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弟から子分へ
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食事を終え、ベッドの上で胡坐をかいて大きなクッションを抱え込みながら今後の事を考えているとアベルが部屋を訪ねてきた。
アベルはアンジェリーヌの、その品性に欠ける怠惰な姿を驚いたように見ている。
アンジェリーヌは本当に令嬢らしい品のある所作で、常にきちんとしていたから。
「・・・姉上、一体どうしたんですか?」
「何か用? 役立たずさんとは別に話すことないんだけど」
アベルは傷ついたように
「・・・姉上が僕たちを疎む気持ちはわかります。ごめんなさい。今、父上が母上を呼び出しています」
「そう。今更関係ないわ」
アンジェリーヌはそっけなくアベルに言った。
「・・・なんだか昨日までの姉上とは違うみたい。本当に・・・姉上ですよね?」
違うはずもないのだが、そう思ってしまうほどアンジェリーヌの雰囲気も話し方も所作までもすべてが違っているのだ。
「さあ、私には家族なんていないんじゃない? 家族として扱ってもらったことないしね。さ、出ていってね」
アベルは顔を歪めると
「・・・。姉上はあまり皆と顔を合わせたくないでしょう? じゃあ僕の協力が必要だと思います。食事を運んだり、用事を言いつける連絡係とか・・・」
「別に平気よ。あなたは急にどうしたの?」
「・・・罪滅ぼしをしたくて」
「必要ないわ。あなたも子供でどうしようもなかったのだから。それに私には・・・別の人生の記憶があるみたいなの。私の家族はこの記憶にある優しい両親と、ちょっと怖い兄だけだから。あなたの事は弟役をしている赤の他人って感じだから何も求めるつもりはないわ。だから私の事なんか気にしないでいいのよ」
弟も子供なのだから仕方がないし、別に怒ってはいない。ただ弟という実感もない。
アベルは泣きべそをかいた。
姉が家族や使用人からないがしろにされていたのを放置していて今更だとわかっている。
幼いころからそういう家で、姉が黙っているのだからそんなものだと思ってしまっていた。
それに、幼心に姉より自分の方が好かれているという事実に優越感を感じていたのも否めない。
アンジェリーヌの豹変により、彼女がされていたことが表ざたになり、改めて言葉にされるとひどく醜い残酷な仕打ちだった。アベルは今更後ろめたさと後悔に襲われたのだった。
「・・・ごめんなさい。でも姉上の兄弟は僕だけだよ! そんな訳の分からない事なんか言わないでよ!」
「だから気を遣わなくてもいいから。いてもいなくてもどうでもいい姉なんか放っておいてくれていいのよ」
「どうでもよくない! 信じてくれないと思うけど姉上の事好きだったし・・・僕なんでもするからそんなこと言わないで!」
「・・・。なんでも?」
アンジェリーヌは少し口角をあげる。
「なんでも!」
「そこまで言うなら子分にならしてあげてもいいわ」
アベルはこの日から弟から子分になったのだった。
それからは、私は悠々と部屋に籠り、アベルに指図して食事やお茶を運ばせ快適生活を送っている。
父は母に、私に謝罪し許しを得るように言ったらしい。許しを得るまで社交に出ることもドレスや装飾品を買うことを禁じたのだ。
メイドたちは一掃され、新しいメイドに変わったが自分にはメイドはいらないと断り、継母の事は死んでも許さないと父に伝えた。
だって、父に怒られ、ドレスを買ってもらえないのが嫌なだけで本気で悪いだなんて思っていないから。逆に父にばらされて逆恨みしているような人間を許すわけがない。
それに何年もアンジェリーヌをいじめて追い詰めたくせに、一度謝ったからと言って許されるとでも思っているのか。
アンジェリーヌは殺されたも同然なのだ、許されると思う方がどうかしてる。
そして父といえば、これまで知らなかった、悪かったと自分は娘のことを思っているようなことをいう。
本当に気にしていたら娘が笑わなくなったこと、肌や髪の艶が悪くなったこと、古い服ばかり着ていることに気が付くっていうの。
アンジェリーヌを可愛がっていれば気が付けたはず。今更父親ぶられても嬉しくもなんともない。
けれど・・・アンジェリーヌなら泣いて喜んでいたと思う。悪意に傷つけられてもただ我慢するしかできなかったあの子は父のその言葉を欲していたのだから。
=================================
そんなこんなでアンジェリーヌは自由に過ごすようになって一週間。
ごろごろだらける私に弟が苦言を呈したのだ。子分のくせに。
そして苦言を呈しつつ、婚約者にも会っておいた方がいいと告げてきた。
「婚約者なんかいたっけ? そういえばなんか嫌な奴がいたわね。人のこと陰気だとか、ちゃんと笑えとかいって。じゃあ笑わせて見ろっていうのよ。あんたがまつらない男だから笑いも出ないっていうのにね」
「姉上・・・それ本人の前で言わないでね。あちらの方が爵位上だから」
「はいはい、わかりました。よし、婚約解消してもらいましょう!」
アンジェリーヌは意気揚々と宣言したのだった。
アベルはアンジェリーヌの、その品性に欠ける怠惰な姿を驚いたように見ている。
アンジェリーヌは本当に令嬢らしい品のある所作で、常にきちんとしていたから。
「・・・姉上、一体どうしたんですか?」
「何か用? 役立たずさんとは別に話すことないんだけど」
アベルは傷ついたように
「・・・姉上が僕たちを疎む気持ちはわかります。ごめんなさい。今、父上が母上を呼び出しています」
「そう。今更関係ないわ」
アンジェリーヌはそっけなくアベルに言った。
「・・・なんだか昨日までの姉上とは違うみたい。本当に・・・姉上ですよね?」
違うはずもないのだが、そう思ってしまうほどアンジェリーヌの雰囲気も話し方も所作までもすべてが違っているのだ。
「さあ、私には家族なんていないんじゃない? 家族として扱ってもらったことないしね。さ、出ていってね」
アベルは顔を歪めると
「・・・。姉上はあまり皆と顔を合わせたくないでしょう? じゃあ僕の協力が必要だと思います。食事を運んだり、用事を言いつける連絡係とか・・・」
「別に平気よ。あなたは急にどうしたの?」
「・・・罪滅ぼしをしたくて」
「必要ないわ。あなたも子供でどうしようもなかったのだから。それに私には・・・別の人生の記憶があるみたいなの。私の家族はこの記憶にある優しい両親と、ちょっと怖い兄だけだから。あなたの事は弟役をしている赤の他人って感じだから何も求めるつもりはないわ。だから私の事なんか気にしないでいいのよ」
弟も子供なのだから仕方がないし、別に怒ってはいない。ただ弟という実感もない。
アベルは泣きべそをかいた。
姉が家族や使用人からないがしろにされていたのを放置していて今更だとわかっている。
幼いころからそういう家で、姉が黙っているのだからそんなものだと思ってしまっていた。
それに、幼心に姉より自分の方が好かれているという事実に優越感を感じていたのも否めない。
アンジェリーヌの豹変により、彼女がされていたことが表ざたになり、改めて言葉にされるとひどく醜い残酷な仕打ちだった。アベルは今更後ろめたさと後悔に襲われたのだった。
「・・・ごめんなさい。でも姉上の兄弟は僕だけだよ! そんな訳の分からない事なんか言わないでよ!」
「だから気を遣わなくてもいいから。いてもいなくてもどうでもいい姉なんか放っておいてくれていいのよ」
「どうでもよくない! 信じてくれないと思うけど姉上の事好きだったし・・・僕なんでもするからそんなこと言わないで!」
「・・・。なんでも?」
アンジェリーヌは少し口角をあげる。
「なんでも!」
「そこまで言うなら子分にならしてあげてもいいわ」
アベルはこの日から弟から子分になったのだった。
それからは、私は悠々と部屋に籠り、アベルに指図して食事やお茶を運ばせ快適生活を送っている。
父は母に、私に謝罪し許しを得るように言ったらしい。許しを得るまで社交に出ることもドレスや装飾品を買うことを禁じたのだ。
メイドたちは一掃され、新しいメイドに変わったが自分にはメイドはいらないと断り、継母の事は死んでも許さないと父に伝えた。
だって、父に怒られ、ドレスを買ってもらえないのが嫌なだけで本気で悪いだなんて思っていないから。逆に父にばらされて逆恨みしているような人間を許すわけがない。
それに何年もアンジェリーヌをいじめて追い詰めたくせに、一度謝ったからと言って許されるとでも思っているのか。
アンジェリーヌは殺されたも同然なのだ、許されると思う方がどうかしてる。
そして父といえば、これまで知らなかった、悪かったと自分は娘のことを思っているようなことをいう。
本当に気にしていたら娘が笑わなくなったこと、肌や髪の艶が悪くなったこと、古い服ばかり着ていることに気が付くっていうの。
アンジェリーヌを可愛がっていれば気が付けたはず。今更父親ぶられても嬉しくもなんともない。
けれど・・・アンジェリーヌなら泣いて喜んでいたと思う。悪意に傷つけられてもただ我慢するしかできなかったあの子は父のその言葉を欲していたのだから。
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そんなこんなでアンジェリーヌは自由に過ごすようになって一週間。
ごろごろだらける私に弟が苦言を呈したのだ。子分のくせに。
そして苦言を呈しつつ、婚約者にも会っておいた方がいいと告げてきた。
「婚約者なんかいたっけ? そういえばなんか嫌な奴がいたわね。人のこと陰気だとか、ちゃんと笑えとかいって。じゃあ笑わせて見ろっていうのよ。あんたがまつらない男だから笑いも出ないっていうのにね」
「姉上・・・それ本人の前で言わないでね。あちらの方が爵位上だから」
「はいはい、わかりました。よし、婚約解消してもらいましょう!」
アンジェリーヌは意気揚々と宣言したのだった。
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