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~決戦前夜編 第12章~
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[ブレイクブリッツ作成]
それから2人共何も言葉を交わさずに待っていると、シャーロットとキャレットが戻ってきた。2人共着ている服は前と変わらなかったが、汚れが一切なくなっていた。話を聞くと、新しい服に着替えていたそうだ。予備の服まで持ってきていたらしい。
その後、ルースト達と共にロメリア・ヴァスティーソが戻ってきて飛行船に乗るようにとの指示が出された。フォルトがロメリアにガーヴェラと何を話していたのかを聞くと、『すぐに分かるよ。』とだけ言って詳細な話はしなかった。
フォルト達が飛行船に乗船すると、既に甲板には多くの物資が並べられており、中への積み込みが行われていた。兵士達も次々と乗船してくる。フォルト達はワーロックに案内されるがまま、船内へ向かう。
船内の通路は薄暗く、天井にはランプが一定の間隔で吊るされている。また窓も壁についており、外の様子は確認できる。通路は迷路のように入り組んでおり、初見では迷ってしまいそうだ。そのような道を歩いては時折階段も上っていく。
「飛行船の中は、基本的に普通の船と変わらないんだな。」
「船を動かす動力と機関が異なるだけだからな。」
ワーロックがケストレルの疑問に簡潔に応えると、目の前に現れた両開きの扉を開けて中に入る。その部屋は作戦指揮室兼操縦室のようで、中央には作戦を練る為の大台が設置されており、部屋の端には魔術師達が椅子に並んで座っていた。それぞれに役割があるようで、最終確認を行っていた。
「ここは操舵室兼指令室となっているところだ。この部屋で飛行船の制御を行っている。」
ワーロックはそう言って部屋の中央に置かれている円卓の近くに立つ。フォルト達も彼に倣って円卓の周りを囲むように立つ。
円卓の上には帝都全域の見取り図や帝都周辺の地形図、超兵器アストライオスの詳細な情報がまとめられた図などが広げられていた。
フォルト達が机の上に広げられている情報に目を通している間に操舵室にいる魔術師達が飛行準備の最終確認を行い始めた。
「物資の搬入。」
「完了しました。」
「兵士達の乗船確認。」
「終了しました。全員います。」
「機関チェック開始、エンジン可動部。」
「問題無し。」
「マナ出力。」
「問題無し。」
「マナ供給量。」
「問題無し!」
「制御管制システム。」
「異常なし。」
次々とテンポよく確認がされていく。同時に『ゴォオオオオ』とマナの炎が噴出する音と船全体が揺れるのを感じる。
揺れが大きくなる中、指揮を執っている魔術師がワーロックに向かって指示を仰ぐ。
「局長、何時でも行けます。」
「他の船は?」
「問題ありません。待機中です。」
「了解した。離陸を許可する。」
ワーロックの指示が出ると、指揮をしている魔術師が全体に号令をかける。次の瞬間、激しい揺れと共にいつもより重力を感じるような感覚に襲われる。窓の外を見ると、飛行船がゆっくりと加速しながら上昇していくのが確認できた。フォルトとロメリアは机に手を置いて体勢を保っており、シャーロットはキャレットに抱きついていた。ケストレルやヴァスティーソ達は何も捕まらずに立っていた。
暫く経つと、揺れが少しずつ収まっていき、それからすぐに落ち着いた。その頃には既に飛行船は雲海の上にいた。
「無事離陸出来たようだな。アスタルドの術式による影響が無くて良かった。」
ケストレルが安堵の息を漏らす。皆が気を取り直すと、ワーロックが改めて皆に声をかける。
「無事に飛び立った感想を皆に聞きたいところだが、今はそれどころではないな。早速作戦会議に移ろう。・・・ルースト陛下、お願いします。」
