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番外編 前公爵夫妻 1
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ロッシュ公爵はヴァランティーヌがアッサンとして屋敷を訪れた時、少し驚いた様子だったがすぐに受け入れてくれた。おそらくロッシュ公爵は、ほぼ真実に近い推測を立てているのだろう。
家出をした時に自分を匿ってくれるなど、これまでの公爵の言動を見ていると兄弟が言うほどひどい人間には思えなかった。
だから公爵が登城している時に王女として呼び出した。
「当家騎士団の為にその尊いお声を聴かせていただき感謝しております」
「私が好きでしているのですわ。いずれ私はロッシュ家で公爵家騎士団にもお世話になるのですから」
「皆は、ヴァランティーヌ王女殿下が・・・巷で噂されているようにM・アッサンが当家に降嫁されると知り大喜びしております。以前のアッサンと同一人物と疑いもせず・・・まあ、それは結果的に真実なのでしょうが」
ロッシュ公爵は意味ありげに笑った。
「まあ、さすがですわ、公爵様。その節は色々お世話になりました」
ロッシュ公爵がそれを知ったうえで受け入れたと分かり、ヴァランティーヌも微笑み返す。
「それで恩返しがしたく・・・今日はお聞きしたいことがあり来ていただきましたの」
「ナリスではなく私に?」
「はい。あなたのご両親について」
それを聞いて公爵は顔をこわばらせた。
「・・・なぜ王女殿下がそんなことを?」
「公爵様は私のお義父上になるのですもの。前公爵様とは親族になりますわ、知っておく必要があります。話してくださらなければ調べる事になりますがよろしくて?」
権力をさりげなくちらつかせる。
「・・・わかりました。今更の言い訳になりますが聞いていただきましょう」
そうして、公爵は王女にすべての事を話したのだった。
聞き終わった王女は顔を曇らせ、少し涙を浮かべたようだった。
「そうですか、ナリス様達のお母さまはもう・・・」
二人の事を想うと胸が痛くなる。
彼らの祖父母が許せない。彼らの母親を害したばかりか、幼い兄弟を洗脳して家族の絆を壊したのだ。
「ふふふ、アベル。ちょっと相談があるのよ」
アベルは子分としてちょいちょい王宮に呼びだされている。
初めは恐れ多くてたまらなかったが、王女が懇意にする令息ということで王宮の門番とも顔見知りになり笑顔で挨拶してくれるようになった。
今日は市販の何の変哲もない便箋を持ってくるように言われた。いまのヴァランティーヌには王家の紋章の入った便せんしかなく、また人知れずこっそりと出すことが出来ない。
だから書いた手紙を出すよう託された。
「え~、本当にそんなことして大丈夫? 公爵家に迷惑かけるんじゃない?」
「そうね、もしかしたらえらいことになるかもしれないわね。でもほら、私王族になっちゃったから? 有無を言わせず謝罪させるわ。権力って素晴らしいわね」
そうふざけてそういうアンヌが胸の内で、自分のやることがナリスとフェリクスの心を傷つけてしまうのではないかとひどく恐れていることにアベルは気がつかなかった。
家出をした時に自分を匿ってくれるなど、これまでの公爵の言動を見ていると兄弟が言うほどひどい人間には思えなかった。
だから公爵が登城している時に王女として呼び出した。
「当家騎士団の為にその尊いお声を聴かせていただき感謝しております」
「私が好きでしているのですわ。いずれ私はロッシュ家で公爵家騎士団にもお世話になるのですから」
「皆は、ヴァランティーヌ王女殿下が・・・巷で噂されているようにM・アッサンが当家に降嫁されると知り大喜びしております。以前のアッサンと同一人物と疑いもせず・・・まあ、それは結果的に真実なのでしょうが」
ロッシュ公爵は意味ありげに笑った。
「まあ、さすがですわ、公爵様。その節は色々お世話になりました」
ロッシュ公爵がそれを知ったうえで受け入れたと分かり、ヴァランティーヌも微笑み返す。
「それで恩返しがしたく・・・今日はお聞きしたいことがあり来ていただきましたの」
「ナリスではなく私に?」
「はい。あなたのご両親について」
それを聞いて公爵は顔をこわばらせた。
「・・・なぜ王女殿下がそんなことを?」
「公爵様は私のお義父上になるのですもの。前公爵様とは親族になりますわ、知っておく必要があります。話してくださらなければ調べる事になりますがよろしくて?」
権力をさりげなくちらつかせる。
「・・・わかりました。今更の言い訳になりますが聞いていただきましょう」
そうして、公爵は王女にすべての事を話したのだった。
聞き終わった王女は顔を曇らせ、少し涙を浮かべたようだった。
「そうですか、ナリス様達のお母さまはもう・・・」
二人の事を想うと胸が痛くなる。
彼らの祖父母が許せない。彼らの母親を害したばかりか、幼い兄弟を洗脳して家族の絆を壊したのだ。
「ふふふ、アベル。ちょっと相談があるのよ」
アベルは子分としてちょいちょい王宮に呼びだされている。
初めは恐れ多くてたまらなかったが、王女が懇意にする令息ということで王宮の門番とも顔見知りになり笑顔で挨拶してくれるようになった。
今日は市販の何の変哲もない便箋を持ってくるように言われた。いまのヴァランティーヌには王家の紋章の入った便せんしかなく、また人知れずこっそりと出すことが出来ない。
だから書いた手紙を出すよう託された。
「え~、本当にそんなことして大丈夫? 公爵家に迷惑かけるんじゃない?」
「そうね、もしかしたらえらいことになるかもしれないわね。でもほら、私王族になっちゃったから? 有無を言わせず謝罪させるわ。権力って素晴らしいわね」
そうふざけてそういうアンヌが胸の内で、自分のやることがナリスとフェリクスの心を傷つけてしまうのではないかとひどく恐れていることにアベルは気がつかなかった。
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