13 / 32
アリエル生還 2
しおりを挟む
アリエルの帰還は突然だった。
ある日突然、前触れもなく王宮に豪奢な馬車が到着し、現れた異国の貴族は国王に謁見を求めた。
本来なら門前払いをするところだが、あまりにも高貴な装飾の馬車とその貴族の高貴な身分を示す衣装や振る舞いから門番は上に報告し、宰相がまず面会して国王に報告し、直ちに謁見が認められたのだった。
コベール国王に謁見を申し込んだ男は、黄金の竜の紋章を提示し、シャルル・ドラゴナと名乗った。
そして、コベール国の令嬢を救助し、これまで保護していたと告げた。
国王は、自国の貴族令嬢がドラゴナ神国で救助された縁がもとで懇意にしていると聞き、なんて幸運に見舞われたのだと喜んだ。
ドラゴナ神国。
海の上に佇む要塞国家で神話の国。
ドラゴナ神国は、その昔、神である竜神と人が結ばれ、その子孫が治めている国と言われている。
不思議な力を持つとか神竜が住むなど色んな噂、伝承は伝わるが実態はあまり知られておらず、各国と直接交流することがほとんどない。
幾つかの国の、領主と個人的に関係を結びそこを外交窓口として交易を行っている。またそんな数少ない外交においても表に出てくるのは大臣や文官であり、王族が他国の前に姿を現すこともあまりない。
人知を超えるような知識や技術と豊富な資源を持つとも言われており、世界でここでしか取れない奇跡の石と呼ばれている貴重な宝石を産出している。
その石は「竜の涙」といわれ、涙型で七色に輝き、身につけたものの願いを叶えると言われており、実際、どこかの国の王子の命が救われたとか、疫病がおさまったなど奇跡が起こったという話に事欠かない。しかしその稀少な石を手にする者も選ばれたものしか手にできないという。
何とかして強引にでも縁を持とうと船で近づこうとしても海流に阻まれる、無理に近づこうとしても海流の流れが変わり押し流されてしまうのだ。
大昔に一度、侵攻を企てた国があったが、武装した船団は壊滅し、それどころか船団を派遣した国が一夜にして滅んだという。
そのためドラゴナ神国は世界から恐れられ、不可侵で孤高の国とも言われている。
ともかく、世界がいろんな思惑から国交を結ぼうとしても結べない国、そんな国の王族自らがコベール国に足を運んでくれた。
国王は熱烈にシャルルを歓迎した。
そして当面、こちらの国に滞在して知見を得たいと言う申し出を、国王は喜んで承知した。
おまけに、お近づきのしるしにと、シャルルが秘宝の竜の涙を国王に献上すると、涙を流さんばかりに喜んだ国王は、アリエルと暮らすことも、屋敷を構えることも許可し、どのような支援でもすると約束したのだった。
シャルルがドラゴナ神国の王族だと知っているのは王家とその側近や近しい者のみ。シャルルと懇意にしているアリエルが悪意や野望を持つ者に利用されないためと伏せられていた。
それを知る立場の者は、外交が難しいドラゴナ神国と国交が結べるのではないかと期待に胸を膨らませる。
王族が姿を見せることはなかなかない中、わざわざ身分を明らかにしてアリエルの側に遊学してきたと言明し、一緒に暮らすなどアリエルに並々ならぬ関心があるに違いない。
このチャンスを逃すことは出来ない国王や大臣は神秘の国の王族をそうまでひきつけたアリエルもシャルルと同様に重要人物として目していた。
しかし、それらの事情を知らない者達の中には、奇跡の生還を遂げたアリエルに懐疑の目を向ける者もいた。
がけ下の急流に転落して二ヶ月も行方不明になっていながら無事に戻ってきた奇跡に疑惑の目を向ける。
特に学院内で、盗賊事件自体が自作自演だったのではないか、と言う噂が出始めた。
学院内で立場をなくしていたアリエルが、同情を買い再び社交界の花に返り咲こうと企んだのではないか。そして、二ヶ月も姿を隠している間に知り合った貴族とふしだらな関係になり、命の恩人ということにして一緒に戻ってきたのではないかと。
自宅に戻らず、一緒に暮らしていることがその証拠だと不名誉な噂がまことしやかに囁かれたのだった。
アリエルの事になると強い悪意が感じられる噂が流れだす。誰かが故意にそう仕向けているとしか思えなかった。
ある日突然、前触れもなく王宮に豪奢な馬車が到着し、現れた異国の貴族は国王に謁見を求めた。
本来なら門前払いをするところだが、あまりにも高貴な装飾の馬車とその貴族の高貴な身分を示す衣装や振る舞いから門番は上に報告し、宰相がまず面会して国王に報告し、直ちに謁見が認められたのだった。
コベール国王に謁見を申し込んだ男は、黄金の竜の紋章を提示し、シャルル・ドラゴナと名乗った。
そして、コベール国の令嬢を救助し、これまで保護していたと告げた。
国王は、自国の貴族令嬢がドラゴナ神国で救助された縁がもとで懇意にしていると聞き、なんて幸運に見舞われたのだと喜んだ。
ドラゴナ神国。
海の上に佇む要塞国家で神話の国。
