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アギヨン国の終焉
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アリエルがセドリックと二人の話し合いの時間を持っていた頃、シャルルはドラゴナ神国の王族として他国を訪問していた。
その仕事を終え、屋敷に戻って来たシャルルをアリエルは出迎えた。
「お爺様、お疲れさまでした。でもドラゴナ神国の王族は公に外交されないのでは?」
「今回は重要な案件があったんじゃ。誰にも任せられん大事な大事な仕事がな。」
シャルルは不敵に笑った。
アギヨン国。コベール国にサンドラを送り込んだ元凶。
サンドラを排除したところで、工作員はまだ他にいる可能性の方が高い。穏やかな国の簒奪が失敗したとなると、力づくで奪い取りに来るかもしれない。その芽を完全に摘むためにシャルルは穏便に話し合いをするためにアギヨン国に向かったのだった。
「陛下、サンドラからの連絡が途絶えております。」
「そうか、失敗か。構わぬ、あれは自分で責任をとるだろう。他にも工作員はいる。これから少しづつコベール国の力をそいでくれるだろう。」
様々なところにアギヨン国の手の者が潜り込んでいた。
同時に複数の国と戦を構えるとなると兵力、資金の面で難しい。そのため、これから数年かけて信頼を得て、国の機密情報を流させ、国の中枢機関に関与していくつもりだが、もう一方の戦が終われば、一気に攻め込むのもいい。
アギヨン国王は他国と戦争しながら、コベール国にも手を伸ばし、さらに他の国にもすでに手の者を送り込んでいる。そうして次々と領土を拡大していくつもりだった。
好戦的で野心的な国王の最終目的はドラゴナ神国。豊富な資源と人知を超えた知識、技術をこの手に欲しい。
今では誰もが恐れ、手を出そうと考えもしない国。
だからこそ勝機があると睨む。
何が神の力だ、そんなものはありはしない。
おそらく未知の兵器を開発する知識、技能を持ち、優秀な司令官、兵士など軍事力が高いのだろう。だからまず戦力が高い国を内から弱らせ、手中にする。
そして大挙してドラゴナ神国に挑む。
国土でいえば海に浮かぶ小さい島だ。どれだけの兵士がいるかわからないが、大量の兵士の侵攻には手も足も出ないはずだ。
「陛下!ドラゴナ神国の王族が謁見を求めてこられています!」
「なんだと?!本物か?!」
表に出ないことで有名なドラゴナ神国王族。
他国を訪問するなど聞いたことがない。
「はい、黄金と宝石の紋章をお持ちでした。」
「そうか・・・はは、通せ。」
国王はまだ考えが定まっていなかった。
とりあえずは友好関係を築くか、それともこのまま捕らえて人質にするか、またはこのまま亡き者にしても良いか。
すべては話を聞いてからだ。
アギヨン国王の前に座り、シャルルと名乗ったドラゴナ神国の王族はまだ若く、気品はあるが穏やかな雰囲気で御しやすいと観察していた。
「お会いできて光栄ですな。して本日はどのような?」
「ええ、少しお願いに参りました。」
「願い?」
「私は今、コベール国に遊学をしておりましてね。」
「・・・ほう。」
「そこでこちらからの留学生と少々縁がありまして。」
「そうでしたか。一学生のことまで把握していないが、元気にやっておりますかな。」
「ええ。コベールの者に心を開いたようで、いろいろと素直に話をしているようですよ。」
「・・・して、こちらに来られた本意を伺いましょう。」
国王は密かに指令を出した。
シャルルを人質とすることに決めた、バカなのか従者は一人。
ドアの外に兵を集めさせておく。
「我がドラゴナ神国は不可侵だ。愚かなことを考えない様にお願いに・・・いや、忠告だな。」
先ほどの穏やかな顔とは打って変わり、シャルルが怜悧な表情を浮かべて国王を見据える。
「突然の訪問でとんだ言いがかりだな。お忍びとはいえ、これは外交問題になる。わかっておられるでしょうな。」
「ふふ、もちろんですよ。本来ならこのような無駄な時間を省き、せん滅すればよいのだが、心優しい乙女の顔が曇らぬよう段階を踏んでやったのだ。まあ、建前だがな。」
「衛兵!!入れ!」
刀や槍を構えた兵士たちがなだれ込み、シャルルとその従者を囲む。
「これはそちらの敵意に対する正当な反撃だ。」
アギヨン国王はニヤリと笑い、兵に二人を拘束するように命じた。
兵が、シャルルに手を伸ばそうとしたときたった一人の従者が
「無礼者、尊きお方に触れるな!」
そう、言い捨てるとふわっと飛び上がると周りを囲む兵士の顎を蹴り上げて砕いた。
「哀れだな。国王が無能なら部下も無能。」
「ソーイ、言ってやるな。無能だと自分で気づけないのだからな。」
「貴様!」
国王自ら剣を抜く。
殺さない程度に傷めつけてやろうと剣を振りかぶった瞬間、あたりが暗闇に包まれた。
「なんだ?」
応接室にいたはずが真っ暗で何も見えなくなってしまった。
あれだけいた兵士もシャルルの姿も見えない。
「おい!誰か?!」
物音ひとつしない、不気味な空間だった。
歩き出そうとしたとき、足が一歩も動かないのに気が付いた。
下を見ると自分の足が溶けて床と一体化するのが見えた。
「なんだこれは?!」
真っ黒な床から足を抜こうとしても抜けず、睨みつけていると床からいくつも何かが盛り上がってきた。
「き、貴様らは・・・」
アギヨン国王がこの手で殺めた臣下や商人、他国の者たちだった。
あるものは首から血を流し、ある者は胸に剣が刺さったまま・・・生きているとは思えぬ姿の人間が大勢国王に迫ってくる。
「寄るな!来るな!おい、誰か!誰かいないのか?!」
物を言わぬ者達は、鈍い動きで国王に近づくと、一人一人自分がされたことを国王に返したのだった。
「ぎゃあああっ!!」
大声で叫びながらアギヨン国王は我に返った。
冷や汗をかき、息も荒くはあはあしながら周りを見渡すとそこは応接室だった。
顎を砕かれた兵たちが苦しそうに呻き、その他の兵士たちは真っ青な顔で立ち尽くしている。
国王は自分の身体を確かめた。
先ほど刺された胸、腹、足、そして首・・・どこにも怪我はない。あれほどの痛みと出血、死を覚悟した絶望は夢だったというのか。
「ふん、生きのびたか。さすが極悪非道な精神を持つだけの事はあるな。」
「な・・なにが・・・」
「耐えられずに命を落とす者も多いのだが。それで再度、忠告だが自国の施政に力を入れることをお勧めする。」
「・・・。」
「そうか。では、あとは彼に託そう。」
シャルルが冷ややかに笑うと壁際を見た。
釣られてそちらを見たアギヨン国王は絶句した。
自分が切り捨て殺めた兄がその時の姿のままで立っていた。
自分の肺から、はっはっと短く息が出るだけで、空気が入ってこない。声も出ない。
兄がすらっと剣を抜き近づいてくる。
しかし誰もが動かなかった。
王を守るべき騎士達には何も見えず、また見えたとしても見えない鎖に全身を拘束され身動き一つ出来なかった。
「・・・あ、兄上・・・兄上が悪いんだ!お前が王位を辞退しないから!お前のような平和を望む情けない人間が王などむかん!だから俺が王になってやった!見ろ!この国土を!戦力を!俺が国を繁栄させた、お前には出来なかったことだ!」
それを聞いた兵士たちは顔色を変える。
現国王の兄は、民の幸福を願う優しい王子だった。
王太子に選ばれ国民皆の期待を背負っていた王子は、他国からの刺客に倒れ、第二王子だった現国王がその報復にその国を攻め滅ぼし仇をとった。
そう言われていた。それを信じ、平和路線では国も民も守れないと好戦的な現国王を支持してきたものが多かった。
それなのに・・・国王が王太子を殺害していた。
平和な国を夢見ていた国民は、その元凶の国王に騙され、戦争こそが最大の防御と間違った方向に進んでいたのだ。
味方であるはずの兵や騎士から怒りの視線を注がれる。
国王だけに見える元王太子はアギヨン国王の首に剣を突きつけた。
「彼は好戦的なお前の事が心配で仕方がないそうだ。お前が死ぬまでこうして側で見守ってくれるだろう。」
これがドラゴナ神国の力か・・・敵うはずもなかった。
「・・ゆ・・許してくれ!わかった、もう他国を奪うなど考えない!頼む!」
「話し合いで穏便に解決できてよかった。剣を向けたことは水に流してやろう。これからのアギヨン国に期待してる。」
薄笑いを浮かべてシャルルはアギヨン国を後にした。
真実を知った貴族たちの手で、アギヨン国王は拘束された。
幽閉された国王の側から元王太子の姿は消えることがなく、アギヨン国王は次第に正気を無くしていく。
そして彼の息子が幼くしてただの傀儡として王位につき、元王太子を支えていた側近たちが中枢に返り咲きこれからのアギヨン国を率いていくことになった。
その仕事を終え、屋敷に戻って来たシャルルをアリエルは出迎えた。
「お爺様、お疲れさまでした。でもドラゴナ神国の王族は公に外交されないのでは?」
「今回は重要な案件があったんじゃ。誰にも任せられん大事な大事な仕事がな。」
シャルルは不敵に笑った。
アギヨン国。コベール国にサンドラを送り込んだ元凶。
サンドラを排除したところで、工作員はまだ他にいる可能性の方が高い。穏やかな国の簒奪が失敗したとなると、力づくで奪い取りに来るかもしれない。その芽を完全に摘むためにシャルルは穏便に話し合いをするためにアギヨン国に向かったのだった。
「陛下、サンドラからの連絡が途絶えております。」
「そうか、失敗か。構わぬ、あれは自分で責任をとるだろう。他にも工作員はいる。これから少しづつコベール国の力をそいでくれるだろう。」
様々なところにアギヨン国の手の者が潜り込んでいた。
同時に複数の国と戦を構えるとなると兵力、資金の面で難しい。そのため、これから数年かけて信頼を得て、国の機密情報を流させ、国の中枢機関に関与していくつもりだが、もう一方の戦が終われば、一気に攻め込むのもいい。
アギヨン国王は他国と戦争しながら、コベール国にも手を伸ばし、さらに他の国にもすでに手の者を送り込んでいる。そうして次々と領土を拡大していくつもりだった。
好戦的で野心的な国王の最終目的はドラゴナ神国。豊富な資源と人知を超えた知識、技術をこの手に欲しい。
今では誰もが恐れ、手を出そうと考えもしない国。
だからこそ勝機があると睨む。
何が神の力だ、そんなものはありはしない。
おそらく未知の兵器を開発する知識、技能を持ち、優秀な司令官、兵士など軍事力が高いのだろう。だからまず戦力が高い国を内から弱らせ、手中にする。
そして大挙してドラゴナ神国に挑む。
国土でいえば海に浮かぶ小さい島だ。どれだけの兵士がいるかわからないが、大量の兵士の侵攻には手も足も出ないはずだ。
「陛下!ドラゴナ神国の王族が謁見を求めてこられています!」
「なんだと?!本物か?!」
表に出ないことで有名なドラゴナ神国王族。
他国を訪問するなど聞いたことがない。
「はい、黄金と宝石の紋章をお持ちでした。」
「そうか・・・はは、通せ。」
国王はまだ考えが定まっていなかった。
とりあえずは友好関係を築くか、それともこのまま捕らえて人質にするか、またはこのまま亡き者にしても良いか。
すべては話を聞いてからだ。
アギヨン国王の前に座り、シャルルと名乗ったドラゴナ神国の王族はまだ若く、気品はあるが穏やかな雰囲気で御しやすいと観察していた。
「お会いできて光栄ですな。して本日はどのような?」
「ええ、少しお願いに参りました。」
「願い?」
「私は今、コベール国に遊学をしておりましてね。」
「・・・ほう。」
「そこでこちらからの留学生と少々縁がありまして。」
「そうでしたか。一学生のことまで把握していないが、元気にやっておりますかな。」
「ええ。コベールの者に心を開いたようで、いろいろと素直に話をしているようですよ。」
「・・・して、こちらに来られた本意を伺いましょう。」
国王は密かに指令を出した。
シャルルを人質とすることに決めた、バカなのか従者は一人。
ドアの外に兵を集めさせておく。
「我がドラゴナ神国は不可侵だ。愚かなことを考えない様にお願いに・・・いや、忠告だな。」
先ほどの穏やかな顔とは打って変わり、シャルルが怜悧な表情を浮かべて国王を見据える。
「突然の訪問でとんだ言いがかりだな。お忍びとはいえ、これは外交問題になる。わかっておられるでしょうな。」
「ふふ、もちろんですよ。本来ならこのような無駄な時間を省き、せん滅すればよいのだが、心優しい乙女の顔が曇らぬよう段階を踏んでやったのだ。まあ、建前だがな。」
「衛兵!!入れ!」
刀や槍を構えた兵士たちがなだれ込み、シャルルとその従者を囲む。
「これはそちらの敵意に対する正当な反撃だ。」
アギヨン国王はニヤリと笑い、兵に二人を拘束するように命じた。
兵が、シャルルに手を伸ばそうとしたときたった一人の従者が
「無礼者、尊きお方に触れるな!」
そう、言い捨てるとふわっと飛び上がると周りを囲む兵士の顎を蹴り上げて砕いた。
