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告白
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アンヌはおかしいと思われる覚悟で自分に前世と思われる記憶があることを打ち明けた。
しかもこの世界のどこにも存在しない異世界の記憶であり、アッサンの歌は全てその異世界の歌であり、自分になど何の能力もないのだと正直に告げた。
「いつからそんな記憶が?」
「・・・。私が・・・アンジェリーヌがあまり生家で大切にされていなかったということはご存じだと思いますが」
「うん」
「アンジェリーヌが侯爵の言葉に絶望して・・・消えてしまったので、私がアンジェリーヌとして彼女の代わりに居場所を作ろうとしたときからです」
「・・・君はアンジェリーヌではないというのか?」
「いえ・・・アンジェリーヌではあるのですが・・・これも信じていただけるかはわかりませんが」
と、前置きをして自分の事をうちあけた。
だいぶん長い間ナリスは無言で目を閉じていたが、カッと目を開くと
「君も・・・辛かったね。誰も君の存在を知らなかったんだね。一人でどんなに寂しかっただろう」
ナリスはそう言ってアンヌの手を取り、涙を落としてくれた。
アンヌは、アンジェリーヌの身体を乗っ取ってしまった事に罪悪感を覚えていた。こんなことを言ってもらえるとは思わなかった。
自分が可哀想な存在だと考えたこともなかった。
でも、ナリスに言われて初めて意識した。
誰にも認識してもらえず、名前さえなかった絶望的に孤独であんなことがなければ一生誰にも知られることがなかった存在であることを。
「・・・そうですね。私は・・・なんなのでしょうか」
ナリスは思わず声を震わせたアンヌの手を離さないまま、隣の席に移り、アンヌの身体をそっと抱きしめた。
「君は君だ。身体がどうであろうと、アンヌはアンヌ。君は確かにここでこうして生きている」
「う・・・うぁ・・うう・・・」
堪えきれずアンヌは泣き、ナリスはそのまま抱きしめてくれてた。
「落ち着いた?」
「みっともない姿をお見せしました」
アンヌはすっかり落ち着きを取り戻したが、ナリスは元の席に戻ってはくれなかった。
「・・・このままアンジェリーヌが戻ってこないのか、この体の中に眠っているだけなのかわからないのです」
「・・・もし戻ってきたら君はまた・・・彼女の中で見守るというのか?」
「・・・はい、そうなるかと思います」
「・・・私はどうやら、ひどく自分勝手で冷酷な人間だったらしい」
ナリスは自虐するように笑った。
「早く元に戻るべきだと私も分かっております。でもどうすることも出来なくて・・・」
「違う。このまま・・・君にずっといて欲しいと願ってしまったんだ。もう一人のアンジェリーヌの事を考えもせずにね。すまない」
「ナリス様・・・私も分不相応な望みを抱いてしまいました」
アンヌはアンジェリーヌのために元家族と決別し、自由な居場所を作ろうとしてきたはずなのに、いつのまにかアンヌとして自分の人生を歩んでしまっていた。
好きな歌、自由な暮らし、そして・・・愛する人が出来てしまった。今、自分は未練も何もなく以前のようにアンジェリーヌを見守るだけの存在に戻れるのだろうか。
「それは期待していいのだろうか?」
「このまま・・・ナリス様のお側にいられたらと。でも私はアンジェリーヌの為に家族も婚約者も見限ったのです、誰にも助けを求めることが出来なかったあの子が幸せになるために。いま、私がいるこの場所をアンジェリーヌの為にと」
ナリスはアンヌの手の甲にキスをする。
「アンヌは優しい。君はどこへ行ってしまうのだろう? 君がアンジェリーヌの中に戻ってしまったら・・・君の想いはどこに行くんだろう」
「っ。・・・アンジェリーヌの側にいて下さい。彼女には守ってくれる人が必要なのです」
「・・・私は君を好きなんだ。このアンジェリーヌという入れ物ではなく、前向きで行動的で、楽しそうに歌い、公爵家である私やフェリクスを身分で見ることなく一生懸命に生きている君が。君がいなくなるなど・・・想像したくない」
