36 / 42
番外編 前公爵夫妻 2
しおりを挟む
ある日先ぶれもなしに、公爵邸に前公爵夫妻がやって来た。
「王都に出てくる許可をした覚えはありませんが?」
公爵が久しぶりに屋敷に現れた両親に辛辣な言葉を投げつける。
「何を言う! それが遠路はるばるやって来た親に言う言葉か!」
入り口でもめる公爵と祖父母をみたフェリクスは笑顔で祖父母に近寄った。
「おじい様、おばあ様! お会いしたかったです!」
嬉しそうに祖母に抱き着く。
「まあまあ! 私も会いたかったわ! 大きくなって・・・本当にあなた達に会えないなんて我が息子ながらなんて冷たい」
ナリスも柔らかい笑顔を浮かべるとさあどうぞと祖父母を応接室へと案内する。
「ほら、見ろ。貴様と違って孫たちは本当に優しい子に育ったわ」
前公爵夫妻は久々に戻った王都の屋敷で、我が物顔でふんぞり返る。
そしてナリスとフェリクスには優しい声で話しかけ、ナリスの王女との婚約を聞き、祝いたい一心でやってきたのだという。親切な貴族がわざわざ手紙を寄こしてくれたらしい。
「おじい様・・・ありがとうございます! 嬉しいです、このまましばらくいて下さるのでしょう?」
ナリスがそう言ったが、
「二人を泊める部屋などない」
公爵がすかさず止めた。
「父上! おじいさまたちは私の祝いに来てくださったのですよ⁉」
「そもそもお前の婚約を知らせてはいない。どこで聞きつけたのか図々しいことだ」
「父上はひどすぎます! おじいさまたちは私たちの親代わりなのです! 私は父上よりもおじいさまたちに祝って欲しい位です!」
ナリスのひどい言葉に公爵は顔をこわばらせる。
その言葉に気を良くした前公爵夫妻は、
「ナリス、王女殿下に会わせてもらえるか? これからは親族になるのだから」
「もちろんです」
即答するナリスに公爵は
「しばらく下がっていなさい。私は二人と話がある」
「お二人を追い返すなどしないでくださいよ。ヴァランティーヌ王女に会っていただくのですから」
ナリスはきつい目で父親を見てからフェリクスを連れて部屋を出て行った。
ナリスが自室に向かおうとしたとき、使用人から何か耳打ちされた。
それを聞いた二人は驚いて隣の部屋に急いだ。
「お前も分かっただろう、私たちの言うことが正しかったと」
「どういうことですか?」
「ナリスが王族と結婚するほどの人間に育ったのは私たちのおかげだ。あの女に任せていればこうはならなかっただろう」
前公爵はふんぞり返る。
「よく言いますね、あの子たちから母親を奪ったくせに。あなた達のせいであの子たちは母親の愛情を知らない」
「あんな女の愛情など不要だ。ナリスを見ろ、私たちのおかげであんな優しい立派な子に育ったではないか」
「あの子たちが素直に育ったのは家庭教師やうちの使用人たちのおかげだ。断じてあなたたちのおかげではない!」
「あの子たちは私たちを慕っている、見ただろう? 親代わりなのだからな」
「あなた達は幼いあの子たちを洗脳しただけだ。あなた達の嘘のせいで母親に捨てられたと思い、どれだけ傷ついたと思っている。あの子たちに関わることは私が許さない」
「お前は子供たちから全く信用されていないというのに?」
そう言って笑う前公爵を公爵は睨みつける。
「して、あの女はどうした? まだいじましく生きているのか?」
「彼女はお前たちのせいで愛する子供たちに会えないまま死んでいった! お前たちが殺したんだ! 最後に一瞬正気を取り戻した彼女は・・・自分の死を伝えないでと言い残した。あの子たちの心をこれ以上傷つけないでと!」
「大体お前があんな高位貴族とはいえ、妾腹の女と結婚などするからだ。あんな女は公爵家にふさわしくなかった。いなくてもナリスはこれほど立派に育ったのだ。これから王女が降嫁するのだろう?病弱だとか深窓の姫だとか言われ世間を知らないそうじゃないか。我々がしっかり躾けてやらねばならん」
