8 / 34
旅へ
しおりを挟む
エヴェリーナは数日間の休暇をアルビンに願い出た。
「休暇は構わないけど、どうしたんだい?」
「もともとドランの国に来たのは伝説の竜の山に行きたかったからなの。せっかくドランに来たのだから行ってみたい。」
「でも実際見た人はいないよ、あくまでも伝説。まあ。この国の人は竜びいきだけどね。王室のシンボルマークも竜だし。」
「いいんですよ、聖地めぐりといって関係のある所をまわるだけで楽しいんです」
「来月にしてくれたら僕が同行できるんだけど、今はちょっと空けられないんだ。来月じゃダメ?」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ、ちゃんと護衛を雇っていくつもりですから。こんな趣味にアルビンさんを付き合わせるわけにはいきませんから」
(一緒に旅行なんて、あの彼女に何を言われるかわからないわ。)
いつかは竜の山に行きたいと思っていたが、急遽思い立ったのはアルビンの彼女の存在だった。
うまく身を隠してくれる家と仕事を失うのはつらい、かといってこのままの生活を続けるとアルビンさんの彼女に申し訳ないし誤解を与えたくもない。
ゆっくり一人になって今後のことを考えてみたかったのだ。もし旅先で暮らせそうならそちらに引っ越せばいい。憧れだった竜の山で生活するのも悪くない。旅と下見とを兼ねてゆったりとおひとり様(護衛付き)を楽しみたかった。
「わかったよ。じゃあ、準備は手伝う。明日買い物に行こう。あちらは寒いからね、しっかりといろんな準備をしていかないとつらいよ。現地でも手に入るけど、高いから用意しておいた方がいい。」
買い物は明日、出発は5日後に決まった。
翌日、いつものように手をつなごうとするアルビンに、エヴェリーナは辞退した。
「アルビンさん、彼女がいるのに駄目ですよ。」
「え?彼女なんていないけど」
「この間、アルビンさんの彼女からくぎを刺されましたよ。女性に優しいのは良いですけど、彼女さんを大事にしてください。」
「ええ~。本当にいないんだけどな。どんな人だった?」
エヴェリーナがうろ覚えながら髪と目の色や雰囲気を伝えると、心当たりがあったようで
「ああ、彼女は商売上の付き合いなんだ。けど、一方的に好意を寄せられて困ってるんだ、無下にして仕事の支障が出たら困るし・・・君に迷惑をかけてるとは知らなかったよ。ごめんね。」
「いいえ、大丈夫です。でもアルビンさんを好きな方がほかにもいらっしゃると思うし、勘違いされるようなことはやめましょう。私も軽率でした、ごめんなさい。」
「勘違いされたいよ、僕は。さあ、行こう」
結局、手をつながれて街を歩くことになった。彼女のことはまだ気になりはしたが、露店で食べ物を買って食べ歩き、一緒に旅先で必要なものを選び、雑貨店や衣料品店など冷かしてまわったりと、気が付けば一日を楽しく過ごしていた。
それを後ろから見ている人影には気が付かなった。
「・・・エヴェリーナ・・・」
長身の人目を惹く見目の良い知らない男と手をつないで街でデートしているエヴェリーナの楽しそうな姿にステファンは崩れ落ちそうなショックを受けていた。
自分は彼女と手をつないだこともない、街でこんな風にデートしたこともない。せいぜい婚約者としてお互いの家で月に数回決められた回数のお茶会と、観劇、夜会のエスコートくらいだ。その時も笑顔で楽しそうだと思っていたが、今と比べれば貴族令嬢として損なわない儀礼的な笑顔であったことがわかる。今は心からの何の遠慮もない笑顔を相手の男に向けている。
エヴェリーナを見つけたときは歓喜した。すぐに走り寄ろうとした。しかし隣にはアルビンという男がいた。
ドイル商会の使用人に、酒場で酒を飲ませ色々聞き込みエヴェリーナの情報を得た。通訳を辞め、翻訳をしていること。そして、商会のトップであるアルビンと一緒に暮らしていることを。
ただ、その関係は従業員と雇い主だと聞いていたのに、こんな姿を見せられるなんて・・・胸が痛くて痛くて仕方がなかった。
それでも二人から目が離せずに、よろよろと後をつけるような形になった。ふと気が付くと、二人の後をつけているのは自分だけではない事に気が付いた。顔のつくりが派手で、肉感的な美人がきついまなざしで二人をにらんでいたのだ。
「・・・調べるか。」
なんとなく理由は察することができた、しかし嫉妬からエヴェリーナが害されては困る。ステファンはその女の方に向かって歩き出した。
「休暇は構わないけど、どうしたんだい?」
「もともとドランの国に来たのは伝説の竜の山に行きたかったからなの。せっかくドランに来たのだから行ってみたい。」
「でも実際見た人はいないよ、あくまでも伝説。まあ。この国の人は竜びいきだけどね。王室のシンボルマークも竜だし。」
「いいんですよ、聖地めぐりといって関係のある所をまわるだけで楽しいんです」
「来月にしてくれたら僕が同行できるんだけど、今はちょっと空けられないんだ。来月じゃダメ?」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ、ちゃんと護衛を雇っていくつもりですから。こんな趣味にアルビンさんを付き合わせるわけにはいきませんから」
(一緒に旅行なんて、あの彼女に何を言われるかわからないわ。)
いつかは竜の山に行きたいと思っていたが、急遽思い立ったのはアルビンの彼女の存在だった。
うまく身を隠してくれる家と仕事を失うのはつらい、かといってこのままの生活を続けるとアルビンさんの彼女に申し訳ないし誤解を与えたくもない。
ゆっくり一人になって今後のことを考えてみたかったのだ。もし旅先で暮らせそうならそちらに引っ越せばいい。憧れだった竜の山で生活するのも悪くない。旅と下見とを兼ねてゆったりとおひとり様(護衛付き)を楽しみたかった。
「わかったよ。じゃあ、準備は手伝う。明日買い物に行こう。あちらは寒いからね、しっかりといろんな準備をしていかないとつらいよ。現地でも手に入るけど、高いから用意しておいた方がいい。」
買い物は明日、出発は5日後に決まった。
翌日、いつものように手をつなごうとするアルビンに、エヴェリーナは辞退した。
「アルビンさん、彼女がいるのに駄目ですよ。」
「え?彼女なんていないけど」
「この間、アルビンさんの彼女からくぎを刺されましたよ。女性に優しいのは良いですけど、彼女さんを大事にしてください。」
「ええ~。本当にいないんだけどな。どんな人だった?」
エヴェリーナがうろ覚えながら髪と目の色や雰囲気を伝えると、心当たりがあったようで
「ああ、彼女は商売上の付き合いなんだ。けど、一方的に好意を寄せられて困ってるんだ、無下にして仕事の支障が出たら困るし・・・君に迷惑をかけてるとは知らなかったよ。ごめんね。」
「いいえ、大丈夫です。でもアルビンさんを好きな方がほかにもいらっしゃると思うし、勘違いされるようなことはやめましょう。私も軽率でした、ごめんなさい。」
「勘違いされたいよ、僕は。さあ、行こう」
結局、手をつながれて街を歩くことになった。彼女のことはまだ気になりはしたが、露店で食べ物を買って食べ歩き、一緒に旅先で必要なものを選び、雑貨店や衣料品店など冷かしてまわったりと、気が付けば一日を楽しく過ごしていた。
それを後ろから見ている人影には気が付かなった。
「・・・エヴェリーナ・・・」
長身の人目を惹く見目の良い知らない男と手をつないで街でデートしているエヴェリーナの楽しそうな姿にステファンは崩れ落ちそうなショックを受けていた。
自分は彼女と手をつないだこともない、街でこんな風にデートしたこともない。せいぜい婚約者としてお互いの家で月に数回決められた回数のお茶会と、観劇、夜会のエスコートくらいだ。その時も笑顔で楽しそうだと思っていたが、今と比べれば貴族令嬢として損なわない儀礼的な笑顔であったことがわかる。今は心からの何の遠慮もない笑顔を相手の男に向けている。
エヴェリーナを見つけたときは歓喜した。すぐに走り寄ろうとした。しかし隣にはアルビンという男がいた。
ドイル商会の使用人に、酒場で酒を飲ませ色々聞き込みエヴェリーナの情報を得た。通訳を辞め、翻訳をしていること。そして、商会のトップであるアルビンと一緒に暮らしていることを。
ただ、その関係は従業員と雇い主だと聞いていたのに、こんな姿を見せられるなんて・・・胸が痛くて痛くて仕方がなかった。
それでも二人から目が離せずに、よろよろと後をつけるような形になった。ふと気が付くと、二人の後をつけているのは自分だけではない事に気が付いた。顔のつくりが派手で、肉感的な美人がきついまなざしで二人をにらんでいたのだ。
「・・・調べるか。」
なんとなく理由は察することができた、しかし嫉妬からエヴェリーナが害されては困る。ステファンはその女の方に向かって歩き出した。
213
お気に入りに追加
2,423
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
いつだって二番目。こんな自分とさよならします!
椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。
ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。
ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。
嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。
そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!?
小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。
いつも第一王女の姉が優先される日々。
そして、待ち受ける死。
――この運命、私は変えられるの?
※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる