私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる

文字の大きさ
上 下
6 / 33

留学生

しおりを挟む
 学院生の一学年下に隣国からの留学生がいると聞き、知り合いの令嬢にお願いし、挨拶をさせていただいた。 
 隣国からの留学生ソフィア・トゥーリはレイノー国の貴族である。侯爵家の令嬢で、この国へは語学を学び、将来自国の益になる見識を広げるために来ていた。

「エミリア様、わたくしが留学に来た理由はお話ししましたわ。貴女がわたくしに近づこうとする意図は何なのかしら?」
(おおっ!いきなりけんか腰!挨拶の時からにこりともしてくれないし、機嫌が悪そうとは思っていたけど・・・私に会いたくなかったのかしら。)
「お忙しい所、時間をとっていただき申し訳ありません。私は卒業をしたら、隣国に行こうと考えております。」
「それで?」
「色々準備を進めておりますが、わからないことも多くお話を聞かせていただけないかと思いまして、友人に引き合わせをお願いしました。例えば、安全に暮らすのならどこの地域が良いのか、家を借りたり働き口を探すのにはどういう手はずがあるのか、観光地や、行った方がいい所とか、服装とか、気をつけるところとか、食べ物とか・・・。あ、申しわけありません!夢中になってしまって。」
 相手が気乗りをしなかったことを思い出し、言葉を止めた。
 さぞかし興味のない話をだらだら聞かされて不機嫌にさせてしまったと思い、恐る恐るソフィアを見た。
 ソフィアは先ほどまでの表情とは打って変わって、笑顔でこちらを見ていた。

「ごめんなさい、嫌な思いをさせて。貴女の思いを聞かせて欲しかったの。これまで留学生と知り合いだと自慢したいがために近づいて来る者、隣国とのつながりを持ちたいと欲得だけで近づいてくる者、珍しい動物を見るような感覚で近づいてくる者など色々いてね。嫌になっちゃって牽制することにしているのよ。本当にごめんなさい。」
「いいえ!確かに私も自分の欲の為にソフィア様の時間を頂戴してしまいました・・・申し訳ありません。」
「いいのよ。そういう欲のことではないから。貴女が我がレイノー国のことを知りたいと、本当に我が国に行きたいという気持ちが伝わってきて嬉しかったわ。私が知っていることなら喜んでお伝えするわ。代わりにと言っては何だけれど、お友達になってくださるとうれしいわ。」
「もちろんです!なんて嬉しい。ソフィア様、ありがとうございます!」
 お互い寮で暮らしており、一緒に過ごす時間はたくさんあった。
 二人は気が合い、あっという間に色々な話もする間柄になり、学園でもよく一緒に過ごすようになった。

 そんなある日、ソフィアとエミリアは街に出てお茶と買い物を楽しんでいた。
 ソフィアの護衛が馬車を回すよう御者に知らせに行き、侍女が会計にと、ほんのわずかな時間ソフィアの周りから人が離れた瞬間に男がソフィアに向かってきた。
 偶然それに早く気が付いたエミリアは考える間もなく勝手に体が動き、フィアの腕を引っ張ると、自分の後ろに隠した。
「つっ!!」
 刃物でエミリアの腕が傷つけられる。
「きゃあ!!」
 まわりの悲鳴で護衛が戻り、その男が取り押さえられる。

 犯人はソフィアを追いかけてきたレイノー国の貴族だった。
 一度はソフィアの婚約者候補に挙がったことがある男だったが、身辺調査の結果、侯爵令嬢を妻に迎えるにはふさわしくない所業がばれすぐに外れた。その身辺調査のせいで、様々な悪行が親に知られ、弟に後継を奪われたことを恨みに思っていたようだ。
 青ざめた顔のソフィアがすぐに医師の手配をするように侍女に指示する。そいてエミリアの両親にも連絡をするというのを必死で止める。
「お願い、両親に知られると家に連れ戻されてしまうわ。傷ものだからって無理やり今の婚約を押し通されてしまう。お願い、言わないで!」
 傷はズキズキと痛むが、たいしたことはなさそうだ。
「でも・・・」
「お願いします!全然大したことがないので。それに大ごとになったら外交問題になるかもしれない。とりあえず、手当てが終わったら寮に戻りたいの。」
「・・・わかったわ。」
 ソフィアは、護衛たちにも口止めをすると治療を終えたエミリアと寮に戻った。

「エミリア様、本当になんといってお詫びをすればいいのかわからないわ。」
「大丈夫ですから。」
「体に傷をつけてしまうなんて・・・ドレスを着たときに目立ってしまうわ。婚約者の方にも・・・」
「いえ、先ほどももうしましたが婚約解消を狙っておりますし、傷など・・ソフィア様が無事でよかったです。」
「新しい婚約者を探すのならなおさらですわ!」
 ソフィアは涙を落として、エミリアの腕を見る。
「新しい婚約者を探すつもりもありません。身軽になってレイノー国に行きたいと思っております。ですから気にしないで下さい。」
「エミリア様!」
 ソフィアはエミリアの手を握りしめると、レイノー国に行くときには必ず力になってくれると約束してくれた。 
 貴族子女がお供も護衛も連れずに一人で外国に暮らすとなると危険だということだ。後ろ盾や紹介を経ながら、新しい地に根付くまでは用心を重ねたほうがいい。それまで屋敷に住んで欲しいという。
 初めは全力で辞退したが、ソフィアも命の恩人だからと譲らず、申し出を受けることにした。
 エミリアは図らずも、新たな生活の基盤と安全が保障されたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。 私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。 彼の姉でなく、私の姉なのにだ。 両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。 そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。 寄り添うデイリ様とお姉様。 幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。 その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。 そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。 ※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。 ※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。 ※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

【完結】他人に優しい婚約者ですが、私だけ例外のようです

白草まる
恋愛
婚約者を放置してでも他人に優しく振る舞うダニーロ。 それを不満に思いつつも簡単には婚約関係を解消できず諦めかけていたマルレーネ。 二人が参加したパーティーで見知らぬ令嬢がマルレーネへと声をかけてきた。 「単刀直入に言います。ダニーロ様と別れてください」

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹葵葉
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

処理中です...