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通い合う心
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結局ドイル商会で働くものは密輸や禁輸には関わっていなかった。
裏は裏で別組織を作って、アルビンが取り仕切っていた。
屋敷の使用人は半々で、執事をはじめアルビンの側付きの者は裏にも関わり、一般の使用人はほとんど知らずに仕えていたようだ。
エヴェリーナを手に入れることで、ラッシュ国との裏取引の販路を拡大し、表裏社会ともにのし上がろうと画策していた。エヴェリーナをアルビンのものにし、いうことを聞かせたうえで、今度は犯罪に加担した事を盾に脅迫するつもりだったようだ。
危なく、操を奪われたうえに犯罪者になるところだった。
事情聴取、検証などすべて終わり、いつでもドラン国を出てもよいと言われた。
「あの、必ず戻りますので・・・ステファン様は一足お先にお戻りください。」
「どうして?」
「もう一度だけ竜の山に行きたいのです。あの山のふもとで暮らそうと思っていたので・・・帰国したらもう来られないかもしれないから。」
ステファンと話し合い、一度国に帰ることになった。このまま逃げず、ステファンともっと話し合う必要がある。
「では僕もいく。」
「いけません、それでなくても私の為にお仕事休んでくださっているのに。これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきません。」
「いいんだよ。おもえば仕事仕事で君との約束を反故にしてきたんだ。それも君を不安にさせた一因にもなっていたと思う。殿下にもしっかり恩を着せて休みをぶん捕ってきたから心配はないよ。それに、うちへの密輸と禁止薬物の拡大を防ぐことができたのはかなりの手柄だから逆に褒美をもらいたいくらいだ。」
どうしても一緒に行くと譲らないステファンと再び竜の山に向かった。
ステファンは殿下の側付きで、ある程度は訓練をしているが、騎士のように腕が立つわけではない、服装をかえても貴族らしさは消しきれず、二人だけで旅に出るのは心もとない。
再びヨハンナに護衛を頼み、またラッシュ国からステファンに同行してきたロイドも一緒に竜の山に向かうことになった。彼は優れた武人だそうでこれで道行は心配なさそうだった。
ヨハンナはまた一緒に旅ができることを非常に喜んでくれたが、今度は婚約者を連れていたことに驚いていた。
「まだこれからどうなるかは・・・」
「ええ、そうなんです。すぐに結婚する予定です。」
エヴェリーナの言葉を遮り、にこやかにステファンは言った。
ロイドはそんなステファンの様子に冷ややかな視線を投げると
「こっちに来てからのお前、怖いわ」
といった。何を言われても全く気にせずステファンはエヴェリーナの手を嬉しそうに引いていた。
現地に到着して部屋割りをするときも、男女別でと提案したエヴェリーナに対し、宿代は自分が受け持つからと一人部屋を2室と部屋数が多い貴族用の部屋を1室おさえた。
もちろん旅の間もエヴェリーナから目を離す気は全くなかったからだ。
ロイドは引いたような目でステファンを見た。
翌日、前回と同じ竜の山のふもとの森にお茶と軽食をもって出かけた。
かなり元気に楽しそうに旅を楽しんでいるエヴェリーナにホッとした。しかし、エヴェリーナの観察はしっかりしている。この土地で暮らすつもりで、前回はいろいろ見て回ったと聞いたからだ。
今回は今のところそのそぶりはないが気は抜けない。いつ急に姿をくらますかわからない。
自分の誠実な気持ちは伝わったと思っているが、婚約者が妹に心移りし、殺されるかもしれないという不安は残っているに違いない。
「うわっ、トカゲ!」
ささっと広げた布の上に少し大きめのトカゲが走ってきた。
ロイドが摘まみだそうとしたとき、ヨハンナが止めた。
