最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~帝都決戦編 第9章~

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[異形]

 「『罪科を告げし宣告、歪曲せし檻にてかの者を焦がせッ!』」

 シャーロットは詠唱を行い、怪物を取り囲むように赤黒く変色した檻が出現し、その檻を包み込むように紅蓮の炎が出現する。

 しかし化物は一瞬苦しみの雄叫びを上げたものの、強引に檻を破壊した。キャレットはすぐさま指示を出す。

 「シャーロット!すぐ後ろに下がって援護しなさい!アクト、レフィナ、シェリル、ヒュッセルはシャーロットの護衛!残りは私と来なさい!」

 キャレットがそう言うと、皆指示通りに散開する。シャーロットと数名の護衛は後ろへ下がり、キャレット含む残りの人員は前線で化物と戦うこととなった。

 「敵の攻撃は受けちゃダメよ!回避に専念しなさい!」

 キャレットはもしこの化け物がユリシーゼなら状態異常能力を持っていると判断し、指示を出す。またこの巨体から繰り出される近接攻撃は到底受け止められないとも思っていた。ヴァンパイア達は一撃を入れると、直ぐに距離を取るといった戦術を取る。

 キャレットは化け物が槍を振り回している隙に、低姿勢で潜り込む。そして横に斬り払い、傷を負わせる。

 しかし与えた傷は一瞬で塞がった。化物は槍を振り上げ、キャレット目掛けて振り下ろす。キャレットは横にすっと回避すると、更に追撃を仕掛けてきた化物の攻撃を素早く回避し、後ろへ下がる。その隙に周りのヴァンパイア達が同時に攻撃を仕掛けて傷を負わせるが、これらもまた瞬く間に塞がる。

 『何て再生速度ッ!私達以上ね・・・』

 キャレットが分析していると、化物の上空に魔力で構成された紅の大剣が幾つも出現する。

 「『降り注げ、暁闇纏いし剣よ!敵を滅し、終焉を告げよ!』」

 シャーロットの詠唱が終えると、化物の真上に出現していた剣が一斉に降り注ぎ、化物に突き刺さる。化物は降り注ぐ剣の勢いに耐えきれずに地面へ伏せる。

 そして化け物に突き刺さった剣の柄頭が弾け、剣が一斉に爆発する。けたたましい爆音が周囲に轟き、離れていても身を焦がしていると錯覚するほどの爆炎が化け物に襲い掛かる。

 『さて・・・どうかしら?』

 キャレットが先程まで化物がいた場所を見つめる。彼女が見つめている先はまだ炎が煌々と燃え盛っていた。

 周囲のヴァンパイア達が化け物を倒したと喜びの声を上げ始めたその時、キャレットが声を張り上げる。

 「喜ぶのはまだ早いわよ、あんた達!」

 キャレットが叱責すると、化物を包み込んでいた炎が消え、姿を現した。化物は傷だらけだったのだが、みるみる傷が塞がっていく。

 「冗談じゃないわよ・・・あれ喰らっても再生するなんて卑怯じゃない・・・」

 キャレットは化物を睨みつけながら呟く。化物は『シィィィ・・・』と唸り声を上げ、口から白い息を吐いている。

 「皆、行くわよ!あいつが再生に集中している間に首を刎ねる!」

 キャレットの号令で、ヴァンパイア達が一斉に襲い掛かる。キャレットも化物に接近し、懐に入り込んだ。

 ___その時だった。

 「ウオオオオオオオオオッ!」

 化物が急に待機を震わす程の咆哮を上げ、一気に魔力を放出する。放出された魔力によってキャレット達は物凄い速さで吹き飛ばされ、ガラクタの山に激突する。

 「きゃあぁッ!」

 キャレットはガラクタの山まで吹き飛ばされると、背中に激痛が走り悲鳴を上げた。更に、ガラクタの破片が彼女の右胸を貫いていた。恐らく形状からして鉄のスクラップだろう・・・

