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沈黙 そして

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 それからセシルは何も言わなくなった。
 アナベルの嘘はどんどんひどくなり、両親も兄も、使用人までセシルに厳しい目を向けるようになった。
 婚約者のリオネルも初めからアナベルの婚約者だったかのように二人は仲睦まじく過ごしているようだ。
 セシルは、誰も話しかけてくれず、使用人が冷たい食事を運んできたり、掃除をさぼったりしても何も言わず、部屋に閉じこもる日々だった。
 兄だけは、自分が口を滑らしたことを気にして時々気まずそうな視線を向けるがもうセシルは誰にも何も期待しなかった。

 今、十四歳。あと二年したら出て行こう。そう決めていた。
 あと二年たてば、成人し働くところも見つかるだろう。住み込みがあれば嬉しいが、仕事がもらえれば何でもいい。貴族令嬢の自分が出来る事なんてほとんどないのだから。
 そう思ってじっと耐えていたのだが、そうも言っていられない出来事が起きた。


「いつまでしがみついてるの?さっさと出て行きなさいよ。あんたなんか邪魔なのよ!あんた本当の妹じゃないらしいじゃない。お父様が言ってらしたわ、一人血のつながりがないから不安なんだ、許してやってくれって。ふざけないで、あんたはずっと私のいるべき場所を奪っていたんじゃない。私がどんな惨めな暮らしをしていたと思っているの?あんたが・・・他人のあんたがぬくぬくといい生活をしている時に私はどんなに辛かったか!」
 憤怒の顔でそういったアナベルは階段からセシルを突き飛ばした。

 気が付いた時、ベッドに寝かされていた。
 体中がぎしぎしと痛む。
 ベッドの側には父が座っていた。
「・・・気が付いたか。」
「・・・」
 父の顔は階段から落ちた娘を心配している顔ではなかった。
「お前がここまで馬鹿だとは思わなかった。アナベルを突き落とそうとして自分が落ちただと?どこまで根性が腐っているんだ!」

 ああ、そうなってるんだ。また私が悪者なんだ。
 
「何とか言ったらどうだ!お前はやっと家に戻ってきた姉を殺すつもりか!そんなことをしてもお前が家族になれるわけではない!お前など養女にするのではなかった!二度とアナベルに近づくな、わかったか。」
 そう言い捨てて、シャリエ子爵は部屋を出て行った。

 残されたセシルの瞳から涙がとめどなく流れていた。



 寒さが一段と厳しい日、雪が降り積もり街並みを白く染めていた。
 人通りの少なくなった街の片隅で、雪で出来た白いキャンパスにぽつんと青い花が咲いている。時間の経過と共に、その青い花にも雪が積もっていく、もうすぐで白で塗り潰されるというその時、
「セシル!!」
 誰かがその青い花に積もった雪を払いのけ、冷え切った青いワンピースに身を包んだセシルの身体を掘り出した。
 冷え切って動かなくなったセシルの身体を必死にさすり、馬車に運び込む。
「頼む!目を開けてくれ!セシル!」

 セシルの身体を抱き上げて子爵家に運び、暖炉に火をくべて毛布で体を温め、体をさすっていたのはサミュエルだった。
 サミュエルにとってはセシルは可愛い妹には変わりはない。ただ、少し行き過ぎた嫉妬で最近はおかしくなってしまったが元々はいい子だと分かっているのだ。シャリエ子爵も、セシルにきつい言葉を投げつけたとはいえ、これまで本当の娘として大切に育てていたのだ。
 だからサミュエルが凍えたセシルを連れ帰った時、慌てて医者を呼び、部屋を暖めたりして手を尽くした。



 そして峠は越えたという医者の言葉に皆が安心して自室へ戻ったあと、灯りが落とされたセシルの部屋の扉がそっと開いた。
 そして血の気がなく、青白い顔で意識のないセシルを見下ろした人影は
「なんで・・・なんで戻ってくんのよ。お前なんか死ねばよかったのに。何でお兄様はお前なんかを探しにいったのよ、お父様たちはなんであんたのために医者を呼ぶの。せっかく出て行ったと思ったのに!」
 セシルを憎々しげに見下ろした。
「これからはあんたに見張りをつけると言っていたわ。そうなるとあんたが何もしてない事がばれるじゃない。だから・・・二度と私の前に顔を出さないで頂戴。」
 そう言うとセシルの顔に布団を押さえつけた。
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