最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~雪の姉弟編 最終章~

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[剥奪]

 「ヨーゼフ様⁉それにユリシーゼ様まで!」

 ヨーゼフとユリシーゼはフォルエンシュテュール城の謁見の間へ転送された。アスタルドがこっそりと懐に忍ばせていた転送術が刻まれた札が発動したことで、古都からはるか離れたこの地まで転送されたのだった。

 周囲にいる部下達が近づいてくる中、ヨーゼフは吐き捨てるように叫ぶ。

 「・・・ウルフェンは?ウルフェンは何処⁉」

 「ウルフェン様は今儀式の途中で・・・それよりもヨーゼフ様とユリシーゼ様の手当てを・・・」

 「要らないよッ!そんな事より早くウルフェンを呼んでよ!」

 「し・・・しかし・・・」

 バァンッ!

 ヨーゼフは一丁のマスケット銃を出現させると、部下の頭を撃ち抜いた。部下は脳漿を周囲に撒き散らしながら、倒れる。純白の床が赤く染まっていく。

 「ほんっとうに使えない!誰か呼んで来いよッ!僕がこんなに言ってんだからさぁッ!」

 周りの部下達が畏怖する中、ヨーゼフは癇癪気味に怒鳴り散らす。するとその時、謁見の間の大扉が開き、ウルフェンが入ってきた。

 「騒々しいな・・・ヨーゼフ。」

 「ウルフェンッ!・・・お前がこの札を僕達に仕込むようアルレッキーノに伝えてたのか⁉」

 「そうだ。せっかくのゴーレムを失う訳にはいかんからな。ユリシーゼはあくまでおまけだったが・・・それにしても、姉弟揃って随分こっぴどくやられたな?」

 ウルフェンは冷たくヨーゼフを突き離すように告げる。ヨーゼフはウルフェンの無愛想な発言に苛立ちを現わしながら、息絶えたユリシーゼを抱えながら訴える。

 「ウルフェン・・・お姉ちゃんを僕と同じゴーレムにしてよ!僕で出来たんならお姉ちゃんでも出来る筈だよね!ねっ!ねぇったらっ!」

 「・・・」
 
 「ちょっと・・・何で何も言わないのさ?出来るよね?お姉ちゃんは僕より強いんだから・・・ね?」

 ヨーゼフは必死にウルフェンにユリシーゼをゴーレム化させて欲しいと訴える。しかしウルフェンは何も言わず、ただ愚者を見るような目で見下ろすように見つめる。

 暫くした後、ウルフェンが静かに語りだした。

 「突然何を言い出すと思えば・・・ヨーゼフ、残念だがそれは出来ない。お前の姉には《適正》が無いからだ。」

 「適正?なんだよ・・・それ?どういうことっ⁉」

 「魂の質の事だ。お前のような純粋で高純度の魔力を帯びている魂があってこそ、ゴーレム化に耐えれる。・・・しかしユリシーゼでは無理だ。魂の質が悪い。」

 「質が悪い?何でそんなことが分かるのさ!」

 「一度試したからだ。その際、失敗して数週間意識を失った。・・・一命を取り留めただけでも幸運だった。他の被験者全て死んだからな。」

 「じゃ・・・じゃあお姉ちゃんをゴーレム化するのは・・・無駄ってこと?」

 「そうだ。分かってるじゃないか?」

 「そんなの・・・そんなの認めない!やってよ!どうせもう死んでるんだ!万が一上手く言ったら生き返るんだ!そしたら今度こそ、あいつ等を殺してくるから!あいつ等の首持って帰って来るから!」

 ヨーゼフの必死な訴えにウルフェンは小さく首を振る。

 「しつこいな・・・無理だと言っているだろう?ゴーレム化に失敗すれば、ただ死ぬだけじゃない・・・暴走し、制御不能になって私達に襲い掛かってくる・・・そうなれば、奴らを滅ぼすどころじゃ無くなる。ユリシーゼほどの魔力を持っている奴の魂を使ったゴーレムが暴走すれば、私でもただでは済まない。悪いが、高リスクのある博打は出来ない。」

 「・・・」

 ヨーゼフの恨みが溜まった視線がウルフェンに向けられる。ヨーゼフはそっとユリシーゼを床に置くと、立ち上がった。

 「・・・分かったよ、ウルフェン。ウルフェンが拒否するなら、僕が勝手にやる。それならいいでしょ?」

 「駄目に決まっているだろう。ゴーレム化の決定を下すのはこの私だ。私の許可を得ず、勝手に死人をゴーレム化させるのは許すことは出来ない。」

 ウルフェンがそう告げた瞬間、ヨーゼフが大量のマスケット銃を出現させ、銃口をウルフェンへと向けた。周囲の部下達は一気に後ろへ下がる。

 「じゃあウルフェンを殺して、その決定権を僕に譲ってもらうよ。正直言って、僕はお姉ちゃんと静かに暮らせればそれでいいんだから・・・あのフォルトとかロメリアとかいう奴も殺したくてたまらないけど・・・ウルフェンの考えている理想の世界についても興味が無いし、寧ろ吐き気がしてたんだ。」

 「・・・私と戦うつもりか?」

 「勿論、だって邪魔だもん。お姉ちゃんと僕の世界にお前なんていらないから。とっとと消えてよ?お願いだからさぁッ!」

 ヨーゼフはそう言って一気にマスケット銃を発砲する。ウルフェンは双剣をするりと抜き、小さく溜息をついた。

 「愚かな奴だ・・・」

 ウルフェンの瞳が紅くなり、その場から一気に姿を消す。ヨーゼフはウルフェンの姿が消えるのを確認すると、自分の影に向かって幾つものマスケット銃を出現させる。

 「分かってるんだけどぉ⁉ウルフェンが影から影に飛べるってことはさぁッ!」

 ヨーゼフが叫ぶと同時に、ウルフェンがヨーゼフの背後に現れる。その瞬間、展開されている銃から火花が散り、弾丸がウルフェン目掛けて発射される。

 ウルフェンは襲い掛かってくる弾丸を見極め、僅かな隙間から弾幕をくぐり抜けて後退する。その隙を逃さず、ヨーゼフはウルフェンの周りにマスケット銃を展開する。

 「捉えた!」

 ヨーゼフは叫ぶと右腕を振り上げた。ヨーゼフの心の中ではこの時既に勝利を確信した。

 だがウルフェンは一切の戸惑いを見せず、右手に持っている双剣の内の一刀を地面に突き刺した。ヨーゼフはそんなウルフェンの不可解な行動を不思議に思ったが、自分の勝利に一切の疑いを持たなかった。

 「何をするつもりかは知らないけど、させないよ!」

 ヨーゼフは大きな声で叫ぶと腕を一気に振り下ろした。けたたましい銃声が鳴り、紫色の魔力を纏った魔弾が一斉に放たれる。魔弾はウルフェン目掛けて飛んでいき、着弾と同時に勢いよく炸裂した。凄まじい衝撃で謁見の間の硝子が全て粉々に割れる。床も粉々に粉砕されたため細かな破片が宙を舞い、視界を曇らせる。

 ヨーゼフは煙の中にいるウルフェンの魔力を探った。だが煙の中からはウルフェンの魔力を感じ取ることが出来なかった。

 「は・・・ははは!なぁ~んだ!もうおしまいなのぉ?何かしてくるかと思ってヒヤヒヤしたけど・・・あはははは!期待して損したぁ。」

 ヨーゼフが頬を痙攣させながら周囲に笑い声を響かせる。その笑い声は何処か粋がっているように甲高くなっていた。

 ___その時だった。

 ズシャァッ!

 「うッ⁉」

 突如ヨーゼフの胸から白銀の刃が現れた。刃にはヨーゼフの心臓部・・・コアを満たしている青いエネルギー液が流れ、床に滴る。

 ヨーゼフが後ろへ振り向くと、埃一つ纏っていないウルフェンが立っていた。ウルフェンは静かに呟く。

 「どうした?そんなに驚いた顔をして・・・期待には応えてやったぞ?」

 「・・・ッ!」

 「私がゴーレムの弱点を知らないとでも思ったか?人間が心臓を貫かれれば息絶えるのと同じようにゴーレムもコアを貫かれれば息絶える・・・お前にも伝えていた筈だがな?」

 ウルフェンはヨーゼフの胸に突き刺した刃をかき回すように抉る。ヨーゼフは苦しそうな声を上げてその場に膝をついた。

 「ど・・・ど・・・」

 「ん?」

 「どうやって・・・僕の弾幕から・・・幾ら高速で動けても躱せないように展開した・・・のに・・・それに弾が当たるまで僕ははっきりと・・・見てたッ・・・ウルフェンが・・・あの場から動いていない事をッ!」

 「・・・」

 「一体・・・どんな術を・・・使ったの?まさか・・・フォルトと同じように・・・また別のリミテッ・・・」

 ヨーゼフが言葉を発していた中、ウルフェンが唐突に片方の手に握っていた双剣でヨーゼフの首を跳ね飛ばした。そして胸に突き刺している方の剣を引き抜き、右足でヨーゼフを地面へ伏せさせる。

 「お前が知る必要は無い・・・《人形》風情がな?」

 ヨーゼフは刃に付いたエネルギー液を払うと鞘に納める。そして懐から大人の人差し指程の大きさと長さのある透明な瓶を取り出した。瓶の中には全身が血のように赤い芋虫のような虫が入っていて、瓶の中で外の出ようと必死に暴れている。

 「さて・・・こいつを試すしようか。ヨーゼフ・・・お前に感情は要らない。只これからは、私の都合のいい《人形》として動いてもらうぞ?」

 ウルフェンはうつ伏せで倒れているヨーゼフの背中に瓶の口をもっていき、蓋を開ける。中から虫が勢いよく出てきて、まるで急いで穴場に戻るモグラのように背中にある傷口からヨーゼフの体内に侵入した。ウルフェンはそれを見て小さく笑みを浮かべる。

 だがすぐにウルフェンは真顔になり、先程ヨーゼフが言った言葉を思い出した。

 『それにしても先程ヨーゼフが言っていた言葉・・・フォルトという子供が謎の力を使っていたと言っていたが・・・まさか・・・』

 ウルフェンは瓶をそっと胸元へ仕舞うと神妙な顔をしながら立ち上がった。ウルフェンが見つめる先にはもぞもぞと気持ち悪くまるで芋虫のように体を痙攣させるヨーゼフの姿があった。
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