ドラゴナ神国は、その昔、神である竜神と人が結ばれ、その子孫が治めている国と言われている。
不思議な力を持つとか神竜が住むなど色んな噂、伝承は伝わるが実態はあまり知られておらず、各国と直接交流することがほとんどない。
幾つかの国の、領主と個人的に関係を結びそこを外交窓口として交易を行っている。またそんな数少ない外交においても表に出てくるのは大臣や文官であり、王族が他国の前に姿を現すこともあまりない。
人知を超えるような知識や技術と豊富な資源を持つとも言われており、世界でここでしか取れない奇跡の石と呼ばれている貴重な宝石を産出している。
その石は「竜の涙」といわれ、涙型で七色に輝き、身につけたものの願いを叶えると言われており、実際、どこかの国の王子の命が救われたとか、疫病がおさまったなど奇跡が起こったという話に事欠かない。しかしその稀少な石を手にする者も選ばれたものしか手にできないという。
何とかして強引にでも縁を持とうと船で近づこうとしても海流に阻まれる、無理に近づこうとしても海流の流れが変わり押し流されてしまうのだ。
大昔に一度、侵攻を企てた国があったが、武装した船団は壊滅し、それどころか船団を派遣した国が一夜にして滅んだという。
そのためドラゴナ神国は世界から恐れられ、不可侵で孤高の国とも言われている。
ともかく、世界がいろんな思惑から国交を結ぼうとしても結べない国、そんな国の王族自らがコベール国に足を運んでくれた。
国王は熱烈にシャルルを歓迎した。
そして当面、こちらの国に滞在して知見を得たいと言う申し出を、国王は喜んで承知した。
おまけに、お近づきのしるしにと、シャルルが秘宝の竜の涙を国王に献上すると、涙を流さんばかりに喜んだ国王は、アリエルと暮らすことも、屋敷を構えることも許可し、どのような支援でもすると約束したのだった。
シャルルがドラゴナ神国の王族だと知っているのは王家とその側近や近しい者のみ。シャルルと懇意にしているアリエルが悪意や野望を持つ者に利用されないためと伏せられていた。
それを知る立場の者は、外交が難しいドラゴナ神国と国交が結べるのではないかと期待に胸を膨らませる。
王族が姿を見せることはなかなかない中、わざわざ身分を明らかにしてアリエルの側に遊学してきたと言明し、一緒に暮らすなどアリエルに並々ならぬ関心があるに違いない。
このチャンスを逃すことは出来ない国王や大臣は神秘の国の王族をそうまでひきつけたアリエルもシャルルと同様に重要人物として目していた。
しかし、それらの事情を知らない者達の中には、奇跡の生還を遂げたアリエルに懐疑の目を向ける者もいた。
がけ下の急流に転落して二ヶ月も行方不明になっていながら無事に戻ってきた奇跡に疑惑の目を向ける。
特に学院内で、盗賊事件自体が自作自演だったのではないか、と言う噂が出始めた。
学院内で立場をなくしていたアリエルが、同情を買い再び社交界の花に返り咲こうと企んだのではないか。そして、二ヶ月も姿を隠している間に知り合った貴族とふしだらな関係になり、命の恩人ということにして一緒に戻ってきたのではないかと。
自宅に戻らず、一緒に暮らしていることがその証拠だと不名誉な噂がまことしやかに囁かれたのだった。
アリエルの事になると強い悪意が感じられる噂が流れだす。誰かが故意にそう仕向けているとしか思えなかった。
110
お気に入りに追加
1,951
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
[完結]想ってもいいでしょうか?
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
貴方に逢いたくて逢いたくて逢いたくて胸が張り裂けそう。
失ってしまった貴方は、どこへ行ってしまったのだろう。
暗闇の中、涙を流して、ただただ貴方の事を考え続ける。
後悔しているの。
何度も考えるの。
でもどうすればよかったのか、どうしても分からない。
桜が舞い散り、灼熱の太陽に耐え、紅葉が終わっても貴方は帰ってこない。
本当は分かっている。
もう二度と私の元へ貴方は帰ってこない事を。
雪の結晶がキラキラ輝きながら落ちてくる。
頬についた結晶はすぐに溶けて流れ落ちる。
私の涙と一緒に。
まだ、あと少し。
ううん、一生でも、私が朽ち果てるまで。
貴方の事を想ってもいいでしょうか?
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

あなたが幸せになるために
月山 歩
恋愛
幼馴染の二人は、お互いに好きだが、王子と平民のため身分差により結婚できない。王子の結婚が迫ると、オーレリアは大好きな王子が、自分のために不貞を働く姿も見たくないから、最後に二人で食事を共にすると姿を消した。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる