最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~帝都決戦編 第12章~

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[黒き双閃]

 ケストレルやシャーロットが死闘を繰り広げていた同時刻___フォルトとロメリアはウルフェンと交戦していた。

 「はぁッ!」

 フォルトはウルフェンの懐に入り、彼の首元目掛けて鎖鎌を振るう。ロメリアもウルフェンの背後に回り込み、フォルトが作った隙を突く。だがウルフェンはフォルト達の攻撃を受け止めるどころか、全て見切って回避していく。彼の動きはそんなに早いという訳では無いのに、フォルト達は捉えられない。まるで水を切っているような感覚に襲われる。

 「てぇやぁッ!」

 ロメリアが体を捻って棍を振ろうとした。だがウルフェンの姿が一瞬で消え、直後ロメリアの胴から血が噴き出る。ロメリアの背後にウルフェンの姿が現れる。

 ロメリアが傷口を抑えながら顔を歪めて膝をつくと、背後に立ったウルフェンは呆れた顔で彼女を見下ろす。

 「話にならん。この程度の実力で私を倒そうと思っていたとは・・・甘く見られたものだな。」

 ウルフェンが吐き捨てるように呟くと、右手に持っている小太刀でいつの間にかに背後に回っていたフォルトの攻撃を防ぐ。

 「気配を消して私の背後を取ったことは誉めてやろう。だが斬りかかる時に一瞬お前から殺気を感じた・・・まだ甘いな。」

 ウルフェンはそう言って、体を翻してフォルトの首を小太刀で一閃する。フォルトは姿勢を屈めて回避すると、後ろへ下がる。

 「良く躱した・・・だが___」

 ウルフェンはそう言うと、全身に闘気と魔力を漲らせる。

 「『リミテッド・バースト・・・《黒影刀幻》』」

 ウルフェンがリミテッド・バーストを解放すると、フォルトの背後に伸びていた影の上に一瞬で移動する。ウルフェンがまるで場面を切り取ったかのように移動した為、フォルトは驚きの余り反応が遅れてしまった。

 フォルトは直感で咄嗟に体を捻って鎖鎌を振る。それと同時にウルフェンが小太刀を振り、互いの刃が激しくぶつかる。

 しかしフォルトはウルフェンの小太刀を受け切れずに、首を斬られてしまった。幸い斬られたのは首の側面だった為、致命傷にはならなかった。また、反射的に首を傾けたのもあって傷は浅かった。

 フォルトは素早く蹴りを入れて反撃をする。そして首を斬られたことに臆することなくウルフェンとの交戦を続ける。

 「見事な反射速度だ。天性の戦闘センスが劣悪な環境で強化されたか・・・だが___」

 ウルフェンはフォルトの鎖鎌を小太刀で弾き飛ばすと、続けてフォルトの体を切り刻む。フォルトは四肢をバラバラにされて、無残に散らばる。

 「___生温い環境に慣れて感覚が鈍ったな。残念だ。」

 ウルフェンがフォルトの死体を見下ろすように見ながら呟く。だがその直後、フォルトの死体が霧のように霞みながら消失し、ウルフェンの周囲を取り囲む。

 「『リミテッド・バースト・・・《霧影牢鎖》』。」

 何処からともなくフォルトの声が聞こえるのと同時に、無数の鎖が四方から出現してウルフェンを拘束する。ウルフェンが拘束されると、先程バラバラに解体されたはずのフォルトがウルフェンの背後から現れ、お返しとばかりにウルフェンの体を一瞬で解体する。

 ところがウルフェンの体は粘液のようなドロッとした黒い液体に変貌すると、影の中に消えた。直後、フォルトの真下からウルフェンの双剣が勢いよく出現した。フォルトは空中へ飛び上がって攻撃を回避する。

 フォルトが離れた所に着地すると、影からウルフェンが何事も無かったかのように現れた。フォルトは鎖を持って鎌を勢いよく回しながらウルフェンに語り掛ける。

 「ちっ・・・仕留めたと思ったんだけど、やっぱそう簡単には行かないや。」

 「・・・」

 「どうしたの?『残念だ』って言ってたから期待に応えてあげたんだけど。さっきみたいになんか言わないの?」

 フォルトはウルフェンを挑発するが、フォルトは無表情を貫きながらウルフェンを睨みつけている。その眼差しはまるで肉食獣が草陰から獲物を狙っているかのようだ。

 動きが段々と洗練されていき、隙も少なくなってきているフォルトを見たウルフェンは、右頬を僅かに吊り上げて微笑んだ。

 「訂正しよう、フォルト。どうやら私の認識が間違っていたようだ。」

 「それはどうも。テロリストの総大将に評価してもらえるなんて光栄だね。」

 フォルトは変わらず皮肉を交えた返事をする。するとウルフェンが魔力を放出し、両手に持っている双剣を構える。身に纏っている魔力もそうだが、それ以上にフォルトに対する闘気がフォルトに強力な威圧感を与える。

 「さて、余興はこれで終わりだ。___ここからは私の持てる力の全てを用いて、君を倒そう。___勿論、楽しませてくれることを期待しているぞ?」

 ウルフェンはそう言うと、一瞬でフォルトの正面に現れる。フォルトはすかさず反応してウルフェンの斬撃を防ぎ、反撃する。ウルフェンも体術を織り交ぜた強力な近接戦闘術を繰り出す。

 フォルトは自分の身長を活かして、常に低姿勢からの斬撃を繰り出す。それを当然のことと見越してウルフェンは足元をすくわれないよう、体術を主体として戦闘を進めていく。一進一退の激しい攻防が繰り広げられる。二人の動きはどんどん加速していき、より緊迫したものとなっていく。

 フォルトはウルフェンの攻撃を鎖鎌で受け止めると、その反動で後ろに下がった。そこから自身の姿を霧の中に隠し、ウルフェンの視界から消えた。

 直後、ウルフェン目掛けて無数の鎖鎌が全方位より襲い掛かってきた。ウルフェンは避けたり弾いたりして対処をする。それと同時に三人のフォルトが同時に霧の中からウルフェンに向かって襲い掛かる。ウルフェンは体を回転させてその三人を切り刻むが、これは幻覚だった。

 だがウルフェンは初めから襲い掛かってきたフォルト達が全て『幻』だということに気づいていた。

 「___そこか。」

 ウルフェンは手の上で双剣を回すと、振り向かずに背後へ突き刺す。その直後、ウルフェンの背後からフォルトの息の詰まったような悲鳴が聞こえてきた。ウルフェンは左手に持っている双剣を引き抜いて翻り、背後にいたフォルトの首を跳ね飛ばした。フォルトの首が天高くに飛んでいく。

 しかしこの時フォルトの顔は瞼を大きく開いて呆然としているような顔だったが、急に頬を大きく吊り上げてニヤリと微笑んだ。それを見た瞬間、先程斬ったフォルトの体が鎖の塊に変化し、その鎖が一気にウルフェンの周囲を取り囲む。

 『成程、また捕まえる気か。』

 ウルフェンが周囲を取り囲みつつある鎖に意識を持っていかれていると、思わず背筋がゾクッと震えた。咄嗟に体を横に逸らすが、ウルフェンの胴体に二つの切傷が現れ、出血した。直ぐ真下を見ると、そこにはいつの間にか懐に忍び込んでいたフォルトの姿があった。先程指摘されたさっきの問題をもう解決したようで、ウルフェンはフォルトの攻撃を認識できなかった。

 『面白い。周りの鎖はまた私を捕まえるというブラフの為か___考えたな。』

 ウルフェンが冷静に分析する中、フォルトはウルフェンの首を刎ねる為に鎖鎌を振るう。ウルフェンは攻撃が当たる刹那の間に影の中へ入り込み、影を経由してフォルトの背後へ移動する。ウルフェンが目にも止まらぬ斬撃を繰り出してきたが、フォルトはそれよりも前にウルフェンよりも距離を取って霧の中へ再び姿を隠す。ウルフェンの双剣の刃が、足元の床を削る。

 『よし、ダメージを与えたッ!次はもっと撹乱させて深手を負わせてやるッ!』

 フォルトは霧の中に隠れながら次の一手を考える。ウルフェンはフォルトの姿を見失っているのかゆっくりと周囲を見渡していた。

 フォルトは鎖鎌を握り、行動に出ようとした___

 ___その時だった。

 ズシャァッ!

 「なッ⁉」

 突然、フォルトの体が斬り刻まれ、傷口から血が噴き出る。何時の間に攻撃を受けたのか・・・ウルフェンを見ても、彼はフォルトに背を向けたままその場から動いていなかった。

 『そん・・・なっ・・・あいつはあの場から動いてないのに・・・何で・・・』

 フォルトは全身を襲う痛みに耐えていたが、不意のダメージによって能力が切れてしまい、周りの霧が消えてしまった。フォルトが理解できないまま、ウルフェンを睨みつけると、ウルフェンの姿がその場から消えた。

 「どうした?動きが止まっているぞ?」

 フォルトの背後からウルフェンの声が聞こえてくる。フォルトは後ろを振り向こうとしたが、ウルフェンは既に双剣を振り下ろしていた。間に合わない___そう思った時、横からロメリアが乱入してくる。

 「『リミテッド・バーストッ!《舞踏花風》』」

 ロメリアは力を解放し、目にも止まらぬ速さでウルフェンに接近する。ウルフェンは反射的にフォルトへの攻撃を中断してロメリアの攻撃を防ぐ。双剣で彼女の棍の一振りを受け止めたのは良いものの、あまりの怪力にウルフェンは勢いよく吹き飛ばされた。

 「フォルト!大丈夫⁉」

 ロメリアが半ば声を荒げて尋ねる。フォルトはすぐさま返事をして、安心させる。

 「大丈夫、問題無いよ。・・・ちょっと、不意を突かれただけだから。ロメリアの方こそ、さっきの傷は大丈夫なの?」

 「うん、幸い傷はそこまで深くなかったみたい。・・・滅茶苦茶痛いけど。」

 フォルトはそう言う、ロメリアの体を見る。彼女の右肩から左腰に掛けて斬られた跡があり、どうやらリミテッド・バーストの影響で体に纏わせている魔力で出血を止めているようだ。

 ウルフェンは吹き飛ばされている中、受け身を取って体勢を整えると、またもやその場から姿を消した。ロメリアは棍を体の周りでグルグル勢いよく回すと、目の前に現れたウルフェンに振る。一瞬で現れたウルフェンに動じることなく、フォルトの代わりにウルフェンと交戦する。

 ロメリアとウルフェンが激しい攻防を続ける中、フォルトはふと自分の傷を確認しようと顔を俯けた。するとあることに気が付いた。

 ___自分の影が___『欠けている』?

 彼が床に映っている影を見た時、自分が今さっき受けた所と『同じ個所』が白くなっていたのだ。正確に言えば、そこだけ『切り取られたような』感じになっており、人型のシルエットに不自然な線が複数存在していた。

 それを見た時、フォルトは先程ウルフェンの攻撃を回避した時のことを思い出した。あの時、ウルフェンはフォルトに攻撃したのではなく、フォルトの『足元』を攻撃した。そしてその時、フォルトの影はウルフェンの方に向いていた。

 フォルトはロメリアの方に急いで顔を向ける。二人は一歩も引かない戦いを見せており、ロメリアが果敢に攻めていた。強化されたロメリアの棍術でウルフェンが攻めきれないでいると、彼の視線が彼女の足元の影に移動する。

 「ロメリア!奴に影を斬らせないで!」

 フォルトが叫び、ロメリアはウルフェンとの間合いを更に縮めて彼を押し飛ばす。直後、ウルフェンの姿が影の中に消え、フォルトの背後に現れた。フォルトはウルフェンの斬撃を防ぐが、ウルフェンはフォルトを強烈な回し蹴りでフォルトの顔を蹴り飛ばし、床に映った影を床ごと斬った。ウルフェンがフォルトの影を斬ると、フォルトの胸に横一線の傷が現れる。回し蹴りを頭に食らった影響で受け身を取れずに、フォルトは壁に勢いよく打ちつけられる。

 ロメリアは鬼のような形相になり、ウルフェンに襲い掛かる。渾身の一撃をお見舞いしようと、最速で近づいて棍を振り下ろしたが、ウルフェンはロメリアの影を捉えると、右手に持っていた小太刀を彼女の影に突き刺した後、何も持っていない右手で棍を受け止めた。打ちつけた衝撃で、ウルフェンの周囲の床が大きく割れて陥没する。

 驚愕するロメリアにウルフェンは左手に持っている小太刀を一振り、彼女の腹部に深い傷を負わせる。ウルフェンはロメリアを雑に地面へ投げ飛ばすと、彼女の腹からは内臓がはみ出し、大量の血が地面に広がった。フォルトが意識を取り戻すと、彼の視線の先には血塗れの双剣を持って向かってくるウルフェンと奥で血だまりの中に倒れているロメリアの姿があった。

 視界が歪む中、フォルトがゆっくりと立ち上がると、ウルフェンが口を開いた。

 「私の攻撃のカラクリに気が付いたことは誉めてやろう。・・・だが、もう手遅れだったな。」

 「はぁ・・・はぁ・・・」

 「気づいているだろうが、私の能力は影を操る力だ。影から影へ瞬時に移動する能力、影の中に潜む能力、影をデコイとする能力、そして影を斬ることで本体に傷を負わせる能力・・・これらすべて、影を操る私の能力の一つに過ぎない。」

 ウルフェンは双剣を振って血を払う。この時、フォルトはウルフェンの体の傷が完全に塞がっていることに気が付いた。

 「薄々感じてはいただろうが、私は他の八重紅狼とは違って状態異常能力を持っていない。だが私は戦闘技術と肉体を極限まで鍛え上げることで誰にも退けを取ったこともない。小道具や小細工は一切この私には通用しない。」

 「・・・でもお前の兄貴には勝てなかったんだろ?」

 フォルトがウルフェンを挑発する。その瞬間、ウルフェンの目つきが一気に鋭くなり、フォルトの目の前へ一瞬で移動する。そのままフォルトに裏拳を食らわせて、殴り飛ばした。

 「調子に乗るなよ?奴に劣っていたとしてそれが何だ?それで貴様らが勝てるとでも?・・・分を弁えるという言葉を知らないようだな。」

 ウルフェンの纏う殺気が高まる。フォルトは口から血を吐き出すと、ゆっくりと立ち上がって血の付いた口元を拭う。

 『マズい・・・さっきの蹴りが効いてるのかな、頭がくらくらして魔力を上手く練れない・・・』

 フォルトは荒れた息のまま、鎖鎌を構える。フォルトはウルフェンの動きに注意しながらちらりと視線を首からぶら下げている懐中時計に向ける。体力の関係上、これ以上戦闘を長引かせる訳にはいかない___

 『この力で・・・一気に勝負をつけるッ!』

 フォルトは全身に込めつつ、時計へ魔力を集中させる。ウルフェンは目を細め、警戒する。

 「『リミテッド・バースト!《廻郭絶界》』」

 『___来たか。』

 フォルトは時計の力を解放すると、謁見の間全域をドーム状の結界で覆う。結界には無数の時計の針と歯車が描かれている。

 フォルトはそれと同時に鎖鎌の力も開放し、周囲に霧を展開する。時計の能力で、ウルフェンの影の力を封じ込めた今、能力の限界を迎える前に彼を仕留める必要がある。フォルトは先程まで虚ろだった意識に喝を入れ、ウルフェンに攻撃を仕掛ける。

 フォルトは無数の幻影を作り出すと、同時に全方位から襲い掛かる。また、鎖を展開し、ウルフェンを拘束しようとする。一方ウルフェンは蛇のようにうねりながら襲い掛かる鎖を全ていなしながら、幻影を各個撃破していく。

 フォルトは幻影に紛れて攻撃を仕掛け、ウルフェンの左脇腹を斬る。ウルフェンはすかさず反撃し、フォルトは彼の斬撃を受け止める。フォルトは体を捻ってウルフェンの首目掛けて斬りかかり、ウルフェンは体を反って回避する。

 「良い動きだ。その傷でまだそこまで動けるとは、称賛するに値する。隙や無駄の無い、見事な攻撃だ。」

 ウルフェンはそう言うと、自前の身体能力を活かしてフォルトの背後に回り込むと、彼の背中を斬る。フォルトが歯を食いしばり痛みに耐える中、ウルフェンが冷たい眼差しを向ける。

 「だが___想定内だ。」

 フォルトは後ろを振り向き、鎖鎌を振るがウルフェンは素早く弾いてフォルトの体を切り刻む。目にもたまらぬ早業で、傷を視認した後に強烈な痛みが襲いかかって来る。

 ウルフェンはそのままフォルトを蹴り上げる。顎が割れるような痛みに襲われた直後、フォルトが打ち上げられた先にウルフェンが飛び上がり、床に向かって蹴り飛ばす。床に打ちつけられたフォルトはすぐさま霧の中に隠れたが、何とウルフェンはフォルトの乱れた魔力を感じ取り、床に着地すると霧の中へ突っ込み、フォルトの眼前に立つ。

 フォルトが反撃しようとした時、ウルフェンはフォルトの両腕の健を切断し、強制的に武装解除させる。そしてフォルトに思考させる間も与えずに斬り刻み、壁まで得意の蹴り技で蹴り飛ばす。ウルフェンの蹴りの威力は凄まじく、壁に打ち当たった際にその壁が大きく凹んだ。

 フォルトはぐったりと項垂れて壁を背に座り込む。意識を失ったのか、鎖鎌と懐中時計のリミテッド・バーストが解除された。

 「フォルト・・・くッ!」

 ロメリアが地面を這いずりながらフォルトの方を見る。出血がひどい上に内臓も零れているので、目の前が霞んで良く見えない。ウルフェンはそんなロメリアの方を見ながら少し驚いたような言葉をかける。

 「ほぅ、まだ生きていたか。随分としぶとい女だ。いや・・・逆に哀れだな。それだけの傷を負っても死ねないというのは・・・」

 ウルフェンは吐き捨てるように呟くと、フォルトの方へ歩き出す。フォルトは項垂れたまま、微動だにしない。

 「中々に楽しめたぞ、フォルト。時間に余裕があれば、もう少し遊んでいたかったが・・・」

 ウルフェンはそう言ってフォルトの前に立ち、彼を見下ろす。フォルトはゆっくりと顔を上げて、虚ろな目でウルフェンを見上げた。

 少しの間、両者が見つめ合った後、ウルフェンは右手に持っている小太刀で懐中時計事フォルトの胸を貫いた。フォルトは口から小さく血を吐くと、がくんと顔を伏せた。貫かれた時計もヒビが入った後に、粉々に砕けた。

 「さらばだ、フォルト。この私を楽しませてくれたことを誇りに思いながら死ぬがいい。・・・案ずるな、お前の仲間も全員送ってやる。せめてもの礼として、寂しい思いはさせないでやろう。」

 ウルフェンはそう告げてフォルトの胸から小太刀を抜いた。フォルトの体が小太刀を抜かれた勢いで揺らぎ、体を横にして床に倒れる。ウルフェンはフォルトの首元に指をあてて、息絶えたことを確認する。

 「あぁ・・・あああァァッ・・・」

 ロメリアが口から血を吐きながら手を伸ばす。この手でフォルトを護りきれなかった罪悪感に強く襲われ、目から自然と涙が零れ落ちていた。

 ウルフェンはすっと身を翻してロメリアの方へ歩き出す。

 「待たせたな。辛かっただろう?ロメリア王女。今楽にしてあげ___」

 ウルフェンが少し面倒くさそうな顔をしながらロメリアに語り掛けていた___

 ___その時だった。

 ドオォォォォォォォンッ!

 突如ウルフェンの背後から彼の背筋が震える程の魔力の波動を感じ取った。大気が震え、手が自然と震えてくる。

 ウルフェンが後ろを振り返ると、何と絶命した筈のフォルトが顔を俯けて立っていた。体中に負った傷がみるみる塞がっていく上に、足元の血が傷口に戻っていく。まるで時間が巻き戻っているかのようだ。

 『何ッ・・・』

 ウルフェンが困惑していると、フォルトの姿がその場から消えた。そして次の瞬間、フォルトはウルフェンの目の前に現れ、彼の胸部に掌打をお見舞いした。ウルフェンはフォルトの動きに反応できず、もろにダメージを受けてしまった。

 「がッ⁉」

 ウルフェンは勢いよく吹き飛ばされ、向かいの壁に強く打ちつけられた。先程のお返しとばかりに、壁が大きく凹むほどの勢いで吹き飛ばされたウルフェンは酷く咳き込む。強烈な掌打のおかげで一瞬息が止まり、不意に死のイメージが頭を過る。

 『反応できなかった?この私が?馬鹿な・・・』

 ウルフェンが胸を抑えながらフォルトの方を見ると、フォルトはゆっくりと顔を上げてこちらを見た。この時のフォルトの顔は別段さっきまでの顔と変わりはなかったが、ただ一つ、決定的に違っているものがあった。

 そう、それは___かつて見た『羨望』と___『嫉妬』を抱いた男の目だった。

 フォルトは鎖鎌の方に手を伸ばすと、鎖鎌がフォルトの下へ引き寄せられた。フォルトはそれを手に取ると、周囲に鎖を展開する。

 一呼吸置いた後___フォルトはウルフェンに声をかけた。

 「私の末裔を手にかけるとは___感心しないぞ、ウルフェン。」

 フォルトの声だが、ウルフェンはその声を聞いた瞬間___悪夢が蘇った。
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