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~帝都決戦編 第16章~
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[死の淵で]
「う・・・」
ロメリアはゆっくりと瞼を開けた。明けようとしていた空は漆黒に染まり、流れる星が赤く染まり大地に降り注いでいる。この世の終わりとも思える光景が目の前に広がる中、彼女は再び意識を取り戻した。
ゆっくり体を起こそうとするが、体が思うように動かない上に激しい痛みが全身に走る。指先を動かすだけで意識が飛びそうな痛みに襲われる中、自分の体を見ると全身に穴が空き、血がどんどん出ている。時間が経つにつれて体の痛みが不思議と無くなっていく。妙な解放感を覚えたが、同時に体を自由に動かすことが出来なくなっていった。
___これが、死?
ロメリアの頭の中に『死』が埋め尽くされる。だがそのイメージは驚くほど呑気なものだった。死んだ後はどうなるのだろうか?痛みも苦しみの無い、穏やかな世界が広がっているのだろうか・・・そう思えば、別に死ぬことなんて怖くはなかったし、寧ろ興味も湧いてきた。
だが考えている内に彼女はふと一人の少年の顔が思い浮かんだ。その少年はただじっと彼女を見つめている・・・笑いも怒りも悲しみもせず・・・ただただじっと彼女を見つめていた。
彼女はその時思った___もし自分が死ねば少年とはもう会えないのか?美味しいものも楽しい事も、まだ見ぬ絶景を見た時の感動も共有できないのか?
少年は何も言わず、彼女の背を向け、離れて行く。彼女の後ろには果てしない闇が___一方少年が歩いていく方は目を覆いたくなる様な眩い光が神々しく輝いている。
彼女は少年に向かって手を伸ばした。でも彼女と少年の差はどんどん開くばかり、近づきはしない。そして少年の横には彼と一緒に光の方へ歩いていく姿が現れる。深紅色の美しいウェーブの髪をした少女に大剣を背負った男、他にも多くの人々が彼女に背を向けて離れて行く。
___待って・・・置いて行かないで!
彼女は叫んだが、彼女の後ろに広がる闇から幾つもの手が現れ、彼女を引っ張っていく。彼女は必死に抗うが、体が影に呑まれていく。
その時、彼女は願った___嫌だ!まだ私は、死にたくないッ___と。彼女は強引に影の中から這い出て光の方へ走り出した。走り出すと、少年が彼女の方へ振り向き、手を伸ばした。彼女はその手を掴むように手を伸ばすと、少年の名を叫んだ。
「フォルト!」
彼女が少年を叫んだその時、彼女の意識が現実の世界へと戻される。激しい痛みを感じ、彼女はまだ自分は生きているということを実感する。
ロメリアは痛みに耐えながらゆっくりと上半身を起こす。辺りを見渡すと、さっきまでいた広場とは違う場所にいるようだ。一体なぜこんな所にいるのか・・・不思議に思いながら横を見ると、翼に大きなケガを負ったニファルが横たわっていた。どうやらニファルの翼は誰かに斬られたようで、この怪我では空を飛ぶことは出来ない。
「ニファル⁉」
ロメリアは強烈な痛みに襲われながらも立ち上がり、ニファルの方に駆け寄った。ニファルはロメリアが近くにいることを感じると、瞼をゆっくりと開け、彼女に視線を移す。
「グル・・・ルルル・・・」
「ニファル、この傷は一体⁉・・・ウルフェンにやられたの?」
「ガ・・・ゥ・・・」
ニファルは弱弱しく、唸る。早く治療しなければと思い、耳に付けている無線機で通信を図ろうとしたが、一体どういう訳かノイズ音ばかりが聞こえて何も聞こえない。
「無線が・・・通じない・・・くぅっ!」
ロメリアは体に開いた穴を抑えながらニファルに寄りかかる。治療しなければいけないのはロメリアも同じ・・・無数に体にあいている傷口からは血が出続けている。ロメリアは傷口を抑えていた手を見る。
「もう・・・無理、かなぁ・・・」
ロメリアは穏やかな顔になった。その顔を見て心配になったのか、ニファルが頭を上げてロメリアの体に擦り付ける。ロメリアはニファルの頭を優しく撫でた。
「クルㇽㇽㇽㇽㇽ・・・」
「心配してくれてるの?ニファル。・・・ありがとうね。」
ロメリアは子守唄を聞かせるようにニファルに囁く。ニファルは彼女の声を聞き、頭を優しく撫でられて気持ちが落ち着いたのか、瞼を閉じて喉を鳴らす。
ドオォンッ!
すぐ近くから強烈な魔力の波動をロメリアは感じ取り、その方角へ顔を向ける。感じた魔力の雰囲気からして恐らくウルフェンのもの・・・そしてそれに続いて幾つもの大きな魔力も感じ取った。
「フォルト・・・ケストレル・・・ヴァスティーソ・・・」
ロメリアはニファルの頭から手を離す。行かなければ___彼女は足元に落ちていた棍を持って魔力が激しくぶつかり合う方へ歩いていく。一歩・・・また一歩と歩みを進める度に激痛が走るが、ロメリアは前へ進む。ただ___自分に出来ることを、為すために。
「ガウッ!ガウゥッ!ガフゥッ!」
ニファルが離れて行くロメリアに向かって枯れた声で呼びかける。
___何処へ行くの?行かないで。行っちゃダメだよ・・・
ロメリアはニファルがそう言ってくれているように聞こえた。まるで自分がこの後、何をするつもりなのか、分かっているかのように・・・
ロメリアは後ろを振り向いてニファルを見る。ニファルは千切れそうになっている翼を引きずりながら、地面を這い、ロメリアの方へ近づいてきていた。ニファルの瞳は涙で潤んでいる。
ワイバーンは人の心を読めるほど高度な知能を持つ___リールギャラレーでグースから言われた言葉を思い出した。ロメリアは小さく微笑むと、ニファルに優しく語り掛ける。
「ニファル・・・フォルトを・・・宜しくね。」
ロメリアはそう言うと、リミテッド・バーストを発動し、瞬きする間にその場から姿を消した。
「ガルルッ!ガウゥゥッ!」
ニファルはロメリアがいた方に叫ぶ。その声は哀しみの感情に満ちており、ニファルの鳴き声は虚しく響くだけだった。
「う・・・」
ロメリアはゆっくりと瞼を開けた。明けようとしていた空は漆黒に染まり、流れる星が赤く染まり大地に降り注いでいる。この世の終わりとも思える光景が目の前に広がる中、彼女は再び意識を取り戻した。
ゆっくり体を起こそうとするが、体が思うように動かない上に激しい痛みが全身に走る。指先を動かすだけで意識が飛びそうな痛みに襲われる中、自分の体を見ると全身に穴が空き、血がどんどん出ている。時間が経つにつれて体の痛みが不思議と無くなっていく。妙な解放感を覚えたが、同時に体を自由に動かすことが出来なくなっていった。
___これが、死?
ロメリアの頭の中に『死』が埋め尽くされる。だがそのイメージは驚くほど呑気なものだった。死んだ後はどうなるのだろうか?痛みも苦しみの無い、穏やかな世界が広がっているのだろうか・・・そう思えば、別に死ぬことなんて怖くはなかったし、寧ろ興味も湧いてきた。
だが考えている内に彼女はふと一人の少年の顔が思い浮かんだ。その少年はただじっと彼女を見つめている・・・笑いも怒りも悲しみもせず・・・ただただじっと彼女を見つめていた。
彼女はその時思った___もし自分が死ねば少年とはもう会えないのか?美味しいものも楽しい事も、まだ見ぬ絶景を見た時の感動も共有できないのか?
少年は何も言わず、彼女の背を向け、離れて行く。彼女の後ろには果てしない闇が___一方少年が歩いていく方は目を覆いたくなる様な眩い光が神々しく輝いている。
彼女は少年に向かって手を伸ばした。でも彼女と少年の差はどんどん開くばかり、近づきはしない。そして少年の横には彼と一緒に光の方へ歩いていく姿が現れる。深紅色の美しいウェーブの髪をした少女に大剣を背負った男、他にも多くの人々が彼女に背を向けて離れて行く。
