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第三章 アリア
第14話 高速馬車道開通式
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「オーホホホホ。なんかお父様に行けと言われてきてみたら、なんなのここ?」
「イフリート公爵令嬢、今日は公爵閣下の代理ですか?」
「そうよ、アリアさん。だだっ広い道を作って、その開通式って噂さけど、セイレーンって案外無駄なことが出来るだけのお金があるのね。」
「えっ、無駄な事って、」
「何イラついていらっしゃるの。そうそう、助手のスノーさんがテロの被害に遭われたとお聞きしたわ。ご不幸でしたわね。」
「いえ。」
「スノーさんがテロの被害に遭われて、気丈で居られるって、あら、血も涙も無い女ね。そんな女を婚約者にしていたなんて、可哀想なベイスターン王子。」
「いやー。ぼくちんかわいそう。」
と、呼んでもいないベイスターン王子が出てきた。
「王子殿下は、何しにいらしたのですか?」
「アリアの助手がテロの被害に遭ったのを笑いに・・・。」
「そうですか・・・。」
目の下を腫らしているアリアを見て、クスクス笑いながら、二人は席に付いた。その後、ロッチ皇子と、リヒャルト公爵令嬢がやってきた。
「セイレーン公爵令嬢、盛大な会だね、中身はよく聞いていないが。」
「それよりも、セイレーン公爵令嬢、スノーさんは残念だったわね?」
「残念・・・・。」
「気を落とさないでね。」
「はい。ありがとうございます。」
リヒャルト公爵令嬢が、私に優しい言葉をかけて、席についた。
「セイレーン公爵令嬢、知らなかったが、スノーさんが・・・。」
「いえ、殿下が気に病まれる必要はございませんので…。大丈夫ですから。」
「そ、そうか・・・。」
「ありがとうございます。」
殿下を席に促し、来賓がほぼ席に付いたところで、開始の時間となった。演台にお爺様が拡声用の魔道具を持って立った。
「皆様、本日はお集まり頂いてありがとうございます。今回は、詳細を伏したままお集まり頂きましたが、この会を行うまでに、昨日、シルフ公爵家の竹林館テロの犠牲者に哀悼の意を捧げさせて頂きたい。」
お爺様は、目をつぶり、一拍置いた。
「では、今回の趣旨をご説明させて頂こう。まず、こちらをご覧ください。」
そう言うと、演台の後ろで壁の代わりとなっている布を落とすと、巨大な道と、建物が現れた。
「「「「おおおお」」」」
大きな歓声が現れた。
「この後ろにあるのは巨大な道は、全10レーンの街道です。外側から、左右各1レーンの歩行者用道路、次の左右の各2レーンは、馬車用道路。こちらは無料でご利用いただけます。壁に仕切られた内側の4レーンは高速馬車専用道路で、内側2レーンは、セイレーンからここまでの直通馬車専用、外側2レーンは、各駅停車となります。セイレーンからここまでほぼ真っすぐに繋いであり、我がセイレーン公爵領で開発した高速馬車では、最速6時間で帝都とセイレーンを繋ぎます。」
「「「「えーーー。」」」」
来賓達が度肝を抜かれている。
「後ろの建物が、帝都ステーション。帝都と各地を繋ぎ、各地からの商品を取引する今建築中の街の中心施設となります。現在は、各副都と繋いでいくことについて、各皇子殿下より承認を頂いております。この計画には莫大なコストが掛かっており、高速馬車道の専用利用権と交換に全額商会が負担しております。紹介しましょう、その商会のオーナーとなっている冒険者クランのオーナー、アリア・セイレーン。私の孫です。」
私の挨拶の番が回って来た。緊張し過ぎて死にそうだが、ここが私の勝負どころだ。気合いを入れなおした。一歩一歩しっかりとした足取りで、手と足が一緒になりかけたのをなんとか戻しつつ、演台の中央で、祖父から魔導具を受け取った。
