あなたを愛する心は珠の中

れもんぴーる

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セドリックの後悔

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 始業の朝、セドリックはアリエルが来るのを待ち構えていた。
 昨日はあれからワトー家へ行ったが、門番がとりついでくれることはなく、文字通りの門前払いをくらってしまった。
 だから、朝一番に謝罪をしようと待っていたのに、サンドラから話があると廊下に呼び出された。
 どうしてもすぐに話を聞いて欲しいと悲し気に縋ってくる。
 これがサンドラの手管なのだと思い知っていたセドリックは断ったが、
「アリエル様の事でお話があるのです。」
「アリエルの?」
 それでセドリックは足を止めた。
「はい、昨日あれからアリエル様の所にお詫びに出かけたのです。」
「ええ?!」
 サンドラは廊下で話は出来ないと庭に移動した。

「昨日は本当に申し訳ありませんでした。」
 サンドラが改めてセドリックに謝罪する。
「・・・それで昨日アリエルは何か言ってましたか?僕には会ってくれなかったんです。」
「それが・・・私も会えなかったのです。娼婦のような者とは話す気にもならない。と会っては頂けませんでした。」
「まさか!アリエルがそんなことを言うはずが!」
「・・・ですが・・・本当なのです。留学とは名ばかりでやっていることは娼婦と変わらないと。虫唾が走ると・・・執事の方から伝言をいただきました。」
 サンドラはハンカチで目をおさえる。

「セドリック様だけではなくいろんな方に助けていただいているのは事実です。そう言われても仕方がないことをしているのは私なので仕方がありません。でも・・・でも・・娼婦などと言われてはやはり悲しくて。このことを他の方に話すとまたアリエル様のお立場が悪くなると思うと・・・セドリック様にしかこの悲しみを打ち明けられなくて・・・ごめんなさい・・・」
 ぽろぽろ泣き出したサンドラは次第に呼吸を乱し、呼吸困難を起こし苦しみだした。
 苦しんでいるサンドラはセドリックに縋るように倒れ込んできたが、流石に突き飛ばすこともできずセドリックは背中をさすってやった。
 しばらくそうしていると、次第に呼吸が調っていき、サンドラは落ち着きを取り戻した。

「・・・アリエルはサンドラ様の事情を知らないので責めないでやってください。」
「もちろんですわ。」
「サンドラ様を傷つけたことはお詫びします・・・けどアリエルを傷つけてそんなひどいこと言わせてしまったのは僕のせいです。」
「アリエル様はセドリック様の事も・・・汚らわしいと。私たち二人を視界に入れたくないほど嫌悪していると・・・言われました。」
「アリエルが・・・僕を汚らわしいと・・・」
「はい・・・私のせいで本当にご迷惑を・・・必ず私、アリエル様にわかっていただきますわ。」
「・・・いえ、それは。僕が対応すべきことですのでサンドラ様は気にされませんように。」
「でも・・・」
「本当に申し訳ないと思って下さるなら今後僕とは距離を置いていただきたいのです、お願いします。」
 これ以上サンドラといることは身の破滅だとセドリックは感じていた。
「わかりました。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
 そしてようやくサンドラが離れてくれ、移動しようと体の向きを変えた時、アリエルの後ろ姿が見えた気がして全身の血の気が引いた。

 セドリックはアリエルを追いかけて走り出した。
 すると前方、門の外の馬車前でクロウに抱き込まれるアリエルが見えた。それを目にした途端、ズキンと胸が痛んだ。
 わずかにクロウが視線をこちらに向け、眼があったような気がした。
 その瞬間、また体がこわばったように足が進まなくなってしまった。
 それ以上近づくことが出来ず、遠ざかっていく馬車を絶望感一杯で見送った。
 昨日に続き大失態を重ねてしまった、アリエルはおそらく誤解し、傷ついただろう。
 アリエルがあの護衛に慰められている姿を見ただけでこんなに苦しいのに、アリエルはどれほど傷ついたのだろう。
 そう悔やんでいると晴天に一回大きな雷の音が鳴り響いた。
 衝撃でよろめきそうになるほど大きな雷は雨雲を呼び、みるみる間に大雨が降りだしセドリックは後ろ髪を引かれるように門の方を振り返りながら校舎へと走った。

 その日、学院を終えてアリエルの家に向かった僕は、アリエルが領地に行ったことを知った。
 アリエルは愚かな僕に、謝罪の機会さえ与えてくれなかった。
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