アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる

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白い世界

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 上を見ても下を見てもどこまでも真っ白い世界。
 そんな場所で二人のアンジェリーヌは対峙していた。

「だから、もうあなたを苦しめる人は誰もいないわ。すぐに戻ってきて」
 アンヌがそういうも、アンジェリーヌは力なく横に首を振る。
「だって! アンヌは・・・あなたはずっと生まれることもできずに私の中にいたのでしょう? 私、全然知らなかった! ごめんなさい、私だけ生まれてごめんなさい」
 アンジェリーヌはめそめそ涙を落として泣いている。
「何言ってるの! そんなこと考えたこともないわ。あなたは私の大事な半身なの。あなたが幸せになることが私の願いなの。もう前とは違うの、戻ってもあなたにつらく当たる人はいないわ」
「でも・・・でもそれはあなたが頑張ったからでしょう? もういいの、このままアンヌが戻って。私はここでずっと眠っていたいの。誰にも求められてないのだから」
 アンヌはアンジェリーヌの頬を軽くぶった。
「ふざけないで。私があなたの中にいたのは神の思し召しだと思うの。あなたを守ってやれという神の意思なのよ。それにあなたが幸せになったら私も幸せになれる」
 アンヌが泣きながらそう言っていると、白い世界にカツカツと軽快な足音が聞こえてきた。
 その足音の方に二人が目をやると
「え?」
 白いひげを蓄えた少々大きめのヤギが立っていた。

 アンジェリーヌは怖がってアンヌの腕を掴んだ。
「な、なんでこんなところにヤギなんか・・・」
 ヤギは口をもぐもぐさせたのち、
「勝手な事ばかり言いおって」
 としゃべりだした。
「ヤギがしゃべった!」
 アンヌが驚くと
「誰がヤギじゃ。わしは神様じゃぞ」
 ヤギが下あごを左右に動かしながら、不服そうにする。

「神様? ヤギが? こんな威厳の欠片もないのに!?」
 思わずアンヌが叫ぶ。
「口が悪いのぉ。しかも勝手に神の思し召しなどと言うでないわ。わしはそこな令嬢を陰から見守れなどと言っておらん。お主はすぐに生まれ変わる予定だったんじゃ」
「え?」
「それをお主の半身と離れたくないという念が強すぎて無理やり居残ったのではないか」
「・・・。え?」
 アンヌは気まずそうにポリポリと頭をかく。

「・・・本当に?」
「本当じゃ。お主に合わせてもう入れ物も用意しておったのにお主が戻って来んから空っぽのまま何年も何年も待っておったのじゃ。何とか生きながらえるよう必死でこっちは守っておったんじゃ。ようやくじゃ」
「え~と。どういうことですか?」
「お主を待っている入れ物があるんじゃ。さ、もう行くぞ」
「いたたたた! ちょっと! なにするのよ!」
 横たわる三日月形のような怖い瞳をもったヤギは、躊躇なくアンヌの髪をハムハムと口に咥えて引っ張っていった。

「ア、アンヌ? 神様!?」
 一人置いて行かれたアンジェリーヌは心細くなり二人を追いかけようとしたが、タンタンタンと軽やかな足音がして子ヤギが走って来た事に気がついた。
 困惑したアンジェリーヌだったが、子ヤギの可愛さに思わず近寄って頭を撫でようと手を伸ばしたとき、子ヤギは後ろ足で立ち上がると
「さっさと戻らんか!」
と、前足で思いっきりアンジェリーヌを突き飛ばした。
「きゃああっ!」
 アンジェリーヌは白い世界の端っこから落下し、どんどんと下へ向かって落ちていった。

 途中で意識を失い、気がついたら自室で、婚約者のロジェから至近距離で顔を覗かれていたのだった。
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