身を引いても円満解決しませんでした

れもんぴーる

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企み

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「先ほどはごめんなさい。ついかっとなってしまったの。お姉さまが出て行ったから・・・寂しくてステファン様に縋ろうとしてしまったの。本当にごめんなさい。」
と、テューネは天使の顔ではらはらと涙を落とす。

「私もよ、エヴェリーナ、ごめんなさい。娘可愛さのあまり心にもないことを言ってしまってごめんなさいね。いつでもあなたがここに戻ってくるのを待ってるわ。」
エヴェリーナとステファンはあきれてしまって言葉も出ない。

「お父様、お姉さまとステファン様にもっときちんとお詫びがしたいの。でも・・私の思い・・お父様に聞かれるのが恥ずかしくて…」
少しだけ席を外しましょうという妻に渋ってはいたがエルノー伯爵は席を立った。

「お姉さま、本当にこのままステファン様と結婚されるのですか。」
「ええ。」
「ステファン様はそれでいいのですか?あなたを捨てた姉でいいのですか?私ステファン様がお可哀想で・・・」
また上目遣いで少し首を傾げ、涙を浮かべながら手を伸ばす。

(謝りたいと言ってたのは気のせいかしら。サインはもらったし、長居無用)
エヴェリーナはソファーから立ち上がった。が、ふわっとふらついて再びソファーに崩れ込んだ。
「エヴェリーナ?!大丈夫か?」
「え、ええ・・・」
強烈な眠気が襲ってくる。
視点が定まらず、ふらふらしている視界の端にテューネが笑っているのが見えた。

「あら、お姉さまお疲れですか?ここで少し休みになって。あら、ステファン様も体調よろしくないのでは?こちらで介抱いたしますわ。」
ステファンも急に体が熱くなり、体の中央が滾ってくる。
これはおかしいと思うが、どんどん欲望が高まってくる。そこにテューネが別室で介抱すると腕を絡めてくる。
頭のどこかで、だめだと分かっているのに腕を引かれるまま立ち上がった。

 急に目の眩むようなまぶしい光がステファンとエヴェリーナを包んだ。二人の指輪が急に光ったのだ。
「きゃあ、なに?!」
すぐに光は収まり、収まった時にはエヴェリーナもステファンも異常な状態は消えていた。

「ス、ステファン様。こちらへご案内いたしますわ。」
光に驚いたものの、テューネは我に返ると再びステファンの腕に触れようとした。
ステファンは思い切りその手をはたくと、テューネの腕を後ろ手に捻りあげた。
「痛い!な、何をなされますの?!」
「まさか薬まで盛るとは思わなかったな。エヴェリーナ、執事に知らせて衛兵を呼んでもらって。」
「そ、そんな!薬なんてなんのことですか?!知りませんわ。お姉さま!やめて」
エヴェリーナは黙って部屋を出て行った。

執事に告げると、執事は真っ青になり伯爵家が雇用している護衛をまず応接室に向かわせ、王宮にも使いを走らせた。
そして家長の伯爵を呼びに行くと、そこには妻に眠らされた伯爵がベッドで熟睡をしていた。

 後妻と言えども現伯爵夫人の取り扱いに苦慮をしている執事を見かねて、エヴェリーナは護衛に「伯爵家家長を害した人物よ、拘束してちょうだい」
と命じた。騒ぐ義母を無視して応接室まで引きずっていった。
王宮から衛兵が駆けつけるまでの間、うるさく騒ぐ二人に辟易した全員の同意の下、さるぐつわがはめられた。

そして、衛兵が駆けつけ二人を荷物のように運んでいった。
その扱いのひどさから多分に、王太子殿下の意向が入っているような気がするとステファンは思った。

「疲れましたわ・・・」
「本当・・・サインをもらいに行っただけなのに。」
「ステファン様、一人で行かなくてよかったですわ。」
「ああ、ぞっとするよ。それに竜の指輪が守ってくれなかったらと思うと・・・」
「伝説の竜・・・本当でしたのね。お使い様・・・本当は竜の化身ではなかったのかしら」
「そうだな。本当に感謝してる、どうしてもあの山に行きたいといった君のおかげだよ」
「いいえ。私の家族が迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。」
「君のせいじゃないよ。あんなもの、家族でも何でもない。君に睡眠薬を飲ませてまで・・・恐ろしい人間だ。エヴェリーナがあんなのと暮らしていたかと思うとつらいよ、どうして気が付かなかったんだと。自分のふがいなさが嫌になる。」

エヴェリーナはステファンにそっと寄り添うと
「いいえ。こうして助けて下さってます。それに・・・私こそ謝らなくてはいけません。」
「なにを?」
「前に、ステファン様が妹と関係したのは今回と同じく・・・薬を使ったのだと思います。あなたは何度も訪ねてきてくださっていた、でも私は一度も会おうとしなかった。きちんと話を聞いていれば、あなたが廃嫡されることもなかった。」
「・・・うん、君を裏切ったのではないと分かって僕もほっとした。」
「きっと、テューネが私を刺したとき、あなたがわざと護衛の気を引いたのではなく、あなたをつけていたテューネがあれを利用したのだと思います。それなのに・・・ひどいことをして申し訳ありません。」
エヴェリーナは立ち上がって、深く頭を下げた。

「リーナ、やめてくれ。そんな状況に陥った僕の甘さも原因だったと思う。それに家族でさえ信じられなかった環境で生きてきて、無理もなかったと思うし、君が死ぬのも助けられなかったんだ。過去の僕の間抜けさを許せないよ」
「ステファン様は全く悪くありませんわ。私がもっときちんと対応していれば・・・」
「これからは二人力を合わせていこう?僕たちはもう間違えないよ、二人で何でも相談していこう。」
ステファンはエヴェリーナを抱きよせた。
「はい。」
ようやく前回の人生からの重荷から解放され、胸がいっぱいだった。
うれし涙をあふれさせてステファンの体に腕を回した。

「ステファン様・・・愛してます。ずっとおそばにいさせて下さい。」
ステファンには心の底から感謝している。
そして、惜しみなく注いでくれる愛情にどれだけ救われたかわからない。
自分ももう、ステファンがいない世界は考えられない。

初めて愛しのエヴェリーナから愛の告白を受け脳が蕩け切った男は、媚薬の効果など欠片も残っていないくせに朝までエヴェリーナを寝かせることなく愛し続けた。翌日、ベッドから起きられなくなった彼女に平謝りすることになる。
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