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幼女編
第10話 公爵家の若君
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「ジェシカ、鑑定板見せてよ。」
「えっ?」
アイルお兄ちゃんは、急に私に言ってきた。
「鑑定板って、見た目ただの板だろ。それが何で利用者だけ見えるか研究したいんだ。僕は、将来モンティ魔道具商会の、魔道具学校に入って、魔道具師として、先月発表された職人商会共同研究所の研究員を目指してるんだ。だから、参考に見せてくれよ。」
えっ。共同研究所って、ぶっちゃけ、私のものだから、所長でも何でもならせてあげられるけど、研究って色々弄られて、もしも、攻略本がバレたら大変な事になるから、断らないと。
「やだよ。私の大事な神具を弄るなんて、カグラ様に怒られちゃうわよ。絶対ダメ。」
「そうか、わかったよ。」
そう、その時は、アイルお兄ちゃんが納得してくれたと思った。数日後、何も経過しせず、お昼寝の後、今週ある来年度入学する市民学校のクラス分けテストに向けて部屋で攻略本を弄って、属性魔法の勉強をしていた。集中して周りの音が耳に入ってこない位。
ドン
突然扉が開くと、アイルお兄ちゃんが入ってきて、私の手元から、攻略本を取りあげた。
「ちょっと借りるね。」
「いやー。」
私から攻略本を取りあげたお兄ちゃんだがらちゃんと掴めてなく、お手玉状態だ。私も、咄嗟にお兄ちゃんに詰め寄る。お兄ちゃんは、私を向きながら、お手玉状態で、後ずさりしながら、窓辺に下がった行った。
「返してー。」
私は、後ずさりするお兄ちゃんの足に蹴りを入れた。ようやく攻略本を掴んだお兄ちゃんは、足を蹴られて、頭から後ろに倒れていった。
「あっ。」
お兄ちゃんは、そのまま後ろに倒れて、そこには開いた窓があった。窓のさんに腕を当て、その痛みで、私の攻略本を離してしまった。
「いた。「嘘。」」
腕を押さえたお兄ちゃんを押しのけ、落ちていく窓の外の大通りを見ると、ちょうど落ちていくところに、馬に乗る騎士を前後に連れた豪華な馬車があった。
「やばい。」
私は、急いで、階段を駆け下りていった。
「この板を、馬車めがけて落とした奴をすぐ出せ。」
「いや、うちの「あの窓から落ちて来たことは、見るからにわかるだろう」、いや。」
私が駆け下りていくと、お父さんが、騎士達に囲まれて、1人の騎士に胸ぐらを掴まれていた。
「お父さん。」
「ジェシカ。逃げろ。」
お父さんが、逃がそうと瞬間には、騎士の2人が私を取り囲んでいた。
「お嬢ちゃんかな?」
「えっ。」
「ちょっと来てくれるかな?」
「いや。」
私は、騎士さん2人に持ち上げられて、馬車のキャビンの前に連れていかれた。
「ジェシカ。」
「煩い。」
騎士は、お父さんの首筋に手刀を落とし、お父さんの意識を一瞬で奪った。
一応B級冒険者のお父さんを手刀一発で意識を奪った騎士は、相当な手練れだ。脇から見ていたお母さんも、武器を置いた。
「閣下、よろしいでしょうか。」
「なんだ。」
そう言って、キャビンから出て来たのは、見るからに貴族っぽい、少し派手な服を着た、8、9の少年だった。金髪の超イケメン予備軍の可愛らしい顔をしている。
「閣下、この者が、馬車に木の板をぶつけて来ました。」
「この娘が?」
少年は、訝しげな顔で私を見た。
「こちらが、木の板です。」
少年は、隊長っぽい、30位のあご髭を持つ騎士から木の板を受けとった。
「うん?」
少年は、眉にしわを寄せた。
「木の板?」
「木の板です。閣下この者をどうしましょう。首を刎ねますか?」
騎士に聞かれた少年は、
「木の板ねえ。ロバート、本気で言ってるのか?」
「は?当家に木の板を投げる等、命を狙うのと同義。」
「いや。まあいいか。ロバート、貴方は私を、皆んなの笑い者にしたいのか?」
少年は、凛とした顔で、騎士を見た。
「いえ。不敬であり、当家に対する。」
「ロバート、貴方の言う木の板で、当家に傷一つつけることなど出来ません。我がフランドル公爵家は、武の系譜。仮に当家に仇を成すのであれば、一軍を持って成すもの。たかだか町娘が1人で私に傷一つつけられるものなら、私の不徳。気にする必要も無い。しかも、この歳で、当家の家紋もわかるまい。捨て置け。」
「はっ、ロバート、閣下の成長に感服しました。」
「試したか?」
「如何にも。」
「「ハッハッハッハー」」
なんか下手な寸劇を見ている様だった。助かった~と思った矢先
「だがな、少し気になることがある。」
「閣下。何を。」
「いや、当家で詮議する。娘、ついて参れ。」
「えっ。」
少年は、私を見て少し笑った。
「奥方、剣に手をかけてるが、抜くで無い。屋敷には貴族は私しかいない。やんちゃで暴れなければ、心身共に無傷でお返ししよう。来週にも、中央学院に通われる息子さんにでも迎えに来させるといい。フランドル公爵家の中屋敷は、中央学院の近所にある。中央学院の衛士に聞けばわかるだろう。では、失礼する。」
少年は、そう言うとキャビンに戻り、私は、騎士に掴まれて、御者台に乗せられた。
「大丈夫だよ。うちの旦那様は若いが、貴族にしてはまともだから。」
如何にも優しそうな御者のおじいさんが、一言だけ小声でかけてくれたが、後は無言で進んでいった。
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しばらく馬車に乗り、いくつもの門を越えて、馬車に乗っていると、途轍もなく大きな建物の前にきた。
「ここが帝国中央学院だよ。」
御者さんが教えてくれた。巨大な門に、少し先は20階建位の高い白亜のお城とビルの中間位な建物がドンとあり、周りにも巨大な建物が並び、前世で言う武道館の様な建物も複数ある。
「区画の四分の一がアルカディア帝国が誇る、最高学府帝国中央学院だよ。その周りに、上級貴族が家族を学院委通わせる為に作った屋敷や、生徒や教師のの為の商店等あり、騎士学院、
魔道学院等もこの区画にある。この第2階層第12区は、別名ば文教区と言われているんだ。もうすぐ、フランドル公爵家のお屋敷だ。」
また少し走らすと、巨大な門があった
「ここが中央学院の正門だよ。すぐそこを曲がると、貴族館街だ、基本中央学院は全寮制だが、主要貴族12家のみ貴族館街に屋敷を持っている。貴族のだれも住んでない館も多いがね。その二つ先の隣の通りが商店街だ、最近、主要商会の支店が並んでいる。」
そういえば、ルーベック鍛冶商店も店舗を出して、提携3商会が進出するまで、代理販売始めたとか言ってたわね。お兄ちゃんはあの学校の寮の中だし、助けて・・・無理だろうな。何されるかわからないけど、早く迎えに来てッてっ感じだね。不安感はありつつも、馬車に乗りながら冷静になりつつ、いくつかの疑問が浮かんだ。
・騎士さんが、木の板って言っていたが、それに何故か納得いっていないようだった。
・攻略本を触っていて、何故か指が動いていた。
・何故かお兄ちゃんのことを知っていた。
その答えは1つしかない。あの少年フランドル公爵家の少年は、攻略本が見えており、操作出来ているという事だ。
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フランドル公爵家
アルカディア帝国建国神話に出てくる魔王討伐6英雄の一人、剣聖バレンタイン・フランドルを始祖とする、剣神フランドル様の名を姓に頂いた帝国屈指の武の名家。
帝国西部フランドル地方を領有する大貴族であり、領軍は中規模国1国を超えるとまで言われる。
代々公爵は、剣聖の名を継ぐ者がなっており、ゲームでも剣聖の継承者となる、フレア・フランドル公太子が登場した、超ツンデレ系イケメンで、3大人気キャラの一人だった。
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確か3歳の洗礼で、剣神フランドル様の加護を受け、聖剣を神具で頂き、他の兄弟達を除き公太子になったはず。彼は、その兄弟たちの一人だったのか。兄弟たちの名前なんて出てきた記憶は無いが、何故彼に見えているのだろう。
そんな疑問を抱きつつ、馬車は大きなお庭のある館についた。
「ここだ。本館の入口で旦那様を降ろしてから、離れで、君を降ろそう。」
本館の入口で、少年と騎士は降りていき、私は隣の離れに降ろされた。
「疲れたか?この館は公爵家の方々が中央学院に通う際の館となっている。旦那様には兄弟がいるが、皆さんまだ領地にいらっしゃる。旦那様はとある事情で一人帝都におられるが、私からお話しできる内容でないので、すまんな。入って中のメイドさんに話しておくので、その娘に従ってくれ。」
「はい。」
私は、御者さんに答えて、馬車を降りた。
「小さいのに、一人で降りれるのか。」
「いつも市場について行ってましたから。」
御者さんは、離れの玄関に入り、妙齢のメイドさんを呼んできた。
「私は、アリア。ここのメイド長です。話は聞きましたので、旦那様がお呼びになるまで、客間でお待ちいただきます。こちらへ」
そう、アリアさんが私を促した。私は、御者さんがの方を向いて
「ありがとうございました。私はジェシカです。」
「バーレールだ。力になれるか分からんが、何かあれば声をかけてくれ。」
「そのようにならないと祈っていますが、その時はよろしくお願いします。」(ニコッ)
バーレールさんは、一瞬顔を緩ませ
「そうなると良いな。ではな。」
そう言って、出て行った。
「行きますわよ。」
私は、アリアさんに無言で付いていき、客間に通された。
「こちらでお待ちください。お飲み物等は後でお持ちしま「アリア殿」」
後ろから、若い騎士さんが声をかけてきた。
「閣下が、直ぐに、そのお嬢さんとお会いになるそうだ、本館の謁見の間に一緒に。」
「そうなの、ジェシカさん。旦那様は、せっかちさんでごめんなさいね。あなたと同じでお子様なので。今から向かいますわよ。」
「すまぬな。」
そう言うと、客間と反対側に向かい、回廊を通って本館に向かった。綺麗で、歴史ある石造りの建物だが、全体的に人が少なく寂しい感じがした。5分程歩き本館の3階に上がった。そこには大きな扉があった。
「開けるぞ。良いか。」
「はい。」
騎士さんの言葉に、私は、短く答えた。
「真っすぐ歩いて、段の手前で立ち止まり、頭を下げるのだ。」
「はい。」
私は、騎士さんについて謁見の間に入り、真っすぐ歩き階段の前で立ち止まり、騎士さんに倣って頭を下げた。
「おもてをあげよ」
私が顔をあげると、玉座の様な豪奢な椅子に、一人の少年が座っていた。周りには4人の剣を携えた青年達が並んで今にも斬りかかるかの様に睨んでいる。
「名前は何と申すか。」
少年は、私に向かってゆっくりと重い声で語りかけた。
「わ、私の名前は、ジェシカと申します。平民ですので家名はございません。」
「ジェシカか・・・。」
少年は手に持った板状の魔道具を眺めながら少し考えこんでいた。板を少し弄り
「ロバート、他の者を連れこの部屋から出よ。二人きりで話がしたい。」
「閣下・・・。ですが、御身に何かあれば・・・。」
青年達の中でも最も歳が高い隊長格の男が少年に意見した。その意見を聞き、少年は苛立った様に
「うるさい。私はこれでも、フランドル公爵家の直系である。同じくらいの娘に殺されるなら、生きていく価値すらない。良いから出ていくがいい。」
