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バレる

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 それからマルクは毎日のように食堂に食事にくるようになった。
 同じく、あの日をきっかけにサミュエルも時々食堂にやってくるようになった。

「マルク様、よく一緒に食事されている方とは仲がよろしいのですか?」
「ああ、サミュエルの事?そうなんだ、学友でね。」
「そうだったんですか・・・」
 サミュエルが初めて食堂に来た時も同席していたから、知り合いだとは思っていたけど友人とは思わなかった。少しセシルの顔が曇る。
「あいつがどうかした?」
「いいえ、なんでもありません。」

 いつかサミュエルからセシルの事を聞くかもしれない。
 知られたくないと思った。もう平民として、ただのシルとして一人で生きていこうと決意しているのだから。
「シル。」
 不安そうな顔のセシルをマルクが抱き寄せる。
「何か心配なことがあったら俺に相談するんだよ。」
「うん、ありがとう。」
 でも・・・誰にも知られたくはないが、もしこの先マルクとの未来があるのならいつか話す日が来るかもしれない。ただしばらくの間は、このままでいたかった。


 それ以来、サミュエルとマルクが二人で食事をしているとついつい目をやってしまう。何の話をしているのだろう、自分の事を話ししているのではないだろうかと気になって仕方がなかった。
 ある日思い切って、帰っていくサミュエルの後を追った。
「シャリエ子爵令息様」
 セシルが呼びかけるとサミュエルは驚いたように、だが嬉しそうに振り向いた。
「どうした?セシル。」
「あの・・・私、マルク様とお付き合いをしています。」
「ああ、知ってるよ。あいつはいい奴だから安心して任せている。」
「それで・・・・その・・・私の事を・・・」
「心配しなくてもいい。セシルが僕の妹だということは言うつもりはないよ。ああ、最近浮かない顔をしていると思ったらそれが心配だったのか。もう・・・僕は顔を出さない方がよさそうだね。」
「・・・」 
 セシルは何も言えなかった。
 心の中では少しそう思っていたから。

 サミュエルは寂しそうに
「今までごめんよ。もう行かない。でも、僕はセシルの事を本当に大切に思っているから困ったことがあれば必ず相談にくるんだよ。僕も父上も待っているから。」
 そう言うとサミュエルはさっと踵を返すと歩いていった。
 セシルは深く頭を下げ、頭をあげた時にはその目には涙が溜まっていた。

 次の日、夕方店に現れたマルクは仕事が終われば一緒に出掛けようと誘ってくれた。
 早めに上がらせてくれたルルに感謝しながら、二人は公園のベンチに座る。
「シル、俺はシルの事が本当に好きだ。」
「ま、マルク様、急にどうしたのですか?」
 セシルは体中の温度が急激に上がるのを感じた。
「何があっても俺の気持ちは変わらないからシルの事を教えて欲しい。」
「・・・どういうこと?」
 上昇した体温は冷や水を浴びたようにさがり、瞳は不安げに揺れる。
「・・・昨日、サミュエルが来ただろう?」
 セシルはびくりと体を震わせた。
「あの時、俺近くまで行ってたんだ。嫉妬して追いかけたんだ。それで・・・聞いてしまって・・・ごめん。」

 サミュエルの事がばれた、自分がサミュエルの妹で貴族だと知られたに違いない。ではなぜあんなところで働いているのだと追及されるだろう。
「・・・あいつと兄妹なんだ?」
「・・・いいえ。」
「隠さないで。別に悪いことではないじゃないか。」
 セシルはぶんぶんと首を横に振る。
 サミュエルとは兄弟なんかじゃない、血のつながりなどないのだから。
「サミュエルからセシルという妹が可愛いと昔聞いたことがあるんだ。シルがセシルなんだろ?アナベルの事は・・・」
そこまで聞いたセシルの目から涙がこぼれる。
「だったら何ですか⁉マルク様に関係ありません!私はシルです!ただのシルなんです!親も兄弟もおりません!」
 セシルはベンチから立ち上がったかと思うと走り出した。
「シル!待って!ごめん!責めるつもりじゃ・・・」
 少し薄暗くなってきた公園内でシルを追いかける。いつも鍛えている騎士であるマルクは簡単にシルに追いついてしまう。
 後ろから抱きしめてもシルは逃れようともがく。
「ごめん、シル!聞いて!俺はただシルが辛そうだったから!何とかしてあげたくて話を聞きたかっただけなんだ。もういいから、もう聞かないから!」
 声を出すのを堪えて泣いているシルに胸が締め付けられたマルクは、自分の胸にシルを抱き込んだ。
「これなら声が漏れないよ。思いきり泣いていいから・・・」
 それからしばらくマルクはセシルが落ち着くまでそうしていた。

 ほどなくして泣き止んだセシルは我に返って、羞恥に苛まれていた。
 マルクの胸に顔面を押し付けながら、この後どうしようかと困っていた。
(はずかし・・・子供みたいに泣いちゃって)
 一人で気を張っていたところへの不意打ちとマルクに真実を知られた不安。兄に対する罪悪感と皆から疎まれた日々を思い出したのとで感情がぐちゃぐちゃになってしまったのだ。
 そして波が過ぎたらもう、すっかり落ち着いたのだが顔をあげるタイミングがわからない。第一声はなんといえばいいのかわからないと困っていると、
「落ちついた?」
 マルクが頭の上でそう聞いて来た。セシルはマルクの目に顔を押し付けたまま肯いた。
「本当はずっとこうしていたいけど、これ以上遅くなれば店主が心配するだろう?送っていくよ。」
 店舗兼住居に居候させてもらっているセシルとしてはルルに心配をかけるわけにはいかない。
「・・・うん、ありがとう。ごめんなさい。」
 マルクは手をつなぎ、店の前まで送ってくれた。

 セシルは涙でぐちゃぐちゃの顔を見られたくなくてずっと俯いていたが、別れる間際にマルクの指がそっとセシルの顎にかかり上を向かされたと思ったら、そっと唇にマルクがキスをした。
「じ、じゃあお休み。また明日!」
 そういうなり、マルクは猛ダッシュで走っていった。
 そんな後ろ姿を見て思わずセシルは笑顔になったのだった。

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