33 / 51
シャルロットの思い 1
しおりを挟む
あくる朝、同室で眠った事を知ったジェラルドからシリルは執務室に呼び出され怒られたらしい。
シリルは昨日の出来事をジェラルドに話し、怒り心頭となったジェラルドはアルエ侯爵令嬢はじめ二人の取り巻きに対して抗議し、家に対しても報復行動をとることを約束した。
シャルロットを慰めるために仕方なかったと訴えるシリルをあまり強く怒ることはできなかった。しかし、我が息子ながら信用はできんなとジェラルドはため息をついた。
それから丸一日ほど、シャルロットは部屋から出ず、ジェラルドとシリルを心配させたが、その夜にジェラルドの執務室を訪ねた。
「一人で暮らす?ここにいると口さがない奴らの下らん話が耳に入るから気持ちはわかるが・・・」
「いえ、社交界でいろいろ言われていることは知っておりますがそれだけが理由ではありません。・・・はじめは逃げたいと思いました。ですが今はお父様とシリルに頼ってばかりの自分のふがいなさが情けないのです。」
「そんなこと・・・私たちのため、国のため身を犠牲にして助けてくれているではないか。ふがいないなど思う必要はない。私とシリルの事なら何も心配はいらないよ、頼られるのがうれしいのだから。」
「一度・・・人に頼らないで生活をしなければと。・・・もちろん出歩けない身ですので、誰か使用人一人はきてもらわないといけないのですが。」
シャルロットは一度王都を離れて暮らしたいとジェラルドに相談した。
ジェラルドは王宮での勤めがあり、シリルも学院に通っている。家を出たシャルロットが死を見ても誰も助けてあげることができないのだ。
「一人では何かあった時に、シャルロットを救えない。せっかくシリルという解決法が見つかったのに、また辛い思いをするんだぞ。それにシリルが承知するとは思えん。」
「・・・そうですね。それも家を出ようと思った理由の一つなのです。」
「やはり婚約が嫌になったか。いつでも白紙に戻すから心配しなくてもいい。」
「嫌だとかそういうわけではないのです・・・シリルを私に縛り付けたくはないのです。」
そういって、悩んで考えたことをジェラルドに打ち明けた。
シリルは自分のこの能力を哀れに思い、それを助ける事ができるのが自分だけだと知り、同情と正義感から側にいてくれようとしているのではないか。それが愛情と勘違いをしているかもしれない。
しばらく会わず、シャルロットという枷がなくなれば、これまで通り学院生活を送っている間にほかの令嬢に気持ちが芽生えるかもしれない。自分との結婚はそういう期間を設けてからでもよいのではないかと思う。
そう思うと、少し胸の奥が痛むが、一生シリルに厄介な自分のおもりをさせることになるのだからよく考えて欲しかった。
「う~む。シリルがほかに現を抜かすとは思えないがな。あれはシャルロットのことを能力抜きで慕っているよ。お前が小さなころからな。」
「ええ?!まったくそんなそぶりはありませんでしたが・・・」
「あれもいろいろこじらせているのだ、気持ちを持て余して当たり散らした馬鹿者だ。あれなりに苦しんでいたよ、お前が家を出たら追いかけていくだろう。」
「そうですか・・・シリルが。後、他にも口にするのも嫌なのですが・・・私とお父様の・・・その・・」
「シリルから聞いた。気にするな、お前のせいではないしそんな噂は痛くもかゆくもないよ。こうしてあることないこと噂を広めて侯爵家を貶めたい輩がいるんだろう、まあ、それなりのお礼をきちんとするからシャルロットは気にせずここで暮らしてほしい。」
「私のせいで、お父様とシリルの名に傷をつけたくないのです。私が一人で生きられるような強さを身につけて、それから横に立てるようになりたいと思ったのです。」
「シャルロットが頑張らないといけないのは、人に甘えて頼ることだよ。」
「そんな・・・私は今まで甘えて頼ってばかりです。だからこんなことになって。」
「頼ってはくれていたけど、甘えはしなかったよ。いつも頼った後に申し訳ない、迷惑をかけてると罪悪感でいっぱいじゃないか。そういうのは甘えるとは言わない。自分が傷ついてばかりなのに、いつも人のことを思って・・・そんなシャルロットをもっと守りたい、甘やかしたいと思う私とシリルの気持ちもわかってほしい。」
「お父様・・・」
「強くなりたいと思うなら、私でもシリルでも利用してやろうというぐらいの気迫が欲しい。シリルを利用しなさい、あれをそばに置いてどんどん外に出るでもいい。せっかく、治療薬が見つかったのだからそれを利用して自由にやりたいことをしてみなさい。なにかあれば私が守るから。私の大切な娘なんだからね。」
さて、と、ジェラルドは立ち上がってシャルロットの手を引くと部屋を出てシリルの部屋をノックした。
「あとは任せるから。シリルに甘えなさい。」
「お父様、ありがとう。」
ぎゅっと抱き着いたところでドアが開き、シリルがムッとした顔でシャルロットを引き離した。
「お姫様を連れてきてやったぞ。私が慰めてもよかったんだがな。」
「結構です、僕がいますので。ありがとうございました。」
シャルロットを引き入れるとばたんとドアを閉めた。
シリルは昨日の出来事をジェラルドに話し、怒り心頭となったジェラルドはアルエ侯爵令嬢はじめ二人の取り巻きに対して抗議し、家に対しても報復行動をとることを約束した。
シャルロットを慰めるために仕方なかったと訴えるシリルをあまり強く怒ることはできなかった。しかし、我が息子ながら信用はできんなとジェラルドはため息をついた。
それから丸一日ほど、シャルロットは部屋から出ず、ジェラルドとシリルを心配させたが、その夜にジェラルドの執務室を訪ねた。
「一人で暮らす?ここにいると口さがない奴らの下らん話が耳に入るから気持ちはわかるが・・・」
「いえ、社交界でいろいろ言われていることは知っておりますがそれだけが理由ではありません。・・・はじめは逃げたいと思いました。ですが今はお父様とシリルに頼ってばかりの自分のふがいなさが情けないのです。」
「そんなこと・・・私たちのため、国のため身を犠牲にして助けてくれているではないか。ふがいないなど思う必要はない。私とシリルの事なら何も心配はいらないよ、頼られるのがうれしいのだから。」
「一度・・・人に頼らないで生活をしなければと。・・・もちろん出歩けない身ですので、誰か使用人一人はきてもらわないといけないのですが。」
シャルロットは一度王都を離れて暮らしたいとジェラルドに相談した。
ジェラルドは王宮での勤めがあり、シリルも学院に通っている。家を出たシャルロットが死を見ても誰も助けてあげることができないのだ。
「一人では何かあった時に、シャルロットを救えない。せっかくシリルという解決法が見つかったのに、また辛い思いをするんだぞ。それにシリルが承知するとは思えん。」
「・・・そうですね。それも家を出ようと思った理由の一つなのです。」
「やはり婚約が嫌になったか。いつでも白紙に戻すから心配しなくてもいい。」
「嫌だとかそういうわけではないのです・・・シリルを私に縛り付けたくはないのです。」
そういって、悩んで考えたことをジェラルドに打ち明けた。
シリルは自分のこの能力を哀れに思い、それを助ける事ができるのが自分だけだと知り、同情と正義感から側にいてくれようとしているのではないか。それが愛情と勘違いをしているかもしれない。
しばらく会わず、シャルロットという枷がなくなれば、これまで通り学院生活を送っている間にほかの令嬢に気持ちが芽生えるかもしれない。自分との結婚はそういう期間を設けてからでもよいのではないかと思う。
そう思うと、少し胸の奥が痛むが、一生シリルに厄介な自分のおもりをさせることになるのだからよく考えて欲しかった。
「う~む。シリルがほかに現を抜かすとは思えないがな。あれはシャルロットのことを能力抜きで慕っているよ。お前が小さなころからな。」
「ええ?!まったくそんなそぶりはありませんでしたが・・・」
「あれもいろいろこじらせているのだ、気持ちを持て余して当たり散らした馬鹿者だ。あれなりに苦しんでいたよ、お前が家を出たら追いかけていくだろう。」
「そうですか・・・シリルが。後、他にも口にするのも嫌なのですが・・・私とお父様の・・・その・・」
「シリルから聞いた。気にするな、お前のせいではないしそんな噂は痛くもかゆくもないよ。こうしてあることないこと噂を広めて侯爵家を貶めたい輩がいるんだろう、まあ、それなりのお礼をきちんとするからシャルロットは気にせずここで暮らしてほしい。」
「私のせいで、お父様とシリルの名に傷をつけたくないのです。私が一人で生きられるような強さを身につけて、それから横に立てるようになりたいと思ったのです。」
「シャルロットが頑張らないといけないのは、人に甘えて頼ることだよ。」
「そんな・・・私は今まで甘えて頼ってばかりです。だからこんなことになって。」
「頼ってはくれていたけど、甘えはしなかったよ。いつも頼った後に申し訳ない、迷惑をかけてると罪悪感でいっぱいじゃないか。そういうのは甘えるとは言わない。自分が傷ついてばかりなのに、いつも人のことを思って・・・そんなシャルロットをもっと守りたい、甘やかしたいと思う私とシリルの気持ちもわかってほしい。」
「お父様・・・」
「強くなりたいと思うなら、私でもシリルでも利用してやろうというぐらいの気迫が欲しい。シリルを利用しなさい、あれをそばに置いてどんどん外に出るでもいい。せっかく、治療薬が見つかったのだからそれを利用して自由にやりたいことをしてみなさい。なにかあれば私が守るから。私の大切な娘なんだからね。」
さて、と、ジェラルドは立ち上がってシャルロットの手を引くと部屋を出てシリルの部屋をノックした。
「あとは任せるから。シリルに甘えなさい。」
「お父様、ありがとう。」
ぎゅっと抱き着いたところでドアが開き、シリルがムッとした顔でシャルロットを引き離した。
「お姫様を連れてきてやったぞ。私が慰めてもよかったんだがな。」
「結構です、僕がいますので。ありがとうございました。」
シャルロットを引き入れるとばたんとドアを閉めた。
60
お気に入りに追加
835
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ちっちゃいは正義
ひろか
恋愛
セラフィナ・ノーズは何でも持っていた。
完璧で、隙のない彼女から婚約者を奪ったというのに、笑っていた。
だから呪った。醜く老いてしまう退化の呪い。
しかしその呪いこそ、彼らの心を奪うものだった!
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる