最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~帝都決戦編 第5章~

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[紫炎纏いし怪物]

 フォルト達と分かれたワーロック達一行は周囲を警戒しながら城から出る。殆ど全ての戦力を帝都外に配置しているせいなのか、敵の姿は見えない。逆にここまで敵の姿が見えないとなると、余計不気味に感じる。

 「何よ、敵の本拠地だって言うのに誰もいないじゃない。ちょっと拍子抜けね。」

 「だがこの状況は好都合だ。敵の意識が外に向いている内に仕事を済ませるとしよう。」

 ワーロック達は引き続き警戒しながら、足を速めて目的地へ向かう。なるべく物陰に隠れるようにしながら旧貧困街へと向かう。

 旧貧困街に到着すると、天に向けて堂々と聳え立っているアストライオスが目の前にあった。アストライオスの周りの地面は陥没しており、貧困街は影も形も無くなっていた。

 陥没した穴から見下ろすと、真っ暗な地底とその地底を星のように照らす碧色の光が見えた。大変不謹慎だが、こんな状況の中でもその光景は美しいと感じる。

 「・・・で、ここからどうするの?」

 キャレットが腰に手を置いて呟くと、ワーロックが指を鳴らした。すると、ワーロック達の目の前に魔力で構築された円盤が現れる。

 「これに乗って下に向かう。今見えているのは砲身部分で、見ての通りこれだけ巨大だと魔術で破壊するのは不可能だ。シャーロット君の力でも無理だろうな。だから最下層にあるコア・・・このバケモノを動かす心臓部を破壊して無力化する。」

 ワーロックはそう言って出現させた円盤に乗る、シャーロット達も円盤に乗ると、ゆっくりと円盤は下降していく。

 下に向かっている間、シャーロットが周りを見渡しながら呟いた。

 「この緑色に輝いているもの・・・これって『マナ』ですか?」

 「そうだよ。マナは地中深く・・・地殻を流れている霊的なエネルギーだ。どこでも見れる訳じゃないが、地中深く掘っていくと、このような光景を目の当たりにすることもある。見られる場所としては、地殻の裂け目がメインになるかな。ウィンデルバーグへ来た時に見てるかも知れないけど、あの街の下もこんな光景になっているよ。あの街は地殻の裂け目の上にあるからね。私達研究者の間ではこういう所を『マナの鍾乳洞』って言っているんだ。」

 ワーロックはそう言うと、アストライオスを見ながら溜息をついた。彼の溜息からはアストライオスを哀れんでいるように感じる。

 「本来マナは僕達の生活を助けてくれるとてもありがたい存在だった。遥か昔・・・人間やヴァンパイア族以外にも多くの種族が存在していた時代にはマナは資源として今の私達からは想像も出来ない程発展していたそうだ。」

 「・・・でもそんなマナを使って戦争が起きた。」

 「正確に言えば、戦争の道具にマナを用いた兵器が製造されたんだ。マナのエネルギーは木炭や化石燃料が持っているエネルギーとは比べ物にならない。この今目の前に聳える兵器を見ても分かるだろう?」

 「・・・」

 「何時の世も、争いの根本は人間のエゴだ。資源の為、自由の為、金の為、研究の為、自分の意思を貫く為・・・理由は様々だがその根本は変わらない。それに使われた資源には何の罪もない。」

 「・・・そうですね。世の中には沢山の道具がありますが、使い方によっては人を助けることも出来るし、傷つけることも出来る・・・」

 「言葉もそうね。笑わせることも出来るけど、泣かせることも出来る。・・・間違ったことに使われるモノも哀れだけど、そんな間違った使い方をしてしまう私達はもっと哀れで愚かな存在ね。」

 キャレットが自嘲するように呟く。シャーロットは両手をぎゅっと握りしめてアストライオスを見つめ続けていた。

 円盤が最下層に到着すると、皆円盤から降りた。周囲がマナの光によって照らされているので、視界は明瞭だった。

 シャーロット達が降りた所は予想以上に広く、アストライオスを囲むように空いていた穴よりも広大であったことから、どうやらアストライオスの心臓部がある場所には元々巨大な空洞が存在していたようだ。また、この空洞には遥か昔に使用されていたと思われる大量の兵器が乱雑に転がっており、あちらこちらにジャンクの山があった。

 アストライオスを見ると、異様に白く輝いている部分があった。ワーロック達はその光を目指して歩く。キャレットは歩きながら周囲に散乱している兵器を見て、呟いた。

 「凄い数の兵器ね。これってまだ動くのかしら?」

 「多分動かないと思う・・・もう何千年って使われて無さそうだし・・・」

 「ん~、それもそっか。にしてもほんっと古代人の技術は凄いわね。どんだけ文明発達してたのよ。」

 「うん・・・でもこんな大きな兵器が沢山使われてたってことだから・・・想像したら昔の戦争って怖いね・・・」

 「・・・そうね。そう考えたらここにある兵器が全部壊れててくれてよかったわ。この戦いで使われずに済んだから。」

 キャレットとシャーロットが傍にある巨大な兵器を見ながら話している。他のヴァンパイア達も周りの兵器たちに興味津々のようで、アストライオスそっちのけで語り合っている。

 そんな中、ワーロックは白い輝きを放つアストライオスの核のすぐ傍にまでやって来た。核は綺麗な歪みの無い球体で、表面は硝子の様に透き通っている。この核は想像以上に小さく、大人が両手で包み込めるほどの大きさしかなかった。また、核の周りには四重に張られた保護結界があり、容易に核を取り出せないようになっていた。

 『これがこの巨大なアストライオスを動かしている原動力・・・この大きさでこれほどの規模の兵器を動かせるとは・・・どれほどの高純度・高密度のマナが凝縮されているんだ?』

 ワーロックは核をまじまじと観察する。観察していると、ふとあることに気づく。

 『ん・・・何だこれは?よく見たら球体に何か描かれているな。一体何の術式なんだ、これは・・・』

 ワーロックは目を凝らし、球体に描かれていた紋章を見つめる。そんなワーロックの元にシャーロットとキャレットが近づく。

 「何をしているの?とっととこんな物騒な兵器壊しましょうよ。その丸っこいものとったら止まるんでしょ?」

 「あぁ。だが、その前にこれを保護している結界を解くのが先だ。強引に取れば、何が起こるか分からん。・・・シャーロット君、手伝ってくれ。」

 「はい、分かりました。」

 「キャレットさん達は周囲への警戒を引き続き頼む。今のところ敵の気配は感じないが、万が一襲撃をしてきた際に迅速な対応を取れるよう頼む。」

 「了解。任せなさい。」

 「うむ。では・・・始めようか。」

 ワーロックは袖を捲ると、拳を鳴らして保護結界を解除していく。シャーロットはワーロックの指示に従い、サポートを行う。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 作業に取り掛かってから10分経った。作業はとても順調に進んでいるようで、四重にかけられていた保護結界もいつの間にか残り1つを残すだけとなっていた。

 「よし、仕上げと行こう。シャーロット君、ここの紋章が見えるかい?」

 「はい。この六芒星の紋章ですね。」

 「うん、この紋章の術式は他の術式が外部からの接触を受けた際に反撃の術を発動するというものだ。しかしこの術式自体には効果を発揮しないようだから、過剰に魔力を供給して麻痺させてくれ。」

 「はい。・・・万が一に備えてこの保護結界自体に重ねて結界を張った方がいいですか?もし反撃されても防げますので・・・」

 「いいね、それ。頼むよ。」

 シャーロットは頷き、作業に取り掛かる。ワーロックはその隙に結界の解除に取りかかる。シャーロットが的確にサポートを行ってくれるので、ワーロックも安心して作業を行うことが出来ていた。

 そして僅か数分後、とうとう最後の保護結界を解除した。ワーロックは最後の保護結界を解除すると、短く息を吐く。

 「終わったの?」

 辺りを警戒していたキャレットが2人へと近づく。

 「あぁ、これで終わりだ。そちらの状況は?」

 「問題なしよ。敵の気配は依然として全く感じないわ。」

 「そうか。」

 ワーロックはそう返事をし、続けてシャーロットに感謝を伝える。

 「助かったよ、シャーロット君。君のおかげで作業が予想以上に滞りなく進んだ。噂に違わぬ君の力・・・是非ともこの戦いが終わった後、ウィンデルバーグの魔術学校で更なる高みを目指して欲しいな。・・・どうだろう?魔術を学んでみたいとは思わないか?私からの推薦状も書いておくよ?」

 「魔術学校・・・ですか?」

 「あら、良いじゃない!あんた本読んだり勉強するの好きでしょ?行って見たら?」

 「でも学校だからお金とかいるんじゃ・・・」

 「大丈夫だ、金銭面での問題を気にする必要は無い。私の推薦を受けたことで、入学した後の学費・生活費は全て免除となる特待生として過ごせる。勿論、入学前に試験を受け、特待生として相応の成績を収める必要があるが、君の今の知識でも試験は難なく突破できるだろう。適性検査として生まれつき持っている魔力量を測られることもあるが、これに関してはもう言うまでもないな。」

 ワーロックの言葉を受けて、シャーロットは少し首を捻りながら顔を下に向ける。そして暫く考えた後にキャレットに尋ねる。

 「お姉ちゃん・・・どうしよう?」

 「自分で考えなさいよ、それぐらい。あんたはどうしたいの?」

 「・・・」

 「行きたいの?」

 キャレットが尋ねると、シャーロットは小さく頷く。

 「だったらはっきりと『行きたい』って言いなさいよ、全く・・・あんたは自分がしたいことをしていればいいのよ。皆や里のことは私が何とかするって前も言ったでしょ?」

 キャレットはそう言ってシャーロットの頭に手を置いて、優しく撫でる。

 「ごめんなさいね。この子、まだちょっと自分の意思を伝えるのが苦手なみたい。あのジャッカルの末裔君達と旅をする前と比べたら相当マシになったけど。」

 「はっはっは!問題無い。急にこんな事を言ってまだ整理がついていないんだろう。落ち着いてから相談しに来ると言い。・・・それにしても良いお姉さんを持っているな、シャーロット君は。私は一人っ子で兄弟がいなかったから羨ましいよ。」

 ワーロックはそう微笑むと、アストライオスの核に視線を向ける。

 「おっと・・・少し長話しすぎたな。早く核を回収して撤収した後、皆と合流し___」

 ワーロックが話をしていた___

 その時。

 ドオォォォォォォンッ!

 突然、息が止まりそうな程の魔力の圧がワーロック達を襲う。初め、アストライオスから魔力が放出したのかと思ったが、その圧が城の方から伝わってくるのを感じ取り、この異質な魔力の圧が誰から発せられているのかをその場にいる全員が理解した。

 「この圧迫感ッ・・・ウルフェンか!」

 「はいっ・・・ウィンデルバーグでウルフェンが私達に放った魔力の感じと同じ・・・いや、もっと恐ろしくなってます!」

 「嘘でしょ⁉これだけの圧を一人の人間が出してるって訳⁉冗談止してよ!」

 キャレット達が困惑していた___

 ___次の瞬間。

 ヒュゥゥンッ!

 「うッ!」

 突如上から目で追えない程の速さで一本の大きな赤黒く錆びた槍が飛んできて、ワーロックの胸を背後から貫いた。槍はワーロックの体を貫通した後、地面に深々と突き刺さる。

 「ワーロックさん!」

 シャーロットが叫び、ワーロックは口から大量の血を吐き出す。シャーロットが思わずワーロックに駆け寄ろうとした時、キャレットが真上から得体の知れない禍々しい気配を感じ取る。

 「シャーロット!」

 キャレットはシャーロットを抱え、後ろへ飛び下がる。直後、上から大きな影がワーロックを圧し潰す。水風船を地面に叩きつけると勢いよく割れて水が飛び散るように、彼の体が勢いよく潰されたことで大量の血液と内臓が周囲に飛び散った。シャーロットとキャレットにも返り血が僅かに付着する。

 キャレット達の周りにヴァンパイア達が集まり、剣を抜く。キャレットもシャーロットを離して、愛用のレイピアを抜き、シャーロットも魔術書を開いて魔力を漲らせる。

 「グㇽㇽㇽㇽㇽㇽㇽ・・・」

 獣のように唸る声が眼前にいる大きな影から聞こえる。周囲のマナに照らされ、影が剥がれていく。シャーロット達がその姿をはっきりと捉えると、その余りにも異形な姿に言葉を失う。

 目の前に現れたのは身長が4,5メートルはあるんじゃないかと思われる人型の化物だった。人型と言っても、顔は醜く腫れあがり、顔には無数の目があった。どれもギョロギョロと激しく動いていて、気味が悪い。また後頭部には幾つもの角が生えている。

 腕や足、胴も巨大化しており、元々の性別の判断が難しかった。しかしよく見ると、女性特有の胸の膨らみを確認できたことから、この怪物が元々女性であると分かった。また、その怪物の背中からは無数の触手が生えており、うねうねと動いている。

 また体に巻き付いている紫色の布切れを見て、キャレットがふと古都での戦いのことを思い出した。

 『あの化け物に巻き付いてる布の模様・・・それに色・・・あれって古都で戦った女の・・・』

 「ギャオオォォォォォォォォォォッ!」

 化物は大地を揺らすほどの咆哮を上げて、地面に突き刺さった槍を引き抜く。化物の周囲には赤紫色の魔力のオーラが出現し、その夥しい魔力は周りの空間を歪ませている。

 化物は口から蒸気のように白く濁った息を吐きながら、槍を構えて戦闘態勢に入る。そのモーションを見たシャーロットとキャレットの脳内にはユリシーゼの姿が思い浮かんだ。

 「来るわよ!」

 キャレットが叫んだ瞬間、その化物は地面を砕くほどの勢いで蹴り上げ、一気にキャレット達との距離を縮めた。
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