「待って!トカゲはこの国では竜のお使い様といわれて大切にされているんです。特にこの森のトカゲに出会ったら幸せになるといわれているんですよ。」
「まあ!そうなのね?」
そういうエヴェリーナの側にトカゲは近寄り、見上げている。
「どうしたの?お腹空いてるのかしら。これ食べれる?」
もってきていた苺をトカゲに差し出してみた。
するとゆっくりと食べ始めた。ヨハンナもステファンもロイドまでが面白がって果物やお肉を与えた。トカゲは丸い目をくりくりさせながら、どれもおいしそうにぱっくりと食べた。満足したのかささっと森に消えていった。
「うわあ。うれしい、何かいいことがありそうです!」
この国に住むヨハンナは誰よりも喜んだ。
他の三人も不思議なトカゲの餌づけ体験がいい思い出になるなあくらいには喜んでいた。
そのトカゲの話をしていると、再びささっと黒い影が走ってきた。
「あら?また来たのね。竜のお使いさん。」
トカゲはエヴェリーナの前に来ると、口から何かを落とした。
「まあ!きれい!宝石?」
「うわあ、トカゲが宝石咥えてくるなんて本当おとぎ話かよ」
ロイドが思わずつぶやく。
「これ・・・何?まさかくれるの?」
トカゲが頷くように首をふる。
「・・・まさか、言葉わかるのかしら?」
「ありえないけど・・・竜のお使い様、これをエヴェリーナにくださるんですか?」
再びトカゲは頷く。
「・・・うん。ありがたくいただいていいんじゃないかな。」
「あ、ありがとうございます」
満足したようにトカゲは森の方に消えていった。
「嘘みたい…」
手のひらに4つの光る石を並べた。
透き通るような薄い紫いろをした石が日の光を浴びると虹色のように揺らいでいる。
「食べ物のお礼かしら。」
エヴェリーナはその石をみんなに配った。
ヨハンナとロイドは遠慮をしたが、この奇跡のような出来事をみんなで分かち合いたいからと受け取ってもらえた。二人とも大いに喜んでくれた。
ステファンは何か考えていたが、宿に戻ってからトカゲにもらった石をエヴェリーナの分まで預かりたいと言った。理由を聞いても教えてくれなかったが、けして悪いことにはならないからとあまりにも懇願されるので預けることにした。
それから3日間、この街を満喫し、二度と来られないかもしれない景色を目に焼き付けた。そして明日ここを立つという最後の夜、二人で部屋の窓から竜の山を眺めていた。
月のない真っ暗な景色の中に、ひときわ黒く山の稜線が浮いて見える。その頂上付近はぼんやりと青い光を放っており不思議な光景だった。
「エヴェリーナ、旅の同行を許してくれてありがとう。明日帰るのが名残惜しい」
「・・・こちらこそわがままに付き合ってくださってありがとうございます」
ステファンはポケットに手を入れると、何かを取り出した。
「これを」
ステファンの手のひらには二つの指輪が乗っていた。
「これって・・・竜のお使い様がくれた石?」
「そう。大至急指輪にしてくれるようお願いしてあったんだ。」
小さいほうの指輪をつまむとエヴェリーナの指にはめた。そしてもう一つの指輪をエヴェリーナに渡した。
「僕にもはめてほしい。」
思わず受け取った手が震えた。
「君の好きな竜が君を幸せにするために下さったんだよ。聖獣様が僕たちの愛を守ってくださる。けして壊れることのない僕たちの愛の証」
エヴェリーナは震える手でステファンの指にはめた。
瞬間、思いきり抱き締められた。
「ありがとう」
その声は泣いているように震えていた。
「・・・いままでごめんなさい」
エヴェリーナが泣きぬれた顔を上げるとステファンもこちらを見つめていた。気が付くとステファンの唇が自分の唇に触れていた。
「・・・今日は大丈夫?」
「あ・・あの」
前回は状況が状況であり、とても受け入れることはできなかったが今は気持ち的にはいいかもしれない・・・というところまでは心が揺れている。しかし、貞淑を重んじられる貴族令嬢は結婚まで清い関係でいることが当たり前なのである。ステファンもそれは知っているはずなのに。
