最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~帝都決戦編 第6章~

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[立ちはだかる漆黒の英雄]

 「ねぇ、フォルト・・・さっきから誰も見当たらないんだけど、めっちゃ不気味じゃない?」

 ロメリアが見渡しながら言う。フォルトは意識を研ぎ澄まして、周囲の気配を探る。

 『・・・妙だな、人の気配がしない。テロリスト達がいたのはまさかあそこだけ?いや、そんな局地的に守ってる訳ない・・・もしかしてバレた?いや、そんな訳・・・』

 フォルトとロメリアは慎重に歩いていく。突然敵が現れた際に直ぐ隠れられるよう壁際に沿って歩いていく。なるべく足音を立てないようには歩いているが、カツン・・・カツン・・・と磨き上げられた大理石に触れる靴の音だけが小さく響く。

 「何か感じる?」

 「ううん、何も。気味が悪いくらいだよ、こんなに誰もいないって・・・」

 「もしかしてこれって罠?ウルフェンがもう実は気づいてたり・・・しないよね?」

 「それは無い・・・って言えないね。ウルフェンの実力は分からないけど、僕達が想像していない以上のことを平然とやって来ると思う。」

 フォルトは鎖鎌を強く握りしめる。ロメリアも早まる鼓動を呼吸で落ち着かせている。

 「因みにこの先って何処に続いてるの?」

 「えっとね、今ここが近衛兵の詰め所とかがある廊下で、ここの扉が近衛兵専用の食堂だから・・・あの奥の大きな扉の向こうに城の正面ホールがあるよ。」

 ロメリアはフォルトに今の地点について説明する。流石というべきか、まぁ元々この城は彼女の実家のようなものだから、知っていて当然と言えば当然なのだが。

 廊下を進み、扉を開けて正面ホールへと出る。

 「うっ!」

 正面ホールに入った瞬間、鼻の奥を針で突かれるような腐敗臭ともいえる刺激臭に思わず鼻を覆う。フォルトとロメリアは目の前の光景に呆然とする。

 正面ホールはさっきまで歩いていた廊下とはうって変わり、一面血が飛び散っていた。血は乾いており、赤黒く変色していた。純白の大理石は血によって赤く染まり、壁には凄惨な返り血が付着している。死体は片付けられているのか見当たらないが、それでも不快な臭いが鼻をつく。

 フォルトはその場にしゃがみこみ、地面に付着した血を観察する。

 「血は乾燥して変色してる・・・帝都が襲われた時についたものだろうね。」

 「よ、よく触れるね・・・」

 ロメリアが血を触って観察しているフォルトを少し引き気味に見る。フォルトはすっと立ち上がり、傍にある大階段を見る。

 「この大階段の上・・・城の正門と同じぐらいの大きさがありそうなあの扉の先って何?」

 「あの扉の向こうは謁見の間だよ。式典とかやる所。古都のお城にもあったよね?雰囲気はあんな感じかな。」

 「・・・」

 「どうしたの?そんなにじっと見て・・・」

 フォルトが階段の上にある大扉を見ながら微動だにしない。ロメリアがそんなフォルトを心配しながら辺りを警戒していると、急に場の空気が重くなった。

 首を絞めつけられている感覚に陥り、呼吸が乱れる。それでもフォルトは大階段の上にある扉を見つめ続ける。

 「な、何この気配・・・」

 「・・・ウルフェンだ。僕達を呼んでる。」

 「はぇッ⁉何でそんな事分かるの⁉」

 「分からない。でも感じるんだ。ウルフェンが待ってるって。あの扉の向こうに・・・」

 「本当に?うぅ嫌だなぁ・・・いや、そんなこと言ってらんないよね。・・・行こう!フォルト!」

 ロメリアが呼吸を整え、全身に力を込める。フォルトは小さく頷き、大階段を上り始める。一歩・・・また一歩と上がっていく。階段を上がっていくにつれて手の震えが激しくなっていく。本能が叫んでいるのだろうか・・・無意識にこの先に待ち受ける恐怖を感じ取って魂が怯えているのだろう。

 でもフォルトとロメリアはケストレルやシャーロット達のことを考え、恐怖を退ける。皆がそれぞれ役目を果たしている中、弱音を吐く訳にはいかない。

 フォルト達は階段を上りきると、2人で目の前にある扉をゆっくりと開けた。ゴォォォ・・・と重い音と共に、扉が開く。フォルト達は謁見の間に侵入すると、武器を構え、互いに背中を合わせながら前進する。

 謁見の間には人の姿が見えず、気配も感じない。それでもフォルト達は一切警戒を解くところか、より警戒を強める。それもそう、相手はコーラス・ブリッツの総大将でありジャッカルの弟・・・気配を消すなど、容易であるだろうから。

 『何処だ・・・何処にいるんだ?』

 フォルトが意識を研ぎ澄まし、目を右往左往させる。フォルト達はいつの間にか謁見の間の中間へと到達していた。一体何処に隠れているのか・・・フォルト達が変わらず警戒を続けていた___

 ___その時だった。

 「___よく来たな。フォルト・サーフェリート。そしてロメリア・サーフェリート。君達を歓迎しよう。」

 突然何処からともなく聞こえてきたウルフェンの声に反応してフォルト達は辺りを見渡す。しかしウルフェンの姿は何処にも見当たらない。

 「何処だ、ウルフェン!姿を見せろ!」

 「『姿を見せろ』、だと?・・・フォルト、私を失望させないでくれ___『ずっとお前達の後ろにいるというのに』。」

 フォルト達がその声を聞き、扉のある方を振り向く。すると振り向いた眼前にウルフェンが立っていた。

 『何時の間にッ⁉全く気配を感じとれなかったッ!』

 フォルトとロメリアは突如現れたウルフェンに驚きつつ、同時に襲い掛かった。しかし攻撃が当たる直前にウルフェンは一瞬でその場から姿を消し、フォルトとロメリアの後方に少し離れた所に現れる。

 フォルトとロメリアは直ぐに振り返って構えながらウルフェンを睨みつける。ウルフェンは失望したような眼差しを向ける。

 「私が真後ろにいたというのに、何時まで経っても気が付かないとは・・・残念だよ、フォルト。君には少し期待していたんだがね。」

 「・・・」

 「ふむ・・・私を睨みつけるその目は悪くない。私の失望を挽回できるか・・・確かめてみるとしよう。」

 ウルフェンはそう言って薄っすらと笑みを浮かべ、魔力を放出する。彼が放った魔力の波動は周囲の空間を裂き、ノイズの様に視界が悪化する。全身から汗が止まらなくなり、手の震えも止まらなくなる。魔力の多さはそれだけで十分な戦力となる・・・今まで様々な猛者と戦ってきたが、彼が放つ魔力の波動はそれらを遥かに上回っていた。いや、『上回る』というよりも『次元が違う』といった表現が正しいのかもしれない。

 『これが・・・ウルフェンの力ッ!』

 『ひィィィッ!想像を超えて来るとは思ったけど、その想定すら超えちゃってるじゃん!』

 フォルトとロメリアが恐ろしい魔力の圧に耐える中、ウルフェンはコートのポケットから小さな袋を取り出した。その袋を見た瞬間、ロメリアは自分の羽織の内側を捲る。

 「ちょッ!な、何で⁉最後の黄金の葡萄が入った袋が⁉い、何時の間に___」

 「つい先程君達が攻撃を仕掛けてきた時に奪った。隙だらけだったからな。正直に言えば、あそこで殺せたぞ、2人共な。」

 ウルフェンはそう言うと、黄金の葡萄が入った袋を投げ捨て、その刹那に双剣を抜刀。たった一振りというのに、袋ごと黄金の葡萄は跡形もなく細断された。

 「黄金の葡萄さえあれば、万が一息絶えたとしても生き返ることが出来ると考えていたのだろう?だが、それではつまらない・・・後がないからこそ人は必死になれるのだ。もう一度挑戦できる・・・その考えが心に綻びを生む。」

 ウルフェンは双剣を構え、より魔力を上昇させる。空間がより軋む中、ウルフェンは無表情で息をゆっくりと吐いた。

 「さぁ、行くぞ。フォルト、ロメリア・・・一瞬たりとも気は抜くな・・・常に神経を研ぎ澄まし、五感を解放しろ。さもなくば___」

 ウルフェンがそう言った直後、まるで場面が切り取られたかのように目の前にまで接近していた。

 「___死ぬぞ。助けが来る前にな。」

 ウルフェンの一閃がフォルトに襲い掛かる。その時、フォルトの目には『死』の概念だけがはっきりと映っていた。
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