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生還
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シャルロットは真っ暗な場所にいた。上も下も分からない真っ暗な空間。
そこにこれまで見てきた「死」が次々と目の前に現れる。
血だらけの男性が、血の気のない顔の女の子が・・・現れては消え、消えては現れていく。
恐怖と絶望で目を閉じ耳をふさぎうずくまった。
そうすると静寂と安寧が訪れた。
もう顔を上げることは出来なかった。
「父上!シャルロットが・・・」
シャルロットの呼吸がぐっと浅く、脈拍もどんどん弱弱しくなっていく。
「がんばれ!逝くな!シャルロット!」
悲痛な叫び声をあげ、手を握りしめる。
ジェラルドもその目に涙を湛えている。
「どうして!他人ばかり助けて自分の事はわからないんだ!私は神を恨む!」
シリルは嘆いた。
「・・・シリル、シャルロットは自分の死を予見しなかったのだ。だから助かる。信じよう。」
「・・・シャルロット、目を覚ましたら忙しいよ?エリック殿下がまたお茶会に誘ってくださってる。ニコラ様からも領地にお招きいただいてるし、新しいカフェにも・・・・」
言いながら嗚咽してしまう。冷たくなった手を一生懸命さすり、その指先に口づける。
音も映像も遮断された真っ暗な静寂の中に、シャルロットの意識は漂っていた。
このままこの暗闇に身を任せていればもう人の死を見て苦しむことはない、人に嘲笑されることも、家族に迷惑をかけることもない、とぼんやりと思い、その思いさえ霧散していきそうなほどシャルロットの自我は儚くなってきていた。
もう消えてしまいそうになるその時、シャルロットは我に返った。急に指先が熱くなり、その刺激で霧散しかけていた意識がまたはっきりとした形をとった。
「指が・・・温かい。」
冷たい空間の中で冷え切った指先が温かく感じる。誰かが握って温めてくれているかのように。
そして耳をふさいでいても聞こえてくる声。泣きそうな声で必死に自分の名前を呼んでいる。
「シリル?」
そうつぶやいた瞬間、暗闇も過去の死の映像も消え去ったかと思うと急激に意識が浮上した。
シャルロットの手を離さず、その指に口づけをしていたシリルの唇が異変に気付いた。先ほどより温かい!
「シャルロット!!」
脈も呼吸も先ほどよりしっかりしてきている。
そうして、シャルロットは4日ぶりに目を覚ました。
意識が戻ったものの、肩と頭の怪我のせいで思うように動けなかった。
ジェラルドや使用人ももちろん、シリルの過保護ぶりが加速した。
「あの、学院は?」
「休んだ。単位は取ってあるから大丈夫。社交や情報収集のために行ってただけだからね。しばらく休むよ。殿下にもニコラ様にも報告してあるからしばらく出仕も休み。」
久しぶりにベッドから出てソファーに座ろうとしたとき、甲斐甲斐しく支えて、座ってからでもピタッと身を寄せてくる。倒れないように支えているつもりらしい。
「もう大丈夫よ。」
「そんなわけない。あんな・・・もう会えないかと思った。」
シリルは肩の傷に気を付けながらシャルロットを抱き寄せた。あの時このぬくもりを永遠に失ってしまうかと思った。
思い出すだけで体が震えそうになる。たった2週間目を離しただけで、しかも自宅の庭で命が奪われそうになるなんて、もう怖くて側を離れることが出来ない。
「心配かけてごめんね。」
「・・・。」
おそらく泣いた顔を見られないようにしているのだろう、シリルは抱きしめたまま何も言わなかった。
「夢を見たの。真っ暗で・・・いろんな人が出てきて。今まで出会った人たちの死ぬ場面が永遠に繰り返されるの。怖くて苦しくて・・・目と耳をふさいだの。暗い静かな暗闇に溶け込んだら楽になって・・・このままここにいたら誰にも迷惑をかけなくていいし、苦しまなくていいと思ってるうちにだんだんぼんやりしていったと思う。」
シャルロットの呼吸が弱まった時の事ではないのかとシリルはぞっとした。
「その時、指先が温かくなってあなたの声が聞こえて我に返ったの。シリルに会いたいと思ったら・・・目が覚めてあなたの顔が目に前にあったのよ。シリルのおかげで目が覚めたと思う。ありがとう。」
堪えきれずに涙を落したシリルはシャルロットの唇に自分のを重ねた。
「これからも守り続けるから安心して。」
そういってもう一度口づけし、シャルロットもそれに応えた。
シャルロットの側を離れようとしないシリルだったが、三日も過ぎるとシャルロットに叱られて学院と王宮通いを再開した。
そこにこれまで見てきた「死」が次々と目の前に現れる。
血だらけの男性が、血の気のない顔の女の子が・・・現れては消え、消えては現れていく。
恐怖と絶望で目を閉じ耳をふさぎうずくまった。
そうすると静寂と安寧が訪れた。
もう顔を上げることは出来なかった。
「父上!シャルロットが・・・」
シャルロットの呼吸がぐっと浅く、脈拍もどんどん弱弱しくなっていく。
「がんばれ!逝くな!シャルロット!」
悲痛な叫び声をあげ、手を握りしめる。
ジェラルドもその目に涙を湛えている。
「どうして!他人ばかり助けて自分の事はわからないんだ!私は神を恨む!」
シリルは嘆いた。
「・・・シリル、シャルロットは自分の死を予見しなかったのだ。だから助かる。信じよう。」
「・・・シャルロット、目を覚ましたら忙しいよ?エリック殿下がまたお茶会に誘ってくださってる。ニコラ様からも領地にお招きいただいてるし、新しいカフェにも・・・・」
言いながら嗚咽してしまう。冷たくなった手を一生懸命さすり、その指先に口づける。
音も映像も遮断された真っ暗な静寂の中に、シャルロットの意識は漂っていた。
このままこの暗闇に身を任せていればもう人の死を見て苦しむことはない、人に嘲笑されることも、家族に迷惑をかけることもない、とぼんやりと思い、その思いさえ霧散していきそうなほどシャルロットの自我は儚くなってきていた。
もう消えてしまいそうになるその時、シャルロットは我に返った。急に指先が熱くなり、その刺激で霧散しかけていた意識がまたはっきりとした形をとった。
「指が・・・温かい。」
冷たい空間の中で冷え切った指先が温かく感じる。誰かが握って温めてくれているかのように。
そして耳をふさいでいても聞こえてくる声。泣きそうな声で必死に自分の名前を呼んでいる。
「シリル?」
そうつぶやいた瞬間、暗闇も過去の死の映像も消え去ったかと思うと急激に意識が浮上した。
シャルロットの手を離さず、その指に口づけをしていたシリルの唇が異変に気付いた。先ほどより温かい!
「シャルロット!!」
脈も呼吸も先ほどよりしっかりしてきている。
そうして、シャルロットは4日ぶりに目を覚ました。
意識が戻ったものの、肩と頭の怪我のせいで思うように動けなかった。
ジェラルドや使用人ももちろん、シリルの過保護ぶりが加速した。
「あの、学院は?」
「休んだ。単位は取ってあるから大丈夫。社交や情報収集のために行ってただけだからね。しばらく休むよ。殿下にもニコラ様にも報告してあるからしばらく出仕も休み。」
久しぶりにベッドから出てソファーに座ろうとしたとき、甲斐甲斐しく支えて、座ってからでもピタッと身を寄せてくる。倒れないように支えているつもりらしい。
「もう大丈夫よ。」
「そんなわけない。あんな・・・もう会えないかと思った。」
シリルは肩の傷に気を付けながらシャルロットを抱き寄せた。あの時このぬくもりを永遠に失ってしまうかと思った。
思い出すだけで体が震えそうになる。たった2週間目を離しただけで、しかも自宅の庭で命が奪われそうになるなんて、もう怖くて側を離れることが出来ない。
「心配かけてごめんね。」
「・・・。」
おそらく泣いた顔を見られないようにしているのだろう、シリルは抱きしめたまま何も言わなかった。
「夢を見たの。真っ暗で・・・いろんな人が出てきて。今まで出会った人たちの死ぬ場面が永遠に繰り返されるの。怖くて苦しくて・・・目と耳をふさいだの。暗い静かな暗闇に溶け込んだら楽になって・・・このままここにいたら誰にも迷惑をかけなくていいし、苦しまなくていいと思ってるうちにだんだんぼんやりしていったと思う。」
シャルロットの呼吸が弱まった時の事ではないのかとシリルはぞっとした。
「その時、指先が温かくなってあなたの声が聞こえて我に返ったの。シリルに会いたいと思ったら・・・目が覚めてあなたの顔が目に前にあったのよ。シリルのおかげで目が覚めたと思う。ありがとう。」
堪えきれずに涙を落したシリルはシャルロットの唇に自分のを重ねた。
「これからも守り続けるから安心して。」
そういってもう一度口づけし、シャルロットもそれに応えた。
シャルロットの側を離れようとしないシリルだったが、三日も過ぎるとシャルロットに叱られて学院と王宮通いを再開した。
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