「そうしてまた追い詰めて、殺す気か! もう二度とお前たちに子供たちから大事なものを奪わせない。あの子たちは私が守る。二度と王都の地は踏ませない」
「はは、あの子たちは私たちを親だと慕っている。お前よりもな。王女を妻に迎えたナリスに家督を継がせればお前などこの屋敷から追い出してやる。自分の親の言うこと聞かぬお前などどうでもよいわ。お前も自分の子に幽閉されるがいい」
そう言って前公爵が高笑いした時、ドアが勢いよく開いた。
「王都に出てくる許可をした覚えはありませんが?」
公爵が久しぶりに屋敷に現れた両親に辛辣な言葉を投げつける。
「何を言う! それが遠路はるばるやって来た親に言う言葉か!」
入り口でもめる公爵と祖父母をみたフェリクスは笑顔で祖父母に近寄った。
「おじい様、おばあ様! お会いしたかったです!」
嬉しそうに祖母に抱き着く。
「まあまあ! 私も会いたかったわ! 大きくなって・・・本当にあなた達に会えないなんて我が息子ながらなんて冷たい」
ナリスも柔らかい笑顔を浮かべるとさあどうぞと祖父母を応接室へと案内する。
「ほら、見ろ。貴様と違って孫たちは本当に優しい子に育ったわ」
前公爵夫妻は久々に戻った王都の屋敷で、我が物顔でふんぞり返る。
そしてナリスとフェリクスには優しい声で話しかけ、ナリスの王女との婚約を聞き、祝いたい一心でやってきたのだという。親切な貴族がわざわざ手紙を寄こしてくれたらしい。
「おじい様・・・ありがとうございます! 嬉しいです、このまましばらくいて下さるのでしょう?」
ナリスがそう言ったが、
「二人を泊める部屋などない」
公爵がすかさず止めた。
「父上! おじいさまたちは私の祝いに来てくださったのですよ⁉」
「そもそもお前の婚約を知らせてはいない。どこで聞きつけたのか図々しいことだ」
「父上はひどすぎます! おじいさまたちは私たちの親代わりなのです! 私は父上よりもおじいさまたちに祝って欲しい位です!」
ナリスのひどい言葉に公爵は顔をこわばらせる。
その言葉に気を良くした前公爵夫妻は、
「ナリス、王女殿下に会わせてもらえるか? これからは親族になるのだから」
「もちろんです」
即答するナリスに公爵は
「しばらく下がっていなさい。私は二人と話がある」
「お二人を追い返すなどしないでくださいよ。ヴァランティーヌ王女に会っていただくのですから」
ナリスはきつい目で父親を見てからフェリクスを連れて部屋を出て行った。
ナリスが自室に向かおうとしたとき、使用人から何か耳打ちされた。
それを聞いた二人は驚いて隣の部屋に急いだ。
「お前も分かっただろう、私たちの言うことが正しかったと」
「どういうことですか?」
「ナリスが王族と結婚するほどの人間に育ったのは私たちのおかげだ。あの女に任せていればこうはならなかっただろう」
前公爵はふんぞり返る。
「よく言いますね、あの子たちから母親を奪ったくせに。あなた達のせいであの子たちは母親の愛情を知らない」
「あんな女の愛情など不要だ。ナリスを見ろ、私たちのおかげであんな優しい立派な子に育ったではないか」
「あの子たちが素直に育ったのは家庭教師やうちの使用人たちのおかげだ。断じてあなたたちのおかげではない!」
「あの子たちは私たちを慕っている、見ただろう? 親代わりなのだからな」
「あなた達は幼いあの子たちを洗脳しただけだ。あなた達の嘘のせいで母親に捨てられたと思い、どれだけ傷ついたと思っている。あの子たちに関わることは私が許さない」
「お前は子供たちから全く信用されていないというのに?」
そう言って笑う前公爵を公爵は睨みつける。
「して、あの女はどうした? まだいじましく生きているのか?」
「彼女はお前たちのせいで愛する子供たちに会えないまま死んでいった! お前たちが殺したんだ! 最後に一瞬正気を取り戻した彼女は・・・自分の死を伝えないでと言い残した。あの子たちの心をこれ以上傷つけないでと!」
