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番外編 とある男 2
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そして移送の馬車に乗り込むとき、周囲にさっと視線を巡らせ御者の他に護衛は一人だけだと確認した。優良受刑者の男一人の移送ならこれで十分だろうと判断されたのだろう。
そして、途中で腹痛を訴え護衛が大丈夫かと近寄ってきた時に男は思い切り膝で腹を蹴り上げ、気を失わせた。移送馬車の中での大きな物音と振動に御者が馬車を止めて声をかける。
「大丈夫ですか?!何がありました?」
「受刑者が具合が悪くて倒れたのだ!開けてくれ!」
男は成りすまして返事をすると、護衛の剣を後ろ手に引き抜き縄を切った。
そして、扉を開けて立ちすくんだ御者を剣の柄で殴り、馬車に放り込むと外から鍵をかけ閉じ込めた。
ワゴネットと馬を切り離そうとしたその時、どこからか馬の足音と地響きが近づいてきて、あっという間に男は騎士たちに取り囲まれてしまった。
「脱獄と、傷害、殺人未遂か。バカな男だな。」
「ち、違う!誤解だ!ふ、二人の具合が悪くなったので助けを呼びに行こうと・・・」
「御託はいい。お前はずっと監視されていたんだよ。」
馬車から助け出された二人は、幸い無事だった。
万が一の為に二人は服の下に鎖帷子を着用し、頭部を狙われた時だけは反撃を許可されていた。
「なんで・・・そんなこと・・・」
「我々はトゥーリ侯爵家の騎士だ。」
「トゥーリ!なぜだ!どうしてわかった?!」
喚く男は拘束され、猿ぐつわを嵌められ元の馬車に押し込まれた。
そして脱獄を企て護衛と御者を殺そうとしたとした罪に加え、本人が自筆で書いた手紙から、他国の貴族令嬢を刺した殺害未遂の罪も明らかになり、前回の罪に加算され厳罰が下された。
暴力的で、反省の色がなく、空気を吸うように虚言を吐く男を、更生の余地はないと極刑が処されたのだった。
トゥーリ侯爵はエミリアの事務所を訪ねた。
そして個室で弁護士としてのヨハンに面会を求めた。
「ヨハン殿、この度は貴殿のおかげで憂いを完全に払拭する事が出来た。深く感謝する。」
「いいえ、とんでもありません。エミリア様に対する償いをさせたかっただけですから。ただ・・・後味の悪い結果になってしまいました。」
ヨハンはエミリアの事件を調べ、被害者にエミリアが入っていない事を知った。犯人に怒りを覚えたヨハンは、自分が弁護をした受刑者にせっせと面談しにいき、世間話でいろんなことを聞き出していた。
事前の評判が悪いのにも関わらず、優良受刑者と聞きヨハンは違和感を感じていた。
日頃から、親身に相談に乗ってくれるヨハンに感謝していた受刑者たちは、ヨハンがある男を気にしていることを知ると頼まれずとも積極的にかかわりを持ってくれた。
その結果、特に悪い噂は聞こえてこなかった。しかし、その男が従順を装っている印象がするという報告もゼロではなかったため、念のためヨハンは、トゥーリ侯爵に報告したのだった。
遠い先だと言っても、いつかその男が出てくることを危惧していた侯爵とエミリアの仇を取りたいヨハンは、その男の本性を引き出す計画を立てた。
とはいっても、あの男が真摯に反省し、エミリアを傷つけた事やソフィアの心にも傷を負わせたことを後悔して本心から償うつもりであればいたずらに事を荒立てるつもりはなかった。
だからあの手紙が本心なら、あの男は鉱山より安全な労働で許されたはずだった。しかし、本心ではない場合、あの手紙を犯罪の証拠として訴えるつもりだった。
そのうえで恩赦がないことや一生弁済をしなければならないと、生涯償うことを匂わせてみた。
追い詰められた男が本心を漏らすのではないかと、それ次第で手紙を使うことになるとそう思ったのだが・・・
万が一にもそれはないだろうと思っていた想定していた最悪の手をあの男は使い、あの男は自ら命を放棄することとなった。
「あの男の自業自得だ。私は君に感謝しかない。あの男はいまだ娘にこだわり、復讐をする機会を狙っていたと白状した。知らない間に脱獄して娘に何かあったらと思うと・・・君は命の恩人だ。君たちは二人そろって娘の命を助けてくれた。感謝している。だがこのことは彼女には言わない方がいいのだろう?」
「はい。エミリア様はあんな男でも自分の件で極刑になったと知ると胸を痛めてしまいます。私たち二人の胸に納めたいと思います。」
「わかった。君たち二人が何か困ったことがあればいつでも相談してほしい。必ず力になる。」
侯爵は二人の後ろ盾になることを約束して帰っていった。
侯爵が帰っていくと、ヨハンは笑った。
あの男が、思った通りに動いてくれ、望んだとおりの結果になったからだ。
端からあの男を許すつもりはなかった。エミリアを刺した男。下手をしたらエミリアは命を失い、自分から永遠にエミリアを奪ったかもしれない男を許せるわけがない。
ねえ、エミリア様、あなたのためなら僕は何でもします。もう、逃がしませんよ。
終わり
==================================
最後までお付き合いいただきましてありがとうございました!
これにて完結となります。
最後だけちょっとホラー風?(*´▽`*)
けど、ただのエミリア大好きっこです。なんでもする・・・これはエミリアに尽くし、ヨハンにベタ惚れさせる気満々というポップな気持ちです。病んでるわけでも、狂気を隠しているわけでもありません( *´艸`)。たぶん・・・
エミリアの被害をあまり公にせず、男のやったことに対する正当な罰を与えたかったヨハンでした。
魔法や転生などの要素のない恋愛物は私には難しかった(ノД`)・゜・。
(実はこの話も、最初エミリアは妖精の愛し子設定だったのですが思い切って省いてみたらこうなったΣ(゚Д゚))
そして、途中で腹痛を訴え護衛が大丈夫かと近寄ってきた時に男は思い切り膝で腹を蹴り上げ、気を失わせた。移送馬車の中での大きな物音と振動に御者が馬車を止めて声をかける。
「大丈夫ですか?!何がありました?」
「受刑者が具合が悪くて倒れたのだ!開けてくれ!」
男は成りすまして返事をすると、護衛の剣を後ろ手に引き抜き縄を切った。
そして、扉を開けて立ちすくんだ御者を剣の柄で殴り、馬車に放り込むと外から鍵をかけ閉じ込めた。
ワゴネットと馬を切り離そうとしたその時、どこからか馬の足音と地響きが近づいてきて、あっという間に男は騎士たちに取り囲まれてしまった。
「脱獄と、傷害、殺人未遂か。バカな男だな。」
「ち、違う!誤解だ!ふ、二人の具合が悪くなったので助けを呼びに行こうと・・・」
「御託はいい。お前はずっと監視されていたんだよ。」
馬車から助け出された二人は、幸い無事だった。
万が一の為に二人は服の下に鎖帷子を着用し、頭部を狙われた時だけは反撃を許可されていた。
「なんで・・・そんなこと・・・」
「我々はトゥーリ侯爵家の騎士だ。」
「トゥーリ!なぜだ!どうしてわかった?!」
喚く男は拘束され、猿ぐつわを嵌められ元の馬車に押し込まれた。
そして脱獄を企て護衛と御者を殺そうとしたとした罪に加え、本人が自筆で書いた手紙から、他国の貴族令嬢を刺した殺害未遂の罪も明らかになり、前回の罪に加算され厳罰が下された。
暴力的で、反省の色がなく、空気を吸うように虚言を吐く男を、更生の余地はないと極刑が処されたのだった。
トゥーリ侯爵はエミリアの事務所を訪ねた。
そして個室で弁護士としてのヨハンに面会を求めた。
「ヨハン殿、この度は貴殿のおかげで憂いを完全に払拭する事が出来た。深く感謝する。」
「いいえ、とんでもありません。エミリア様に対する償いをさせたかっただけですから。ただ・・・後味の悪い結果になってしまいました。」
ヨハンはエミリアの事件を調べ、被害者にエミリアが入っていない事を知った。犯人に怒りを覚えたヨハンは、自分が弁護をした受刑者にせっせと面談しにいき、世間話でいろんなことを聞き出していた。
事前の評判が悪いのにも関わらず、優良受刑者と聞きヨハンは違和感を感じていた。
日頃から、親身に相談に乗ってくれるヨハンに感謝していた受刑者たちは、ヨハンがある男を気にしていることを知ると頼まれずとも積極的にかかわりを持ってくれた。
その結果、特に悪い噂は聞こえてこなかった。しかし、その男が従順を装っている印象がするという報告もゼロではなかったため、念のためヨハンは、トゥーリ侯爵に報告したのだった。
遠い先だと言っても、いつかその男が出てくることを危惧していた侯爵とエミリアの仇を取りたいヨハンは、その男の本性を引き出す計画を立てた。
とはいっても、あの男が真摯に反省し、エミリアを傷つけた事やソフィアの心にも傷を負わせたことを後悔して本心から償うつもりであればいたずらに事を荒立てるつもりはなかった。
だからあの手紙が本心なら、あの男は鉱山より安全な労働で許されたはずだった。しかし、本心ではない場合、あの手紙を犯罪の証拠として訴えるつもりだった。
そのうえで恩赦がないことや一生弁済をしなければならないと、生涯償うことを匂わせてみた。
追い詰められた男が本心を漏らすのではないかと、それ次第で手紙を使うことになるとそう思ったのだが・・・
万が一にもそれはないだろうと思っていた想定していた最悪の手をあの男は使い、あの男は自ら命を放棄することとなった。
「あの男の自業自得だ。私は君に感謝しかない。あの男はいまだ娘にこだわり、復讐をする機会を狙っていたと白状した。知らない間に脱獄して娘に何かあったらと思うと・・・君は命の恩人だ。君たちは二人そろって娘の命を助けてくれた。感謝している。だがこのことは彼女には言わない方がいいのだろう?」
「はい。エミリア様はあんな男でも自分の件で極刑になったと知ると胸を痛めてしまいます。私たち二人の胸に納めたいと思います。」
「わかった。君たち二人が何か困ったことがあればいつでも相談してほしい。必ず力になる。」
侯爵は二人の後ろ盾になることを約束して帰っていった。
侯爵が帰っていくと、ヨハンは笑った。
あの男が、思った通りに動いてくれ、望んだとおりの結果になったからだ。
端からあの男を許すつもりはなかった。エミリアを刺した男。下手をしたらエミリアは命を失い、自分から永遠にエミリアを奪ったかもしれない男を許せるわけがない。
ねえ、エミリア様、あなたのためなら僕は何でもします。もう、逃がしませんよ。
終わり
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最後までお付き合いいただきましてありがとうございました!
これにて完結となります。
最後だけちょっとホラー風?(*´▽`*)
けど、ただのエミリア大好きっこです。なんでもする・・・これはエミリアに尽くし、ヨハンにベタ惚れさせる気満々というポップな気持ちです。病んでるわけでも、狂気を隠しているわけでもありません( *´艸`)。たぶん・・・
エミリアの被害をあまり公にせず、男のやったことに対する正当な罰を与えたかったヨハンでした。
魔法や転生などの要素のない恋愛物は私には難しかった(ノД`)・゜・。
(実はこの話も、最初エミリアは妖精の愛し子設定だったのですが思い切って省いてみたらこうなったΣ(゚Д゚))
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