最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~帝都決戦編 第3章~

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[開幕は一匹狼の襲来と共に]

 「畜生・・・クソ寒いな・・・」

 クローサーはワイバーンを操りながら呟く。彼の吐息は白く輝いており、手綱を握る手は小刻みに震えている。彼のワイバーンも『グゥゥゥゥ・・・グゥルㇽㇽ・・・』と唸り声を上げていた。クローサーの後ろには廻天送柱を4本背負ったケストレルがおり、遥か下に広がる帝都を見下ろしていた。

 彼らは地上から8kmもの上空・・・先程飛行船が飛んでいた高さの2倍近くある場所を飛行していた。人間の生活圏ではない上に、ワイバーンの適正飛行高度も軽く超える。酸素濃度も地上の三分の一しかなく、頭をハンマーでひたすらに強打される感覚に襲われていた。

 何故クローサー達はこんな死の領域にまでわざわざ来ているのか・・・それには理由があった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 時は少し戻り、作戦会議の場面に戻る。フォルト達が王家の墓場へと移動を開始し、ケストレル達も戦闘準備に取り掛かろうとしていた時だった。

 「なぁ、俺に考えがあるんだが・・・その廻天送柱・・・だったか?そいつを俺に任せてもらってもいいか?」

 ケストレルの案にヴァスティーソはにやりと何かを企んでいるような笑みを浮かべる。ケストレルは他の皆が『何を言っているんだ?』と怪訝な顔をする中、彼が笑みを浮かべているのを見て、自分の考えを見透かしていると理解した。

 「へぇ・・・それで何をする気だい?」

 『分かってるくせに・・・嫌な男だ・・・』

 「廻天送柱を敵陣に突き刺して、部隊を展開する。まさか敵も自分の陣地に敵が湧くとは思っていないだろうからな。」

 「成程・・・古都を襲撃してきた時の様に、不意を突くのですのね!敵の意識が乱れれば隙が生じる上に野戦築城を正面から突破する必要は無くなりますわ!」

 ナターシャの言葉にケストレルが頷く。隣にいたルーストも頷く。

 「ふむ・・・確かに、その戦術は非常に有効だな。敵が待ち構える城壁を突破する為には、敵の兵力の3倍以上の数を用意しなければ突破は困難だ。しかし内側に展開すれば、その問題は解決する。どのように敵陣前で展開するかを考えていたので、その考えは盲点だった。」

 「じゃあルースト、それで行く?」

 「あぁ。それでいこう。ガーヴェラ、皆に作戦を伝えてくれ。皆に伝えた後、古都で待機している者達にも無線で作戦を伝えよ。」

 「了解しました。」

 「ケストレル。君に全ての廻天送柱を託す。・・・クローサー、彼を連れて目標地点の上空へ直ちに向かえ。敵に見つからぬよう、高高度まで上昇し、作戦開始時刻まで待機せよ。」

 「・・・了解いたしました、陛下。」

 クローサーが返事をすると、ルースト達は作戦会議を終了し、各自持ち場へと移動する。ケストレルは託された廻天送柱を背負うと、クローサーの方へ振り向き、移動する。

 クローサーの元へ向かうと、彼はワイバーンを連れて待機していた。ケストレルはあからさまに不機嫌な彼の顔を見ながら改めて挨拶をする。

 「・・・んじゃ、宜しく頼むぜ。」

 ケストレルの言葉にクローサーは小さく舌を打つと、首を少し振って早く乗るようにと指示を出す。ケストレルがワイバーンの背中に乗ると、クローサーは手慣れた様にさっとケストレルの前に座って、ワイバーンをその場から飛び立たせた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 クローサーは懐中時計を取り出し、時刻を確認する。残り30秒となった時、クローサーがケストレルに話しかける。

 「時間だ。行け。」

 刃の様に冷たく淡々とした声で促されたケストレルはワイバーンに跨っている足を片方に移し、飛び降りる覚悟を決める。・・・下に広がる光景を改めて見たケストレルは心臓の鼓動がどんどん早鐘をうつのを感じていた。

 『・・・何ビビってんだ、俺。最初から分かってただろうが・・・』

 ケストレルが飛ぶのを躊躇していると、クローサーが静かに尋ねる。

 「何だお前、ビビってんのか?怖いならもう少し高度を下げてやろうか?」

 「・・・うるせぇ。すぐ行くから黙ってろ。」

 「あっそ。じゃあとっとと行けよ、クソが。もう作戦時間過ぎてんぞ。」

 クローサーに促されて、飛び降りる覚悟を決めると、地上を真っ直ぐ見つめる。

 ケストレルが飛び降りようとしたその時、クローサーが静かに呟いた。

 「・・・せいぜい死なねぇよう、頑張りな。成功を祈るぜ。」

 ワイバーンから身を投げ出した瞬間に聞こえたクローサーの声は今までのどの声よりも優しかった。しかし次の瞬間、ケストレルの耳に入ってきたのは風と空気を斬り裂く轟音と肌が裂けるような感覚だった。

 ゴオォォォォォォォォ!

 顔の皮膚が重力に逆らうように引っ張られるため、まともに目を開けられない。暴風の中、顔を隠さずに前をずっと見続けているようなものなので、息もまともに出来ない。そんな状況下であっても、ケストレルは何とか視界を確保して、目標を確認する。白雲を突き抜け、目の前に野戦築城とそれを守る結界が現れた。

 結界上空にはコーラス・ブリッツが保有するワイバーン部隊が散開しており、古都軍の襲撃を警戒していた。

 《各隊、状況報告せよ。》

 《こちらアルク隊。異常なし。古都軍の姿は以前確認できず。》

 「こちらヴェルズ隊。特に異常な・・・」

 あるワイバーン乗りが報告を行っていたその時、そのワイバーン乗りの前をケストレルが勢いよく通り過ぎた。その男は空から落ちてきたケストレルに目を疑ったが、次の瞬間には無線にて報告を行った。

 「こ、こちらヴェルズ隊!野戦築城上空にてケストレル・アルヴェニアの姿を確認!現在単身で落下中!」

 《落下中だと⁉どういうことだ!》

 無線の先から疑っているような声が聞こえてくる。その男は無線の声を無視し、結界に向かって真っすぐに落ちていくケストレルへと部下を連れて向かう。

 「総員、あの男が結界に到達する前に殺せ!奴のことだ!無策な訳がない!」
 
 野戦築城上空にいたワイバーンが一斉にケストレルに向かって襲い掛かる。ケストレルはちらりと辺りを見渡し、状況を確認する。

 『気づかれたかッ!・・・と言っても、想定内だけどな。』

 ケストレルが横を見ると、一体のワイバーンがケストレルに向かって大きな口を開けて襲い掛かってきた。ケストレルは喰われる瞬間に体を翻し、その勢いで大剣を抜いて、勢い任せにワイバーンとそのワイバーンの乗り手を両断する。両断されたワイバーンと乗り手はケストレルを通り過ぎて、地上へと落ちていく。

 「放て!」

 男の号令と共に周りのワイバーン乗りが魔槍を顕現させ、ケストレルに向かって放った。ケストレルは放たれた魔槍を全て視認すると、近いものから迅速に叩き切っていく。全ての魔槍を対処した後に数体のワイバーンが襲い掛かってきたが、それらも素早く斬り伏せていく。

 『話では聞いていたが何て男だ!碌に身動きが取れない中でもこれだけの攻撃を捌くか!』

 男はケストレルの行動に驚愕しながらも攻撃を続ける。ケストレルは魔槍とワイバーンからの直接攻撃を躱しながらどんどん地上へ近づいていく。

 『そろそろだな・・・』

 ケストレルはもうすぐ傍にある結界を視認すると、直後に襲い掛かってきたワイバーンの攻撃を躱した後にそのワイバーンを踏み台にして一気に加速する。そして体を翻しながら大剣に魔力をこめて結界に斬りつけた。

 「はあぁッ!」

 ケストレルは状態異常能力を発動し、結界にダメージを与える。結界は小さなヒビをつけられた後、そのヒビはどんどん結界を侵食していく。

 「か、各員突撃ッ!奴は結界を破壊するつもりだ!何としても阻止しろ!」

 男の号令と共にワイバーン達が一斉に襲い掛かる。しかしケストレルは慌てることはなく、寧ろ悪人のような歪に歪んだ笑みを浮かべた。

 「遅ぇよ、鈍間共が!」

 ケストレルの叫びと同時に結界が眩い光を発し、粉々に砕け散った。砕けた結界の破片が雪の様に降り注ぎ、暫くして虚空に消えた。

 ケストレルは結界を破壊した直後、背中に担いでいた廻天送柱を四方に投げた。ケストレルの魔力を帯びた廻天送柱が彼を中心に東西南北均等に地面へ刺さる。

 ケストレルは廻天送柱が地面に刺さるのを確認すると、詠唱を始める。

 「『虚空を拓け、光陰の門。天を廻り、長久を結べ!』」

 詠唱を終えた途端、廻天送柱が輝き出し、直後に光の柱が天を貫いた。突如現れた光の柱に一同戸惑いを隠せない様子だった。

 ___その時だった。光の柱からヴァスティーソが飛び出し、周囲にいたテロリスト達を一瞬で斬り刻み、絶命させる。

 別の柱からはガーヴェラが飛び出して、次々と頭を撃ち抜いていく。さらに結界から次々と古都軍と帝都軍の連合部隊が雲霞の如く現れ、激しい戦闘が始まった。

 更に遠くの山から幾重もの轟音が轟き、その直後、コーラス・ブリッツの本隊が待機していた野戦築城の奥の方で幾つもの爆発が起きた。これはケストレルが廻天送柱を起動させた同時刻に別の場所で起動された廻天送柱によって出現した海兵部隊の船による砲撃だった。また、この機に乗じて古都軍航空部隊とリールギャラレー防空隊の面々が一斉に攻撃を仕掛ける。

 「手前ら行くぞ!ルヴェン・ゴーリス隊は俺と共に帝都に配備されてる対空兵器の排除、アルクト隊とリールギャラレー防空隊は野戦築城上空の敵性勢力の排除・制空権の確保だ!」

 「クソッ、古都軍の奴らめッ!やってくれたな!各員、奴らを残らず落とすぞ!」
 
 地上も上空も激しい戦闘が繰り広げられる。辺り一帯が阿鼻叫喚の地獄と化した中、ケストレルは漸く地面へ到達しようとしていた。

 ケストレルは地面へ到達する直前で、大剣で地面を抉り、落下の衝撃を相殺する。余りにも勢いがついていたのと全力で大剣を振った結果、周囲にいたテロリスト達を吹き飛ばすほどの衝撃波が発生した。ケストレル自身も上手く着地できずに地面を転がる。

 「はぁ・・・上手くいった、か。」

 ケストレルはゆっくりと立ち上がり、首を傾けて骨を鳴らす。持っている大剣を握り直し、肩を回して戦闘に参加しようと考えたその時、後ろからガーヴェラの声が聞こえてきた。

 「あの高さから落ちて生きているのか。驚きだな。」

 後ろを振り向くと、そこにはガーヴェラとヴァスティーソ、そして多くの兵士達がいた。

 「何だ?俺が死んでくれた方がよかったのか?」

 「間違いではないが、それでは私の憎悪は収まらん。前にも言ったが、貴様は生きて罪を償うべき存在だ。この程度で死ねるとは思うな。」

 ガーヴェラが相変わらず厳しい言葉を浴びせる。しかしその隣にいたヴァスティーソが意地悪そうにニヤニヤしながら呟いた。

 「もう~、そんなツンツンしなくてもいいじゃんガーヴェラ~。彼がクローサーと飛び立ってからずっと心配そうに空見上げてたじゃ~ん。」

 「そ、それは敵がこちらに気が付いていないか、心配になっただけで別にこの男の心配をしていた訳では無いッ!変な憶測を呼ぶような出鱈目を言うなッ、ヴァスティーソ大隊長!」

