私はあなたの母ではありませんよ

れもんぴーる

文字の大きさ
上 下
4 / 21

冷たいお母様と冷たい私

しおりを挟む

 私がバーバラ様のことを話したその日。
 お母様はあれから部屋に閉じこもったまま食事にも出てきてくれなかった。
 お父様が声をかけても返事は返ってこなかった。私に何があったのか聞いてきたが、私は何も知らないと答えた。
 お母様が部屋に閉じこもってしまった後、バーバラ様と会っていることも弟がいる事も話してはいけないとお父様から言われていたのを思い出したから。お父様がバーバラ様たちと一緒に暮らしたいと言ってるなんて嘘をついたから。お父様はそんな事言ったこともない。
 そう言えばお母様は私をバーバラ様に取られると思って優しくなると思ったから。
 バーバラ様と弟オレノのことや、お母様より優しいから好きだと言った時のお母様の表情は、いつもの優しい笑顔が消え、ひどくショックを受けたような顔をしていた。
 でも私の願い通り、それ以上叱るのをやめてくれた。
 これからもきっとバーバラ様のように、勉強やマナーを厳しく言わないでくれると思う。バーバラ様に嫉妬して、私の気持ちを取り戻すために思いきり甘やかしてくれると思う。
 でもお父様にバレたら叱られてしまうから言えなかった。
         
 翌日、お母様は朝食時に食堂に顔を見せてくれた。
 ホッとしたけど、お母様は私やお父様の顔を見てもにこりともしなかった。
 いつもと違う様子にお父様が不安になったのか、声をかける。
「クラリス、昨日から調子が悪かったようだけど大丈夫かい? 医者を呼ぼうか?」
 私も今朝はいつも通りのお母様に戻ってくれると思っていただけに不安になり
「お母様、あの……ご気分はいかがですか?」
 と声をかけた。
 昨日の罪悪感も少しあったので緊張してうまく言葉にできなかった。

「きわめて元気です。私の心配など無用です」
 そしてお母様は紅茶だけを少し口にすると席を立った。
「おい、本当に大丈夫なのか?」
 お父様が心配気に尋ねるも、それには答えずにお母様は部屋に戻っていった。

 お母様の後ろ姿を見送って泣く私にお父様は何か知っているなら話せと怖い声で言った。
 私は泣きながら昨日の事を話した。
 それを聞いたお父様は真っ青な顔になり、お母様の後を追いかけた。


 それからしばらくお母様は部屋に引きこもった。
 でも私がお見舞いに行くと、お母様は大丈夫よと優しく笑ってみせてくれたからほっとした。
 もうお母様は私のこと怒っていなかった。
 だってたった一人の可愛い娘だもの。私もお母様の事が大好きなのだもの。

 でも毎日部屋に入れてもらえる私と違い、お父様は毎日訪ねていても部屋に入れてもらえなかった。ドアの外で「許してほしい」とか、「黙っていて済まなかった」とか謝るお父様にお母様は返事を返さなかった。

 それから十日ほどしてからようやくお母様は部屋から出てきてくれた。運ばせていた食事にもほとんど手を付けなかったお母様はたかだか十日ほどでひどく痩せてしまっていた。
 そんなお母様はお父様の執務室に入っていった。
 長い間話し合いをしていた二人だったが、話し合いの後、お父様は私にもうバーバラにも弟にも会ってはいけないと告げた。
 どうしてと聞く私にお父様は、すまないというだけで他は何も説明してくれなかった。

 それからのお母さまは屋敷でほとんど笑わなくなった。
 私の事は大切にしてくれるけど、お父様には最低限度の挨拶しかしなかった。お父様が話しかけると、決まって胸が苦しいのでといい、その場をはずすの。
 その時のお父様は、辛そうに俯いているの。
 なんだかお父様が可哀想で、ちょっぴりお母様はひどいと思ってしまった。
 お母様が部屋から出てきてくれるようになったのはうれしいけど、お父様はあんなに謝っているのに許してあげないなんて冷たいと思うの。
 きっと、私がバーバラ様やオレノに会えなくなったのもお母様がお父様に何か言ったからなのね。お母様も悲しかったかもしれないけど、貴族なら愛人とか第二夫人とか受け入れるものだと聞いたもの。お母様のわがままのせいで、みんな悲しい思いをしてるのに……。
 そう思った私はお母さまに冷たくしてしまった。

 だから……罰が当たったのかな。
 お母様と永遠にお別れすることになるなんて思わなかった。
しおりを挟む
感想 99

あなたにおすすめの小説

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

愛人がいる夫との政略結婚の行く末は?

しゃーりん
恋愛
子爵令嬢セピアは侯爵令息リースハルトと政略結婚した。 財政難に陥った侯爵家が資産家の子爵家を頼ったことによるもの。 初夜が終わった直後、『愛する人がいる』と告げたリースハルト。 まごうことなき政略結婚。教会で愛を誓ったけれども、もう無効なのね。 好きにしたらいいけど、愛人を囲うお金はあなたの交際費からだからね? 実家の爵位が下でも援助しているのはこちらだからお金を厳しく管理します。 侯爵家がどうなろうと構わないと思っていたけれど、将来の子供のために頑張るセピアのお話です。

「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。

window
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」 弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。 結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。 それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。 非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……

見えるものしか見ないから

mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。 第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...