「哀れだな。国王が無能なら部下も無能。」
「ソーイ、言ってやるな。無能だと自分で気づけないのだからな。」
「貴様!」
国王自ら剣を抜く。
殺さない程度に傷めつけてやろうと剣を振りかぶった瞬間、あたりが暗闇に包まれた。
「なんだ?」
応接室にいたはずが真っ暗で何も見えなくなってしまった。
あれだけいた兵士もシャルルの姿も見えない。
「おい!誰か?!」
物音ひとつしない、不気味な空間だった。
歩き出そうとしたとき、足が一歩も動かないのに気が付いた。
下を見ると自分の足が溶けて床と一体化するのが見えた。
「なんだこれは?!」
真っ黒な床から足を抜こうとしても抜けず、睨みつけていると床からいくつも何かが盛り上がってきた。
「き、貴様らは・・・」
アギヨン国王がこの手で殺めた臣下や商人、他国の者たちだった。
あるものは首から血を流し、ある者は胸に剣が刺さったまま・・・生きているとは思えぬ姿の人間が大勢国王に迫ってくる。
「寄るな!来るな!おい、誰か!誰かいないのか?!」
物を言わぬ者達は、鈍い動きで国王に近づくと、一人一人自分がされたことを国王に返したのだった。
「ぎゃあああっ!!」
大声で叫びながらアギヨン国王は我に返った。
冷や汗をかき、息も荒くはあはあしながら周りを見渡すとそこは応接室だった。
顎を砕かれた兵たちが苦しそうに呻き、その他の兵士たちは真っ青な顔で立ち尽くしている。
国王は自分の身体を確かめた。
先ほど刺された胸、腹、足、そして首・・・どこにも怪我はない。あれほどの痛みと出血、死を覚悟した絶望は夢だったというのか。
「ふん、生きのびたか。さすが極悪非道な精神を持つだけの事はあるな。」
「な・・なにが・・・」
「耐えられずに命を落とす者も多いのだが。それで再度、忠告だが自国の施政に力を入れることをお勧めする。」
「・・・。」
「そうか。では、あとは彼に託そう。」
シャルルが冷ややかに笑うと壁際を見た。
釣られてそちらを見たアギヨン国王は絶句した。
自分が切り捨て殺めた兄がその時の姿のままで立っていた。
自分の肺から、はっはっと短く息が出るだけで、空気が入ってこない。声も出ない。
兄がすらっと剣を抜き近づいてくる。
しかし誰もが動かなかった。
王を守るべき騎士達には何も見えず、また見えたとしても見えない鎖に全身を拘束され身動き一つ出来なかった。
「・・・あ、兄上・・・兄上が悪いんだ!お前が王位を辞退しないから!お前のような平和を望む情けない人間が王などむかん!だから俺が王になってやった!見ろ!この国土を!戦力を!俺が国を繁栄させた、お前には出来なかったことだ!」
それを聞いた兵士たちは顔色を変える。
現国王の兄は、民の幸福を願う優しい王子だった。
王太子に選ばれ国民皆の期待を背負っていた王子は、他国からの刺客に倒れ、第二王子だった現国王がその報復にその国を攻め滅ぼし仇をとった。
そう言われていた。それを信じ、平和路線では国も民も守れないと好戦的な現国王を支持してきたものが多かった。
それなのに・・・国王が王太子を殺害していた。
平和な国を夢見ていた国民は、その元凶の国王に騙され、戦争こそが最大の防御と間違った方向に進んでいたのだ。
味方であるはずの兵や騎士から怒りの視線を注がれる。
国王だけに見える元王太子はアギヨン国王の首に剣を突きつけた。
「彼は好戦的なお前の事が心配で仕方がないそうだ。お前が死ぬまでこうして側で見守ってくれるだろう。」
これがドラゴナ神国の力か・・・敵うはずもなかった。
「・・ゆ・・許してくれ!わかった、もう他国を奪うなど考えない!頼む!」
「話し合いで穏便に解決できてよかった。剣を向けたことは水に流してやろう。これからのアギヨン国に期待してる。」
薄笑いを浮かべてシャルルはアギヨン国を後にした。
真実を知った貴族たちの手で、アギヨン国王は拘束された。
幽閉された国王の側から元王太子の姿は消えることがなく、アギヨン国王は次第に正気を無くしていく。
そして彼の息子が幼くしてただの傀儡として王位につき、元王太子を支えていた側近たちが中枢に返り咲きこれからのアギヨン国を率いていくことになった。
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