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可愛い家族がやってきた
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シリルはシャルロットを乗馬に誘った。
「ええ?乗馬得意じゃなかったでしょう?」
「練習しました。何かあった時にすぐに対応できるから。」
地震の時、ニコラが馬に乗って王都に助けを呼びに行った姿をみて必要だと思い知ったらしい。
「二人乗りもできるから、僕にもたれていればいいよ。人気(ひとけ)のある場所では少し顔を伏せててもらいたいけど、森の方はあまり人がいないから安心して。」
シャルロットにとって初めての乗馬。
シリルが引き上げてくれ、腕を回して固定してくれる。
「少し怖いわ。」
想像以上の高さに怖さを感じる。
「ゆっくり進むから大丈夫だよ。」
言葉通り、穏やかな馬の気質とシリルの上手な手綱さばきのおかげで危なげなく進んだ。
到着したのは森を少し入ったところにある一軒の家だった。
「ここは?」
「知り合いなんだ、シャルロットに見せたいものがあって。でも顔合わせしなくて大丈夫なように頼んである。」
そう言って、勝手にドアを開けて入ろうとした。
「待って!個人のお家でしょう?ご挨拶しないといけないわ。」
「了解は取ってあるよ。」
「ありがとう。私の為にお願いしてくれたのね。でもシリルが側にいてくれるから大丈夫よ。ご挨拶したいわ。」
シリルは少しうれしそうに笑って、家主を呼んでくると言った。
紹介されたのはシリルより10歳ほど上だろうか?
少しふくよかでカールのかかった茶色い髪の人好きのする笑顔を浮かべた男性だった。シリルはシャルロットの様子をうかがっていたが何も見えないようで安心して紹介をした。
「こちら、ハルメ・エーロ男爵令息で友人です。こちらは婚約者のシャルロット。」
すでにシャルロットはハルメの腕の中に釘付けだ。
「シャルロット様、初めまして。シリルとは王宮の催事で知り合いまして、懇意にしていただいております。お会いできて光栄です。」
「シャルロットと申します。お初に目にかかります。私もシリルのご友人にお会いできてとても嬉しいですわ。今後ともよろしくお願いします。それで・・・あの!その子は?」
堪えきれないようにキラキラ目を輝かした。
ハルメの腕の中には首周りに可愛いリボンを巻いた子犬がいた。
「可愛いでしょう?この子はそろそろ生後3か月になるのです。子犬が産まれた話をするとシリルがぜひシャルロット様に見せたいって。」
「本当になんてかわいらしい!!」
「ハルメはまだ貴族では珍しく、犬を飼ってるんだ。ただ屋敷では家族の理解を得られず、犬たちの為にここで暮らしているんだ。」
「そうなのですか。」
平民の間では犬を飼うものは多いが、貴族で愛玩という目的で動物を飼うのはまだ珍しい。それを広げていきたいとハルメは思っているようだ。
「可愛いだけでなく、頭がいいから見張りもしてくれるし最高の人間のパートナーですよ。」
幸せそうに子犬の頭を指でなでる。
「シャルロット様が怖くなければ、この子の親と他の兄弟にも会ってみませんか?」
「是非、会いたいわ!」
その部屋には親犬が二頭ゆっくりと寝そべり、子犬が四匹コロコロ転がるようにじゃれていた。ハルメは腕に抱いていた一匹を床に降ろすと、その子は兄弟たちの方に走っていた。
シャルロットはあまりにもの可愛さにメロメロになり、ハルメに許可をもらい子犬を抱かせてもらった。
一匹を抱くと、他の子犬もクンクン言いながらシャルロットのもとにやってくる。シャルロットは心行くまでワンコたちと戯れた。
「ごめんなさい、夢中になってしまって。」
恥ずかしそうにシャルロットは頬を染めた。
「楽しんでもらえて嬉しいです。ワンコたちがいる生活っていいと思いませんか?私はこの幸せを皆に知ってもらいたいと思っているのです。そしてワンコたちも幸せにしたい。他の棟にいますが、あと五匹一緒に暮らしているんですよ。」
「人が幸せになるというのはよくわかりますわ。ワンコの幸せというのは?」
「実はこの子たち、野犬だったのです。郊外や山からうっかり街に出てきたワンコは処分対象になることがあるのですよ。私が保護をした時にはこのライラが妊娠していて、この子たちが生まれたのです。」
「そうだったのですか。ハルメ様は本当にこの子たちを大切に思っていらっしゃるのですね。」
「はい。」
「私もこの短い時間でしたけど、この子たちからたくさんの幸せを貰いました。離れるのが名残惜しいですわ。」
シャルロットは寂しそうにワンコを撫でた。
「実はこの子たちの引き取り先を募集中なのです。もしよかったらもらっていただけませんか?」
「ええ!そうなんですか?!」
嬉しさで笑顔がこぼれたがすぐに落ち着きを取り戻すと
「いえ、私の思い付きだけで大切な命を預かることは出来ませんわ。失礼いたしました。」
と残念そうに言った。
「実は僕が飼いたくて、父上から子犬をもらってきてもいいと許可は頂いているんだ。シャルロットも賛成してくれたら飼いたいんだけど、どうかな。」
「そうなの?お父様も・・・。だけど私たちは嬉しいけれど、この子たちは親や兄弟たちから離れて寂しくならないかしら。一人ぼっちにしてしまうわ。」
「心配ありませんよ、野生にいてもいずれはみんなバラバラになりますし、私たちが家族になるのですから。」
「・・・・あの一匹ではなくて二匹一緒でもいいかしら?二匹でもお父様お許しくださるかしら。シリルはどう思う?」
「そこまでは聞いていないけれど、きっと大丈夫だよ。僕も賛成。ハルメ、大丈夫?」
「願ってもないことだよ。シリルだったら安心してこの子たちを託せる。ありがとう。」
まだ子犬が幼いので、あと2か月ほどしたらモーリア邸まで連れて来てくれることになった。その二ヶ月で子犬二匹を受け入れる体制を整える事にした。
「ええ?乗馬得意じゃなかったでしょう?」
「練習しました。何かあった時にすぐに対応できるから。」
地震の時、ニコラが馬に乗って王都に助けを呼びに行った姿をみて必要だと思い知ったらしい。
「二人乗りもできるから、僕にもたれていればいいよ。人気(ひとけ)のある場所では少し顔を伏せててもらいたいけど、森の方はあまり人がいないから安心して。」
シャルロットにとって初めての乗馬。
シリルが引き上げてくれ、腕を回して固定してくれる。
「少し怖いわ。」
想像以上の高さに怖さを感じる。
「ゆっくり進むから大丈夫だよ。」
言葉通り、穏やかな馬の気質とシリルの上手な手綱さばきのおかげで危なげなく進んだ。
到着したのは森を少し入ったところにある一軒の家だった。
「ここは?」
「知り合いなんだ、シャルロットに見せたいものがあって。でも顔合わせしなくて大丈夫なように頼んである。」
そう言って、勝手にドアを開けて入ろうとした。
「待って!個人のお家でしょう?ご挨拶しないといけないわ。」
「了解は取ってあるよ。」
「ありがとう。私の為にお願いしてくれたのね。でもシリルが側にいてくれるから大丈夫よ。ご挨拶したいわ。」
シリルは少しうれしそうに笑って、家主を呼んでくると言った。
紹介されたのはシリルより10歳ほど上だろうか?
