死を見る令嬢は義弟に困惑しています

れもんぴーる

文字の大きさ
上 下
36 / 51

ジェラルドとシャルロットの出会い 2

しおりを挟む
「あの!貴族様!白い・・お城みたいな・・・たくさんの人が劇を見てる・・・大きな獅子の顔が付いてる。き、貴族様、火事で死んじゃうの!行かないで!」
「シャルロット!」
 院長はシャルロットの頬をはたいた。
「院長、子供に暴力はなりません!」
 アメリーがたしなめる。
「しかし大変失礼なことを・・・この子はこうして人に死ぬなどと縁起の悪いことをいうのです。人の気を引くために嘘ばかりで・・・言い聞かしておりますがいうことを聞きません。本当に申し訳ありません。お前も謝りなさい!」
 それでもシャルロットは謝らない。
「お願い!行かないで!お願い!」
 シャルロットはシスターに連れていかれた。
 院長はモーリア侯爵夫妻に平身低頭に謝り、夫妻は孤児院を後にした。

 モーリア侯爵夫妻は、本日観劇予定の劇場を見上げて言葉を失った。
 数か月前に新しくできた劇場は、その建築物自体が美術品の様だと評判であった。意匠をこらした柱や屋根、真っ白な異国の宮殿のような建物。その正面上には獅子の顔が精巧に彫られていた。
「・・・あなた・・・」
「ああ。」
 出来たばかりの劇場。貴族でさえ見たことがない者が多い中、孤児院で暮らす少女が知るはずもない。それを知っていたのはなぜ?「火事が起こる、行かないで」と言っていた。放火の情報でも握っていたというのか?それとも?
夫妻は楽しみにしていた観劇だったが、どうも気持ちが落ち着かず、劇場に入ることなく帰途に就いた。

 驚いたのは翌日だった。あの劇場が火事になり、多数の観客が巻き込まれて亡くなったのだ。あのまま観劇をしていれば間違いなく巻き込まれていた。
 ジェラルドは体を震わせた。そして執事を呼んで、王宮に休暇届を出すよう指示するとアメリーを伴いあの孤児院に馬車を走らせた。

「モーリア侯爵様!本日は何か・・・先日のお叱りでしょうか?」
 院長は少し顔を曇らせている。シャルロットの無礼を咎めに来たとでも思っているのかもしれない。
「彼女はいるか?我々だけで話をさせて欲しい。」
 院長は責任を恐れ少し渋ったが、結局は応接室で3人で会えることになった。
 応接室で待つ二人のもとに、院長に連れられてシャルロットが現れた。初めて出会ったときのようにうつむいて床を見ている。
「シャルロット、こんにちは。またあなたに会いに来たのよ」
 その声を聴いてシャルロットはバッと顔を上げた。
 ウルウルと涙を浮かべるとアメリーのもとに走り寄った。
 アメリーは声を上げて泣くシャルロットを抱きしめると院長に、「あとは我々で」と言い、追い出した。
「うう、貴族様・・・良かった・・・良かった!」
「シャルロット、貴方のおかげよ。」
 シャルロットはわんわんと泣き出した。

 落ち着いて聞けば、彼女の秘密を教えてくれた。
 院長も他の大人も叱るばかりで誰も耳を貸してくれなかった。
 亡くなる姿が見えた人は来客が多く、すぐ去っていくため、その後がわからないだけにシャルロットの言葉が死を予知するものだと誰も判らなかったのだ。
 いつも人の死を体感して苦しみ、助けられないことにまた苦しみ、周囲に理解されない事でも苦しみシャルロットは生きる事が辛く、限界が近づいていた。
 そこにモーリア侯爵たちが運命を覆して生きて現れた。呪われた力にしか思えなかったが、初めて助かった人を見てシャルロットの心が救われた。
 二人は一緒に泣いて、彼女の辛さを思いやった。
 そして、どちらからともなくシャルロットを養女に迎えて必ず幸せにしようと決めたのだった。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

ちっちゃいは正義

ひろか
恋愛
セラフィナ・ノーズは何でも持っていた。 完璧で、隙のない彼女から婚約者を奪ったというのに、笑っていた。 だから呪った。醜く老いてしまう退化の呪い。 しかしその呪いこそ、彼らの心を奪うものだった!

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...