます。」
 マルクはセシルのことを許してほしいあまり、セシルに確認する前に話をしてしまった。
 言ってすぐ、後悔したが言わなければ縁談が勧められてしまう。

 シャリエ子爵の令嬢と聞き、マルクの父は相好を崩した。
「そんな事なら早く話しなさい。わかった、こちらの縁談は断っておこう。シャリエ家には婿入りできずともあの家と縁がつながるのは悪くない。お前もなかなかやるな。」
 一転上機嫌になる父を見てホッとしたが、マルクはセシルに後ろめたい思いを抱える事になったのだった。
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