身を引いても円満解決しませんでした

れもんぴーる

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    一肌脱いじゃう 7

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 朝になり、エヴェリーナの体調が良いことを確認するとステファンは王宮に戻った。

「ステファン!戻ってきてくれたか!」
「・・・。ムーラン嬢を拷問してでも吐かせましょう。本当は犯人など見てはいないのではないですか?」
「なんだ?いきなり。」
「あの女は信用なりません。もし何か話しても信頼できる情報とは思えないので。」
「どういうことだ?」
 ステファンはあの令嬢がしでかしたことを報告した。

「・・・そうか。あの令嬢がそんなことを・・・夫人は大丈夫なのか?お前が帰ってから、お前にまとわりつかぬようきつく言い含めて、他のものに事情聴取を任せたがはかどらん。だが高位貴族に対する名誉棄損と虚偽、奥方を害した罪で罰する必要があるな。馬鹿な令嬢だ。」
「私に良い考えがあります。」
 ステファンはある計画を伝えた。
「・・・お前の報復を兼ねた作戦にしか思えないのだがな。だが私も同じようなことを考えていたところだ。」
 王太子はその作戦に乗ることにしたのだった。

「隣国のスパイが王宮にいる」
 そう言う噂が王宮内を駆け巡った。
 先日、侵入者と内通者との密会を目撃した下働きの子爵令嬢が王宮にて保護されている。
 はっきりと顔を見た彼女は犯人探しに協力していると。

「殿下!一体どういうことですの?私の事が噂になっておりますわ。私が目撃者などと知られたら身が危ないではありませんか!」
 ドリスが王太子に泣きつく。
「いや、本当にどこからバレたのかな。だが、君が茶会や個人の屋敷に王家の護衛を引き連れて出歩くから目立ったのだろう。子爵令嬢がなぜゆえにと、まあ皆が探りたくもなるだろう。」
 そもそも、侵攻に備えた準備をしてる時点で相手はどこからか情報が漏れたと警戒していたはずだ。
 そして今回の事でターゲットが誰か伝わった事だろう。

「私のせいというのですか?協力しているのに・・・」
「確かに君のおかげで隣国の人間とつながる内通者がいると判明した。感謝している。」
「だったら!もっと大切にしてください。ここにいては危険です。ステファン様のお屋敷に参ります!」
「だから護衛をつけて大切にしているじゃないか。さっさと犯人が分かれば身の危険は無くなる。もう一度王宮を隅から隅まで歩いて探してくれないか?前回は怖がってはっきりと確認できていなかっただろ?」
「そんな・・そんなのひどいです!犯人と顔を合わせたら危険じゃないですか。」
「出歩く暇があれば、さっさと犯人を捜してほしかったよ。そうすればこんなことになる前に犯人を見つけられたのだけどね。嫌なら仕方がないね、帰宅を認めるよ。」
「わ、私がいなければ内通者を見つけられません!」
「ここにいても見つけられないようだからね。役立たずにうちの大事な側近や護衛をつけるほど暇ではないんだ。役に立つところを見せてくれれば別だけどね。」

 自分が目撃者だと広まった今、自宅に帰るなど死にに帰るようなものだ。
「一生懸命探します!ですからもう少しここに置いてくださいませ!」
「そう?まあ、いいけど。期限は後5日。よろしくね。」
 形勢逆転してしまった。
 自分の証言が必要とされる限り、大事にされるとばかり思っていた。実際にそうであったのに、自分は何かを間違ってしまったのだ。
 こうなると命がけで内通者を探さねば自分の身が危うい。
 ドリスは前回と違い、今回は必死で王宮内を歩き回り、見覚えのある顔や姿、声を探し歩いた。

 それを冷ややかに見つめる目が二対あった。

「今日も駄目だった・・・どうしよう。」
 ドリスは、だんだん自信がなくなってきていた。
 会えばわかると思っていたが、騎士などみんな同じに見えてきた。背が高いしっかりした体格、月明りで金髪に見えた顔の整った男。そんな騎士は王宮にはごろごろいた。
「このままだと・・・殺されてしまう。」
 護衛が外され、王宮から放り出されるとすぐに殺されるかもしれない。
「・・・そうだ。誰でもいいから犯人っていえば、真犯人は安心するわ、私の事ももうほっておいてくれるに違いない!」
 ドリスは名案を思いついて、興奮した。

 明日、生贄になる騎士を探せばいいと久々に元気を取り戻し、夕食を摂る元気が出た。だが一人ぼっちの夕食は味気がなかった。
 以前はステファンや他の者が一緒に食事を摂ってくれていた。しかし、エヴェリーナへの言動がばれて以来、誰も話しかけてくれなくなった。食事も部屋に用意されるだけだ。
 ため息をつきながらスプーンを取ろうとすると
「ん?」
 スプーンに何か乗っているように見える。
「汚れ?え?きゃあ?!」
 よく見るとトカゲが乗っていた。
 叫び声をあげても誰も見にきてくれない。
 襲われていたらどうするつもりだと苛立つが、トカゲをまずは追い払いたい。

 トカゲはするっとスープ皿に近づくと、コクコクト数口のみ、今度は小さな口で肉に齧り付き、丁寧にナプキンで口元と手を拭くと、チロチロと舌を出してドリスを見た。
「誰か!誰か来て!」
 その声に反応したように、トカゲはするすると床に降り、ドリスの方に近づいて来た。
「やだっ!こ、来ないでよ!」
 ピタッとトカゲが歩みを止め、ドリスはほっとした。

 瞬間、トカゲはどんどん巨大化し、ドリスを超える大きさになると、口をぱっくりと開けドリスの頭に齧り付いたのだった。
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