「愛してる・・・今までもこれからも。」
そういってどんどん口づけを深くしてくる。
腕で押し返したがほとんど抵抗にもならないようなささやかな反抗だった。
裏は裏で別組織を作って、アルビンが取り仕切っていた。
屋敷の使用人は半々で、執事をはじめアルビンの側付きの者は裏にも関わり、一般の使用人はほとんど知らずに仕えていたようだ。
エヴェリーナを手に入れることで、ラッシュ国との裏取引の販路を拡大し、表裏社会ともにのし上がろうと画策していた。エヴェリーナをアルビンのものにし、いうことを聞かせたうえで、今度は犯罪に加担した事を盾に脅迫するつもりだったようだ。
危なく、操を奪われたうえに犯罪者になるところだった。
事情聴取、検証などすべて終わり、いつでもドラン国を出てもよいと言われた。
「あの、必ず戻りますので・・・ステファン様は一足お先にお戻りください。」
「どうして?」
「もう一度だけ竜の山に行きたいのです。あの山のふもとで暮らそうと思っていたので・・・帰国したらもう来られないかもしれないから。」
ステファンと話し合い、一度国に帰ることになった。このまま逃げず、ステファンともっと話し合う必要がある。
「では僕もいく。」
「いけません、それでなくても私の為にお仕事休んでくださっているのに。これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきません。」
「いいんだよ。おもえば仕事仕事で君との約束を反故にしてきたんだ。それも君を不安にさせた一因にもなっていたと思う。殿下にもしっかり恩を着せて休みをぶん捕ってきたから心配はないよ。それに、うちへの密輸と禁止薬物の拡大を防ぐことができたのはかなりの手柄だから逆に褒美をもらいたいくらいだ。」
どうしても一緒に行くと譲らないステファンと再び竜の山に向かった。
ステファンは殿下の側付きで、ある程度は訓練をしているが、騎士のように腕が立つわけではない、服装をかえても貴族らしさは消しきれず、二人だけで旅に出るのは心もとない。
再びヨハンナに護衛を頼み、またラッシュ国からステファンに同行してきたロイドも一緒に竜の山に向かうことになった。彼は優れた武人だそうでこれで道行は心配なさそうだった。
ヨハンナはまた一緒に旅ができることを非常に喜んでくれたが、今度は婚約者を連れていたことに驚いていた。
「まだこれからどうなるかは・・・」
「ええ、そうなんです。すぐに結婚する予定です。」
エヴェリーナの言葉を遮り、にこやかにステファンは言った。
ロイドはそんなステファンの様子に冷ややかな視線を投げると
「こっちに来てからのお前、怖いわ」
といった。何を言われても全く気にせずステファンはエヴェリーナの手を嬉しそうに引いていた。
現地に到着して部屋割りをするときも、男女別でと提案したエヴェリーナに対し、宿代は自分が受け持つからと一人部屋を2室と部屋数が多い貴族用の部屋を1室おさえた。
もちろん旅の間もエヴェリーナから目を離す気は全くなかったからだ。
ロイドは引いたような目でステファンを見た。
翌日、前回と同じ竜の山のふもとの森にお茶と軽食をもって出かけた。
かなり元気に楽しそうに旅を楽しんでいるエヴェリーナにホッとした。しかし、エヴェリーナの観察はしっかりしている。この土地で暮らすつもりで、前回はいろいろ見て回ったと聞いたからだ。
今回は今のところそのそぶりはないが気は抜けない。いつ急に姿をくらますかわからない。
自分の誠実な気持ちは伝わったと思っているが、婚約者が妹に心移りし、殺されるかもしれないという不安は残っているに違いない。
「うわっ、トカゲ!」
ささっと広げた布の上に少し大きめのトカゲが走ってきた。
ロイドが摘まみだそうとしたとき、ヨハンナが止めた。
「待って!トカゲはこの国では竜のお使い様といわれて大切にされているんです。特にこの森のトカゲに出会ったら幸せになるといわれているんですよ。」