「皆様、アリア・セイレーンです。このプロジェクトを行っているアクア商会のオーナーであるアクアクランのオーナーをしております。アクア商会の所有は、業務を当面制限することを前提に、アクアクランが所有することを、商会ギルドから認められたものです。その業務として、この輸送業と、所謂輸送したものを販売する業務が当たります。セイレーン商会ギルド所属ですので、最近制定された制度の関係で、セイレーン商会ギルドで承認されていない方とかお取引出来ませんが、出来うる限り帝国及びセイレーン発展の為に尽力していこうと存じます。若輩者ですがよろしくお願い申し上げます。」
と、頭を下げた頃遠くの方から馬車の音が聞こえて来た。
「そろそろ、第一号の商業運転馬車が到着する様です。」
馬車はものすごい勢いで走って来て、10台ほどの車両を引いていた。馬車と言っても馬でなく、車輪を付けた大型魔導具で、馬車の面影は全くなかった。
「「「「はー。」」」」
と、ベイスターン王子を中心に何人か驚きで、品ない大きな声をあげていた。
「あれが、当クラン傘下の職人工房が作成した高速馬車「リバイアサン」です。専用道路を走ることを目的に作成した魔導具で、最高10台、乗客として500名のフル装備の騎士をセイレーンから帝都まで安全速度で6時間で運ぶ能力を有しております。」
私は一度振り返った。馬車は既に乗降するホームに入っていた。
「馬車が到着した様です。」
と、人がぞろぞろ降りて来て、荷物も手際よく運び出されていった。
「今回、このプロジェクトを立ち上げ、実行して来た責任者を紹介します。」
降車して、ものすごい勢い色々飛び越え、演台に飛び乗った。
「彼が、当クランのクラン長代理、アレックス・リバースです。」
アレックスは、深々と頭を下げ、挨拶を始めた。
「皆様、今回ご出席頂きありがとうございます。本来であれば当クランのクラン長であるスノーがプロジェクトの責任者としてご挨拶差し上げるものですが、昨日の竹林館爆破テロの被害に遭ました。私が代わりにご挨拶、ご説明させて頂きます。」
アレックスは、深々と再度頭を下げた。
「本日、丁度6時間前にセイレーンを出発して、ノンストップで帝都まで参りました。まずこちらをご覧下さい。」
そうすると大きな箱が演台に持ち込まれた。アレックスは、箱を開け、手を突っ込んで、持ち上げた。
「これは、今朝釣り上げたばかりのマグロです。」
それはまだ生きている巨大なマグロだった。
「この道は港町アクアまで繋がっていますので、今日から新鮮な海の魚を帝都でも味わうことが出来ます。この高速馬車は、当面、各駅停車、直通ともに一日20往復程行う予定です。帝都全てには難しいですが、皇族、貴族、豪商の皆様等には、十分な新鮮な海産物をお届け出来る様になります。」
そうアレックスが説明している時、ベイスターン王子と、フローレンス嬢以外は、難しい顔をしている者が多かった。それもそのはず、この新たな輸送手段ばセイレーン公爵家が実質握っている。副都全てに、ハイエルンも繋がれば、国内の時間的距離は極めた近くなり、帝国一帯が帝都経済圏となってしまう。その経済圏をにぎり、時間的距離的にセイレーンが、帝都経済圏に入ると、セイレーンの経済的強さが増す。救いは、この道が海とも繋がっているが、そもそも、セイレーンの海上貿易がここ数年で衰退し、先日の事件でほぼ無能化されたことである。今回の式典に来た来賓も殆ど代理人それもそこそこ程度の格の代理人だったのは、その表れである。まともに来たのは、セイレーン派の面々、私の婚約者候補、と、シルフ公爵家位だった。アレックスの一連の海産物紹介の後、アレックス君が急に予定外のことを言い始めた。
「すみません。皆様、式次第とはズレてしまいますが、今回の馬車でお客様をお連れしております。その方から一言ご挨拶を頂きます。」