___待って・・・置いて行かないで!
彼女は叫んだが、彼女の後ろに広がる闇から幾つもの手が現れ、彼女を引っ張っていく。彼女は必死に抗うが、体が影に呑まれていく。
その時、彼女は願った___嫌だ!まだ私は、死にたくないッ___と。彼女は強引に影の中から這い出て光の方へ走り出した。走り出すと、少年が彼女の方へ振り向き、手を伸ばした。彼女はその手を掴むように手を伸ばすと、少年の名を叫んだ。
「フォルト!」
彼女が少年を叫んだその時、彼女の意識が現実の世界へと戻される。激しい痛みを感じ、彼女はまだ自分は生きているということを実感する。
ロメリアは痛みに耐えながらゆっくりと上半身を起こす。辺りを見渡すと、さっきまでいた広場とは違う場所にいるようだ。一体なぜこんな所にいるのか・・・不思議に思いながら横を見ると、翼に大きなケガを負ったニファルが横たわっていた。どうやらニファルの翼は誰かに斬られたようで、この怪我では空を飛ぶことは出来ない。
「ニファル⁉」
ロメリアは強烈な痛みに襲われながらも立ち上がり、ニファルの方に駆け寄った。ニファルはロメリアが近くにいることを感じると、瞼をゆっくりと開け、彼女に視線を移す。
「グル・・・ルルル・・・」
「ニファル、この傷は一体⁉・・・ウルフェンにやられたの?」
「ガ・・・ゥ・・・」
ニファルは弱弱しく、唸る。早く治療しなければと思い、耳に付けている無線機で通信を図ろうとしたが、一体どういう訳かノイズ音ばかりが聞こえて何も聞こえない。
「無線が・・・通じない・・・くぅっ!」
ロメリアは体に開いた穴を抑えながらニファルに寄りかかる。治療しなければいけないのはロメリアも同じ・・・無数に体にあいている傷口からは血が出続けている。ロメリアは傷口を抑えていた手を見る。
「もう・・・無理、かなぁ・・・」
ロメリアは穏やかな顔になった。その顔を見て心配になったのか、ニファルが頭を上げてロメリアの体に擦り付ける。ロメリアはニファルの頭を優しく撫でた。
「クルㇽㇽㇽㇽㇽ・・・」
「心配してくれてるの?ニファル。・・・ありがとうね。」
ロメリアは子守唄を聞かせるようにニファルに囁く。ニファルは彼女の声を聞き、頭を優しく撫でられて気持ちが落ち着いたのか、瞼を閉じて喉を鳴らす。
ドオォンッ!
すぐ近くから強烈な魔力の波動をロメリアは感じ取り、その方角へ顔を向ける。感じた魔力の雰囲気からして恐らくウルフェンのもの・・・そしてそれに続いて幾つもの大きな魔力も感じ取った。
「フォルト・・・ケストレル・・・ヴァスティーソ・・・」
ロメリアはニファルの頭から手を離す。行かなければ___彼女は足元に落ちていた棍を持って魔力が激しくぶつかり合う方へ歩いていく。一歩・・・また一歩と歩みを進める度に激痛が走るが、ロメリアは前へ進む。ただ___自分に出来ることを、為すために。
「ガウッ!ガウゥッ!ガフゥッ!」
ニファルが離れて行くロメリアに向かって枯れた声で呼びかける。
___何処へ行くの?行かないで。行っちゃダメだよ・・・
ロメリアはニファルがそう言ってくれているように聞こえた。まるで自分がこの後、何をするつもりなのか、分かっているかのように・・・
ロメリアは後ろを振り向いてニファルを見る。ニファルは千切れそうになっている翼を引きずりながら、地面を這い、ロメリアの方へ近づいてきていた。ニファルの瞳は涙で潤んでいる。
ワイバーンは人の心を読めるほど高度な知能を持つ___リールギャラレーでグースから言われた言葉を思い出した。ロメリアは小さく微笑むと、ニファルに優しく語り掛ける。
「ニファル・・・フォルトを・・・宜しくね。」
ロメリアはそう言うと、リミテッド・バーストを発動し、瞬きする間にその場から姿を消した。
「ガルルッ!ガウゥゥッ!」
ニファルはロメリアがいた方に叫ぶ。その声は哀しみの感情に満ちており、ニファルの鳴き声は虚しく響くだけだった。
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