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ある日、シリルから時間を取って欲しいと言われた。
その時が来てしまったと、シャルロットは緊張して自室で待っていた。
ノックがあり、美味しそうなケーキと紅茶を乗せたワゴンをシリルが押してきた。
「お待たせしました。このお菓子は最近できた店の一番人気らしく、美味しいそうですよ。」
「あ、ありがとう。」
緊張をほぐすように、シリルは学院の事や街の話などをしてくれた。
そうして話が一段落ついた時、
「姉上。」
シリルが姿勢を正した。
「貴女の側にいて、ずっと守りたい。僕と結婚してください。」
結局、結構な猶予を与えてくれたのに、シャルロットはまだ決めかねていた。
「・・・まだわからないの。ごめんなさい。」
「・・・。僕のことは許せませんか?」
「そうではないわ。ただ・・・私は狭い世界で生きていたから。結婚なんて考えたこともないし、怖い。誰かと生活を共にすることが想像できない。結婚などすれば今までのように部屋に引きこもっていられないでしょう。」
「姉上がしたいように生活環境は整えるから。他の人と結婚を考えていないのなら僕と婚約してほしい。婚約期間中に嫌になればいつでも解消するから・・・お願い。僕にチャンスを下さい。」
シリルは、ポケットから宝石を散りばめた四つ葉のクローバーのネックレスを取り出した。
シャルロットの後ろに回ると、ネックレスをシャルロットにつけた。
「これは姉上が幸せになるよう願ったお守りです。」
「シリル・・・」
愛を告げるものでも、押し付けるものでもなく純粋にシャルロットのことを思って選んでくれたのだろう。
先日ニコラとエリックから聞いた話も思い出し、シリルの気持ちに心を揺さぶられた。
「・・・貴方の気持ちは嬉しいわ。でも私は普通の人のような生活はできない。あなたにずっと迷惑をかける。」
「迷惑なんて掛からないよ。姉上はこれまで大勢の人救ってきました。誰もまねできない凄いことです。でもそれは姉上の苦しみと引きかえです、ずっと一人で苦しんで戦って・・・我慢して。姉上自身、それから解放されて幸せになって欲しい。姉上を幸せにする役目を僕にさせて欲しい。もう一人で頑張らないで。」
思わず涙がこぼれた。ずっと胸の中にあった思い。
なぜ自分だけこんな目にあうのだろう。誰かを助けたとき褒めてもらえても、感謝されても本当はそんなものはいらなかった。「あなたを救えてよかった、それが私の喜びです」なんてそんな偽善など言いたくもなかった。ずっとずっと逃げたかった、解放されたかった。
それをシリルはわかってくれた。彼の前ではいい人ぶらなくてもいい、逃げてもいいと言ってくれる。弱音を吐いてもいい。
「シリル・・・」
シリルは顔を覆って泣いてしまったシャルロットをそっと抱き寄せた。
自分にもたれるように倒れてきたシャルロットの髪を梳き、泣き止んで落ち着くまで背中を撫でた。
そうしてシャルロットは婚約を承諾した。
翌日、シリルが嬉々としてジェラルドに報告したとき、ジェラルドは苦虫をかみつぶしたような顔をしながらも反対することなく許可した。
シャルロットの気持ちが伴っているものならこの縁談は言うことがないものだ。シリルがしでかしたことの責任を取ることになり、シャルロットの身も彼唯一のものとなり心身ともに傷つけずに済む。そしてシリルの婚約者という立場がシャルロットの身を守る一助になってくれればいいと色々なことを勘案し、ジェラルドは許可したのだ。
「シャルロット、本当にいいのか?お前の意思で間違いないか?」
「え?は、はい。」
流されたような気がするが、無理強いされたわけでもない。自分の意思だと思う。
「では、父上。来月には結婚式を挙げようと思います。」
「馬鹿者。お前が卒業するまでの2年は婚約期間だ。シャルロット、気が変わればいつでも言いなさい。」
「は、はい。ありがとうございます。」
「シリル、シャルロットを大事にするんだぞ。必ず守れ。」
「はい!」
王宮に婚約の許可を願い出て、国王の許可証が届き正式に婚約が成立した。