「大体お前があんな高位貴族とはいえ、妾腹の女と結婚などするからだ。あんな女は公爵家にふさわしくなかった。いなくてもナリスはこれほど立派に育ったのだ。これから王女が降嫁するのだろう?病弱だとか深窓の姫だとか言われ世間を知らないそうじゃないか。我々がしっかり躾けてやらねばならん」
「そうしてまた追い詰めて、殺す気か! もう二度とお前たちに子供たちから大事なものを奪わせない。あの子たちは私が守る。二度と王都の地は踏ませない」
「はは、あの子たちは私たちを親だと慕っている。お前よりもな。王女を妻に迎えたナリスに家督を継がせればお前などこの屋敷から追い出してやる。自分の親の言うこと聞かぬお前などどうでもよいわ。お前も自分の子に幽閉されるがいい」
そう言って前公爵が高笑いした時、ドアが勢いよく開いた。
188
お気に入りに追加
1,001
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る
月
ファンタジー
癒しの能力を持つコンフォート侯爵家の娘であるシアは、何年経っても能力の発現がなかった。
能力が発現しないせいで辛い思いをして過ごしていたが、ある日突然、フレイアという女性とその娘であるソフィアが侯爵家へとやって来た。
しかも、ソフィアは侯爵家の直系にしか使えないはずの能力を突然発現させた。
——それも、多くの使用人が見ている中で。
シアは侯爵家での肩身がますます狭くなっていった。
そして十八歳のある日、身に覚えのない罪で監獄に幽閉されてしまう。
父も、兄も、誰も会いに来てくれない。
生きる希望をなくしてしまったシアはフレイアから渡された毒を飲んで死んでしまう。
意識がなくなる前、会いたいと願った父と兄の姿が。
そして死んだはずなのに、十年前に時間が遡っていた。
一度目の人生も、二度目の人生も懸命に生きたシア。
自分の力を取り戻すため、家族に愛してもらうため、同じ過ちを繰り返さないようにまた"シアとして"生きていくと決意する。


私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。
鍋
恋愛
男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。
実家を出てやっと手に入れた静かな日々。
そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。
※このお話は極端なざまぁは無いです。
※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。
※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。
※SSから短編になりました。

逆行令嬢の反撃~これから妹達に陥れられると知っているので、安全な自分の部屋に籠りつつ逆行前のお返しを行います~
柚木ゆず
恋愛
妹ソフィ―、継母アンナ、婚約者シリルの3人に陥れられ、極刑を宣告されてしまった子爵家令嬢・セリア。
そんな彼女は執行前夜泣き疲れて眠り、次の日起きると――そこは、牢屋ではなく自分の部屋。セリアは3人の罠にはまってしまうその日に、戻っていたのでした。
こんな人達の思い通りにはさせないし、許せない。
逆行して3人の本心と企みを知っているセリアは、反撃を決意。そうとは知らない妹たち3人は、セリアに翻弄されてゆくことになるのでした――。
※体調不良の影響で現在感想欄は閉じさせていただいております。
※こちらは3年前に投稿させていただいたお話の改稿版(文章をすべて書き直し、ストーリーの一部を変更したもの)となっております。
1月29日追加。後日ざまぁの部分にストーリーを追加させていただきます。

私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる