最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~決戦前夜編 第4章~

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[繋がり]

 「私とフォルトに・・・血の繋がりが・・・ある?」

 ロメリアが少し呆然としながら呟く。ワーロックは小さく頷き、本のある個所を指差す。そこはジャッカルの名前が書かれたすぐ横だった。

 「そうだ。その証拠がこれだ。・・・ここに書いてある名前が見えるか?ジャッカルの名前の横だ。」

 「・・・《エミリア・フィル・シュトルセン・フォルエンシュテュール》。」

 ロメリアが名前を読み上げると、ケストレルが声を上げた。

 「フォルエンシュテュールってことは、その女・・・まさか!」

 「そう、彼女は王族だ。それもフォルエンシュテュール家・・・ロメリアさんの先祖だ。」

 「こいつは驚いたね・・・ジャッカルの妻がロメリアちゃんの先祖だったなんて。」

 「この本によれば、彼女は一族より処刑命令を受けている。その理由は『反逆罪』。自分の父親、兄弟に刃を向けようとした男の逃走幇助が決め手らしい。」

 「・・・その殺しをやろうとしていたのが・・・」

 「想像通り、ジャッカルだ。彼女の父親・・・当時の王が民に圧政をひき、それに苦しんでいた市民を見て、彼は王の打倒に乗り出した。」

 ワーロックは本を閉じる。

 「だが何者かによって情報が漏洩。ジャッカルが城に侵入した時、《何故か偶々侵入した部屋に大勢の帝都兵が配備されていた》そうだ。流石のジャッカルでも苦戦を強いられていた中、彼女が手を貸して、無事逃げることが出来た。」

 「・・・」

 「しかしその事実を《何故か》知った王が娘を王に対する反逆罪で処刑することにした。そして民の前で斬首刑に処される直前の彼女をジャッカルが救った。その後帝都を脱出し、ジャッカルと共に過ごしていく中で、新たな命を宿した。」

 「・・・それを辿って行けば、フォルトに行き着くってことだな。」

 「その通りだ、ケストレル君。」

 「しかし妙だな。・・・何故情報が漏れていた?ジャッカル程の暗殺者なら情報を漏らすことなど絶対にしないだろう?身内に裏切者がいない限りは・・・」

 ガーヴェラは言葉を発している途中で、ハッと気づき言葉を止める。ワーロックが本をマントの懐に仕舞う。

 「・・・ウルフェンか!」

 「その通り。彼はフォルエンシュテュールの分家からある依頼を受けていた。それは次期帝王の椅子に座りたいとのこと。ウルフェンはその時から既に歪み始めていたらしく、彼らに恩を着せることで後に自分が動きやすくなると考え、報酬を何も受け取らずにその仕事を受けた。」

 「そしてウルフェンは現帝王側に兄が襲撃に行くという情報を流し、兄を消そうとした。運が良ければ憎き兄を殺せることが出来るからな。」

 「でもあの男のことだ。どうせ他の狙いがあったのだろう?」

 ラグナロックの呟きに、ワーロックは小さく頷く。

 「ウルフェンの真の狙いは、エミリアがジャッカルを助けることだった。エミリアは階級制度廃止を強く訴えていた。帝王からすれば、庶民の味方をする娘は邪魔でしかない。代わりの子供などいくらでもいる為、1人ぐらいいなくなっても気にならない。だからエミリアが手を貸したという情報を現帝王側に流せば、確実にそれを口実に彼女を処刑するに違いない。そしてジャッカルの性格からして彼女を見捨てる訳はない。」

 「そして市民はジャッカルがエミリアを助けた所を見ることで、よりジャッカルに対する尊敬の念が高まる。その人気に乗じ、ジャッカルの代わりにウルフェンが帝王と直系一族を消し、分家一族を据えさせる。・・・ということですわよね、恐らく。」