 「う・・・くぅッ・・・」

 「キャレット様!」

 動けないキャレットの元に一人の女性ヴァンパイアが駆け寄ってくる。しかしキャレットは彼女に向かって叫んだ。

 「こっちに来ちゃダメっ!」

 キャレットは叫んだが、次の瞬間、化物がそのヴァンパイアに襲い掛かり、頭を掴むと勢い任せに叩きつけて潰す。そしてそのまま大きな口を開けて丸呑みした。

 「畜生!この化け物が!」

 他のヴァンパイア達が次々と襲い掛かる。しかし化物は次々とヴァンパイア達を引き千切り、殴り潰し、槍でなぎ倒していく。

 キャレットは引き抜こうと体を起こすが、痛みで体が言う事を聞かない・・・

 『まずいわ・・・早く抜かないと・・・皆が・・・』

 キャレットは唇を噛んで壮絶な痛みに耐えながら、気合で引き抜こうとする。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「お姉ちゃん!」

 シャーロットが動けないキャレットに駆け寄ろうとした時、周りにいたヴァンパイア達が制止した。

 「いけませんッ、シャーロット様!前に行くのは危険です!」

 「で・・・でもお姉ちゃんがッ・・・」
 
 シャーロットはキャレットを見つめる。キャレットは必死に体に突き刺さっている裂けた鉄を抜こうとして、苦悶の表情と声を上げている。苦しんでいる姉を放っておくなど、妹であるシャーロットは出来なかったが、周りにいるヴァンパイア達が止める。

 「離してください!お姉ちゃんの所に行かせてくださいッ!」

 「駄目です!いくらシャーロット様のお願いでもそれだけは出来ません!」

 「どうして⁉」

 「シャーロット様はキャレット様の様に近接戦闘が得意ではありませんよね!もしあの異形の化物に襲われたらどうするのですか⁉ここはあの化け物に接近するよりもシャーロット様が得意とする強力な魔術で飽和攻撃する方がよろしいかと・・・」

 「・・・」

 「それにキャレット様が何故シャーロット様を後衛にやったのか・・・分からない訳ではありませんよね⁉シャーロット様がもしキャレット様率いる前衛と合流してしまえば、何の為に人員を裂いたのか、意味が無くなってしまいます!」

 部下達の言葉にシャーロットは顔を伏せる。妹は姉の助けとなりたい・・・姉も妹がなるべく危険が及ばないようにしたい・・・二人は互いを大切に思っているからこそ、この状況はシャーロットにとって、とてももどかしく、辛かった。

 シャーロットは少しの間、俯いていたが、顔を上げた。

 「そう・・・ですよね。・・・ごめんなさい、皆に迷惑を・・・かけてしまいました・・・」

 「とんでもありません。私達の方こそ、ドラキュリーナ家の令嬢であるシャーロット様に対し無礼な口を聞いたこと、お詫びいたします。」

 「あ、謝らないで・・・下さい。何も間違った事・・・言ってませんから・・・」

 シャーロットはそう言うと、化物の方を見る。奥では何人ものヴァンパイア達が戦っており、数名が息絶えていた。

 『そう・・・私には私の得意な事があるんですよね・・・なら私は・・・それを活かしてお姉ちゃんの役に立って見せるッ!』

 シャーロットは全身に魔力を漲らせる。そしてシャーロットの周りに三重の魔術紋章が現れる。

 『さっきの術は効いていたけど、直ぐに再生してしまった・・・きっと与えたダメージよりも再生速度が上回ってしまったから・・・ですよね。なら___』
 
 シャーロットは目をカット見開き、魔力を一気に開放する。シャーロットの凄まじい魔力の波動を感じ取った化物がシャーロットの方に顔を向ける。

 『___魔術を一気にぶつけたら・・・どうですか⁉』

 シャーロットが詠唱を始める。彼女の詠唱に合わせて、周囲の魔術紋章がそれぞれ輝きを放つ。

 「『燃え上がれ、邪悪なる者よ。堅固なる檻にて罪を浄化せよ!』」

 化物の真上から錆びた檻が落ちてきて、怪物を閉じ込める。直後、その檻を地獄の業火が包み込む。化物は悲鳴を上げながら必死に足掻く。

 「『凍えよ。絶対零度の吹雪に呑まれ、絶望しろ!』」

 檻の周囲に薄青色の嵐が発生し、業火ごと化物を凍り付かせる。シャーロットは右腕を天に振り上げる。

 「止めですッ!『降り注げ、暁闇纏いし剣よ!敵を滅し、終焉を告げよ!』」

 シャーロットが腕を振り下ろすと、真上から漆黒の剣が降り注ぐ。化物とその周囲に突き刺さると、剣が一斉に炸裂した。氷結していた化物は粉々に砕け散り、氷の粒がちらちらと降り注ぐ。

 「はぁ・・・はぁ・・・」

 「やりましたね!シャーロット様!あの化け物・・・粉々に砕け散りましたよ!」

 周りのヴァンパイア達がシャーロットを支えながら、喜びの声を上げる。シャーロットは荒れた息を整えながら、小さく何度も頷いて返事をする。一気に大量の魔力を消費した上に三重詠唱という不慣れな技術を行こなったせいで、疲労が異常に溜まっていた。

 『流石ね。あんたならやってくれると思ってたわよ・・・』

 キャレットは嬉しそうにシャーロットの方を見る。そして息を整えると、一気に体を前に動かして、体を貫いている鉄のスクラップから離れる。

 「うぅんッ!はぁ・・・はぁ・・・」

 キャレットは四つん這いになりながら右胸を抑える。大量に出血しているが、徐々に傷が塞がって行き、痛みと出血が収まっていく。

 『早く・・・治さないと・・・くっ、早く治りなさいよ、全くッ・・・』

 キャレットは傷口を抑えながらふと化物がいた方を振り返った。流石にあれだけの攻撃を受けて砕けたのならもう生きてはいないだろう・・・そう思いながら・・・

 だが___違った。

 グシュッ!グチュッ!

 『冗談よね⁉あれでもまだ復活するの⁉』

 砕けた怪物の体から触手が伸び、物凄い速さでくっつき再生していく。それらの触手は怪物の胴体部分から伸びていると思われ、更にその胴体でも胸部に何か蠢くものが見えた。

 『あの怪物の胸・・・何かいたわね。まさかあれが本体なの?』

 怪物は元の姿とは程遠い異形の姿に変貌する。左腕が無い代わりに醜く肥大化した右腕が非常に特徴的で、化物が持っていた槍がその右腕に同化している。シャーロット達も化物の存在に気が付いているようで、それぞれ武器を構えていた。しかしシャーロットは膝をついており、魔術を練れていなかった。

 『マズいわッ・・・もしこの化け物をあの子の方に行かせたら・・・』

 キャレットは近くに転がっていたレイピアを拾うと、化物に接近する。既に前衛で戦っていたヴァンパイア達は彼女を除き、全滅している。キャレットしか、近くで止められるものがいなかった。

 「あんた達!シャーロットを連れて距離を取りなさい!」
 
 キャレットがシャーロットの傍にいるヴァンパイア達に叫ぶ。

 「キャレット様⁉まさかお一人でッ・・・我々も___」

 「駄目よ!貴方達はその子をずっと守ってなさい!これは命令よ!」

 キャレットはそう言って化物の懐に入った___その時。

 「グオォォォォォォォォォッ!」

 突如化物が大きな口を開け、咆哮と共に壮絶な衝撃波が発生する。衝撃波は化け物の前方にあるものを全て吹き飛ばしていき、奥にいたシャーロット達をも吹き飛ばした。

 「きゃああああああッ!」

 シャーロット達が思いっきり吹き飛ばされ、スクラップの山に次々と激突していく。そして誰もピクリとも動かなくなった。体に大きな傷は見られないが、恐らく吹き飛ばされた衝撃で気絶してしまったのだろう。

 「シャーロットッ!皆ッ!」

 キャレットが吹き飛ばされた仲間達を心配していると、化物が腕を振り回す。キャレットは当たる寸前でしゃがんで回避し、後ろへ下がる。化物はキャレットの方を見つめると、にやッと頬を吊り上げる。

 「・・・残りは私一人って訳?私みたいな雑魚をどうやって殺してやろうかって、考えてるんでしょ?」

 「ガァァァァァァ・・・」

 「上等じゃないッ・・・良いわ!相手をしてあげる!」

 キャレットはレイピアを構えて、戦闘態勢を整える。化物も全身に魔力を漲らせて、雄叫びを上げた。
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