「・・・ではコーラス・ブリッツ掃討作戦【ブレイクブリッツ作戦】の会議を始める。まずは本作戦の目標についてだ。目標は3つ、『帝都に籠城するコーラス・ブリッツの殲滅』『コーラス・ブリッツの総大将ウルフェン・エルテューリアと残存する八重紅狼の掃討』、そして『古代兵器アストライオスの破壊』だ。」
「同時に3つの作戦を行う訳ね。役割はもう考えてあるの?」
「一応こちらで振り分けてはいるが、皆の総意を聞いた上で決定を行いたいと思う。まずコーラス・ブリッツの大軍との戦闘は古都軍と帝都軍の連合軍で対処する。古都軍の各大隊長と帝都軍のガラバーン団長・・・そしてケストレル君、君にも古都軍の一個大隊相当の兵士をまとめてもらう隊長の任を与えたい。」
「あぁ?俺が一個大隊の隊長だと?大隊長やそこの騎士さんなら適任だろうが、何故俺まで・・・」
「ガーヴェラの奴が手前を推薦したんだよ、クソ野郎。周りの状況を瞬時に把握できる手前は現場での指揮役として適任ってことでな。」
クローサーが軽く舌打ちをして顔を歪めながら吐き捨てるように告げる。
「あいつが?・・・てかあいつは何処だ?」
ケストレルが辺りを見渡すが、ガーヴェラの姿が見えない。そう言えば、皆と合流した際、ガーヴェラだけその場にいなかった。
「ガーヴェラ大隊長は用事で遅れてくるそうだ。何心配するな、この船には乗っている。」
「・・・そうか。」
「では話を戻すが、ケストレル。この任務を受けてくれるか?」
「・・・」
「大丈夫だ、心配しなくていい。君が率いる部隊の傍にはガーヴェラ大隊長が率いる部隊が展開している。何かあれば彼女がサポートに来る。」
「・・・」
「・・・受けてくれるか?」
ルーストの言葉にケストレルは溜息をつく。フォルトは彼の顔を見て役割を与えられて嫌という感じではなく、何処か自信が無い感じだった。
「・・・分かった。やるよ。」
「助かる、ケストレル。ヴァスティーソ、クローサー、ラグナロック・・・皆で彼を支えてやってくれ。」
「了解。頼りにしてるよ。」
「・・・了解しました。」
「了解した。」
ヴァスティーソ達が返事をする。ルーストは話を続ける。
「ヴァスティーソ大隊長、ガラバーン団長、ここにいないガーヴェラ大隊長と彼は前線での戦闘を、クローサー大隊長はリールギャラレー防空隊と古都軍航空部隊の混合部隊を率いて航空優勢の確保、ラグナロック大隊長は陸地に転送した船の指揮を担当、帝都に配備されている兵器と面での火力支援を行う。」
「・・・陸地に船を?」
「帝都の周辺には幾つもの山々があって、それを壁にして火力支援を行うんだよ。砲弾は山なりに飛ぶからね。敵からの攻撃も防げる上に、攻撃も出来る有効な策だよ。」
「でもこっちも山の向こう側が見えないんじゃないですか?」
「飛行船と山岳に観測兵を配備するから目視に頼らずとも攻撃できるよ。それに彼と彼の率いる海兵部隊は視界が不明瞭な場合を想定した訓練を日頃から行っているからね。・・・正直どの部隊よりも練度は高いよ。」
ヴァスティーソがシャーロットの疑問に答え、彼女も納得したようで尊敬の眼差しをラグナロックに向ける。ラグナロックはふんと何処か誇らしげな顔をしているように見えたのは気のせいだろうか・・・
「今の時点で質問のある者は?」
「なーし。いいよこれで。」
「問題ありません。」
「異論はない。」
「了解した。」
ヴァスティーソ達が返事をする。ルーストは小さく頷く。
「よし、コーラス・ブリッツとの戦闘は君達に任せる。ガーヴェラ大隊長には既に確認は取ってある為、これで進めるぞ。」
ルーストはそう言ってワーロックへ視線を向ける。ワーロックは組んでいた腕を解き、円卓上にあるアストライオスの図が載せられている紙を中心に持ってくる。