その時が来てしまったと、シャルロットは緊張して自室で待っていた。
ノックがあり、美味しそうなケーキと紅茶を乗せたワゴンをシリルが押してきた。
「お待たせしました。このお菓子は最近できた店の一番人気らしく、美味しいそうですよ。」
「あ、ありがとう。」
緊張をほぐすように、シリルは学院の事や街の話などをしてくれた。
そうして話が一段落ついた時、
「姉上。」
シリルが姿勢を正した。
「貴女の側にいて、ずっと守りたい。僕と結婚してください。」
結局、結構な猶予を与えてくれたのに、シャルロットはまだ決めかねていた。
「・・・まだわからないの。ごめんなさい。」
「・・・。僕のことは許せませんか?」
「そうではないわ。ただ・・・私は狭い世界で生きていたから。結婚なんて考えたこともないし、怖い。誰かと生活を共にすることが想像できない。結婚などすれば今までのように部屋に引きこもっていられないでしょう。」
「姉上がしたいように生活環境は整えるから。他の人と結婚を考えていないのなら僕と婚約してほしい。婚約期間中に嫌になればいつでも解消するから・・・お願い。僕にチャンスを下さい。」
シリルは、ポケットから宝石を散りばめた四つ葉のクローバーのネックレスを取り出した。
シャルロットの後ろに回ると、ネックレスをシャルロットにつけた。
「これは姉上が幸せになるよう願ったお守りです。」
「シリル・・・」
愛を告げるものでも、押し付けるものでもなく純粋にシャルロットのことを思って選んでくれたのだろう。
先日ニコラとエリックから聞いた話も思い出し、シリルの気持ちに心を揺さぶられた。
「・・・貴方の気持ちは嬉しいわ。でも私は普通の人のような生活はできない。あなたにずっと迷惑をかける。」
「迷惑なんて掛からないよ。姉上はこれまで大勢の人救ってきました。誰もまねできない凄いことです。でもそれは姉上の苦しみと引きかえです、ずっと一人で苦しんで戦って・・・我慢して。姉上自身、それから解放されて幸せになって欲しい。姉上を幸せにする役目を僕にさせて欲しい。もう一人で頑張らないで。」
思わず涙がこぼれた。ずっと胸の中にあった思い。
なぜ自分だけこんな目にあうのだろう。誰かを助けたとき褒めてもらえても、感謝されても本当はそんなものはいらなかった。「あなたを救えてよかった、それが私の喜びです」なんてそんな偽善など言いたくもなかった。ずっとずっと逃げたかった、解放されたかった。
それをシリルはわかってくれた。彼の前ではいい人ぶらなくてもいい、逃げてもいいと言ってくれる。弱音を吐いてもいい。
「シリル・・・」
シリルは顔を覆って泣いてしまったシャルロットをそっと抱き寄せた。
自分にもたれるように倒れてきたシャルロットの髪を梳き、泣き止んで落ち着くまで背中を撫でた。
そうしてシャルロットは婚約を承諾した。
翌日、シリルが嬉々としてジェラルドに報告したとき、ジェラルドは苦虫をかみつぶしたような顔をしながらも反対することなく許可した。
シャルロットの気持ちが伴っているものならこの縁談は言うことがないものだ。シリルがしでかしたことの責任を取ることになり、シャルロットの身も彼唯一のものとなり心身ともに傷つけずに済む。そしてシリルの婚約者という立場がシャルロットの身を守る一助になってくれればいいと色々なことを勘案し、ジェラルドは許可したのだ。
「シャルロット、本当にいいのか?お前の意思で間違いないか?」
「え?は、はい。」
流されたような気がするが、無理強いされたわけでもない。自分の意思だと思う。
「では、父上。来月には結婚式を挙げようと思います。」
「馬鹿者。お前が卒業するまでの2年は婚約期間だ。シャルロット、気が変わればいつでも言いなさい。」
「は、はい。ありがとうございます。」
「シリル、シャルロットを大事にするんだぞ。必ず守れ。」
「はい!」
王宮に婚約の許可を願い出て、国王の許可証が届き正式に婚約が成立した。
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