少しふくよかでカールのかかった茶色い髪の人好きのする笑顔を浮かべた男性だった。シリルはシャルロットの様子をうかがっていたが何も見えないようで安心して紹介をした。
「こちら、ハルメ・エーロ男爵令息で友人です。こちらは婚約者のシャルロット。」
すでにシャルロットはハルメの腕の中に釘付けだ。
「シャルロット様、初めまして。シリルとは王宮の催事で知り合いまして、懇意にしていただいております。お会いできて光栄です。」
「シャルロットと申します。お初に目にかかります。私もシリルのご友人にお会いできてとても嬉しいですわ。今後ともよろしくお願いします。それで・・・あの!その子は?」
堪えきれないようにキラキラ目を輝かした。
ハルメの腕の中には首周りに可愛いリボンを巻いた子犬がいた。
「可愛いでしょう?この子はそろそろ生後3か月になるのです。子犬が産まれた話をするとシリルがぜひシャルロット様に見せたいって。」
「本当になんてかわいらしい!!」
「ハルメはまだ貴族では珍しく、犬を飼ってるんだ。ただ屋敷では家族の理解を得られず、犬たちの為にここで暮らしているんだ。」
「そうなのですか。」
平民の間では犬を飼うものは多いが、貴族で愛玩という目的で動物を飼うのはまだ珍しい。それを広げていきたいとハルメは思っているようだ。
「可愛いだけでなく、頭がいいから見張りもしてくれるし最高の人間のパートナーですよ。」
幸せそうに子犬の頭を指でなでる。
「シャルロット様が怖くなければ、この子の親と他の兄弟にも会ってみませんか?」
「是非、会いたいわ!」
その部屋には親犬が二頭ゆっくりと寝そべり、子犬が四匹コロコロ転がるようにじゃれていた。ハルメは腕に抱いていた一匹を床に降ろすと、その子は兄弟たちの方に走っていた。
シャルロットはあまりにもの可愛さにメロメロになり、ハルメに許可をもらい子犬を抱かせてもらった。
一匹を抱くと、他の子犬もクンクン言いながらシャルロットのもとにやってくる。シャルロットは心行くまでワンコたちと戯れた。
「ごめんなさい、夢中になってしまって。」
恥ずかしそうにシャルロットは頬を染めた。
「楽しんでもらえて嬉しいです。ワンコたちがいる生活っていいと思いませんか?私はこの幸せを皆に知ってもらいたいと思っているのです。そしてワンコたちも幸せにしたい。他の棟にいますが、あと五匹一緒に暮らしているんですよ。」
「人が幸せになるというのはよくわかりますわ。ワンコの幸せというのは?」
「実はこの子たち、野犬だったのです。郊外や山からうっかり街に出てきたワンコは処分対象になることがあるのですよ。私が保護をした時にはこのライラが妊娠していて、この子たちが生まれたのです。」
「そうだったのですか。ハルメ様は本当にこの子たちを大切に思っていらっしゃるのですね。」
「はい。」
「私もこの短い時間でしたけど、この子たちからたくさんの幸せを貰いました。離れるのが名残惜しいですわ。」
シャルロットは寂しそうにワンコを撫でた。
「実はこの子たちの引き取り先を募集中なのです。もしよかったらもらっていただけませんか?」
「ええ!そうなんですか?!」
嬉しさで笑顔がこぼれたがすぐに落ち着きを取り戻すと
「いえ、私の思い付きだけで大切な命を預かることは出来ませんわ。失礼いたしました。」
と残念そうに言った。
「実は僕が飼いたくて、父上から子犬をもらってきてもいいと許可は頂いているんだ。シャルロットも賛成してくれたら飼いたいんだけど、どうかな。」
「そうなの?お父様も・・・。だけど私たちは嬉しいけれど、この子たちは親や兄弟たちから離れて寂しくならないかしら。一人ぼっちにしてしまうわ。」
「心配ありませんよ、野生にいてもいずれはみんなバラバラになりますし、私たちが家族になるのですから。」
「・・・・あの一匹ではなくて二匹一緒でもいいかしら?二匹でもお父様お許しくださるかしら。シリルはどう思う?」
「そこまでは聞いていないけれど、きっと大丈夫だよ。僕も賛成。ハルメ、大丈夫?」
「願ってもないことだよ。シリルだったら安心してこの子たちを託せる。ありがとう。」
まだ子犬が幼いので、あと2か月ほどしたらモーリア邸まで連れて来てくれることになった。その二ヶ月で子犬二匹を受け入れる体制を整える事にした。
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