 ガーヴェラはヴァスティーソに怒鳴りつけると、周りにいた部下達に指示を出し始めた。ヴァスティーソは肩をすくめて、小さく溜息をつく。

 「やれやれ・・・素直じゃないねぇ、彼女は。ま、そこが彼女の魅力の一つでもあるんだけど。」

 「何処が魅力だよ。」

 「もうケストレルもそんなこと言っちゃって~。本当は心配されてるって分かって嬉しくなっちゃんじゃないの~?」

 「ぶん殴るぞ、オッサン・・・」

 ケストレルがヴァスティーソを睨みつける。ヴァスティーソは『おお~怖い怖い。』とふざけた態度を取り続ける。

 ケストレルがヴァスティーソに呆れていると、多くの兵士達がケストレルの下へ集まってきた。彼らはケストレルに任された部隊に所属する兵士で、多くのガーヴェラ率いる遠征部隊の隊員で構成されていた。

 「ケストレルさん、指示を。」

 「あぁ・・・今から部隊を3つに分け、帝都へ向けて進軍する。部隊の分け方は以前の作戦時に言った通りだ。直ぐに隊列を整え、進軍の準備を___」

 ケストレルが兵士達に指示を出していた___

 ___その時だった。

 「避けろッ!」

 急にヴァスティーソが叫ぶ。先程までのおちゃらけた声とはうって変わって迫真の声に変わり、近くにいたケストレル、ガーヴェラも咄嗟にその場から離れる。

 次の瞬間、野戦築城の奥、帝都がある方から白銀に輝く無数の弾丸がケストレル達に襲い掛かる。ケストレル・ガーヴェラ・ヴァスティーソの3人は辺り一帯を掃射するように放たれた弾丸の津波を回避するが、部下達はそれらの弾丸に貫かれ、瞬く間に肉片と化す。運よく回避した兵士達は目の前に広がる光景に固まり、呆然としている。

 「何呆けている!直ぐに散れ!遮蔽物に身を隠し、迎撃態勢を取れ!」

 ガーヴェラが辺り一帯に必死の号令を出し、呆然としていた兵士達はすぐさま近くの遮蔽物に身を隠す。ガーヴェラは銃を構え、弾丸が飛んできた方を睨みつける。

 ケストレルとヴァスティーソも戦闘態勢を整えると、ヴァスティーソが静かに呟いた。

 「中々にやってくれるじゃん。心当たりはあるかい?」

 「・・・大アリだ。」

 ケストレルが大剣を肩に置いて、ガーヴェラ同様弾丸が来た方を睨みつけていると、奥の方から純白のフリルがついたドレスを身に付けたヨーゼフが両手にマスケット銃を持って現れた。ヨーゼフがケストレル達の前に現れると、ケストレルは彼の異変に気が付いた。

 ヨーゼフは元々感情が豊かで多彩な表情をしていた筈であったのに、今目の前に立っている彼からは喜怒哀楽のどの表情も感じられなくなっていた。古都で遭遇した時とは真逆の印象を持ったケストレルは困惑を隠せなくなった。

 『アイツ・・・一体何があった?立ち振る舞いといい、気配と言い・・・別人のようだ。』

 ケストレルが思っていると、ヨーゼフはケストレル達を見渡し、呟いた。

 「お姉ちゃん・・・どこ?何処にいるの?」

 ヨーゼフは両手に持っているマスケット銃を手放し、頭を抱える。

 「あ・・・ぅああああっ!痛い!痛いよぉッ!お姉ちゃん!痛いよぉぉぉぉッ!」

 ヨーゼフは急に雄叫びをあげ始める。ケストレルとガーヴェラが彼の行動に困惑している中、ヴァスティーソが刀の柄に手を置いて、抜刀の構えを取る。

 「ケストレル、ガーヴェラ・・・来るよ。」

 ヴァスティーソが呟いた直後、ヨーゼフは自身の周囲にマスケット銃を展開し、ヴァスティーソ達目掛けて一斉に掃射する。ヴァスティーソ達は回避した後、攻勢に出る。

 しかしヨーゼフも後ろへ後退しながら怒涛の勢いでマスケット銃を連射する。いや、もはや『乱射』と言ってもいいのかもしれない。魔力によって強化された魔弾は異常な程肥大しており、弾道も直線ではなく、意思を持っているかのように3人を追撃する。

 『こいつッ・・・ラグナロック大隊長が言ってた奴か!』

 『物理法則を無視して飛んでくる上に、魔力を帯びた弾・・・確かに厄介だが、本当にこれで全てか?ケストレルの情報だと彼は八重紅狼の次席・・・あの天才魔術師のアスタルドよりも階級が高いとなると、奴の能力を超える力を持っているのか?状態異常能力が協力とか・・・そんなところかな?』

 ヴァスティーソは魔弾を次々と切断しながらヨーゼフとの距離を縮めていく。ケストレルがヴァスティーソに向かって叫ぶ。

 「オッサン!その魔弾にだけは絶対当たるなよ!奴には魔弾に撃ち抜かれた相手を腐らせる能力がある!」

 『成程ね・・・でも本当にそれだけかな?』

 ヴァスティーソはヨーゼフのまだ秘めている力を警戒しながら、より攻勢を強めていく。ケストレルもヴァスティーソが正面から攻めている隙を狙い、背後から攻撃を仕掛ける。ヨーゼフはマスケット銃を背後に出現させて、ケストレルの大剣を防ぐと、そのマスケット銃は大剣を払いのけ、銃口をケストレルの方へ向ける。ケストレルは咄嗟に体を反り、魔弾を回避する。ヨーゼフは踊るように回避と攻撃を繰り返し、2人もヨーゼフの動きを予測し立ち回る。

 ガーヴェラが援護射撃を行う中、ルーストから無線が届いた。

 《ガーヴェラ大隊長!先程強大な魔力の波動を感知したが、何があった⁉状況を報告せよ!》

 「現在八重紅狼の残党と交戦中!敵の特徴とケストレルの情報より八重紅狼次席、ヨーゼフ・ロメルダーツェ・ローゼンヴァーグだと思われる!私とヴァスティーソ大隊長、ケストレルの3名で対処いたします!」

 《了解した!兵の指揮はガラバーン団長へと引き継がせる!ガーヴェラ大隊長、今その場で八重紅狼を討て!部隊への被害を最小限に抑えよ!》

 「了解です、陛下!お任せを。」

 ガーヴェラは無線を切ると、全身に魔力を漲らせる。

 「『リミテッドバースト、《透影魔弾》。』」

 ガーヴェラはヨーゼフに向かって銃弾を放つ。放たれた魔弾は軌道を大きく変え、ヨーゼフに向かって飛んでいき、彼の四肢に命中する。

 「ッ・・・」

 ヨーゼフがガーヴェラの攻撃に意識を持っていかれた刹那、ヴァスティーソはヨーゼフの四肢を切断する。更にケストレルは達磨になったヨーゼフを大剣で勢いよく吹き飛ばす。ヨーゼフの体は木箱や柵を破壊しながら彼方へ飛んでいった。

 『やったか⁉』

 ケストレルが心の中で呟いた次の瞬間、何故か五体満足のヨーゼフが突然ケストレルの背後に現れた。近くにいたヴァスティーソが真っ先に気付くが、ヨーゼフはヴァスティーソが反応する前に強烈な回し蹴りで彼の顔を蹴り飛ばして吹き飛ばすと、ケストレルの腹をマスケット銃で撃ち抜いた。

 『何っ⁉この野郎ッ・・・』

 ケストレルはすかさず後ろに下がるが、直後、腹を貫かれた痛みではない、腹の中を何かが蠢くような、食い荒らされている感覚を味わい、その場に膝をつく。腹部を確認すると、被弾した場所から腐食が始まり、異臭を放っていた。

 『畜生ッ・・・喰らっちまったッ!』

 ケストレルが額から大量の汗を流して痛みに耐える中、ヨーゼフが大量のマスケット銃を展開し、照準を彼に定める。ガーヴェラがヨーゼフに向かって何度も発砲するが、ヨーゼフはそれらの弾丸を全て撃ち落していく。彼の状態異常能力によって本来対象に命中するまで追尾し続ける彼女の弾丸は腐り落ちて、消えていった。

 『馬鹿なッ⁉私の能力で強化した弾丸だぞ⁉』

 ガーヴェラが動揺していると、ヨーゼフが首だけをガーヴェラの方に向け、ケストレルに向けていた銃口をガーヴェラに向ける。ガーヴェラが咄嗟に身構えたその時、ヴァスティーソが目にも止まらぬ速さでヨーゼフへ斬りかかった。

 「『リミテッドバースト、《風雷閃刃》。』」

 ヴァスティーソは残像が現れる程のスピードでヨーゼフの周囲を斬り刻む。ヨーゼフの周囲に展開されていたマスケット銃は一瞬で細切れになる。しかし、ヨーゼフは虎の様に伏せて回避すると、新たにマスケット銃を出現させてヴァスティーソの足元を狙って発砲する。

 ヴァスティーソはその場から飛び上がって回避する。ヨーゼフは新たにマスケット銃を出現させ、飛び上がったヴァスティーソに向かって発砲。ヴァスティーソはそれらの弾丸を全て斬り落とし、ヨーゼフに斬りかかる。お互いどちらも一切退かない攻防が繰り広げられる。

 そんな中、ガーヴェラがケストレルの下へと近づき声をかける。

 「おい!大丈夫か!」

 「あぁ・・・問題ねぇ。」

 ケストレルはそう言ったが、腐食が進み、出血がどんどん酷くなっていた。それでもケストレルは立ち上がり、ヨーゼフを睨みつける。

 「あいつとの長期戦はマズい・・・今オッサンが何とかあいつと戦ってるが、一発でも食らえばあっという間にヨーゼフが主導権を握っちまう。それまでに倒さねぇとな・・・ぐっ!」

 「その怪我で戦う気か?」

 「そこら辺の兵士よりかは役に立つさ・・・」

 ケストレルはそう言って大剣を構え直す。

 「・・・いいか、何があっても俺に構わず、あいつに攻撃し続けろ。少しでも隙を作り、オッサンが戦いやすいようにする。」

 「偉そうに命令するな。そのぐらい私でも分かっている。それにそもそもお前を助けるつもりは無い。ここで死ぬのなら・・・そこまでの奴だということだ。」

 「あぁ、そうだ。それでいい。その調子で頼むぜ、ガーヴェラ。」

 ケストレルはそう言うと、ヨーゼフに向かっていく。

 「ガーヴェラ!援護を頼む!」

 「だから私に命令するなと言ったはずだぞ!何度言わせれば気が済む!」

 ガーヴェラはケストレルに怒鳴りつつ、銃を構える。ケストレルはヨーゼフの隙を突いて懐へ忍び込み、攻撃を仕掛ける。

 「何やってんのか全く分かんねぇ・・・速すぎて追いつかねぇよ・・・」

 「・・・あの人達って俺達と同じ人間だよな?」

 「一応、な。・・・何食ったらあんなに動けんだろうな・・・」

 ケストレル達の戦闘を見ていた兵士達が目の前で繰り広げられる光景に呟く。銃撃のハーモニーが戦場に轟く。
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