そう言うと、壇上に4人の貴族風の人達が上がってきた。
「まずは、レイクノバ大陸のアブドラ共和国外務尚書、アレキサンドロス・ベーレン様です。」
来賓達が固まった。レイクノバ大陸最大国家アブドラ共和国。規模的には、セイレーン公爵領と同等の規模を持つ、国家だが、南部の海洋国家の雄として、高い経済力を有する。そのナンバースリーと言われる外務尚書が高速馬車で来ているという事実の意味を掴めずにいた。
「アブドラ共和国外務尚書、アレキサンドロス・ベーレンです。この度のセイレーン高速馬車道路および、アクア海峡大橋の開通について、お祝い申し上げます。」
更に来賓達が固まった。アクア海峡大橋?と、セイレーン公爵領は、海に面しているが、数十キロ離れた対岸にレイクノバ大陸があり、その間にアクア海流と呼ばれる航行不能な海域があるため、セイレーン公爵領と隣合うフランツ王国、バルザック王国のどちらかを通らないと貿易が出来ず、現状貿易不可能な状況に置かれていた。だが、セイレーン公爵領と、レイクノバ大陸とが橋で結ばれてしまうと話は変わる。レイクノバ大陸の港を使った貿易、レイクノバ大陸からの貿易が高速馬車を使い、早く大量に可能となるのだ。その経済効果たるや計り知れない。青ざめた顔をしている来賓もいれば、よくわかっていない来賓もいる。
「えー。今回、アクア海峡大橋で繋いだ我が国のシルフィールは、我が国有数の貿易港であり、ロードフレイア王国との国境の街でもあります。そこで、シルフィールの一部に、特別貿易区を作り、そこでの関税を撤廃する。つまり、他国の貿易船が、特別貿易区で、荷を下ろし、帝国に輸出した場合には、当国分の関税を取らない地区を作ることを決めました。我が国の港を利用してどんどん貿易を進めて下さい。」
と、笑顔で言い放って終わった。要するに、セイレーンが港を手に入れ、レイクノバ大陸からの貿易もし放題となったことを意味する。
「続きまして、ロックフォード諸島連合総裁クリミナス・バーデモン王太子殿下。」
ロックフォード諸島は、帝国南東部から東部、レイクノバ大陸の北東部にある海洋国家5つの連合組織で、世界最大の海上貿易網、船舶技術を持っている。帝国東部シルフ公爵領との貿易は多く、帝国北部ノーム公爵領、帝国西部イフリート公爵領との貿易も行なっている。
「バーデモン王国の、クリミナスです。一応、ロックフォード諸島連合を代表しているが、今回は、一人の海の男としてお祝いに参った。」
見るからに白髪メガネの文官だったアレキサンドロスと違い、筋骨隆々、黒光した焼けた肌、ザ・海の男という感じに、来賓のおば様達は目を惹かれ、その他の者たちは何を言い出すのかと、注意深い目で見た。
「アクア海流。我々海の男達にとって難所であり、越えるのは夢である。そこに橋をかけて越える等、我々には想像出来ず、これでは、逆立ちしても帝国に勝てない。まあ、戦う気ははなからないがな。そこで、私は、公爵家に幾つか提案をさせて貰いたい。まあ、リーハイム君には伝えたけどね。」
リーハイム君?うちの父を君付けって、
「まずは、我が王国の海洋船舶技術と、公爵家、正確にはアクア大工房との技術提携をお願いしたい。大工房の学校に船大工の棟梁を講師や、研究所の研究者として派遣し、若手を生徒として送ろう。一部コストも負担するし、船乗りの研修も受け入れよう。これは、連合でなく我が国の話だが、連合から参加を申し出てきた国も参加させて欲しいと思っている。」
会場自体を固める発言だった、世界最先端の船舶技術と、先程示された世界最先端の陸運技術の融合。他国、他家にとっては、大きな脅威となる。更に、アクアに設立する学校、研究所設立・・。今まで、斜陽領主と思っていたセイレーン公爵家が、世界最先端の技術、強大な経済力を有する領主となっていた事実に、思考不能となっていた・・・。
「次に、我が連合と、公爵家との協定を提案していこうと思っている。帝国の玄関となるセイレーン公爵領は、我々にとって極めて高い魅力を持っている。貿易、技術、軍事の総合的な協定を結ばせて欲しいと考えている。」
来賓達の思考不能は更に深まった。ロックフォード諸島連合の海軍力は、世界最強と言われる。それと、腐っても4公爵であるセイレーン公爵家の陸軍力が合わされば、生半端な戦力では相手にならない・・・。今までの立ち位置を変更するにしても、どの様に、どうやってとの現状解の見えない思考の沼に陥っていった。
「最後に、個人的な話だが、セイレーン公爵令嬢は、バルザック王国の王太子に婚約破棄され、現状、婚約者はいらっしゃらないと聞く。本音は私が婚約者に立候補させて頂ければと思うが、妻や、息子のこと、年齢差を考えれば、私の息子、モリウス・バーデモン王太孫の所に嫁に来て欲しい。当然、正妻としてな。息子は来年帝国中央学院に入学する予定だ。年齢も合うし。現皇帝を大伯父に、北のアルス王国の現王を叔父に持つ高い血統だけでなく、親ばかかもしれないが、息子は天才だ。俺以上にイケメンだしな・・。考えておいてくれ。まぁ、当然、クランも、商会も、他家にとついだら公爵家に引き継ぐ事になると思うが、それは分かった上だ。欲しいのは令嬢だけだかたらな。」
そう言って、魔導具をアレックスくんに返した。アルス王国は、ノーム公爵領の北側にノーム公爵領と同じ程度の領地に加え、帝国の北東側にあるアルス列島を有する、帝国、アブドラ共和国に続く、世界第3位の規模を持つ王国だ。アリアは、突然息子の嫁にと言われ、ドキドキしてしまった。
「えー、次は、ロードフレイア王国シアナ公爵閣下です。」
「アレックスくん、私は、公爵夫人と呼んでくれ。」
「失礼しました。公爵夫人。」
「よろしい・・・。」
赤く長い髪に、エストックを携え、スラっとした二十歳くらいの女騎士、それがシアナ公爵夫人だった。ロードフレイア王国では、公爵夫人は、公爵の夫人でなく、女公爵を指している。
「先の二人が長かったんで一言で、我がロードフレイア王国は、セイレーン公爵領と貿易を開始し、連動と同じ協定を提案していこうと思っている。よろしく。」
本当に早く終わった・・・。普通、先の二人が長かったのでと言うと、もっと長くなるのが定番なのに・・・。と、皆が拍子抜けになった感じだった。でも、内容は、極めて衝撃的なものだった。
「最後に、ロードドワーフ族族長、ガーブ閣下。」
通常のドワーフ族と違って、見るからに茶色の肌を持つ、マッチョなイケメンだ。ロードドワーフは、ドワーフの祖先と言われる。
「儂は、ロードドワーフ族族長、ガーブじゃ、亜人迫害にあって、シアナ公爵領に難民としておったんじゃが、アクアで面白いことをやっとるらしいと聞いて、今回そこで作った高速馬車に載せてもろうた・・・。良いものを作っているので、儂らも入れて貰おうと思っている。アレックスよろしくな・・・。」
そう言って、魔導具を返して貰った。
「皆様、ありがとうございました。最後に、セイレーン公爵より、閉会の挨拶がございます。」
アレックスくんが、祖父に魔導具を渡した。
「本日はありがとうございました。この街は来週中に完成し、順次各副都まで道路を伸ばしていこうと思っております。色々ご協力をお願いさせて頂きますがよろしくお願いします。」
それで、会は閉会した。私は、突然息子の嫁にと言われ動揺しており、アレックスくんと共に、すぐに会場を離れ帝都の邸宅に帰った。
「イフリート公爵令嬢、今日は公爵閣下の代理ですか?」
「そうよ、アリアさん。だだっ広い道を作って、その開通式って噂さけど、セイレーンって案外無駄なことが出来るだけのお金があるのね。」
「えっ、無駄な事って、」
「何イラついていらっしゃるの。そうそう、助手のスノーさんがテロの被害に遭われたとお聞きしたわ。ご不幸でしたわね。」
「いえ。」
「スノーさんがテロの被害に遭われて、気丈で居られるって、あら、血も涙も無い女ね。そんな女を婚約者にしていたなんて、可哀想なベイスターン王子。」
「いやー。ぼくちんかわいそう。」
と、呼んでもいないベイスターン王子が出てきた。
「王子殿下は、何しにいらしたのですか?」
「アリアの助手がテロの被害に遭ったのを笑いに・・・。」
「そうですか・・・。」
目の下を腫らしているアリアを見て、クスクス笑いながら、二人は席に付いた。その後、ロッチ皇子と、リヒャルト公爵令嬢がやってきた。
「セイレーン公爵令嬢、盛大な会だね、中身はよく聞いていないが。」
「それよりも、セイレーン公爵令嬢、スノーさんは残念だったわね?」
「残念・・・・。」
「気を落とさないでね。」
「はい。ありがとうございます。」
リヒャルト公爵令嬢が、私に優しい言葉をかけて、席についた。
「セイレーン公爵令嬢、知らなかったが、スノーさんが・・・。」
「いえ、殿下が気に病まれる必要はございませんので…。大丈夫ですから。」
「そ、そうか・・・。」
「ありがとうございます。」
殿下を席に促し、来賓がほぼ席に付いたところで、開始の時間となった。演台にお爺様が拡声用の魔道具を持って立った。
「皆様、本日はお集まり頂いてありがとうございます。今回は、詳細を伏したままお集まり頂きましたが、この会を行うまでに、昨日、シルフ公爵家の竹林館テロの犠牲者に哀悼の意を捧げさせて頂きたい。」
お爺様は、目をつぶり、一拍置いた。
「では、今回の趣旨をご説明させて頂こう。まず、こちらをご覧ください。」
そう言うと、演台の後ろで壁の代わりとなっている布を落とすと、巨大な道と、建物が現れた。
「「「「おおおお」」」」
大きな歓声が現れた。
「この後ろにあるのは巨大な道は、全10レーンの街道です。外側から、左右各1レーンの歩行者用道路、次の左右の各2レーンは、馬車用道路。こちらは無料でご利用いただけます。壁に仕切られた内側の4レーンは高速馬車専用道路で、内側2レーンは、セイレーンからここまでの直通馬車専用、外側2レーンは、各駅停車となります。セイレーンからここまでほぼ真っすぐに繋いであり、我がセイレーン公爵領で開発した高速馬車では、最速6時間で帝都とセイレーンを繋ぎます。」
「「「「えーーー。」」」」
来賓達が度肝を抜かれている。
「後ろの建物が、帝都ステーション。帝都と各地を繋ぎ、各地からの商品を取引する今建築中の街の中心施設となります。現在は、各副都と繋いでいくことについて、各皇子殿下より承認を頂いております。この計画には莫大なコストが掛かっており、高速馬車道の専用利用権と交換に全額商会が負担しております。紹介しましょう、その商会のオーナーとなっている冒険者クランのオーナー、アリア・セイレーン。私の孫です。」
私の挨拶の番が回って来た。緊張し過ぎて死にそうだが、ここが私の勝負どころだ。気合いを入れなおした。一歩一歩しっかりとした足取りで、手と足が一緒になりかけたのをなんとか戻しつつ、演台の中央で、祖父から魔導具を受け取った。
「皆様、アリア・セイレーンです。このプロジェクトを行っているアクア商会のオーナーであるアクアクランのオーナーをしております。アクア商会の所有は、業務を当面制限することを前提に、アクアクランが所有することを、商会ギルドから認められたものです。その業務として、この輸送業と、所謂輸送したものを販売する業務が当たります。セイレーン商会ギルド所属ですので、最近制定された制度の関係で、セイレーン商会ギルドで承認されていない方とかお取引出来ませんが、出来うる限り帝国及びセイレーン発展の為に尽力していこうと存じます。若輩者ですがよろしくお願い申し上げます。」
と、頭を下げた頃遠くの方から馬車の音が聞こえて来た。
「そろそろ、第一号の商業運転馬車が到着する様です。」
馬車はものすごい勢いで走って来て、10台ほどの車両を引いていた。馬車と言っても馬でなく、車輪を付けた大型魔導具で、馬車の面影は全くなかった。
「「「「はー。」」」」
と、ベイスターン王子を中心に何人か驚きで、品ない大きな声をあげていた。
「あれが、当クラン傘下の職人工房が作成した高速馬車「リバイアサン」です。専用道路を走ることを目的に作成した魔導具で、最高10台、乗客として500名のフル装備の騎士をセイレーンから帝都まで安全速度で6時間で運ぶ能力を有しております。」
私は一度振り返った。馬車は既に乗降するホームに入っていた。
「馬車が到着した様です。」
と、人がぞろぞろ降りて来て、荷物も手際よく運び出されていった。
「今回、このプロジェクトを立ち上げ、実行して来た責任者を紹介します。」
降車して、ものすごい勢い色々飛び越え、演台に飛び乗った。
「彼が、当クランのクラン長代理、アレックス・リバースです。」
アレックスは、深々と頭を下げ、挨拶を始めた。
「皆様、今回ご出席頂きありがとうございます。本来であれば当クランのクラン長であるスノーがプロジェクトの責任者としてご挨拶差し上げるものですが、昨日の竹林館爆破テロの被害に遭ました。私が代わりにご挨拶、ご説明させて頂きます。」
アレックスは、深々と再度頭を下げた。
「本日、丁度6時間前にセイレーンを出発して、ノンストップで帝都まで参りました。まずこちらをご覧下さい。」
そうすると大きな箱が演台に持ち込まれた。アレックスは、箱を開け、手を突っ込んで、持ち上げた。
「これは、今朝釣り上げたばかりのマグロです。」
それはまだ生きている巨大なマグロだった。
「この道は港町アクアまで繋がっていますので、今日から新鮮な海の魚を帝都でも味わうことが出来ます。この高速馬車は、当面、各駅停車、直通ともに一日20往復程行う予定です。帝都全てには難しいですが、皇族、貴族、豪商の皆様等には、十分な新鮮な海産物をお届け出来る様になります。」
そうアレックスが説明している時、ベイスターン王子と、フローレンス嬢以外は、難しい顔をしている者が多かった。それもそのはず、この新たな輸送手段ばセイレーン公爵家が実質握っている。副都全てに、ハイエルンも繋がれば、国内の時間的距離は極めた近くなり、帝国一帯が帝都経済圏となってしまう。その経済圏をにぎり、時間的距離的にセイレーンが、帝都経済圏に入ると、セイレーンの経済的強さが増す。救いは、この道が海とも繋がっているが、そもそも、セイレーンの海上貿易がここ数年で衰退し、先日の事件でほぼ無能化されたことである。今回の式典に来た来賓も殆ど代理人それもそこそこ程度の格の代理人だったのは、その表れである。まともに来たのは、セイレーン派の面々、私の婚約者候補、と、シルフ公爵家位だった。アレックスの一連の海産物紹介の後、アレックス君が急に予定外のことを言い始めた。
「すみません。皆様、式次第とはズレてしまいますが、今回の馬車でお客様をお連れしております。その方から一言ご挨拶を頂きます。」
そう言うと、壇上に4人の貴族風の人達が上がってきた。
「まずは、レイクノバ大陸のアブドラ共和国外務尚書、アレキサンドロス・ベーレン様です。」
来賓達が固まった。レイクノバ大陸最大国家アブドラ共和国。規模的には、セイレーン公爵領と同等の規模を持つ、国家だが、南部の海洋国家の雄として、高い経済力を有する。そのナンバースリーと言われる外務尚書が高速馬車で来ているという事実の意味を掴めずにいた。
「アブドラ共和国外務尚書、アレキサンドロス・ベーレンです。この度のセイレーン高速馬車道路および、アクア海峡大橋の開通について、お祝い申し上げます。」
更に来賓達が固まった。アクア海峡大橋?と、セイレーン公爵領は、海に面しているが、数十キロ離れた対岸にレイクノバ大陸があり、その間にアクア海流と呼ばれる航行不能な海域があるため、セイレーン公爵領と隣合うフランツ王国、バルザック王国のどちらかを通らないと貿易が出来ず、現状貿易不可能な状況に置かれていた。だが、セイレーン公爵領と、レイクノバ大陸とが橋で結ばれてしまうと話は変わる。レイクノバ大陸の港を使った貿易、レイクノバ大陸からの貿易が高速馬車を使い、早く大量に可能となるのだ。その経済効果たるや計り知れない。青ざめた顔をしている来賓もいれば、よくわかっていない来賓もいる。
「えー。今回、アクア海峡大橋で繋いだ我が国のシルフィールは、我が国有数の貿易港であり、ロードフレイア王国との国境の街でもあります。そこで、シルフィールの一部に、特別貿易区を作り、そこでの関税を撤廃する。つまり、他国の貿易船が、特別貿易区で、荷を下ろし、帝国に輸出した場合には、当国分の関税を取らない地区を作ることを決めました。我が国の港を利用してどんどん貿易を進めて下さい。」
と、笑顔で言い放って終わった。要するに、セイレーンが港を手に入れ、レイクノバ大陸からの貿易もし放題となったことを意味する。
「続きまして、ロックフォード諸島連合総裁クリミナス・バーデモン王太子殿下。」
ロックフォード諸島は、帝国南東部から東部、レイクノバ大陸の北東部にある海洋国家5つの連合組織で、世界最大の海上貿易網、船舶技術を持っている。帝国東部シルフ公爵領との貿易は多く、帝国北部ノーム公爵領、帝国西部イフリート公爵領との貿易も行なっている。
「バーデモン王国の、クリミナスです。一応、ロックフォード諸島連合を代表しているが、今回は、一人の海の男としてお祝いに参った。」
見るからに白髪メガネの文官だったアレキサンドロスと違い、筋骨隆々、黒光した焼けた肌、ザ・海の男という感じに、来賓のおば様達は目を惹かれ、その他の者たちは何を言い出すのかと、注意深い目で見た。
「アクア海流。我々海の男達にとって難所であり、越えるのは夢である。そこに橋をかけて越える等、我々には想像出来ず、これでは、逆立ちしても帝国に勝てない。まあ、戦う気ははなからないがな。そこで、私は、公爵家に幾つか提案をさせて貰いたい。まあ、リーハイム君には伝えたけどね。」
リーハイム君?うちの父を君付けって、
「まずは、我が王国の海洋船舶技術と、公爵家、正確にはアクア大工房との技術提携をお願いしたい。大工房の学校に船大工の棟梁を講師や、研究所の研究者として派遣し、若手を生徒として送ろう。一部コストも負担するし、船乗りの研修も受け入れよう。これは、連合でなく我が国の話だが、連合から参加を申し出てきた国も参加させて欲しいと思っている。」
会場自体を固める発言だった、世界最先端の船舶技術と、先程示された世界最先端の陸運技術の融合。他国、他家にとっては、大きな脅威となる。更に、アクアに設立する学校、研究所設立・・。今まで、斜陽領主と思っていたセイレーン公爵家が、世界最先端の技術、強大な経済力を有する領主となっていた事実に、思考不能となっていた・・・。
「次に、我が連合と、公爵家との協定を提案していこうと思っている。帝国の玄関となるセイレーン公爵領は、我々にとって極めて高い魅力を持っている。貿易、技術、軍事の総合的な協定を結ばせて欲しいと考えている。」
来賓達の思考不能は更に深まった。ロックフォード諸島連合の海軍力は、世界最強と言われる。それと、腐っても4公爵であるセイレーン公爵家の陸軍力が合わされば、生半端な戦力では相手にならない・・・。今までの立ち位置を変更するにしても、どの様に、どうやってとの現状解の見えない思考の沼に陥っていった。
「最後に、個人的な話だが、セイレーン公爵令嬢は、バルザック王国の王太子に婚約破棄され、現状、婚約者はいらっしゃらないと聞く。本音は私が婚約者に立候補させて頂ければと思うが、妻や、息子のこと、年齢差を考えれば、私の息子、モリウス・バーデモン王太孫の所に嫁に来て欲しい。当然、正妻としてな。息子は来年帝国中央学院に入学する予定だ。年齢も合うし。現皇帝を大伯父に、北のアルス王国の現王を叔父に持つ高い血統だけでなく、親ばかかもしれないが、息子は天才だ。俺以上にイケメンだしな・・。考えておいてくれ。まぁ、当然、クランも、商会も、他家にとついだら公爵家に引き継ぐ事になると思うが、それは分かった上だ。欲しいのは令嬢だけだかたらな。」
そう言って、魔導具をアレックスくんに返した。アルス王国は、ノーム公爵領の北側にノーム公爵領と同じ程度の領地に加え、帝国の北東側にあるアルス列島を有する、帝国、アブドラ共和国に続く、世界第3位の規模を持つ王国だ。アリアは、突然息子の嫁にと言われ、ドキドキしてしまった。
「えー、次は、ロードフレイア王国シアナ公爵閣下です。」
「アレックスくん、私は、公爵夫人と呼んでくれ。」
「失礼しました。公爵夫人。」
「よろしい・・・。」
赤く長い髪に、エストックを携え、スラっとした二十歳くらいの女騎士、それがシアナ公爵夫人だった。ロードフレイア王国では、公爵夫人は、公爵の夫人でなく、女公爵を指している。
「先の二人が長かったんで一言で、我がロードフレイア王国は、セイレーン公爵領と貿易を開始し、連動と同じ協定を提案していこうと思っている。よろしく。」
本当に早く終わった・・・。普通、先の二人が長かったのでと言うと、もっと長くなるのが定番なのに・・・。と、皆が拍子抜けになった感じだった。でも、内容は、極めて衝撃的なものだった。
「最後に、ロードドワーフ族族長、ガーブ閣下。」
通常のドワーフ族と違って、見るからに茶色の肌を持つ、マッチョなイケメンだ。ロードドワーフは、ドワーフの祖先と言われる。
「儂は、ロードドワーフ族族長、ガーブじゃ、亜人迫害にあって、シアナ公爵領に難民としておったんじゃが、アクアで面白いことをやっとるらしいと聞いて、今回そこで作った高速馬車に載せてもろうた・・・。良いものを作っているので、儂らも入れて貰おうと思っている。アレックスよろしくな・・・。」
そう言って、魔導具を返して貰った。
「皆様、ありがとうございました。最後に、セイレーン公爵より、閉会の挨拶がございます。」
アレックスくんが、祖父に魔導具を渡した。
「本日はありがとうございました。この街は来週中に完成し、順次各副都まで道路を伸ばしていこうと思っております。色々ご協力をお願いさせて頂きますがよろしくお願いします。」
それで、会は閉会した。私は、突然息子の嫁にと言われ動揺しており、アレックスくんと共に、すぐに会場を離れ帝都の邸宅に帰った。
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*カクヨムでも先行更新しております。
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
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よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
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話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
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第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
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