「アストライオスの破壊作戦に関しては私の方から話をさせて貰おう。この作戦の主な目的はアストライオスの破壊、若しくは無力化だ。作戦に参加するのはアストライオスの破壊を行う者とその者達を護衛する者達だ。」
ワーロックはアストライオスの図が描かれた紙を軽く人差し指で叩く。
「アストライオスの破壊には魔術に関して優れた知識を有する者達が担当する。私とそこのお嬢さんだ。」
「え・・・わ、私です・・・か?わ・・・分からないですよ?この兵器の・・・作りなんて・・・他の魔術師さんにお願いした方がいいんじゃない・・・ですか?」
シャーロットは右手を振って困惑している。
「心配するな、君には私の補助を務めてもらうだけだ。メインは私が担当する。・・・君の実力は聞いている。まだ11歳というのに、高度な魔術も使えるということらしいな。・・・自信を持て。」
「・・・」
「それにこの作戦は帝都内で行われる為、大勢で行けないのだ。何人も魔術師を連れて行けるわけじゃ無いのだよ・・・」
ワーロックがシャーロットに告げると、シャーロットは少し不安な顔をしながら小さく頷いた。
「また本作戦の護衛はキャレット君と彼女率いるヴァンパイア部隊に担当してもらいたい。私と彼女でアストライオスの破壊活動を行う間、キャレット君達には周囲の警戒と敵性勢力の排除を行ってもらう。」
「良いわ、守ってあげる。」
「頼もしいな。」
ワーロックが話し終えると、ルーストが再び話し始める。
「では最後に残存八重紅狼の排除とウルフェン・エルテューリアの討伐に関してだが・・・」
ルーストはフォルトとロメリアに視線を向ける。フォルトは唾を飲み込む。
「・・・僕とロメリアで倒せってことですか?」
「そうだ。」
ルーストが返事をした直後、ケストレルが少し声を荒げて発言する。
「おい、正気か⁉この2人でウルフェンとヨーゼフの相手をしろだと⁉殺す気か⁉あいつ等がどれだけ強いか分かっててそんなこと言ってんのか⁉・・・俺をこいつらに同行させろ。俺が率いる予定だった奴らは全員ガーヴェラの奴に任せるぜ。」
「あぁ⁉手前陛下に向かってなんて口利きやがる⁉」
「黙れ三下!次余計な口挟むと口縫い合わせるぞ!」
「言うじゃねぇか・・・ゴミ屑の分際でよぉ!」
「ケストレル!落ち着いてよ!」
ケストレルとクローサーが一触即発の雰囲気になる中、フォルトがケストレルを落ち着かせようと声をかける。ケストレルは小さく舌を打ち、ルーストを睨みつける。
そんな中、ヴァスティーソが間に入ってきた。
「まぁまぁ2人共落ち着きなよ。まだ話の続きがあるらしいからさ。」
「ヴァスティーソ・・・」
ヴァスティーソはルーストに向かって目で合図を送る。ルーストは静かに話し始めた。
「フォルト君とロメリア君に負担をかけるのは初めだけだ。後に帝都へ攻め込んだ各大隊長と合流し、彼を討つ。」
「そ、2人のみで戦う訳じゃ無いんだよ。少年とロメリアちゃんは最初だけ彼らと相手をするだけで、戦っている間に俺らが素早く雑魚を殲滅して駆けつけるって訳。・・・最初はケストレルや俺が参加する予定だったんだけど、外の連中を素早く殲滅すれば一気に叩けるんじゃないかって思ってこんな配置にしたんだよ。」
ヴァスティーソは少しいやったらしい顔をする。
「それに・・・少年とロメリアちゃんは簡単にはやられたりしないでしょ?」
「何を根拠に・・・」
「根拠なんてないさ。でも・・・やられる気はさらさらないよね?」
ヴァスティーソの質問にフォルトとロメリアは互いに顔を向け、返事をする。
「・・・うんっ、勿論だよ!」
「当然!私とフォルトなら皆が到着する前に倒しちゃってるよ!」
2人の返事にヴァスティーソはニヤッと笑う。
「あははは!それは心強いね!」
