4 / 29
沈黙 そして
しおりを挟む
それからセシルは何も言わなくなった。
アナベルの嘘はどんどんひどくなり、両親も兄も、使用人までセシルに厳しい目を向けるようになった。
婚約者のリオネルも初めからアナベルの婚約者だったかのように二人は仲睦まじく過ごしているようだ。
セシルは、誰も話しかけてくれず、使用人が冷たい食事を運んできたり、掃除をさぼったりしても何も言わず、部屋に閉じこもる日々だった。
兄だけは、自分が口を滑らしたことを気にして時々気まずそうな視線を向けるがもうセシルは誰にも何も期待しなかった。
今、十四歳。あと二年したら出て行こう。そう決めていた。
あと二年たてば、成人し働くところも見つかるだろう。住み込みがあれば嬉しいが、仕事がもらえれば何でもいい。貴族令嬢の自分が出来る事なんてほとんどないのだから。
そう思ってじっと耐えていたのだが、そうも言っていられない出来事が起きた。
「いつまでしがみついてるの?さっさと出て行きなさいよ。あんたなんか邪魔なのよ!あんた本当の妹じゃないらしいじゃない。お父様が言ってらしたわ、一人血のつながりがないから不安なんだ、許してやってくれって。ふざけないで、あんたはずっと私のいるべき場所を奪っていたんじゃない。私がどんな惨めな暮らしをしていたと思っているの?あんたが・・・他人のあんたがぬくぬくといい生活をしている時に私はどんなに辛かったか!」
憤怒の顔でそういったアナベルは階段からセシルを突き飛ばした。
気が付いた時、ベッドに寝かされていた。
体中がぎしぎしと痛む。
ベッドの側には父が座っていた。
「・・・気が付いたか。」
「・・・」
父の顔は階段から落ちた娘を心配している顔ではなかった。
「お前がここまで馬鹿だとは思わなかった。アナベルを突き落とそうとして自分が落ちただと?どこまで根性が腐っているんだ!」
ああ、そうなってるんだ。また私が悪者なんだ。
「何とか言ったらどうだ!お前はやっと家に戻ってきた姉を殺すつもりか!そんなことをしてもお前が家族になれるわけではない!お前など養女にするのではなかった!二度とアナベルに近づくな、わかったか。」
そう言い捨てて、シャリエ子爵は部屋を出て行った。
残されたセシルの瞳から涙がとめどなく流れていた。
寒さが一段と厳しい日、雪が降り積もり街並みを白く染めていた。
人通りの少なくなった街の片隅で、雪で出来た白いキャンパスにぽつんと青い花が咲いている。時間の経過と共に、その青い花にも雪が積もっていく、もうすぐで白で塗り潰されるというその時、
「セシル!!」
誰かがその青い花に積もった雪を払いのけ、冷え切った青いワンピースに身を包んだセシルの身体を掘り出した。
冷え切って動かなくなったセシルの身体を必死にさすり、馬車に運び込む。
「頼む!目を開けてくれ!セシル!」
セシルの身体を抱き上げて子爵家に運び、暖炉に火をくべて毛布で体を温め、体をさすっていたのはサミュエルだった。
サミュエルにとってはセシルは可愛い妹には変わりはない。ただ、少し行き過ぎた嫉妬で最近はおかしくなってしまったが元々はいい子だと分かっているのだ。シャリエ子爵も、セシルにきつい言葉を投げつけたとはいえ、これまで本当の娘として大切に育てていたのだ。
だからサミュエルが凍えたセシルを連れ帰った時、慌てて医者を呼び、部屋を暖めたりして手を尽くした。
そして峠は越えたという医者の言葉に皆が安心して自室へ戻ったあと、灯りが落とされたセシルの部屋の扉がそっと開いた。
そして血の気がなく、青白い顔で意識のないセシルを見下ろした人影は
「なんで・・・なんで戻ってくんのよ。お前なんか死ねばよかったのに。何でお兄様はお前なんかを探しにいったのよ、お父様たちはなんであんたのために医者を呼ぶの。せっかく出て行ったと思ったのに!」
セシルを憎々しげに見下ろした。
「これからはあんたに見張りをつけると言っていたわ。そうなるとあんたが何もしてない事がばれるじゃない。だから・・・二度と私の前に顔を出さないで頂戴。」
そう言うとセシルの顔に布団を押さえつけた。
アナベルの嘘はどんどんひどくなり、両親も兄も、使用人までセシルに厳しい目を向けるようになった。
婚約者のリオネルも初めからアナベルの婚約者だったかのように二人は仲睦まじく過ごしているようだ。
セシルは、誰も話しかけてくれず、使用人が冷たい食事を運んできたり、掃除をさぼったりしても何も言わず、部屋に閉じこもる日々だった。
兄だけは、自分が口を滑らしたことを気にして時々気まずそうな視線を向けるがもうセシルは誰にも何も期待しなかった。
今、十四歳。あと二年したら出て行こう。そう決めていた。
あと二年たてば、成人し働くところも見つかるだろう。住み込みがあれば嬉しいが、仕事がもらえれば何でもいい。貴族令嬢の自分が出来る事なんてほとんどないのだから。
そう思ってじっと耐えていたのだが、そうも言っていられない出来事が起きた。