「・・・私にはどうすることもできないのです」
アンジェリーヌを差し置いてこのまま自分が・・・なんてとても思えない。ずっと見守って来た彼女には幸せになって欲しい。ナリスならアンジェリーヌを守り、大切にしてくれるはず。
そう思うと・・・アンジェリーヌは涙が出た。
たとえ半身のアンジェリーヌにといえども、ナリス様の隣を渡すのは苦しいと気がついたのだ。
いつの間にこんなにナリス様に惹かれていたのだろう。
「すまない、君を泣かせるつもりはなかった。先の事はわからない、このままかもしれないから。どうか私の側にいてくれないだろうか」
「ナリス様・・・」
アンヌはナリスの言葉に涙が出た。
「ありがとうございます、嬉しいです・・・でも・・・いつ消えてしまうかわかりません」
「そうだね。でも、私にとってアンジェリーヌは君なんだ、出会った時から。君を大切にすると誓う。もし・・・君がいなくなってしまっても・・・その時もアンジェリーナ嬢を責任を持って守ると誓う」
「どういう・・・」
「アンジェリーヌ嬢の希望に沿うよ。私と名ばかりの婚姻関係を続けてもよし、離縁して他に嫁ぎたいのであれば応援する。私は・・・ずっと君だけを想い続ける」
「そんなの駄目です! ナリス様がそんな目に遭うことはありません! どうか、普通の令嬢と結婚してくださいませ!」
「アンヌはどうなの? アンヌが私を嫌いなら諦めるよ」
「・・・嫌いです。大嫌いです! ですから!」
ぽたぽた涙を落とすアンヌの頬を両手でつかんでナリスはそっと口づけた。
「アンヌは嘘が下手だね。アンジェリーヌ嬢は確かに気の毒だと思う。でも君だって十何年も人の人生をただ見守るだけだった。そんな君が幸せを望むことは悪いことだろうか。罪悪感など覚える必要はない。君のおかげで彼女の家族のゆがみは正されたのだから」
「・・・ありがとう・・・ございます」
アンヌはナリスの言葉に救われた思いがした。
二人の想いが通じ合った後、ナリスは、二人きりになると舞姫の歌を聞きたがった。
「ナリス様、本当にお気に入りですね。とても大切な歌なので嬉しいです」
二人きりで歌うのは今でも恥ずかしいが、ナリスがいつも目を閉じて聞き惚れてくれる姿に密かにときめくアンヌは拒否することはない。
「最近、歌いながら涙を流さなくなったね」
それは、新しい恋をしたから。二度と会うことが出来ない最愛の人との別れをきちんとすることが出来たから。
「ふふ、そうですか? ナリス様のおかげです」
そう言いながらアンヌは舞姫を歌う。
ナリスの言葉で、久しぶりに思い出した前の世界の彼。
以前はいつも彼の事を想い歌っていたが、いつの間にかそれはナリスに代わっていた。
いつかアンジェリーヌと入れ替わる事を思えば、またナリスを置いて自分は旅人となってしまうのだろう。
そう思うと、涙がまたこぼれ、今度は歌えなくなってしまうほどの号泣となった。
「・・うっく・・ごめんなさい・・・今日は・・・ちょっと・・・」
「いや、こちらこそ悪かった。いつも頼んでしまって悪いと思ってる」
ナリスはアンヌの手を引いて隣に座らせるとそっと抱きしめた。
「大丈夫?」
「大丈夫・・・です。泣かないと言われたばかりなのに・・・恥ずかしい」
「別にやきもちを妬いているわけじゃないんだけど・・・初めの頃泣いていたのは誰のため? ロジェ殿?」
「まさか! ありえませんよ!」
急にがばっと身を離して目くじらを立てたアンヌに苦笑した。
「そうみたいだね、ごめん。じゃあ誰?」
「・・・前世の話です。もう終わった話ですから」
「今、歌えないほど泣いたのも彼のため?」
アンヌは首を振った。
「・・・いつか・・・私がまた旅人になるのかと・・・ナリス様は帰らぬ私を待ち続けてくださるのかもしれないと思うと・・・申し訳ありません」
「・・・前世だとか、生まれ変わりとかそういうものがあるとアンヌは教えてくれた。だからもしアンヌがアンジェリーヌの中に戻ってしまっても・・・またいつか必ず会えると信じている。だから泣かないで」
「・・・はい」
ナリスは自分も泣きそうになるのを堪え、アンヌに口づけをしたのだった。
しかもこの世界のどこにも存在しない異世界の記憶であり、アッサンの歌は全てその異世界の歌であり、自分になど何の能力もないのだと正直に告げた。
「いつからそんな記憶が?」
「・・・。私が・・・アンジェリーヌがあまり生家で大切にされていなかったということはご存じだと思いますが」
「うん」
「アンジェリーヌが侯爵の言葉に絶望して・・・消えてしまったので、私がアンジェリーヌとして彼女の代わりに居場所を作ろうとしたときからです」
「・・・君はアンジェリーヌではないというのか?」
「いえ・・・アンジェリーヌではあるのですが・・・これも信じていただけるかはわかりませんが」
と、前置きをして自分の事をうちあけた。
だいぶん長い間ナリスは無言で目を閉じていたが、カッと目を開くと
「君も・・・辛かったね。誰も君の存在を知らなかったんだね。一人でどんなに寂しかっただろう」
ナリスはそう言ってアンヌの手を取り、涙を落としてくれた。
アンヌは、アンジェリーヌの身体を乗っ取ってしまった事に罪悪感を覚えていた。こんなことを言ってもらえるとは思わなかった。
自分が可哀想な存在だと考えたこともなかった。
でも、ナリスに言われて初めて意識した。
誰にも認識してもらえず、名前さえなかった絶望的に孤独であんなことがなければ一生誰にも知られることがなかった存在であることを。
「・・・そうですね。私は・・・なんなのでしょうか」
ナリスは思わず声を震わせたアンヌの手を離さないまま、隣の席に移り、アンヌの身体をそっと抱きしめた。
「君は君だ。身体がどうであろうと、アンヌはアンヌ。君は確かにここでこうして生きている」
「う・・・うぁ・・うう・・・」
堪えきれずアンヌは泣き、ナリスはそのまま抱きしめてくれてた。
「落ち着いた?」
「みっともない姿をお見せしました」
アンヌはすっかり落ち着きを取り戻したが、ナリスは元の席に戻ってはくれなかった。
「・・・このままアンジェリーヌが戻ってこないのか、この体の中に眠っているだけなのかわからないのです」
「・・・もし戻ってきたら君はまた・・・彼女の中で見守るというのか?」
「・・・はい、そうなるかと思います」
「・・・私はどうやら、ひどく自分勝手で冷酷な人間だったらしい」
ナリスは自虐するように笑った。
「早く元に戻るべきだと私も分かっております。でもどうすることも出来なくて・・・」
「違う。このまま・・・君にずっといて欲しいと願ってしまったんだ。もう一人のアンジェリーヌの事を考えもせずにね。すまない」
「ナリス様・・・私も分不相応な望みを抱いてしまいました」
アンヌはアンジェリーヌのために元家族と決別し、自由な居場所を作ろうとしてきたはずなのに、いつのまにかアンヌとして自分の人生を歩んでしまっていた。
好きな歌、自由な暮らし、そして・・・愛する人が出来てしまった。今、自分は未練も何もなく以前のようにアンジェリーヌを見守るだけの存在に戻れるのだろうか。
「それは期待していいのだろうか?」
「このまま・・・ナリス様のお側にいられたらと。でも私はアンジェリーヌの為に家族も婚約者も見限ったのです、誰にも助けを求めることが出来なかったあの子が幸せになるために。いま、私がいるこの場所をアンジェリーヌの為にと」
ナリスはアンヌの手の甲にキスをする。
「アンヌは優しい。君はどこへ行ってしまうのだろう? 君がアンジェリーヌの中に戻ってしまったら・・・君の想いはどこに行くんだろう」
「っ。・・・アンジェリーヌの側にいて下さい。彼女には守ってくれる人が必要なのです」
「・・・私は君を好きなんだ。このアンジェリーヌという入れ物ではなく、前向きで行動的で、楽しそうに歌い、公爵家である私やフェリクスを身分で見ることなく一生懸命に生きている君が。君がいなくなるなど・・・想像したくない」
「・・・私にはどうすることもできないのです」
アンジェリーヌを差し置いてこのまま自分が・・・なんてとても思えない。ずっと見守って来た彼女には幸せになって欲しい。ナリスならアンジェリーヌを守り、大切にしてくれるはず。
そう思うと・・・アンジェリーヌは涙が出た。
たとえ半身のアンジェリーヌにといえども、ナリス様の隣を渡すのは苦しいと気がついたのだ。
いつの間にこんなにナリス様に惹かれていたのだろう。
「すまない、君を泣かせるつもりはなかった。先の事はわからない、このままかもしれないから。どうか私の側にいてくれないだろうか」
「ナリス様・・・」
アンヌはナリスの言葉に涙が出た。
「ありがとうございます、嬉しいです・・・でも・・・いつ消えてしまうかわかりません」
「そうだね。でも、私にとってアンジェリーヌは君なんだ、出会った時から。君を大切にすると誓う。もし・・・君がいなくなってしまっても・・・その時もアンジェリーナ嬢を責任を持って守ると誓う」
「どういう・・・」
「アンジェリーヌ嬢の希望に沿うよ。私と名ばかりの婚姻関係を続けてもよし、離縁して他に嫁ぎたいのであれば応援する。私は・・・ずっと君だけを想い続ける」
「そんなの駄目です! ナリス様がそんな目に遭うことはありません! どうか、普通の令嬢と結婚してくださいませ!」
「アンヌはどうなの? アンヌが私を嫌いなら諦めるよ」
「・・・嫌いです。大嫌いです! ですから!」
ぽたぽた涙を落とすアンヌの頬を両手でつかんでナリスはそっと口づけた。
「アンヌは嘘が下手だね。アンジェリーヌ嬢は確かに気の毒だと思う。でも君だって十何年も人の人生をただ見守るだけだった。そんな君が幸せを望むことは悪いことだろうか。罪悪感など覚える必要はない。君のおかげで彼女の家族のゆがみは正されたのだから」
「・・・ありがとう・・・ございます」
アンヌはナリスの言葉に救われた思いがした。
二人の想いが通じ合った後、ナリスは、二人きりになると舞姫の歌を聞きたがった。
「ナリス様、本当にお気に入りですね。とても大切な歌なので嬉しいです」
二人きりで歌うのは今でも恥ずかしいが、ナリスがいつも目を閉じて聞き惚れてくれる姿に密かにときめくアンヌは拒否することはない。
「最近、歌いながら涙を流さなくなったね」
それは、新しい恋をしたから。二度と会うことが出来ない最愛の人との別れをきちんとすることが出来たから。
「ふふ、そうですか? ナリス様のおかげです」
そう言いながらアンヌは舞姫を歌う。
ナリスの言葉で、久しぶりに思い出した前の世界の彼。
以前はいつも彼の事を想い歌っていたが、いつの間にかそれはナリスに代わっていた。
いつかアンジェリーヌと入れ替わる事を思えば、またナリスを置いて自分は旅人となってしまうのだろう。
そう思うと、涙がまたこぼれ、今度は歌えなくなってしまうほどの号泣となった。
「・・うっく・・ごめんなさい・・・今日は・・・ちょっと・・・」
「いや、こちらこそ悪かった。いつも頼んでしまって悪いと思ってる」
ナリスはアンヌの手を引いて隣に座らせるとそっと抱きしめた。
「大丈夫?」
「大丈夫・・・です。泣かないと言われたばかりなのに・・・恥ずかしい」
「別にやきもちを妬いているわけじゃないんだけど・・・初めの頃泣いていたのは誰のため? ロジェ殿?」
「まさか! ありえませんよ!」
急にがばっと身を離して目くじらを立てたアンヌに苦笑した。
「そうみたいだね、ごめん。じゃあ誰?」
「・・・前世の話です。もう終わった話ですから」
「今、歌えないほど泣いたのも彼のため?」
アンヌは首を振った。
「・・・いつか・・・私がまた旅人になるのかと・・・ナリス様は帰らぬ私を待ち続けてくださるのかもしれないと思うと・・・申し訳ありません」
「・・・前世だとか、生まれ変わりとかそういうものがあるとアンヌは教えてくれた。だからもしアンヌがアンジェリーヌの中に戻ってしまっても・・・またいつか必ず会えると信じている。だから泣かないで」
「・・・はい」
ナリスは自分も泣きそうになるのを堪え、アンヌに口づけをしたのだった。
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