「・・・フォルト、ロメリア。お前らマジで分かってんのか?ウルフェンの奴は今まで戦ってきた奴らとは比べ物にならねえ程強いんだぞ?そもそも転生を繰り返して300年近く生きてるような奴だ、まだどんな力を隠し持っているか分かってねえんだ。数分どころか数十秒持てばいい方だ。」
「大丈夫だって!それにケストレル達も直ぐに駆け付けてくれるんでしょ?」
「あのなぁ・・・それはあくまで予定で実際そんな上手く行く訳・・・」
ケストレルは右手を頭の上にのせ、髪の毛を雑に掻く。
「もういい、勝手にしろ。」
「・・・心配してくれてありがとう、ケストレル。僕達も無茶はしないよう頑張るから・・・」
「・・・そうか。」
ケストレルはそう言うと、何も言葉を発さなくなった。フォルトはルーストの方を見て前から思っていた疑問をぶつけた。
「あの・・・ルーストさん。」
「ん?」
「一つ聞きたいんだけど・・・どうやって帝都の中に入るつもりなの?敵が帝都を囲んでいるのなら簡単には入れないよね?」
「確かにそうだ。・・・だから『彼』に尋ねてみよう。」
「『彼』?」
フォルトが首を傾げると、部屋の扉が開き、ガーヴェラと複数の兵士、そして黒布を顔に被せられ手錠をつけられている者が入ってきた。
「陛下、遅れて申し訳ありません。少々遅れてしまいました。」
「いいや、丁度良いところに来た。ガーヴェラ大隊長。」
ガーヴェラは手錠をされた男を円卓の傍に連れて来ると、椅子に座らせる。座らせた後、足首と椅子の足を繋いで身動きを取れなくすると、黒布を取った。
黒布の下にはある男の顔があったが、それを見たケストレルが驚いたように眼を見開く。
黒布の下にあった顔・・・それはかつて、大陸横断汽車に乗っていた時に襲撃してきた帝都の暗殺集団を率いていた男だった。
それから2人共何も言葉を交わさずに待っていると、シャーロットとキャレットが戻ってきた。2人共着ている服は前と変わらなかったが、汚れが一切なくなっていた。話を聞くと、新しい服に着替えていたそうだ。予備の服まで持ってきていたらしい。
その後、ルースト達と共にロメリア・ヴァスティーソが戻ってきて飛行船に乗るようにとの指示が出された。フォルトがロメリアにガーヴェラと何を話していたのかを聞くと、『すぐに分かるよ。』とだけ言って詳細な話はしなかった。
フォルト達が飛行船に乗船すると、既に甲板には多くの物資が並べられており、中への積み込みが行われていた。兵士達も次々と乗船してくる。フォルト達はワーロックに案内されるがまま、船内へ向かう。
船内の通路は薄暗く、天井にはランプが一定の間隔で吊るされている。また窓も壁についており、外の様子は確認できる。通路は迷路のように入り組んでおり、初見では迷ってしまいそうだ。そのような道を歩いては時折階段も上っていく。
「飛行船の中は、基本的に普通の船と変わらないんだな。」
「船を動かす動力と機関が異なるだけだからな。」
ワーロックがケストレルの疑問に簡潔に応えると、目の前に現れた両開きの扉を開けて中に入る。その部屋は作戦指揮室兼操縦室のようで、中央には作戦を練る為の大台が設置されており、部屋の端には魔術師達が椅子に並んで座っていた。それぞれに役割があるようで、最終確認を行っていた。
「ここは操舵室兼指令室となっているところだ。この部屋で飛行船の制御を行っている。」
ワーロックはそう言って部屋の中央に置かれている円卓の近くに立つ。フォルト達も彼に倣って円卓の周りを囲むように立つ。
円卓の上には帝都全域の見取り図や帝都周辺の地形図、超兵器アストライオスの詳細な情報がまとめられた図などが広げられていた。
フォルト達が机の上に広げられている情報に目を通している間に操舵室にいる魔術師達が飛行準備の最終確認を行い始めた。
「物資の搬入。」
「完了しました。」
「兵士達の乗船確認。」
「終了しました。全員います。」
「機関チェック開始、エンジン可動部。」
「問題無し。」
「マナ出力。」
「問題無し。」
「マナ供給量。」
「問題無し!」
「制御管制システム。」
「異常なし。」
次々とテンポよく確認がされていく。同時に『ゴォオオオオ』とマナの炎が噴出する音と船全体が揺れるのを感じる。
揺れが大きくなる中、指揮を執っている魔術師がワーロックに向かって指示を仰ぐ。
「局長、何時でも行けます。」
「他の船は?」
「問題ありません。待機中です。」
「了解した。離陸を許可する。」
ワーロックの指示が出ると、指揮をしている魔術師が全体に号令をかける。次の瞬間、激しい揺れと共にいつもより重力を感じるような感覚に襲われる。窓の外を見ると、飛行船がゆっくりと加速しながら上昇していくのが確認できた。フォルトとロメリアは机に手を置いて体勢を保っており、シャーロットはキャレットに抱きついていた。ケストレルやヴァスティーソ達は何も捕まらずに立っていた。
暫く経つと、揺れが少しずつ収まっていき、それからすぐに落ち着いた。その頃には既に飛行船は雲海の上にいた。
「無事離陸出来たようだな。アスタルドの術式による影響が無くて良かった。」
ケストレルが安堵の息を漏らす。皆が気を取り直すと、ワーロックが改めて皆に声をかける。
「無事に飛び立った感想を皆に聞きたいところだが、今はそれどころではないな。早速作戦会議に移ろう。・・・ルースト陛下、お願いします。」
「・・・ではコーラス・ブリッツ掃討作戦【ブレイクブリッツ作戦】の会議を始める。まずは本作戦の目標についてだ。目標は3つ、『帝都に籠城するコーラス・ブリッツの殲滅』『コーラス・ブリッツの総大将ウルフェン・エルテューリアと残存する八重紅狼の掃討』、そして『古代兵器アストライオスの破壊』だ。」
「同時に3つの作戦を行う訳ね。役割はもう考えてあるの?」
「一応こちらで振り分けてはいるが、皆の総意を聞いた上で決定を行いたいと思う。まずコーラス・ブリッツの大軍との戦闘は古都軍と帝都軍の連合軍で対処する。古都軍の各大隊長と帝都軍のガラバーン団長・・・そしてケストレル君、君にも古都軍の一個大隊相当の兵士をまとめてもらう隊長の任を与えたい。」
「あぁ?俺が一個大隊の隊長だと?大隊長やそこの騎士さんなら適任だろうが、何故俺まで・・・」
「ガーヴェラの奴が手前を推薦したんだよ、クソ野郎。周りの状況を瞬時に把握できる手前は現場での指揮役として適任ってことでな。」
クローサーが軽く舌打ちをして顔を歪めながら吐き捨てるように告げる。
「あいつが?・・・てかあいつは何処だ?」
ケストレルが辺りを見渡すが、ガーヴェラの姿が見えない。そう言えば、皆と合流した際、ガーヴェラだけその場にいなかった。
「ガーヴェラ大隊長は用事で遅れてくるそうだ。何心配するな、この船には乗っている。」
「・・・そうか。」
「では話を戻すが、ケストレル。この任務を受けてくれるか?」
「・・・」
「大丈夫だ、心配しなくていい。君が率いる部隊の傍にはガーヴェラ大隊長が率いる部隊が展開している。何かあれば彼女がサポートに来る。」
「・・・」
「・・・受けてくれるか?」
ルーストの言葉にケストレルは溜息をつく。フォルトは彼の顔を見て役割を与えられて嫌という感じではなく、何処か自信が無い感じだった。
「・・・分かった。やるよ。」
「助かる、ケストレル。ヴァスティーソ、クローサー、ラグナロック・・・皆で彼を支えてやってくれ。」
「了解。頼りにしてるよ。」
「・・・了解しました。」
「了解した。」
ヴァスティーソ達が返事をする。ルーストは話を続ける。
「ヴァスティーソ大隊長、ガラバーン団長、ここにいないガーヴェラ大隊長と彼は前線での戦闘を、クローサー大隊長はリールギャラレー防空隊と古都軍航空部隊の混合部隊を率いて航空優勢の確保、ラグナロック大隊長は陸地に転送した船の指揮を担当、帝都に配備されている兵器と面での火力支援を行う。」
「・・・陸地に船を?」
「帝都の周辺には幾つもの山々があって、それを壁にして火力支援を行うんだよ。砲弾は山なりに飛ぶからね。敵からの攻撃も防げる上に、攻撃も出来る有効な策だよ。」
「でもこっちも山の向こう側が見えないんじゃないですか?」
「飛行船と山岳に観測兵を配備するから目視に頼らずとも攻撃できるよ。それに彼と彼の率いる海兵部隊は視界が不明瞭な場合を想定した訓練を日頃から行っているからね。・・・正直どの部隊よりも練度は高いよ。」
ヴァスティーソがシャーロットの疑問に答え、彼女も納得したようで尊敬の眼差しをラグナロックに向ける。ラグナロックはふんと何処か誇らしげな顔をしているように見えたのは気のせいだろうか・・・
「今の時点で質問のある者は?」
「なーし。いいよこれで。」
「問題ありません。」
「異論はない。」
「了解した。」
ヴァスティーソ達が返事をする。ルーストは小さく頷く。
「よし、コーラス・ブリッツとの戦闘は君達に任せる。ガーヴェラ大隊長には既に確認は取ってある為、これで進めるぞ。」
ルーストはそう言ってワーロックへ視線を向ける。ワーロックは組んでいた腕を解き、円卓上にあるアストライオスの図が載せられている紙を中心に持ってくる。
「アストライオスの破壊作戦に関しては私の方から話をさせて貰おう。この作戦の主な目的はアストライオスの破壊、若しくは無力化だ。作戦に参加するのはアストライオスの破壊を行う者とその者達を護衛する者達だ。」
ワーロックはアストライオスの図が描かれた紙を軽く人差し指で叩く。
「アストライオスの破壊には魔術に関して優れた知識を有する者達が担当する。私とそこのお嬢さんだ。」
「え・・・わ、私です・・・か?わ・・・分からないですよ?この兵器の・・・作りなんて・・・他の魔術師さんにお願いした方がいいんじゃない・・・ですか?」
シャーロットは右手を振って困惑している。
「心配するな、君には私の補助を務めてもらうだけだ。メインは私が担当する。・・・君の実力は聞いている。まだ11歳というのに、高度な魔術も使えるということらしいな。・・・自信を持て。」
「・・・」
「それにこの作戦は帝都内で行われる為、大勢で行けないのだ。何人も魔術師を連れて行けるわけじゃ無いのだよ・・・」
ワーロックがシャーロットに告げると、シャーロットは少し不安な顔をしながら小さく頷いた。
「また本作戦の護衛はキャレット君と彼女率いるヴァンパイア部隊に担当してもらいたい。私と彼女でアストライオスの破壊活動を行う間、キャレット君達には周囲の警戒と敵性勢力の排除を行ってもらう。」
「良いわ、守ってあげる。」
「頼もしいな。」
ワーロックが話し終えると、ルーストが再び話し始める。
「では最後に残存八重紅狼の排除とウルフェン・エルテューリアの討伐に関してだが・・・」
ルーストはフォルトとロメリアに視線を向ける。フォルトは唾を飲み込む。
「・・・僕とロメリアで倒せってことですか?」
「そうだ。」
ルーストが返事をした直後、ケストレルが少し声を荒げて発言する。
「おい、正気か⁉この2人でウルフェンとヨーゼフの相手をしろだと⁉殺す気か⁉あいつ等がどれだけ強いか分かっててそんなこと言ってんのか⁉・・・俺をこいつらに同行させろ。俺が率いる予定だった奴らは全員ガーヴェラの奴に任せるぜ。」
「あぁ⁉手前陛下に向かってなんて口利きやがる⁉」
「黙れ三下!次余計な口挟むと口縫い合わせるぞ!」
「言うじゃねぇか・・・ゴミ屑の分際でよぉ!」
「ケストレル!落ち着いてよ!」
ケストレルとクローサーが一触即発の雰囲気になる中、フォルトがケストレルを落ち着かせようと声をかける。ケストレルは小さく舌を打ち、ルーストを睨みつける。
そんな中、ヴァスティーソが間に入ってきた。
「まぁまぁ2人共落ち着きなよ。まだ話の続きがあるらしいからさ。」
「ヴァスティーソ・・・」
ヴァスティーソはルーストに向かって目で合図を送る。ルーストは静かに話し始めた。
「フォルト君とロメリア君に負担をかけるのは初めだけだ。後に帝都へ攻め込んだ各大隊長と合流し、彼を討つ。」
「そ、2人のみで戦う訳じゃ無いんだよ。少年とロメリアちゃんは最初だけ彼らと相手をするだけで、戦っている間に俺らが素早く雑魚を殲滅して駆けつけるって訳。・・・最初はケストレルや俺が参加する予定だったんだけど、外の連中を素早く殲滅すれば一気に叩けるんじゃないかって思ってこんな配置にしたんだよ。」
ヴァスティーソは少しいやったらしい顔をする。
「それに・・・少年とロメリアちゃんは簡単にはやられたりしないでしょ?」
「何を根拠に・・・」
「根拠なんてないさ。でも・・・やられる気はさらさらないよね?」
ヴァスティーソの質問にフォルトとロメリアは互いに顔を向け、返事をする。
「・・・うんっ、勿論だよ!」
「当然!私とフォルトなら皆が到着する前に倒しちゃってるよ!」
2人の返事にヴァスティーソはニヤッと笑う。
「あははは!それは心強いね!」
「・・・フォルト、ロメリア。お前らマジで分かってんのか?ウルフェンの奴は今まで戦ってきた奴らとは比べ物にならねえ程強いんだぞ?そもそも転生を繰り返して300年近く生きてるような奴だ、まだどんな力を隠し持っているか分かってねえんだ。数分どころか数十秒持てばいい方だ。」
「大丈夫だって!それにケストレル達も直ぐに駆け付けてくれるんでしょ?」
「あのなぁ・・・それはあくまで予定で実際そんな上手く行く訳・・・」
ケストレルは右手を頭の上にのせ、髪の毛を雑に掻く。
「もういい、勝手にしろ。」
「・・・心配してくれてありがとう、ケストレル。僕達も無茶はしないよう頑張るから・・・」
「・・・そうか。」
ケストレルはそう言うと、何も言葉を発さなくなった。フォルトはルーストの方を見て前から思っていた疑問をぶつけた。
「あの・・・ルーストさん。」
「ん?」
「一つ聞きたいんだけど・・・どうやって帝都の中に入るつもりなの?敵が帝都を囲んでいるのなら簡単には入れないよね?」
「確かにそうだ。・・・だから『彼』に尋ねてみよう。」
「『彼』?」
フォルトが首を傾げると、部屋の扉が開き、ガーヴェラと複数の兵士、そして黒布を顔に被せられ手錠をつけられている者が入ってきた。
「陛下、遅れて申し訳ありません。少々遅れてしまいました。」
「いいや、丁度良いところに来た。ガーヴェラ大隊長。」
ガーヴェラは手錠をされた男を円卓の傍に連れて来ると、椅子に座らせる。座らせた後、足首と椅子の足を繋いで身動きを取れなくすると、黒布を取った。
黒布の下にはある男の顔があったが、それを見たケストレルが驚いたように眼を見開く。
黒布の下にあった顔・・・それはかつて、大陸横断汽車に乗っていた時に襲撃してきた帝都の暗殺集団を率いていた男だった。
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※全102話で完結済。
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リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
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