「まあ!そうなのね?」
そういうエヴェリーナの側にトカゲは近寄り、見上げている。
「どうしたの?お腹空いてるのかしら。これ食べれる?」
もってきていた苺をトカゲに差し出してみた。
するとゆっくりと食べ始めた。ヨハンナもステファンもロイドまでが面白がって果物やお肉を与えた。トカゲは丸い目をくりくりさせながら、どれもおいしそうにぱっくりと食べた。満足したのかささっと森に消えていった。
「うわあ。うれしい、何かいいことがありそうです!」
この国に住むヨハンナは誰よりも喜んだ。
他の三人も不思議なトカゲの餌づけ体験がいい思い出になるなあくらいには喜んでいた。
そのトカゲの話をしていると、再びささっと黒い影が走ってきた。
「あら?また来たのね。竜のお使いさん。」
トカゲはエヴェリーナの前に来ると、口から何かを落とした。
「まあ!きれい!宝石?」
「うわあ、トカゲが宝石咥えてくるなんて本当おとぎ話かよ」
ロイドが思わずつぶやく。
「これ・・・何?まさかくれるの?」
トカゲが頷くように首をふる。
「・・・まさか、言葉わかるのかしら?」
「ありえないけど・・・竜のお使い様、これをエヴェリーナにくださるんですか?」
再びトカゲは頷く。
「・・・うん。ありがたくいただいていいんじゃないかな。」
「あ、ありがとうございます」
満足したようにトカゲは森の方に消えていった。
「嘘みたい…」
手のひらに4つの光る石を並べた。
透き通るような薄い紫いろをした石が日の光を浴びると虹色のように揺らいでいる。
「食べ物のお礼かしら。」
エヴェリーナはその石をみんなに配った。
ヨハンナとロイドは遠慮をしたが、この奇跡のような出来事をみんなで分かち合いたいからと受け取ってもらえた。二人とも大いに喜んでくれた。
ステファンは何か考えていたが、宿に戻ってからトカゲにもらった石をエヴェリーナの分まで預かりたいと言った。理由を聞いても教えてくれなかったが、けして悪いことにはならないからとあまりにも懇願されるので預けることにした。
それから3日間、この街を満喫し、二度と来られないかもしれない景色を目に焼き付けた。そして明日ここを立つという最後の夜、二人で部屋の窓から竜の山を眺めていた。
月のない真っ暗な景色の中に、ひときわ黒く山の稜線が浮いて見える。その頂上付近はぼんやりと青い光を放っており不思議な光景だった。
「エヴェリーナ、旅の同行を許してくれてありがとう。明日帰るのが名残惜しい」
「・・・こちらこそわがままに付き合ってくださってありがとうございます」
ステファンはポケットに手を入れると、何かを取り出した。
「これを」
ステファンの手のひらには二つの指輪が乗っていた。
「これって・・・竜のお使い様がくれた石?」
「そう。大至急指輪にしてくれるようお願いしてあったんだ。」
小さいほうの指輪をつまむとエヴェリーナの指にはめた。そしてもう一つの指輪をエヴェリーナに渡した。
「僕にもはめてほしい。」
思わず受け取った手が震えた。
「君の好きな竜が君を幸せにするために下さったんだよ。聖獣様が僕たちの愛を守ってくださる。けして壊れることのない僕たちの愛の証」
エヴェリーナは震える手でステファンの指にはめた。
瞬間、思いきり抱き締められた。
「ありがとう」
その声は泣いているように震えていた。
「・・・いままでごめんなさい」
エヴェリーナが泣きぬれた顔を上げるとステファンもこちらを見つめていた。気が付くとステファンの唇が自分の唇に触れていた。
「・・・今日は大丈夫?」
「あ・・あの」
前回は状況が状況であり、とても受け入れることはできなかったが今は気持ち的にはいいかもしれない・・・というところまでは心が揺れている。しかし、貞淑を重んじられる貴族令嬢は結婚まで清い関係でいることが当たり前なのである。ステファンもそれは知っているはずなのに。
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