身を引いても円満解決しませんでした

れもんぴーる

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エヴェリーナは数日間の休暇をアルビンに願い出た。

「休暇は構わないけど、どうしたんだい?」
「もともとドランの国に来たのは伝説の竜の山に行きたかったからなの。せっかくドランに来たのだから行ってみたい。」
「でも実際見た人はいないよ、あくまでも伝説。まあ。この国の人は竜びいきだけどね。王室のシンボルマークも竜だし。」
「いいんですよ、聖地めぐりといって関係のある所をまわるだけで楽しいんです」
「来月にしてくれたら僕が同行できるんだけど、今はちょっと空けられないんだ。来月じゃダメ?」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ、ちゃんと護衛を雇っていくつもりですから。こんな趣味にアルビンさんを付き合わせるわけにはいきませんから」
(一緒に旅行なんて、あの彼女に何を言われるかわからないわ。)

いつかは竜の山に行きたいと思っていたが、急遽思い立ったのはアルビンの彼女の存在だった。
うまく身を隠してくれる家と仕事を失うのはつらい、かといってこのままの生活を続けるとアルビンさんの彼女に申し訳ないし誤解を与えたくもない。

ゆっくり一人になって今後のことを考えてみたかったのだ。もし旅先で暮らせそうならそちらに引っ越せばいい。憧れだった竜の山で生活するのも悪くない。旅と下見とを兼ねてゆったりとおひとり様(護衛付き)を楽しみたかった。

「わかったよ。じゃあ、準備は手伝う。明日買い物に行こう。あちらは寒いからね、しっかりといろんな準備をしていかないとつらいよ。現地でも手に入るけど、高いから用意しておいた方がいい。」
買い物は明日、出発は5日後に決まった。

翌日、いつものように手をつなごうとするアルビンに、エヴェリーナは辞退した。
「アルビンさん、彼女がいるのに駄目ですよ。」
「え?彼女なんていないけど」
「この間、アルビンさんの彼女からくぎを刺されましたよ。女性に優しいのは良いですけど、彼女さんを大事にしてください。」
「ええ~。本当にいないんだけどな。どんな人だった?」
エヴェリーナがうろ覚えながら髪と目の色や雰囲気を伝えると、心当たりがあったようで
「ああ、彼女は商売上の付き合いなんだ。けど、一方的に好意を寄せられて困ってるんだ、無下にして仕事の支障が出たら困るし・・・君に迷惑をかけてるとは知らなかったよ。ごめんね。」
「いいえ、大丈夫です。でもアルビンさんを好きな方がほかにもいらっしゃると思うし、勘違いされるようなことはやめましょう。私も軽率でした、ごめんなさい。」
「勘違いされたいよ、僕は。さあ、行こう」

結局、手をつながれて街を歩くことになった。彼女のことはまだ気になりはしたが、露店で食べ物を買って食べ歩き、一緒に旅先で必要なものを選び、雑貨店や衣料品店など冷かしてまわったりと、気が付けば一日を楽しく過ごしていた。

それを後ろから見ている人影には気が付かなった。

「・・・エヴェリーナ・・・」
長身の人目を惹く見目の良い知らない男と手をつないで街でデートしているエヴェリーナの楽しそうな姿にステファンは崩れ落ちそうなショックを受けていた。

自分は彼女と手をつないだこともない、街でこんな風にデートしたこともない。せいぜい婚約者としてお互いの家で月に数回決められた回数のお茶会と、観劇、夜会のエスコートくらいだ。その時も笑顔で楽しそうだと思っていたが、今と比べれば貴族令嬢として損なわない儀礼的な笑顔であったことがわかる。今は心からの何の遠慮もない笑顔を相手の男に向けている。

 エヴェリーナを見つけたときは歓喜した。すぐに走り寄ろうとした。しかし隣にはアルビンという男がいた。
ドイル商会の使用人に、酒場で酒を飲ませ色々聞き込みエヴェリーナの情報を得た。通訳を辞め、翻訳をしていること。そして、商会のトップであるアルビンと一緒に暮らしていることを。
ただ、その関係は従業員と雇い主だと聞いていたのに、こんな姿を見せられるなんて・・・胸が痛くて痛くて仕方がなかった。

 それでも二人から目が離せずに、よろよろと後をつけるような形になった。ふと気が付くと、二人の後をつけているのは自分だけではない事に気が付いた。顔のつくりが派手で、肉感的な美人がきついまなざしで二人をにらんでいたのだ。

「・・・調べるか。」
なんとなく理由は察することができた、しかし嫉妬からエヴェリーナが害されては困る。ステファンはその女の方に向かって歩き出した。
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