私はあなたの母ではありませんよ

れもんぴーる

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ユマ視点

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 お母様が亡くなってから、ずいぶんと経ち、ようやく私は笑えるようになった。

 毎日バーバラお母様がユマの側にいて優しく抱きしめ続けてくれたから。
 悲しいと泣いていると一緒に眠ってくれる。元気が出るようにとリボンで髪を結ってくれたり、お話をしたり、一緒に遊んでくれたから。
 お母様が亡くなった時、すぐにバーバラお母様は駆けつけてくれて、ずっと優しく寄り添ってくれた。
 冷たいお爺様たちの仕打ちにもひどく傷ついていた私はバーバラお母様のおかげでなんとか乗り越えることができた。
 だからお父様もバーバラお母様とオレノがこの屋敷で一緒に暮らすことを認めてくれた。そしてオレノをエーベル家の籍に入れ、正式に私の弟にしてくれたの。だからバーバラお母様もお母様になるのかと思っていた。
 
 それなのにお父様は急にバーバラお母様に冷たくなった。
 バーバラお母様が出て行くと言った時も、ずっといて欲しいとお父様にお願いをしたの。
 お父様は、バーバラお母様を屋敷においてくれたけど、どれだけ願っても本当のお母様にはしてくれなかった。
私の本当のお母様は亡くなったお母様だけだからって。

 それを伝えると、バーバラお母様は、「当然よ」って寂しそうに笑っていたの。
 私の側にいられるだけで幸せだから「大丈夫」と言ってくれた。
 本当のお母様に会えなくなって寂しくて悲しくて辛くてたまらないけど、いつかバーバラお母様が本当のお母様になってくれたらいいなあと思ってるの。
 そうじゃないといつ私のそばからいなくなっちゃうかわからないから。
 だから私は堂々とバーバラお母様と呼んでいるのだけど、使用人たちはバーバラお母様の事をお客様と呼ぶの。仕方がない時はバーバラ様と呼んでいるけど、本当は名前を呼ぶのも嫌みたい。
 悲しそうに大丈夫よ、というバーバラお母様が可哀想。
 それにこの家の後継者となるオレノが来たことでさえ誰も喜ばなかった。
 この家に忠誠を誓い、エーベル家の繁栄、継続の為に心血を注いでいる執事でさえも。
 それなのにお父様はそんな使用人を注意しないの。
 だから私が二人の味方になってあげなくちゃいけないと思って頑張ってる。
 
 お母様が亡くなってから本当に使用人たちは冷たくなった。やめていった人もたくさんいた。
 バーバラお母様やオレノにだけじゃない。私にもとても冷たくなった。
 どうしてお母様がいなくなった可哀そうな私にどうして皆冷たくするんだろう。
 みんなひどいと思う。
 確かにお母様はバーバラお母様の事を知って悲しんでいたけど……でも貴族の結婚ってそんなものだとバーバラお母様は言ってた。
 愛人や他に子供がいるのはあたりまえだって。愛人の子を引き取って育てる妻もいるし、第二夫人として堂々と表に出る人もいる。でも、自分たちはお母様を傷つけないよういつまでも日陰にいるつもりだったと言っていたのに。
 お母様も、それを知ったら仲良くできたかもしれないのに。そしたらみんな仲良く暮らせたかもしれないのに。
 皆でいれば、お母様が一人になってメイドなんかに殺されることもなく今でも私の側にいてくれたはずなのに。

 私はお母さまに会いたくて仕方がなかった。
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