死を見る令嬢は義弟に困惑しています

れもんぴーる

文字の大きさ
上 下
43 / 51

ある令息の独白

しおりを挟む
 あの時、どうしてあの女に手を出そうとしたんだろう。

 あれから一年たっても後悔し続けている。
 あの日、社交界である意味有名な女を見つけた。
 あまり社交の場に出てこないが、たまに来たと思えば常に父親が側におり隙がなかった。

 その日は父親がおらず、一人で壁際に立っていた。チャンスだと思い、親切を装って媚薬を入れた水を勧めた。すぐに薬の効果が出てきた女を体調不良といい、部屋に連れ込んだ。
 そこから転落人生が始まったのだ。

 ややこしいドレスを脱がす前に男に踏み込まれ、思いきり殴り飛ばされた。這う這うの体で逃げ出したが、しっかりと身元を突き止められた。
 父親からは謹慎を言い渡され、後継者から外された。それでも俺は高をくくっていた。後継者は外されたが、籍は抜かれなかったからだ。このまま家を出て行くつもりはない、少しくらい疎まれようともここに居着く限り貴族として生きていける。何なら責任を背負わない分楽な生活ができるかもしれない。そう思っていた。

 そんな俺のもとに近づいてきた女がいた。

 謹慎がとけてせめて誠意を見せろと、父の知り合いの商家に送り出された。追い出されないためにしぶしぶ従った俺が行きつけにしている酒場で声をかけられた。
 魅惑的な身体に派手な顔つきのきれいな女が、俺を褒めそやしてくれる。俺の話を聞いて、頑張っているとほめてくれる。これは俺に気があると思うだろ?
 だから誘ったんだ、喜んでついてきたんだ。本当なんだ。

 女が支払いするからと、今の俺では敷居の高い高級宿に二人で入った。そしていざ事に及ぼうとしたとき、女が自分で服を引き裂き、大声で叫びだした。助けてと。
 高級宿にはやとわれた護衛がいて、すぐに護衛と従業員が部屋に飛び込んできた。女は全身を震わせ、涙を流しながら俺に乱暴される所だったと訴えた。 
 現状はどう見ても女の訴えた通りにしか見えない。俺がどんなに否定しても、女に騙されたと言っても信じてもらえなかった。

 そして今、俺は鉱山で働かされている。

 ああ、俺を嵌めたのは女じゃなかった。モーリア侯爵家だ。
 大切な娘を穢そうとした俺をはじめから許すつもりなどなかったんだ。軽い処分で済んだなんて俺は何もわかっていなかった。

 俺はいつまでここにいるのか監督に聞いた。
 すると俺が襲ったことになっている女への慰謝料を払い終えるまでだと言われた。金額を聞いて俺は絶望した。

 俺はもう二度と日の目は見られないかもしれない。

 本当に俺は馬鹿だった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ちっちゃいは正義

ひろか
恋愛
セラフィナ・ノーズは何でも持っていた。 完璧で、隙のない彼女から婚約者を奪ったというのに、笑っていた。 だから呪った。醜く老いてしまう退化の呪い。 しかしその呪いこそ、彼らの心を奪うものだった!

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

処理中です...