「閣下・・・・・。畏まりました。隣室に控えておりますので、何かあればすぐにお呼びください。」
「わかった。」
そう言うと、トボトボと部屋にいた青年たちが出て行った。
目の前の少年は、フランドル公爵家の直系と名乗っていた。フランドル公爵家と言えば、誰もが知る武門の誉れ高い帝国4大貴族の一つ。また、閣下と呼ばれているということは、既に爵位を得ていという事だ。相手は、大貴族の直系それも爵位を持っている本物貴族。今の状況では私の生殺与奪は彼の手にある。無事に返してくれると言ったものの、どこまで信じていいかわからない。それが貴族だ。
「でだ・・・。ジェシカだったか、近くまで来い」
彼は、私を近くに呼び寄せた・・・。
私は、恐怖を感じつつゆっくり彼の元に向かった・・・。
「で、これはなんだ?」
閣下と呼ばれた(超可愛い)少年は、私を強い目で見つめながら、手に持った神具を差し出して、本来彼には見えないはずの画面を指指して。彼には画面が見えているのだ、しかもアイルお兄ちゃんともみ合う前とは明らかに違う画面になっている。操作もしているとみて間違いないだろう。私はとりあえず、事実を確認をしてから対応を考える事とした。
「やっぱり、見えてるんですか?」
「やっぱり?見えてる?」
やっぱり見えているか。私の小声での言葉に、小声で返してきた。この少年は、閣下と呼ばれ、気は張っているが、素直で良い子そうだ。これは少し揺さぶってみよう。
「これは、私がカグラ様から頂いた神具です。普通の人には見えませんが、閣下はその一定の人です。」
「一定の人か、私は選ばれた。「条件は、能力とか血とはとは関係ないのですが・・」」
「そうか。」
少年は、少し悲しげだった。少し上げて、即下げるのは、怒られにくい手でよく使ったが、簡単にはまった。可愛い子の悲しげな顔も少し惹かれるものはあるが、やり過ぎると本当に怒られ命に関わるので、様子を見つつ、状態コントロールして行く。
「これは、簡単に言うと情報を調べる神具です。調べられるものには限度はありますが、ある程度までなら調べられます。操作しますので、お返し頂けますか?」
「ああ。」
少年は素直に渡してきた。チョロい。私が受け取って、何かする警戒感ないのか?まあ、子供だし、しょうがないが。
「こうやって、サッサッサーっと。出ました。閣下のお名前は、アレックス、9歳。フランドル公爵家の次男で、子爵にあらせられる。また、第三皇子リーディング殿下のご学友であられて、剣神フランドル様の注目、いや、ご加護が無く、公爵家の家督争いから離脱された。神具は、小刀。」
「くー。何故知ってる。」
加護が無くと言った瞬間少年は、泣きそうになった。加護が無いのがトラウマなんだろう。注目されてるから、それなりに優秀だし、ステータスも中々高い。それにしても、泣きそうな顔も可愛い。9歳だから、ゲーム開始時には卒業していて、名前だけキャラだったのね。リーディング様は出てきたけど、暗くて人気なかったな。フレア様のお兄さんなら、かっこよく成長するのだろうな~。今は可愛いお子ちゃまだけどね。そんなことより、この場を打開する情報を引き出さないと。
「この神具の機能はそんなものです。」
「そうか、すごいなぁ。」
「で、何か知りたいことは。」
「あぁ。これはな、ジェシカの区画に行った理由でもあるが、マイスタールーベックに、剣を作って欲しいんだ。僕は早く強くなりたいんだ。あれだけの鍛冶屋を作った大マイスターなら、強い武器を作ってくれるんじゃないかと思い工房に行ってみた。でも行ったらいなかった。どこにいるか調べて欲しい。」
は?バカ?子供?って子供か。武器を強くしただけで強くなるなんて、ゲームの世界の話。実際は、武器より、それを使いこなす腕の方が重要だ。まだ、分かんないだろうな~。後、ルーベックさんは、マイスターとして一流だけど、多分公爵家最高の鍛冶師には負ける気がする。最近そんなに打ってなくて、なまってるって言ってたし。
「鍛冶師ですか、ルーベックさんでなく、公爵家様のお抱え鍛冶師様では?」
「奴らか?奴らは色々ダメなんだ。」
「アレックス閣下、理由がわかればルーベックさんを紹介出来ます。だから教えて下さい。」
アレックス少年は、狼狽した様子で私を見た。
「紹介できる?」
「はい。ルーベックさんは、私のお兄ちゃんの師匠です。私も少し教わったことあります。商会で最もいい鍛冶師を紹介して貰う事も出来ますし、ルーベックさんに時間を作って貰う事も出来ます。ルーベックさんのことだから、私が連れ去られて心配されてるでしょう。こんなことを言って申し訳ないですが、私を連れ去ったアレックス閣下が頼みに行っても、いい返事をされるとは思いません。」
アレックス少年の顔が曇る。単純に、攻略本を見て気になったから連れてきたんだろうけど、それが仇になってる事に、もう少し締め付けて、理由を言わせようか。悲嘆に暮れる子供の顔は可愛くないけど、人を拉致った事を反省してもらわないとね。
「閣下、想像して下さい。閣下の剣の師匠は、弟子を連れ去ったよく知らない剣士を、喜んで弟子になさいますか?閣下の勉学の師匠は、弟子を連れ去ったよく知らない学者に、喜んで自分の知識を渡そうと思いますか?仮に、閣下の貴族としての権力で剣を作らせたとしても、所詮人のする事です。最高の仕事なんぞするわけがないです。閣下はそれでもルーベックさんにお願いして、武器を作ってもらえるとお思いですか?」
ゆっくり紡いだ私の言葉は、アレックス少年の傷に塩を擦り込む様に、確実に痛めつけていた。話終えた時には、アレックス少年は、静かに宙を眺めている。反省したかな?そろそろ良いかな?
「でも、まだ挽回出来ます。閣下が何故剣が欲しいか教えて下さい。」
「ああ、長くなるが良いか?」
私が頷くと、少年は、ゆっくりと語ってくれた。
「僕は、アレックス。フランドル公爵家の次男で、子爵だ。また、第三皇子リーディング殿の学友でもある。本来、フランドル公爵家は中立を守る為、直系が学友になることはなかった。僕は、剣の才能に乏しく、フランドル様の加護も頂けなかった。その為か、弟のフレアが加護を受け、その中でも特出した才能を示した時、フレアを公太子に、兄を予備として家に残し、僕を早々に国への人質として、帝都に残る皇子のご学友にしたんだ。6歳で帝都に来て3年間。死ね思いで修行してきたが、もう耐えられない。当家では、僕の様な才能のない奴は、結果を出さないと認められない。だから、二カ月後の騎士見習い試験に出て、結果を残すしかないのだ。この歳で無謀なのはわかってる。その可能性を少しでもあげるために、私に合った武器を公爵家の力を借りずに手に入れたかったんだ。」
アレックス少年は、泣きながら、滔々と私に語った。ある種のネグリクトに複雑骨折した感じか。こんな可愛い子を泣かせとく訳にいかないしな~。しゃーない、手伝ってやるか。
「アレックス閣下。予算はどの位で、子爵として、領地とかは?」
「予算。うーん。領地は無いが、恩給がある。生活費は国と公爵家持ちだから、3年分6千万ゴールド位だ。」
あらまあ、リッチなこと。子爵って役なしだと、年2000万ゴールドか。付き合いコストは辛そうだけど、リスク取ってビジネスするには、良いバッフーだね。普通の武器を買うには余裕ありまくりだが、良い魔法剣だとギリギリか。手伝ってやるかな?
「ルーベックさんに頼んで、ミシガンさんと、ダイアンお兄ちゃんに打ってもらって、魔法剣の部分は…大丈夫かな?」
「頼んで貰えるのか?」
「でも、お金使い過ぎちゃうと困るでしょう。鎧とか、独立後のお金とか。」
「お金は、ルーベックさん持ちで、アレックス閣下の名前を貸してくれませんか?」
「名前?」
前世で、ゲームとして人気をはくした要素として、恋愛シミュレーションなのに、冒険と、商業、開発のやり込み要素がある。開発は、領地持ちの貴族と恋愛関係になった時、商業は商人か貴族と恋愛関係になった時に、彼氏を助ける要素として出来る様になる。その中で、貴族の爵位によって、貴族しか出来ない事がある。これは、以前攻略本でも確認したのだが、法律で同じ様なルールが決まっている。子爵で出来るのは、直轄領の未発見や鉱山開発と、迷宮探索。鉱山は一山2億ゴールドで10年。迷宮探索は、20キロ四方で1億ゴールドで10年。共に未発見か、廃坑のみ。私の狙いは、攻略本を使った、廃坑再開発。廃坑リストで、残鉱物量が資源別に検索出来る。腕のいい山師もリストアップ出来る。この機能を使えば幾らでも成功できる。名前貸しで貴族が稼ぐのもありがちな事で、数千万ゴールドなら、文句はないだろう。でも、まあ、もう少し分けてやるか。
「共同で商会を作るので、サインをいくつか貰うだけで、名前料の一部を出資額にします。資金負担無しで、商会の権利の10%をお渡しします。利益も10%お渡しします。儲れば貰い物、損はしませんがどうしますか?」
「良い条件だが、ジェシカ、君に決めることは出来るのか?」
あっ気づいちゃったー?適当に言い訳っと。
「以前、ルーベックさんの商会が小さい時に、掘りたい山があるけど、権利が取れないからなぁ。コスト持つし、権利の一部は渡すけど、ととある貴族に持ちかけたところ、小さい商会なので断られたって言ってましたから、10%位なら大丈夫だと思いますよ。」
「そうか、それにしても、ジェシカは6歳なのによく知ってるな。」
「うちも、商会だから。」
「そうか。頼もう。」
「じゃあ、帰って。」
と言ってとっとと帰えして貰おうと思ったが、
「ダメだ。ルーベックさんに会えるまでは。」
「えっ。それって人質?」
「僕は、明日から五日間、殿下のご学友として、皇宮に行くので、その間に段取りを取れ。手紙は幾らでも書いて構わないし、離れに人を招くことも構わない。離れの客室を使うといい。客分として遇そう。」
「えー。」
私が不満顔になると、アレックス少年は、笑顔になり。
「ロバート。」
「はっ。」
騎士達とアリアさんが入ってきた。
「話はついた。私は明日朝から皇宮に戻るが、その間に、彼女がルーベックと面談の調整をしてくれるらしい。ロバート達も明日から皇宮だが、1人、うーん、バリモアを残していき、アリアと共に連絡を手伝わせろ。離れに住まわせる。客が来るなら、離れを使わせろ。」
「はっ。」
「ジェシカ。急ぎの用があれば、バリモアが皇宮に繋げる。書類がいるなら、帰ってからになる。最低2週間は留まって貰う。君のお兄さんと会うのであれば、は平日にしてくれ。バリモアは中央学院の出入りも出来るからな。」
「えー。」
「えーじゃない。以上だ。」
私は、アレックス少年が、私にしてやったりと思ってるんだろうなと思いつつ、とりあえず、手紙の内容を考えながら、離れの客室に向かった。
「えっ?」
アイルお兄ちゃんは、急に私に言ってきた。
「鑑定板って、見た目ただの板だろ。それが何で利用者だけ見えるか研究したいんだ。僕は、将来モンティ魔道具商会の、魔道具学校に入って、魔道具師として、先月発表された職人商会共同研究所の研究員を目指してるんだ。だから、参考に見せてくれよ。」
えっ。共同研究所って、ぶっちゃけ、私のものだから、所長でも何でもならせてあげられるけど、研究って色々弄られて、もしも、攻略本がバレたら大変な事になるから、断らないと。
「やだよ。私の大事な神具を弄るなんて、カグラ様に怒られちゃうわよ。絶対ダメ。」
「そうか、わかったよ。」
そう、その時は、アイルお兄ちゃんが納得してくれたと思った。数日後、何も経過しせず、お昼寝の後、今週ある来年度入学する市民学校のクラス分けテストに向けて部屋で攻略本を弄って、属性魔法の勉強をしていた。集中して周りの音が耳に入ってこない位。
ドン
突然扉が開くと、アイルお兄ちゃんが入ってきて、私の手元から、攻略本を取りあげた。
「ちょっと借りるね。」
「いやー。」
私から攻略本を取りあげたお兄ちゃんだがらちゃんと掴めてなく、お手玉状態だ。私も、咄嗟にお兄ちゃんに詰め寄る。お兄ちゃんは、私を向きながら、お手玉状態で、後ずさりしながら、窓辺に下がった行った。
「返してー。」
私は、後ずさりするお兄ちゃんの足に蹴りを入れた。ようやく攻略本を掴んだお兄ちゃんは、足を蹴られて、頭から後ろに倒れていった。
「あっ。」
お兄ちゃんは、そのまま後ろに倒れて、そこには開いた窓があった。窓のさんに腕を当て、その痛みで、私の攻略本を離してしまった。
「いた。「嘘。」」
腕を押さえたお兄ちゃんを押しのけ、落ちていく窓の外の大通りを見ると、ちょうど落ちていくところに、馬に乗る騎士を前後に連れた豪華な馬車があった。
「やばい。」
私は、急いで、階段を駆け下りていった。
「この板を、馬車めがけて落とした奴をすぐ出せ。」
「いや、うちの「あの窓から落ちて来たことは、見るからにわかるだろう」、いや。」
私が駆け下りていくと、お父さんが、騎士達に囲まれて、1人の騎士に胸ぐらを掴まれていた。
「お父さん。」
「ジェシカ。逃げろ。」
お父さんが、逃がそうと瞬間には、騎士の2人が私を取り囲んでいた。
「お嬢ちゃんかな?」
「えっ。」
「ちょっと来てくれるかな?」
「いや。」
私は、騎士さん2人に持ち上げられて、馬車のキャビンの前に連れていかれた。
「ジェシカ。」
「煩い。」
騎士は、お父さんの首筋に手刀を落とし、お父さんの意識を一瞬で奪った。
一応B級冒険者のお父さんを手刀一発で意識を奪った騎士は、相当な手練れだ。脇から見ていたお母さんも、武器を置いた。
「閣下、よろしいでしょうか。」
「なんだ。」
そう言って、キャビンから出て来たのは、見るからに貴族っぽい、少し派手な服を着た、8、9の少年だった。金髪の超イケメン予備軍の可愛らしい顔をしている。
「閣下、この者が、馬車に木の板をぶつけて来ました。」
「この娘が?」
少年は、訝しげな顔で私を見た。
「こちらが、木の板です。」
少年は、隊長っぽい、30位のあご髭を持つ騎士から木の板を受けとった。
「うん?」
少年は、眉にしわを寄せた。
「木の板?」
「木の板です。閣下この者をどうしましょう。首を刎ねますか?」
騎士に聞かれた少年は、
「木の板ねえ。ロバート、本気で言ってるのか?」
「は?当家に木の板を投げる等、命を狙うのと同義。」
「いや。まあいいか。ロバート、貴方は私を、皆んなの笑い者にしたいのか?」
少年は、凛とした顔で、騎士を見た。
「いえ。不敬であり、当家に対する。」
「ロバート、貴方の言う木の板で、当家に傷一つつけることなど出来ません。我がフランドル公爵家は、武の系譜。仮に当家に仇を成すのであれば、一軍を持って成すもの。たかだか町娘が1人で私に傷一つつけられるものなら、私の不徳。気にする必要も無い。しかも、この歳で、当家の家紋もわかるまい。捨て置け。」
「はっ、ロバート、閣下の成長に感服しました。」
「試したか?」
「如何にも。」
「「ハッハッハッハー」」
なんか下手な寸劇を見ている様だった。助かった~と思った矢先
「だがな、少し気になることがある。」
「閣下。何を。」
「いや、当家で詮議する。娘、ついて参れ。」
「えっ。」
少年は、私を見て少し笑った。
「奥方、剣に手をかけてるが、抜くで無い。屋敷には貴族は私しかいない。やんちゃで暴れなければ、心身共に無傷でお返ししよう。来週にも、中央学院に通われる息子さんにでも迎えに来させるといい。フランドル公爵家の中屋敷は、中央学院の近所にある。中央学院の衛士に聞けばわかるだろう。では、失礼する。」
少年は、そう言うとキャビンに戻り、私は、騎士に掴まれて、御者台に乗せられた。
「大丈夫だよ。うちの旦那様は若いが、貴族にしてはまともだから。」
如何にも優しそうな御者のおじいさんが、一言だけ小声でかけてくれたが、後は無言で進んでいった。
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しばらく馬車に乗り、いくつもの門を越えて、馬車に乗っていると、途轍もなく大きな建物の前にきた。
「ここが帝国中央学院だよ。」
御者さんが教えてくれた。巨大な門に、少し先は20階建位の高い白亜のお城とビルの中間位な建物がドンとあり、周りにも巨大な建物が並び、前世で言う武道館の様な建物も複数ある。
「区画の四分の一がアルカディア帝国が誇る、最高学府帝国中央学院だよ。その周りに、上級貴族が家族を学院委通わせる為に作った屋敷や、生徒や教師のの為の商店等あり、騎士学院、
魔道学院等もこの区画にある。この第2階層第12区は、別名ば文教区と言われているんだ。もうすぐ、フランドル公爵家のお屋敷だ。」
また少し走らすと、巨大な門があった
「ここが中央学院の正門だよ。すぐそこを曲がると、貴族館街だ、基本中央学院は全寮制だが、主要貴族12家のみ貴族館街に屋敷を持っている。貴族のだれも住んでない館も多いがね。その二つ先の隣の通りが商店街だ、最近、主要商会の支店が並んでいる。」
そういえば、ルーベック鍛冶商店も店舗を出して、提携3商会が進出するまで、代理販売始めたとか言ってたわね。お兄ちゃんはあの学校の寮の中だし、助けて・・・無理だろうな。何されるかわからないけど、早く迎えに来てッてっ感じだね。不安感はありつつも、馬車に乗りながら冷静になりつつ、いくつかの疑問が浮かんだ。
・騎士さんが、木の板って言っていたが、それに何故か納得いっていないようだった。
・攻略本を触っていて、何故か指が動いていた。
・何故かお兄ちゃんのことを知っていた。
その答えは1つしかない。あの少年フランドル公爵家の少年は、攻略本が見えており、操作出来ているという事だ。
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フランドル公爵家
アルカディア帝国建国神話に出てくる魔王討伐6英雄の一人、剣聖バレンタイン・フランドルを始祖とする、剣神フランドル様の名を姓に頂いた帝国屈指の武の名家。
帝国西部フランドル地方を領有する大貴族であり、領軍は中規模国1国を超えるとまで言われる。
代々公爵は、剣聖の名を継ぐ者がなっており、ゲームでも剣聖の継承者となる、フレア・フランドル公太子が登場した、超ツンデレ系イケメンで、3大人気キャラの一人だった。
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確か3歳の洗礼で、剣神フランドル様の加護を受け、聖剣を神具で頂き、他の兄弟達を除き公太子になったはず。彼は、その兄弟たちの一人だったのか。兄弟たちの名前なんて出てきた記憶は無いが、何故彼に見えているのだろう。
そんな疑問を抱きつつ、馬車は大きなお庭のある館についた。
「ここだ。本館の入口で旦那様を降ろしてから、離れで、君を降ろそう。」
本館の入口で、少年と騎士は降りていき、私は隣の離れに降ろされた。
「疲れたか?この館は公爵家の方々が中央学院に通う際の館となっている。旦那様には兄弟がいるが、皆さんまだ領地にいらっしゃる。旦那様はとある事情で一人帝都におられるが、私からお話しできる内容でないので、すまんな。入って中のメイドさんに話しておくので、その娘に従ってくれ。」
「はい。」
私は、御者さんに答えて、馬車を降りた。
「小さいのに、一人で降りれるのか。」
「いつも市場について行ってましたから。」
御者さんは、離れの玄関に入り、妙齢のメイドさんを呼んできた。
「私は、アリア。ここのメイド長です。話は聞きましたので、旦那様がお呼びになるまで、客間でお待ちいただきます。こちらへ」
そう、アリアさんが私を促した。私は、御者さんがの方を向いて
「ありがとうございました。私はジェシカです。」
「バーレールだ。力になれるか分からんが、何かあれば声をかけてくれ。」
「そのようにならないと祈っていますが、その時はよろしくお願いします。」(ニコッ)
バーレールさんは、一瞬顔を緩ませ
「そうなると良いな。ではな。」
そう言って、出て行った。
「行きますわよ。」
私は、アリアさんに無言で付いていき、客間に通された。
「こちらでお待ちください。お飲み物等は後でお持ちしま「アリア殿」」
後ろから、若い騎士さんが声をかけてきた。
「閣下が、直ぐに、そのお嬢さんとお会いになるそうだ、本館の謁見の間に一緒に。」
「そうなの、ジェシカさん。旦那様は、せっかちさんでごめんなさいね。あなたと同じでお子様なので。今から向かいますわよ。」
「すまぬな。」
そう言うと、客間と反対側に向かい、回廊を通って本館に向かった。綺麗で、歴史ある石造りの建物だが、全体的に人が少なく寂しい感じがした。5分程歩き本館の3階に上がった。そこには大きな扉があった。
「開けるぞ。良いか。」
「はい。」
騎士さんの言葉に、私は、短く答えた。
「真っすぐ歩いて、段の手前で立ち止まり、頭を下げるのだ。」
「はい。」
私は、騎士さんについて謁見の間に入り、真っすぐ歩き階段の前で立ち止まり、騎士さんに倣って頭を下げた。
「おもてをあげよ」
私が顔をあげると、玉座の様な豪奢な椅子に、一人の少年が座っていた。周りには4人の剣を携えた青年達が並んで今にも斬りかかるかの様に睨んでいる。
「名前は何と申すか。」
少年は、私に向かってゆっくりと重い声で語りかけた。
「わ、私の名前は、ジェシカと申します。平民ですので家名はございません。」
「ジェシカか・・・。」
少年は手に持った板状の魔道具を眺めながら少し考えこんでいた。板を少し弄り
「ロバート、他の者を連れこの部屋から出よ。二人きりで話がしたい。」
「閣下・・・。ですが、御身に何かあれば・・・。」
青年達の中でも最も歳が高い隊長格の男が少年に意見した。その意見を聞き、少年は苛立った様に
「うるさい。私はこれでも、フランドル公爵家の直系である。同じくらいの娘に殺されるなら、生きていく価値すらない。良いから出ていくがいい。」
「閣下・・・・・。畏まりました。隣室に控えておりますので、何かあればすぐにお呼びください。」
「わかった。」
そう言うと、トボトボと部屋にいた青年たちが出て行った。
目の前の少年は、フランドル公爵家の直系と名乗っていた。フランドル公爵家と言えば、誰もが知る武門の誉れ高い帝国4大貴族の一つ。また、閣下と呼ばれているということは、既に爵位を得ていという事だ。相手は、大貴族の直系それも爵位を持っている本物貴族。今の状況では私の生殺与奪は彼の手にある。無事に返してくれると言ったものの、どこまで信じていいかわからない。それが貴族だ。
「でだ・・・。ジェシカだったか、近くまで来い」
彼は、私を近くに呼び寄せた・・・。
私は、恐怖を感じつつゆっくり彼の元に向かった・・・。
「で、これはなんだ?」
閣下と呼ばれた(超可愛い)少年は、私を強い目で見つめながら、手に持った神具を差し出して、本来彼には見えないはずの画面を指指して。彼には画面が見えているのだ、しかもアイルお兄ちゃんともみ合う前とは明らかに違う画面になっている。操作もしているとみて間違いないだろう。私はとりあえず、事実を確認をしてから対応を考える事とした。
「やっぱり、見えてるんですか?」
「やっぱり?見えてる?」
やっぱり見えているか。私の小声での言葉に、小声で返してきた。この少年は、閣下と呼ばれ、気は張っているが、素直で良い子そうだ。これは少し揺さぶってみよう。
「これは、私がカグラ様から頂いた神具です。普通の人には見えませんが、閣下はその一定の人です。」
「一定の人か、私は選ばれた。「条件は、能力とか血とはとは関係ないのですが・・」」
「そうか。」
少年は、少し悲しげだった。少し上げて、即下げるのは、怒られにくい手でよく使ったが、簡単にはまった。可愛い子の悲しげな顔も少し惹かれるものはあるが、やり過ぎると本当に怒られ命に関わるので、様子を見つつ、状態コントロールして行く。
「これは、簡単に言うと情報を調べる神具です。調べられるものには限度はありますが、ある程度までなら調べられます。操作しますので、お返し頂けますか?」
「ああ。」
少年は素直に渡してきた。チョロい。私が受け取って、何かする警戒感ないのか?まあ、子供だし、しょうがないが。
「こうやって、サッサッサーっと。出ました。閣下のお名前は、アレックス、9歳。フランドル公爵家の次男で、子爵にあらせられる。また、第三皇子リーディング殿下のご学友であられて、剣神フランドル様の注目、いや、ご加護が無く、公爵家の家督争いから離脱された。神具は、小刀。」
「くー。何故知ってる。」
加護が無くと言った瞬間少年は、泣きそうになった。加護が無いのがトラウマなんだろう。注目されてるから、それなりに優秀だし、ステータスも中々高い。それにしても、泣きそうな顔も可愛い。9歳だから、ゲーム開始時には卒業していて、名前だけキャラだったのね。リーディング様は出てきたけど、暗くて人気なかったな。フレア様のお兄さんなら、かっこよく成長するのだろうな~。今は可愛いお子ちゃまだけどね。そんなことより、この場を打開する情報を引き出さないと。
「この神具の機能はそんなものです。」
「そうか、すごいなぁ。」
「で、何か知りたいことは。」
「あぁ。これはな、ジェシカの区画に行った理由でもあるが、マイスタールーベックに、剣を作って欲しいんだ。僕は早く強くなりたいんだ。あれだけの鍛冶屋を作った大マイスターなら、強い武器を作ってくれるんじゃないかと思い工房に行ってみた。でも行ったらいなかった。どこにいるか調べて欲しい。」
は?バカ?子供?って子供か。武器を強くしただけで強くなるなんて、ゲームの世界の話。実際は、武器より、それを使いこなす腕の方が重要だ。まだ、分かんないだろうな~。後、ルーベックさんは、マイスターとして一流だけど、多分公爵家最高の鍛冶師には負ける気がする。最近そんなに打ってなくて、なまってるって言ってたし。
「鍛冶師ですか、ルーベックさんでなく、公爵家様のお抱え鍛冶師様では?」
「奴らか?奴らは色々ダメなんだ。」
「アレックス閣下、理由がわかればルーベックさんを紹介出来ます。だから教えて下さい。」
アレックス少年は、狼狽した様子で私を見た。
「紹介できる?」
「はい。ルーベックさんは、私のお兄ちゃんの師匠です。私も少し教わったことあります。商会で最もいい鍛冶師を紹介して貰う事も出来ますし、ルーベックさんに時間を作って貰う事も出来ます。ルーベックさんのことだから、私が連れ去られて心配されてるでしょう。こんなことを言って申し訳ないですが、私を連れ去ったアレックス閣下が頼みに行っても、いい返事をされるとは思いません。」
アレックス少年の顔が曇る。単純に、攻略本を見て気になったから連れてきたんだろうけど、それが仇になってる事に、もう少し締め付けて、理由を言わせようか。悲嘆に暮れる子供の顔は可愛くないけど、人を拉致った事を反省してもらわないとね。
「閣下、想像して下さい。閣下の剣の師匠は、弟子を連れ去ったよく知らない剣士を、喜んで弟子になさいますか?閣下の勉学の師匠は、弟子を連れ去ったよく知らない学者に、喜んで自分の知識を渡そうと思いますか?仮に、閣下の貴族としての権力で剣を作らせたとしても、所詮人のする事です。最高の仕事なんぞするわけがないです。閣下はそれでもルーベックさんにお願いして、武器を作ってもらえるとお思いですか?」
ゆっくり紡いだ私の言葉は、アレックス少年の傷に塩を擦り込む様に、確実に痛めつけていた。話終えた時には、アレックス少年は、静かに宙を眺めている。反省したかな?そろそろ良いかな?
