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ジェラルドとシャルロットの出会い 2
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「あの!貴族様!白い・・お城みたいな・・・たくさんの人が劇を見てる・・・大きな獅子の顔が付いてる。き、貴族様、火事で死んじゃうの!行かないで!」
「シャルロット!」
院長はシャルロットの頬をはたいた。
「院長、子供に暴力はなりません!」
アメリーがたしなめる。
「しかし大変失礼なことを・・・この子はこうして人に死ぬなどと縁起の悪いことをいうのです。人の気を引くために嘘ばかりで・・・言い聞かしておりますがいうことを聞きません。本当に申し訳ありません。お前も謝りなさい!」
それでもシャルロットは謝らない。
「お願い!行かないで!お願い!」
シャルロットはシスターに連れていかれた。
院長はモーリア侯爵夫妻に平身低頭に謝り、夫妻は孤児院を後にした。
モーリア侯爵夫妻は、本日観劇予定の劇場を見上げて言葉を失った。
数か月前に新しくできた劇場は、その建築物自体が美術品の様だと評判であった。意匠をこらした柱や屋根、真っ白な異国の宮殿のような建物。その正面上には獅子の顔が精巧に彫られていた。
「・・・あなた・・・」
「ああ。」
出来たばかりの劇場。貴族でさえ見たことがない者が多い中、孤児院で暮らす少女が知るはずもない。それを知っていたのはなぜ?「火事が起こる、行かないで」と言っていた。放火の情報でも握っていたというのか?それとも?
夫妻は楽しみにしていた観劇だったが、どうも気持ちが落ち着かず、劇場に入ることなく帰途に就いた。
驚いたのは翌日だった。あの劇場が火事になり、多数の観客が巻き込まれて亡くなったのだ。あのまま観劇をしていれば間違いなく巻き込まれていた。
ジェラルドは体を震わせた。そして執事を呼んで、王宮に休暇届を出すよう指示するとアメリーを伴いあの孤児院に馬車を走らせた。
「モーリア侯爵様!本日は何か・・・先日のお叱りでしょうか?」
院長は少し顔を曇らせている。シャルロットの無礼を咎めに来たとでも思っているのかもしれない。
「彼女はいるか?我々だけで話をさせて欲しい。」
院長は責任を恐れ少し渋ったが、結局は応接室で3人で会えることになった。
応接室で待つ二人のもとに、院長に連れられてシャルロットが現れた。初めて出会ったときのようにうつむいて床を見ている。
「シャルロット、こんにちは。またあなたに会いに来たのよ」
その声を聴いてシャルロットはバッと顔を上げた。
ウルウルと涙を浮かべるとアメリーのもとに走り寄った。
アメリーは声を上げて泣くシャルロットを抱きしめると院長に、「あとは我々で」と言い、追い出した。
「うう、貴族様・・・良かった・・・良かった!」
「シャルロット、貴方のおかげよ。」
シャルロットはわんわんと泣き出した。
落ち着いて聞けば、彼女の秘密を教えてくれた。
院長も他の大人も叱るばかりで誰も耳を貸してくれなかった。
亡くなる姿が見えた人は来客が多く、すぐ去っていくため、その後がわからないだけにシャルロットの言葉が死を予知するものだと誰も判らなかったのだ。
いつも人の死を体感して苦しみ、助けられないことにまた苦しみ、周囲に理解されない事でも苦しみシャルロットは生きる事が辛く、限界が近づいていた。
そこにモーリア侯爵たちが運命を覆して生きて現れた。呪われた力にしか思えなかったが、初めて助かった人を見てシャルロットの心が救われた。
二人は一緒に泣いて、彼女の辛さを思いやった。
そして、どちらからともなくシャルロットを養女に迎えて必ず幸せにしようと決めたのだった。
「シャルロット!」
院長はシャルロットの頬をはたいた。
「院長、子供に暴力はなりません!」
アメリーがたしなめる。
「しかし大変失礼なことを・・・この子はこうして人に死ぬなどと縁起の悪いことをいうのです。人の気を引くために嘘ばかりで・・・言い聞かしておりますがいうことを聞きません。本当に申し訳ありません。お前も謝りなさい!」
それでもシャルロットは謝らない。
「お願い!行かないで!お願い!」
シャルロットはシスターに連れていかれた。
院長はモーリア侯爵夫妻に平身低頭に謝り、夫妻は孤児院を後にした。
モーリア侯爵夫妻は、本日観劇予定の劇場を見上げて言葉を失った。
数か月前に新しくできた劇場は、その建築物自体が美術品の様だと評判であった。意匠をこらした柱や屋根、真っ白な異国の宮殿のような建物。その正面上には獅子の顔が精巧に彫られていた。
「・・・あなた・・・」
「ああ。」
出来たばかりの劇場。貴族でさえ見たことがない者が多い中、孤児院で暮らす少女が知るはずもない。それを知っていたのはなぜ?「火事が起こる、行かないで」と言っていた。放火の情報でも握っていたというのか?それとも?
夫妻は楽しみにしていた観劇だったが、どうも気持ちが落ち着かず、劇場に入ることなく帰途に就いた。
驚いたのは翌日だった。あの劇場が火事になり、多数の観客が巻き込まれて亡くなったのだ。あのまま観劇をしていれば間違いなく巻き込まれていた。
ジェラルドは体を震わせた。そして執事を呼んで、王宮に休暇届を出すよう指示するとアメリーを伴いあの孤児院に馬車を走らせた。
「モーリア侯爵様!本日は何か・・・先日のお叱りでしょうか?」
院長は少し顔を曇らせている。シャルロットの無礼を咎めに来たとでも思っているのかもしれない。
「彼女はいるか?我々だけで話をさせて欲しい。」
院長は責任を恐れ少し渋ったが、結局は応接室で3人で会えることになった。
応接室で待つ二人のもとに、院長に連れられてシャルロットが現れた。初めて出会ったときのようにうつむいて床を見ている。
「シャルロット、こんにちは。またあなたに会いに来たのよ」
その声を聴いてシャルロットはバッと顔を上げた。
ウルウルと涙を浮かべるとアメリーのもとに走り寄った。
アメリーは声を上げて泣くシャルロットを抱きしめると院長に、「あとは我々で」と言い、追い出した。
「うう、貴族様・・・良かった・・・良かった!」
「シャルロット、貴方のおかげよ。」
シャルロットはわんわんと泣き出した。
落ち着いて聞けば、彼女の秘密を教えてくれた。
院長も他の大人も叱るばかりで誰も耳を貸してくれなかった。
亡くなる姿が見えた人は来客が多く、すぐ去っていくため、その後がわからないだけにシャルロットの言葉が死を予知するものだと誰も判らなかったのだ。
いつも人の死を体感して苦しみ、助けられないことにまた苦しみ、周囲に理解されない事でも苦しみシャルロットは生きる事が辛く、限界が近づいていた。
そこにモーリア侯爵たちが運命を覆して生きて現れた。呪われた力にしか思えなかったが、初めて助かった人を見てシャルロットの心が救われた。
二人は一緒に泣いて、彼女の辛さを思いやった。
そして、どちらからともなくシャルロットを養女に迎えて必ず幸せにしようと決めたのだった。
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