 「その通りです、ナターシャ様。おっしゃった通り、ウルフェンはジャッカルの名を借りて、帝王と直系の子を殺し、空いた椅子に分家の者を添えた。そしてその恩を利用し、影から帝都を今までずっと操っていたということだ。」

 「中々狡猾な男だな。兄が人気になってくれればその分動きやすかったということか。」

 「そうだ。勿論、ジャッカルは帝王を殺したのは自分ではないと主張したが、盲目な信者と化していた当時の人々は彼の言葉に耳を貸さなかった。」

 「ふ~ん・・・人気になりすぎるってのも考え物だね~。」

 ヴァスティーソが背もたれに深くもたれ掛かる。ロメリアは腕を組み、顔を俯けてずっと何かを考えていた。少し表情が暗くなっていたので、ケストレルが声をかける。

 「大丈夫か?」

 「うん・・・大丈夫。ちょっと・・・気持ちの整理をしてただけだから・・・」

 「まぁ無理もないよね~。急に実は血の繋がりがあるって言われて困惑しない方がおかしいからね~。」

 「でもこの女とあのガキって相当離れてるだろ?ていうか、こいつ分家の血継いでんじゃねぇの?」

 「そうだ。彼女は分家の血を引き継いでいる。ジャッカルの妻エミリアは本家の血・・・フォルト君との血の繋がりは・・・無に等しい。」

 「でもずっと昔に遡れば・・・同じ先祖に行き着く。」

 ナターシャの言葉に、ワーロックが頷く。部屋全体が静寂に包まれ、気まずい状態になった。

 そんな空気の中、クローサーが静寂を破った。

 「ワーロックさんよぉ、話はそれで終わりかぁ?」

 「・・・あぁ、これで終わりだ。」

 「あっそ。んじゃあそこの女と元テロリストはこの部屋から出ていけ。この後、クソ野郎を潰しに行く作戦立てなきゃいけねぇからよ。」

 「・・・だとさ。行くぞ、ロメリア。お話はもう終わりだ。早くフォルトとシャーロットのとこに帰ろうぜ?」

 ケストレルがロメリアの肩を軽く叩き、礼拝堂から出ていく。ロメリアもケストレルに続いて部屋から出ていく。

 部屋から出ると、扉の横に立っていた兵士が扉を閉める。ロメリアは部屋から出た先で待っていたケストレルと合流し、ガーヴェラの執務室へ歩き出した。

 執務室へ向かう赤いカーペットが敷かれた長廊下を歩いている中、ケストレルがズボンのポケットに両手を突っ込みながら、彼女に話しかける。

 「いやぁ、それにしても驚いたな、えぇ?まさかお前とフォルトにマジで血の繋がりがあるなんてな。・・・でもよかったじゃねぇか。これで少しぐらいは《姉弟》っぽくなったんじゃねぇの?」

 「・・・うん。」

 「何だ、お前?そんな小せぇ声で返事しやがって・・・嫌なのか?」

 「別に嫌とは言って無いでしょ。ただ・・・さっきからずっと気持ちを落ち着かせてるんだけど・・・上手くいかなくて・・・フォルトに・・・これからどう接していけばいいのかなって・・・」

 「は?お前何言ってんだ?そんな《つまんねぇ事》をうだうだ考えてやがったのか?」

 ケストレルが左肘でロメリアを軽く小突く。ロメリアの体が少し左に寄り、体勢を崩す。

 「んなもん、今まで通りで良いだろ?一々難しく考えやがって・・・お前面倒くせぇな。この間勝手にグチグチ言ってたしよ・・・重い女って言われた事ねぇか、今までに?」

 「無いよ、そんな事・・・」

 ロメリアが少しムッとした顔になってケストレルを横目で見る。ケストレルは小さく鼻で笑い飛ばし、ロメリアから視線を逸らして前を見る。

 ロメリアとケストレルはそれから一切口を利くことなく、重厚な雰囲気漂う長廊下を歩いていく。カーペットを踏む足音が低く、廊下に響いていた。
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