「いつまでしがみついてるの?さっさと出て行きなさいよ。あんたなんか邪魔なのよ!あんた本当の妹じゃないらしいじゃない。お父様が言ってらしたわ、一人血のつながりがないから不安なんだ、許してやってくれって。ふざけないで、あんたはずっと私のいるべき場所を奪っていたんじゃない。私がどんな惨めな暮らしをしていたと思っているの?あんたが・・・他人のあんたがぬくぬくといい生活をしている時に私はどんなに辛かったか!」
憤怒の顔でそういったアナベルは階段からセシルを突き飛ばした。
気が付いた時、ベッドに寝かされていた。
体中がぎしぎしと痛む。
ベッドの側には父が座っていた。
「・・・気が付いたか。」
「・・・」
父の顔は階段から落ちた娘を心配している顔ではなかった。
「お前がここまで馬鹿だとは思わなかった。アナベルを突き落とそうとして自分が落ちただと?どこまで根性が腐っているんだ!」
ああ、そうなってるんだ。また私が悪者なんだ。
「何とか言ったらどうだ!お前はやっと家に戻ってきた姉を殺すつもりか!そんなことをしてもお前が家族になれるわけではない!お前など養女にするのではなかった!二度とアナベルに近づくな、わかったか。」
そう言い捨てて、シャリエ子爵は部屋を出て行った。
残されたセシルの瞳から涙がとめどなく流れていた。
寒さが一段と厳しい日、雪が降り積もり街並みを白く染めていた。
人通りの少なくなった街の片隅で、雪で出来た白いキャンパスにぽつんと青い花が咲いている。時間の経過と共に、その青い花にも雪が積もっていく、もうすぐで白で塗り潰されるというその時、
「セシル!!」
誰かがその青い花に積もった雪を払いのけ、冷え切った青いワンピースに身を包んだセシルの身体を掘り出した。
冷え切って動かなくなったセシルの身体を必死にさすり、馬車に運び込む。
「頼む!目を開けてくれ!セシル!」
セシルの身体を抱き上げて子爵家に運び、暖炉に火をくべて毛布で体を温め、体をさすっていたのはサミュエルだった。
サミュエルにとってはセシルは可愛い妹には変わりはない。ただ、少し行き過ぎた嫉妬で最近はおかしくなってしまったが元々はいい子だと分かっているのだ。シャリエ子爵も、セシルにきつい言葉を投げつけたとはいえ、これまで本当の娘として大切に育てていたのだ。
だからサミュエルが凍えたセシルを連れ帰った時、慌てて医者を呼び、部屋を暖めたりして手を尽くした。
そして峠は越えたという医者の言葉に皆が安心して自室へ戻ったあと、灯りが落とされたセシルの部屋の扉がそっと開いた。
そして血の気がなく、青白い顔で意識のないセシルを見下ろした人影は
「なんで・・・なんで戻ってくんのよ。お前なんか死ねばよかったのに。何でお兄様はお前なんかを探しにいったのよ、お父様たちはなんであんたのために医者を呼ぶの。せっかく出て行ったと思ったのに!」
セシルを憎々しげに見下ろした。
「これからはあんたに見張りをつけると言っていたわ。そうなるとあんたが何もしてない事がばれるじゃない。だから・・・二度と私の前に顔を出さないで頂戴。」
そう言うとセシルの顔に布団を押さえつけた。
219
お気に入りに追加
3,029
あなたにおすすめの小説
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!
れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。
父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。
メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。
復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*)
*なろうにも投稿しています
私は何も知らなかった
まるまる⭐️
恋愛
「ディアーナ、お前との婚約を解消する。恨むんならお前の存在を最後まで認めなかったお前の祖父シナールを恨むんだな」 母を失ったばかりの私は、突然王太子殿下から婚約の解消を告げられた。
失意の中屋敷に戻ると其処には、見知らぬ女性と父によく似た男の子…。「今日からお前の母親となるバーバラと弟のエクメットだ」父は女性の肩を抱きながら、嬉しそうに2人を紹介した。え?まだお母様が亡くなったばかりなのに?お父様とお母様は深く愛し合っていたんじゃ無かったの?だからこそお母様は家族も地位も全てを捨ててお父様と駆け落ちまでしたのに…。
弟の存在から、父が母の存命中から不貞を働いていたのは明らかだ。
生まれて初めて父に反抗し、屋敷を追い出された私は街を彷徨い、そこで見知らぬ男達に攫われる。部屋に閉じ込められ絶望した私の前に現れたのは、私に婚約解消を告げたはずの王太子殿下だった…。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
あなたへの想いを終わりにします
四折 柊
恋愛
シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる