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いつのまにかプレミアなコンサートになっていました

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 公爵家騎士団は二週に一度のアッサンの歌披露を楽しみにしていた。
 正体不明の超有名な作詞・作曲家が騎士団歌となった『聖母の子守歌』を歌ってくれる。
 しかも更に未発表の歌も聞けるとあって、日頃冷静な騎士の面々もこの日ばかりは自分たちの幸運に浮足立つ。

 アンヌにとっても、初めは騎士団にふさわしい歌をと悩みながら選曲していたが、思い出したいろんな歌を聞いてもらうことにした。
 それがまた大いに受けた上に、どんな高貴な人が集まる劇場でも披露されていないということで非常に稀少価値の高いミニコンサートとして密かに話題になっていた。
 初めは恥じらいもあったアンヌであったが、顔は隠しているし、今は心置きなく好きな歌が歌え、ストレス発散の場としてアンヌにとっても大切な場となっていた。


 騎士団長から、おかげで騎士たちの覇気や忠誠心が向上したと聞いた公爵の願いで、サロンでも歌うようになった。匿ってもらっている以上、NOはない。
 最初は公爵やナリスだけだった観客が、時々公爵が親しい友人を連れてくるようになった。
 そして、管理者の自分を通さず、勝手なことをされては困るというフェリクスも乗り込んでくるようになり、公爵邸のサロンは日々、この世界にはない音楽を楽しめる唯一の場となっていったのであった。
 それは非公開だと伝えているにもかかわらず、知る人ぞ知る参加困難のプレミア扱いとなっていた。公爵邸で開かれるサロンコンサートに招待してもらおうと皆が奔走するようになり、招待状の争奪戦が激しくなっていたのだった。


 そうやってアッサンの名前と公爵邸でのコンサートが有名になると、アベルも姉の現状と居場所知ることになったが、ナリスから今度下手を打てば二度と姉にあわせないと脅しをかけられ、突撃を我慢していた。
 アンヌの邪魔をするようなら、ロッシュ家と婚約でも養子縁組でもむすび、そちらと家族の縁を切らせることもできると厳しいことを言いつつ、こちらの言うとおりにすれば以前のようにアンジェリーヌに会うことが出来るという見事な飴と鞭にいうことを聞かざるを得なかった。
 アベルは父に疑われないように、別邸のアンヌもどきにこれまでと同じように会いに行き、そして別邸で公爵家の馬車に乗り換え本邸にお邪魔することが許されたのだった。


 今日はロッシュ公爵の希望で、彼の友人の前で歌うことになった。
 公爵家に集まるコンサートの客は身分が高いものばかり。初めは緊張の極致だったが、顔を隠していることと、歌う以外の時は話さなくていいと言ってくれたおかげで段々慣れていった。
 今日もそのつもりで気楽にサロンに入ると、そこに座っていたのはどう見ても隠し切れない高貴なオーラをまとった人物だった。
 ロッシュ公爵より高貴で公爵が敬う相手。そんなもの王族しか考えられない。
 ウッと怯んだアンヌはそのまま回れ右して帰ろうかと真剣に思った時、
「アンヌ、彼はただの私の友人だ。何も気を使うことはない」
 そういう公爵に、出来るかいっ! と思いながらも黙って頭を下げる。

 心に届く歌を希望され、平原様のジュ〇ターを謳った。
 明るい元気一杯の歌ではないが、胸に染み入る言葉の数々。
 これは公爵家サロンでも初披露の歌で、少し心配であったがその高貴な人物の目が少し涙で光ったように見えた。
 その王族は、ロッシュ公爵に頷きかけてからアンヌに向けて
「大変すばらしかった。君の歌を・・・今歌ってくれた歌を聞かせたい者がいる。また迎えを寄こすので頼めるだろうか?」
「え!?」
 どういうこと?

 大慌てで、ロッシュ公爵とナリスの顔を見るが二人ともうんうんと頷いている。
「アッサン殿、私が付き添うので心配はいりません。ぜひお受けください」
 ナリスのその言葉に仕方がなく頷いた。
 公爵が恭しくその王族を案内し、出て行くとアンヌは緊張から解放されて、ふ~っと椅子に座り込んだ。
「お疲れ様、アンヌ。大丈夫?」
「大丈夫? じゃないですよ! どう見ても王族の方ですよね!? そんな方の前で歌うだなんて・・・どうして教えて下さらなかったのです!?」
「いや、ごめん。知れば緊張すると思って」
「知らなくても緊張しましたよ! しかも何やらどこかに招待されてしまいましたよ? 訳も分からず。ナリス様、今度はきちんと説明してください」
「う・・・わかった。すまない」
 そしてナリスからその方の素性を聞いて真っ青になった。

 現国王の弟で王位継承第三位の御方だった。
「王族がお忍びで通いたくなるほどアッサンのこのサロンコンサートが素晴らしいと噂になっているんだ」
「・・・恐ろしすぎる・・・」
「それだけじゃないんだ。以前王女の話をしただろ? 彼女に君の歌を聞かせたいと伝えていたんだけど、さすがに陛下がお忍びで来れないから代わりに殿下が確認に来られたんだ」
「じゃあ、もしかして・・・私王宮へ?」
「そういうことだね。心配いらないよ、私もついていくから」
「そんな問題じゃ・・・・」
 アンヌは顔を真っ青にするのだった。
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