身を引いても円満解決しませんでした

れもんぴーる

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番外編 ○○視点

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「お母様、見てください!」
 息子のアノが小さな手のひらに一杯いちごを乗せている。
「まあ、美味しそうね。」
 エヴェリーナは四歳になったアノの頭を優しく撫でる。
 庭師と一緒に植え付けたいちごの実がようやく生ったのだ。

「神様にあげるの!」
 アノは庭に建てられた、竜の紋用が彫られた石祠にいちごを供えた。
 隣の国のとても優しい神様をお祭りしてあり、大恩人だから大切にするように両親から言われている。

 そして両親は時々庭で見かけるトカゲはその神様のお使い様だよと教えてくれた。
 そのお使い様はいちごがお好きなのよと、お母さまはまるでお使い様のことを良く知っているかのように話す。
 お母さまは大人なのに、いまだ夢見る乙女のように純真な心を持ち、竜といわれる聖獣がいる事を信じ、庭に住み着いているトカゲさんをお使い様だと信じているんだ。
 僕はそんなお母さまが大好きなんだ。

 アノはいちごを二つ祠にお供えして、一つは自分の手に、残りを大好きな母に渡した。
「僕遊んでくる。」
 一粒のいちごを握りしめて庭を駆け出していく。

 少し前から小さなお友達が出来た。竜のお使い様と言われているトカゲさん。
 ある日、僕が庭で僕付きのお守(も)りとかくれんぼをしていたの。神様の祠の近くにお母様が植えた花があって、その陰に隠れていたらそこにトカゲさんが裏返ってバタバタしてたんだ。僕、本当はちょっと怖かったんだけど表向きに返してあげたの。そしたらすぐに木陰に走っていっちゃった。良かった。

 なのに今度は僕が木登りしようとしたとき、根っこの側に干からびてるトカゲさんをまた見つけちゃったの。あんまりお利口さんじゃないのかもしれない。やっぱり神様のお使い様じゃないよね。

 棒で突っついたけど全く動かないの。もう死んじゃったのかな。お母さまが悲しむと思ったら僕も泣いちゃった。僕の涙がトカゲさんに落ちたの。そしたらトカゲさん!元気になって僕の足をポンポンって可愛い手でたたいてくれたの!ポンポンって!

 アノは慌ててコップに水を汲みに行くと、トカゲにかけた。気持ちよさそうにその水を浴びるとトカゲはもう一度感謝の意を示すように小さなアノの足先をトントンと叩いた。
「ありがとうと言ってるの?」
 トカゲは大きくうなづいたように見えた。
「うわあ~!トカゲさん!僕の言ってることわかるの?!」
 再びこくんと頷いた様に見える。

「うわ~うわ~君凄いね!あのね!お母様がね、トカゲさんはいちごが好きって言ってたの!いちご好き?」
 モミジの葉っぱのような形の小さな手の平を精一杯広げて、右手(?)を上げた。
「もうすぐね!いちごの実がなるってお母さまが言ってたの。出来たら君にもあげるね!」

 そうしてアノは摘みたての一粒のいちごを握りしめて、最近トカゲがお気に入りらしい木に走っていく。
 木の根の陰にいるトカゲにいちごを渡す。トカゲは小さな手で大きないちごを支えてまん丸い目をキラキラさせてパクリとかぶりつく。
 それを見たアノがまたキラキラと目を輝かす。

 うわ~うわ~本当にいちご食べてる!可愛い!
 トカゲさんいつもひっくり返ったり、干からびたり危なっかしいから僕が見守ってあげなくちゃ!

 それ以来、僕はお庭に出る度にトカゲさんを探すんだ。

 お母様、トカゲさんの神様が僕のお家を守ってくれてるけど、神様のお使いのトカゲさんを守っているのは僕なんだよ!

 楽しそうに祠を奇麗にしているエヴェリーナを見ながらアノは心の中で胸を張る。

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