最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~決戦前夜編 第6章~

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[目覚め]

 「フォルト!」

 ロメリアは持っていた棍を地面に落とすと、フォルトの下へ駆け寄る。フォルトは瞼を開いて駆け寄ってきたロメリアに目を動かすと、ゆっくりと体を起こす。フォルトの額にのっていたタオルが腹まで落ちる。フォルトが体を起こそうとすると、シャーロットが彼の背中に手を回し、起き上がるのを補助する。

 フォルトはシャーロットの方に顔を向けると、小さく微笑んだ。

 「ありがとう、シャーロット・・・」

 フォルトの言葉を受けてシャーロットは少し涙目になりながらも優しく微笑んだ。フォルトは彼女の笑顔を見ると、周りにいる皆の顔を見渡す。

 「皆・・・何でここに・・・というか僕はなんで・・・」

 「覚えて無いのか?」

 ガーヴェラの問いかけに、フォルトは右掌で顔を押さえる。

 「・・・あんまり・・・ヨーゼフって子と戦ってて・・・死にかけて・・・そしたら突然時計が光り始めてそして・・・ッ!」

 「フォルト⁉どうしたの⁉」

 突然の頭痛にフォルトが思わず顔を歪めると、ロメリアが心配そうに声をかける。フォルトは不安な顔をするロメリアに微笑む。

 「う、うぅん何でもない・・・ちょっと眩んだだけ・・・直ぐに落ち着くから心配しないで、ロメリア・・・」

 「そ、そう?なら・・・良いんだけど・・・無理しちゃダメだからね?」

 「そうですよ、フォルト。ロメリアの言う通り、無理しないで下さいね?傷は癒しましたけれど、体の中には確実にダメージが蓄積されているでしょうから・・・」

 シャーロットがフォルトの背中を優しく摩りながら話しかける。ケストレルが腕を組んで、フォルトに話しかける。

 「話を戻すが、その机の上にある時計が光った後の記憶は無いってことだな?」

 「うん・・・」

 「成程な。それじゃ、時計の能力が何なのかも分かんねぇってことか。お前が把握していないんじゃあ仕方ない事だが。」

 ケストレルがそう発言すると、ガーヴェラが声を上げる。

 「いや、そうでもない。少なくとも能力に関してはある程度の情報がある。」

 「情報?どんなのだ?」

 「同じ八重紅狼と交戦していたラグナロック大隊長とレイア・ミストレルの話によれば、時計の能力が発動した事で体を蝕んでいた状態異常能力が治癒したそうだ。」

 「治癒?傷も塞がってんのか?」

 「そのようだ。銃創は治っていなかったそうだが、奴の状態異常能力《腐敗》によって腐り落ちていた皮膚や骨は元通りになっていたとのことだ。」

 「てことは状態異常能力の無効と能力によって負った傷を治すのがその時計の能力ってわけか?」

 ケストレルはベッド横の机の上にある懐中時計に視線を移す。

 「その能力もリミテッド・バーストなのか?」
 
 「恐らくな。その時計も《ジャッカルの武器》の1つ・・・私達が持っている武器同様リミテッド・バーストを持っていても不思議ではない。・・・ただ、この時計に関しては私もあまり知らない。何せ他の武器とは違い、何の情報も無いのだからな。リミテッド・バーストの名前も、どんな能力なのかもさっぱりだ。」

 「少年の話を聞く限り、意図的に発動したって訳でもないようだし、謎の解決は難しそうだね。」

 ヴァスティーソは壁にもたれ掛かると、フォルトの方に視線を向ける。フォルトは右手を顔から離しており、少し落ち着いている様子だった。

 「・・・ま、そんな話よりもさ、今は少年が目覚めたことを喜ぼうじゃないの?その時計の話は一先ず置いといてさ。どうせ知った所で俺達じゃ使えないし、少年が扱える保証も無い訳だし。」

 「それもそうだな・・・オッサンにしてはまともな意見だ。」

 「中々失礼じゃない?その発言。俺結構傷つきやすいガラスのハートの持ち主だからさ、もう少し優しく言って欲しいなぁ~?」

 ヴァスティーソがお茶らけた発言をすると、ケストレルは鼻で軽く笑い飛ばした。ロメリアが安堵の表情を見せてフォルトに声をかける。

 「でもよかった・・・目を覚ましてくれて・・・何時目を覚ましてくれるか、分からなかったから・・・本当に、良かった・・・」

 ロメリアはそう言ってフォルトに抱きついた。フォルトは少し困惑したが、微笑んでロメリアの背中に腕を回し、互いに抱き締め合った。

 「ごめんね、ロメリア・・・心配かけちゃったね・・・」

 「全く・・・そうだよ・・・私・・・いや、私達がどれだけ心配したか・・・」

 ロメリアの声が震え、フォルトの体を強く抱きしめる。その様子を見たヴァスティーソは両手を頭の後ろに回す。

 「さてと・・・ちょっと用事思い出したからここで失礼させてもらうね~。」

 そう言ってヴァスティーソはそそくさと部屋から出ていった。部屋から出ていったヴァスティーソを見ていたシャーロットが首を傾げる。

 「ヴァスティーソ?どうしたんでしょうか突然・・・」

 「・・・」

 ガーヴェラとケストレルもヴァスティーソが出ていった扉を見つめる。少しの間の後、ガーヴェラが抱き合っているフォルトとロメリアを一瞬だけちらりと見て、ケストレルに顔を向けた。