「でも、まだ挽回出来ます。閣下が何故剣が欲しいか教えて下さい。」
「ああ、長くなるが良いか?」
私が頷くと、少年は、ゆっくりと語ってくれた。
「僕は、アレックス。フランドル公爵家の次男で、子爵だ。また、第三皇子リーディング殿の学友でもある。本来、フランドル公爵家は中立を守る為、直系が学友になることはなかった。僕は、剣の才能に乏しく、フランドル様の加護も頂けなかった。その為か、弟のフレアが加護を受け、その中でも特出した才能を示した時、フレアを公太子に、兄を予備として家に残し、僕を早々に国への人質として、帝都に残る皇子のご学友にしたんだ。6歳で帝都に来て3年間。死ね思いで修行してきたが、もう耐えられない。当家では、僕の様な才能のない奴は、結果を出さないと認められない。だから、二カ月後の騎士見習い試験に出て、結果を残すしかないのだ。この歳で無謀なのはわかってる。その可能性を少しでもあげるために、私に合った武器を公爵家の力を借りずに手に入れたかったんだ。」
アレックス少年は、泣きながら、滔々と私に語った。ある種のネグリクトに複雑骨折した感じか。こんな可愛い子を泣かせとく訳にいかないしな~。しゃーない、手伝ってやるか。
「アレックス閣下。予算はどの位で、子爵として、領地とかは?」
「予算。うーん。領地は無いが、恩給がある。生活費は国と公爵家持ちだから、3年分6千万ゴールド位だ。」
あらまあ、リッチなこと。子爵って役なしだと、年2000万ゴールドか。付き合いコストは辛そうだけど、リスク取ってビジネスするには、良いバッフーだね。普通の武器を買うには余裕ありまくりだが、良い魔法剣だとギリギリか。手伝ってやるかな?
「ルーベックさんに頼んで、ミシガンさんと、ダイアンお兄ちゃんに打ってもらって、魔法剣の部分は…大丈夫かな?」
「頼んで貰えるのか?」
「でも、お金使い過ぎちゃうと困るでしょう。鎧とか、独立後のお金とか。」
「お金は、ルーベックさん持ちで、アレックス閣下の名前を貸してくれませんか?」
「名前?」
前世で、ゲームとして人気をはくした要素として、恋愛シミュレーションなのに、冒険と、商業、開発のやり込み要素がある。開発は、領地持ちの貴族と恋愛関係になった時、商業は商人か貴族と恋愛関係になった時に、彼氏を助ける要素として出来る様になる。その中で、貴族の爵位によって、貴族しか出来ない事がある。これは、以前攻略本でも確認したのだが、法律で同じ様なルールが決まっている。子爵で出来るのは、直轄領の未発見や鉱山開発と、迷宮探索。鉱山は一山2億ゴールドで10年。迷宮探索は、20キロ四方で1億ゴールドで10年。共に未発見か、廃坑のみ。私の狙いは、攻略本を使った、廃坑再開発。廃坑リストで、残鉱物量が資源別に検索出来る。腕のいい山師もリストアップ出来る。この機能を使えば幾らでも成功できる。名前貸しで貴族が稼ぐのもありがちな事で、数千万ゴールドなら、文句はないだろう。でも、まあ、もう少し分けてやるか。
「共同で商会を作るので、サインをいくつか貰うだけで、名前料の一部を出資額にします。資金負担無しで、商会の権利の10%をお渡しします。利益も10%お渡しします。儲れば貰い物、損はしませんがどうしますか?」
「良い条件だが、ジェシカ、君に決めることは出来るのか?」
あっ気づいちゃったー?適当に言い訳っと。
「以前、ルーベックさんの商会が小さい時に、掘りたい山があるけど、権利が取れないからなぁ。コスト持つし、権利の一部は渡すけど、ととある貴族に持ちかけたところ、小さい商会なので断られたって言ってましたから、10%位なら大丈夫だと思いますよ。」
「そうか、それにしても、ジェシカは6歳なのによく知ってるな。」
「うちも、商会だから。」
「そうか。頼もう。」
「じゃあ、帰って。」
と言ってとっとと帰えして貰おうと思ったが、
「ダメだ。ルーベックさんに会えるまでは。」
「えっ。それって人質?」
「僕は、明日から五日間、殿下のご学友として、皇宮に行くので、その間に段取りを取れ。手紙は幾らでも書いて構わないし、離れに人を招くことも構わない。離れの客室を使うといい。客分として遇そう。」
「えー。」
私が不満顔になると、アレックス少年は、笑顔になり。
「ロバート。」
「はっ。」
騎士達とアリアさんが入ってきた。
「話はついた。私は明日朝から皇宮に戻るが、その間に、彼女がルーベックと面談の調整をしてくれるらしい。ロバート達も明日から皇宮だが、1人、うーん、バリモアを残していき、アリアと共に連絡を手伝わせろ。離れに住まわせる。客が来るなら、離れを使わせろ。」
「はっ。」
「ジェシカ。急ぎの用があれば、バリモアが皇宮に繋げる。書類がいるなら、帰ってからになる。最低2週間は留まって貰う。君のお兄さんと会うのであれば、は平日にしてくれ。バリモアは中央学院の出入りも出来るからな。」
「えー。」
「えーじゃない。以上だ。」
私は、アレックス少年が、私にしてやったりと思ってるんだろうなと思いつつ、とりあえず、手紙の内容を考えながら、離れの客室に向かった。
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