 「・・・あ、そうだ。ケストレル、シャーロット。お前達に手伝って欲しいものがあったんだ。」

 「私達に手伝って欲しいこと・・・ですか?何ですか、それ?」

 「それは・・・そのだな・・・」

 ガーヴェラが言葉に詰まると、ケストレルがシャーロットに声をかける。

 「コーラス・ブリッツ掃討作戦の詳細な打ち合わせだ。シャーロット、お前も作戦に参加することはさっき聞いてただろ?あれについて、簡単な話し合いがしたい。話し合いと言っても、そこまで堅っ苦しいものじゃねぇけどな。」

 ケストレルの言葉にシャーロットは大きく頷いた。

 「あぁ、その事ですか!分かりました、直ぐ準備しますね。」

 シャーロットはそう言って、机の上に置いていた魔術書を手に取って椅子から立ち上がった。ケストレルもガーヴェラの元へ行く。ガーヴェラの元へ来ると、彼女がケストレルにしか聞こえない程小さく囁いた。

 「・・・助かった。礼を言う。」

 「ったく・・・相変わらず嘘をつくのが下手な癖に無理しやがって・・・気ぃ遣ってんのがバレんだろうが。」

 ケストレルの言葉にガーヴェラは少し気を落とした。ケストレル達の会話を聞いていたフォルトはケストレルに話しかけた。

 「ねぇ、ケストレル。僕もその話し合いに加わった方がいいかな?」

 「フォルト・・・」

 抱きついていたロメリアが腕をフォルトの背中に回したままフォルトから少し距離を取って、囁く。ケストレルはフォルトの方を向く。

 「いや、来る必要はねぇ。さっきも言ったが、今からする話は本格的な話じゃない。今の内に確認しておきたい事柄をさらっとまとめるだけだ。お前はここでもう少し体を休めてろ。・・・ロメリア、フォルトの世話を頼むぞ。」

 「ケストレル・・・」

 「分かった、ケストレル。フォルトのことは任せて。」

 「・・・頼んだぞ、ロメリア。」

 「ロメリア・・・フォルトを宜しくお願いしますね。」

 ガーヴェラとシャーロットはそう言うと、ケストレルと共に部屋から出ていった。部屋にはフォルトとロメリアだけが残され、伽藍とした空間が何処か寂しく感じる。

 フォルトとロメリアはゆっくりと向き合い、見つめ合う。互いの吐息が感じられるほど顔を近づけているのをふと思ったフォルトは唐突に恥ずかしくなり、顔を赤らめる。

 「ね、ねぇロメリア・・・ちょっと・・・離れてもいい・・・かな?」

 「え?あ・・・うん・・・近すぎる・・・よね・・・」

 ロメリアもフォルトと同じように顔を赤らめて、離れる。少し気まずい空気がお互いの空間に漂い始める。

 時計の音だけが聞こえる中、フォルトがロメリアに向かって静かに話しかけた。

 「ロメリア・・・」

 「・・・何?」

 「その・・・えっと・・・何処か怪我・・・してない?」

 「うぅん、私は大丈夫。何処も怪我してないよ。」

 「そう・・・ならいいや・・・」

 「・・・」

 「・・・」

 フォルトとロメリアは再び黙り込んでしまった。何故かいつもと変わらないはずなのに、恋人と初めてのデートをしているかのような緊張感があった。そのせいか、フォルトに背を向けているロメリアの事がとても気になってしょうがなかった。

 『何だろう・・・何でこんなに胸がざわざわするんだろう・・・普段と変わらないはずなのに・・・何でこんなにロメリアの事が気になるんだろう・・・』

 フォルトの視線がロメリアの背中に向く。女性らしい線の細い体が少し汚れた浅黄色の羽織からでも分かる。

 するとロメリアがすっと静かに立ち上がった。そしてゆっくりと振り返り、いつもの笑みを向ける。

 「ねぇねぇ、ちょっと外行かない?何時までも部屋の中にいるんじゃなくって、夜の涼しい風に当たりたいなぁ~って思って。」

 「ロメリア・・・」

 「でも体ちゃんと動く?まだ痛くて動かせないとか・・・」

 「大丈夫だよ。少し違和感があるだけで痛みは感じないから。」

 フォルトはベッド傍に置いてある懐中時計を手に取って首にかけると、布団の中に入れていた両足をベッドの外へ出して立ち上がった。そして傍に掛けてあった少し穴の開いた自分のジャケットをはだけた服の上から羽織る。

 その時、ロメリアが両手を後ろに組みながら体を前のめりにしてフォルトの顔を覗き込むようにしながら近づく。そしてフォルトの体を嘗め回すように見終えると、軽く微笑んだ。

 「な、何?」

 「別に~?フォルトもちょっと大人っぽくなったかなぁ~って思っただけ。特にここの髪の毛が跳ねてるところとか!服がはだけてるとことか!ちょっとセクシーじゃない?」

 「セクシーって何それ・・・これは寝癖だよ・・・寝癖で大人っぽいって言われてもなんだかなぁ・・・」

 フォルトがロメリアの言葉に困惑すると、ロメリアは微笑んでフォルトの手を握る。

 「ねぇねぇ早く行こ行こ!さっき窓から夜空を見上げてたら凄い綺麗だったからさ!早く見たいなぁ~!」

 「分かってるよロメリア。そんな急かさなくてもついて行くから・・・」

 フォルトは自分の手を引っ張っていくロメリアと共に部屋から出ていく。誰もいなくなった部屋にはただ時を刻む振り子の音だけが静かに響いていた。
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