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~雪の姉弟編 第4章~

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[失神]

 「な、何だよ・・・こんな・・・こんな術があるなんて聞いてない!」

 ヨーゼフは周囲にマスケット銃を展開すると、一斉にフォルトへ放つ。しかし放たれた魔弾はフォルトの眼前で停止する。フォルトは目の前で止まっている弾丸を払いのけながらゆっくりと、一歩ずつヨーゼフへ近づいていく。

 「くそッ、くそぉッ!何で・・・何で弾が止まるんだ⁉おい、フォルトォ!お前のその術!一体何なんだ⁉」

 「・・・」

 「おい、なんか言えよッ!黙ってないでさぁッ!」

 ヨーゼフが左手に持っている弾切れのマスケット銃を放り投げ、新たに生成した銃を手に持って構えた。

 ___その時、世界が暗闇に包まれた。

 「うぐっ⁉」

 ヨーゼフの体から蒼白い光が流れ出る。そのまま膝をつき、呼吸を荒くする。

 「今度は何⁉はぁ・・・はぁ・・・い、息が苦しい・・・力が・・・入らない⁉」

 ヨーゼフは周囲を見渡す。奥で倒れているラグナロックとレイアの体からも同じような光が流れ出しており、同じように苦しんでいた。この現象が自分にだけ起こっていないことを認識する。

 ___たった1人を除いて。

 「なん・・・だって・・・?」

 ヨーゼフは目を疑った。何故ならたった1人・・・フォルトだけ、体から蒼白い光が漏れておらずゆっくりとこちらに歩いて来てたからだ。フォルトの周囲には歯車のような紋章が描かれた結界が展開されている。

 「ほんと・・・何なんだよ、その術・・・僕の状態異常能力どころかこの訳分かんない異常な状況にも平然としてるなんて・・・凄く卑怯だよね?フォルト?」

 ヨーゼフは額から汗を流しながら無理やり笑みを作る。フォルトは無表情のまま何も発さず、ただヨーゼフに近づいていく。

 ・・・ジャラ・・・

 フォルトはすっと鎖鎌を構え、一気にヨーゼフへ接近し斬りかかった。足音は全くせず、影の如く滑らかに近づいてきたフォルトにヨーゼフは背筋が震えた。

 「うっ!」

 ヨーゼフは反応が鈍くなった体に無理やり指示を出し、フォルトの攻撃を回避する。そのまま切断された右腕を素早く回収し、切断面にくっつける。しかし謎の異常のせいで腕が中々くっつかず、苛立ち始めた。

 「くそッ、くそぉッ!何でくっつかないんだよぉ!いつもなら直ぐくっつくのにぃッ!」

 ヨーゼフが癇癪を起こした子供の様に叫ぶ。その直後、今度は大地が大きく震えた。ヨーゼフ達がいる倉庫が大きく揺れ、軋む。

 「今度は一体何⁉どうしてこうも次から次へと・・・」

 ヨーゼフが先程感じた大きな揺れに気を取られた・・・その瞬間だった。

 ドガァッ!

 「ぐっ⁉」

 突然ヨーゼフの左脇腹に重い衝撃と激痛が走った。視線を移すとそこにはフォルトの周囲を囲んでいた結界と同じものが展開されているラグナロックの姿があった。全身から発せられていた腐敗の音はせず、腐敗化も止まっていた。

 「おじ・・・さん?」

 ヨーゼフは信じられないものをみたように大きく目を見開く。ラグナロックはヨーゼフの左脇腹に食い込ませた己の拳をそのまま振り、ヨーゼフを全力で吹き飛ばした。

 ヨーゼフは勢いよく吹き飛ばされ、倉庫の壁を貫いて屋外へと放り出される。そのまま壁を突き抜けた先にあった別の倉庫の壁にめり込む。ヨーゼフは自分を殴り飛ばしたラグナロックを見つめ、首を鳴らす。

 「・・・もうどんなことが起こっても僕は驚かないよ?こんだけおかしなことが連続で起こったらね・・・」

 ヨーゼフは壁にめり込んだ体を剥がす。片膝をつくと、ゆっくりと立ち上がり両手にマスケット銃を出現させ握る。視線を横に向けると平野が広がる方角の空が血のように赤く染まっているのが見えた。頭上にも同じく深紅に染まる月が暗闇の海に浮いているのも見えた。

 だがその光景もつかの間、直ぐに元の黄昏時の景色に戻った。最も、平野の方角の空は赤く染まったままだったけれど。

 一方その頃ラグナロックはつい先程まで全身に走っていた体の中を溶かされている様な激痛がこの結界が周囲に張られると同時に止み、同じタイミングで襲われていた魔力の流出も虚脱感も無くなったことに困惑していた。レイアも同様で、腐り落ちた片足は戻ってはいないものの腐敗が止まり、痛みが止んだことに驚いていた。

 「この術・・・これもリミテッド・バーストの1つなの?でもあの子、それだと2つのリミテッド・バーストを持ってるってことに・・・」

 「・・・」

 2人が思案に暮れる中、ラグナロックの元へフォルトがやって来た。ラグナロックがフォルトに話しかける。

 「坊主・・・この術は一体何だ?このような術、今まで見た事無いが・・・」

 ラグナロックがフォルトに視線を移した。すると、ラグナロックはフォルトの異変に気が付いた。

 「おい・・・大丈夫か?顔色が死人みたいだが・・・」

 「・・・」

 フォルトはラグナロックの声に反応することなく、体を少し揺らしていた。首もふらついており、額には大量の汗が流れている。

 「聞いてるのか、坊主?おい・・・」

 ラグナロックがフォルトの肩に手を置いた・・・その瞬間、フォルトが突然その場に崩れ落ちた。ラグナロックは咄嗟にフォルトの体を抱える。

 「坊主!しっかりしろ!」

 フォルトはラグナロックの声に反応することなく目を瞑ったまま気を失っていた。ラグナロックとレイアを包んでいた結界が消える。

 ラグナロックがフォルトの汗にまみれた額に手を置く。フォルトは苦しそうに息を乱している。

 「凄い熱だ・・・さっきの術の影響か?」

 ラグナロックがフォルトの心配をしていたその時、レイアが喉が裂けんばかりの大声でラグナロックに叫んだ。

 「ラグナロックさん!前!」

 レイアの声に反応しラグナロックが前を向くと無数の紫炎を纏った魔弾がラグナロック目掛けて襲い掛かって来ていた。ラグナロックは咄嗟にフォルトを抱えたままその場を離れる。そのままレイアの傍に移動し、フォルトを彼女の傍に優しく置く。
 
 「坊主を任せるぞ。儂は今からあの小僧の相手をしてくる。」

 「傷は大丈夫なの?」

 「あぁ、問題ない。・・・それよりもお主の方こそ無事か?」

 「何とか・・・この子の術でさっきまで私の体を蝕んてたあの子の状態異常能力がぴたりと止まったから・・・」

 ラグナロックとレイアは改めてフォルトを見つめる。フォルトは変わらず、苦しそうに唸っている。

 「・・・とにかく、今はあの小僧を何とかするのが先か。さっきの術に関しては後程皆に伝えるとしよう。」

 「そうね・・・気を付けて。」

 ラグナロックはレイアに小さく頷き、その場から移動する。倉庫から出ると、ヨーゼフが周囲にマスケット銃を展開して待ち構えていた。ヨーゼフは頬を吊り上げて笑みを浮かべていたが、もう遭遇時のような余裕を感じられるような笑みではなく、無理やり取り繕ったような余裕の無さが感じ取れた。

 「やぁ~と出てきたぁ~!もう~何時まで隠れてたのさぁ~?」

 「すまんな坊主、待たせたな・・・しかし大人しく待っててくれるとは驚いたぞ?てっきり我慢できず、倉庫ごと破壊してくるものだと思ってはいたが・・・」

 ラグナロックはヨーゼフの周囲に展開されているマスケット銃を見る。気のせいか、マスケット銃の輝きが薄くなっているように感じた。

 「さっきの蒼白い光・・・あれで大分魔力を抜かれたようだな?顔色がよろしくないが・・・」

 「・・・」

 「何も言葉を発さない・・・ということは図星か?」

 ラグナロックが鼻を少し鳴らし、挑発気味に呟くと、ヨーゼフが右腕を高らかに上げた。マスケット銃が紫炎を纏い始める。

 「だから何?例え魔力を沢山失ったとしてもおじさんなんてすぐ殺せる位は残ってるんだけど?」

 ヨーゼフは舌打ちする。

 「僕さぁ?今すごく気分が悪いんだよね?何だろうね?不快?不服?不満?不平?・・・何だっていいや、とにかく物凄くイライラするんだよね。悉く邪魔された感じがしてさ?」

 「・・・子供だな。自分に都合が悪い事が起こったらすぐ癇癪を起こす・・・未熟極まる、見ていて呆れるな。」

 「どうでもいいよ、おじさんの感想何て。」

 「別に感想何て言ってない・・・哀れんでるだけだ。」

 「あぁ、もうイライラする!いいやもう殺す!絶対に殺すからッ!」

 『・・・来るか。』

 ラグナロックは姿勢を低くし拳を構える。ヨーゼフが感情に任せ、右腕を勢いよく振り下ろした。

 ・・・その時だった。
 
 ドォォォンッ!

 突然古都中央部から巨大な魔力の波動が発生した。波動は円状に古都全域に広がり、港にまで到達した。ヨーゼフとラグナロックは咄嗟に腕を顔の前で交差させ衝撃を受ける。

 『っく!今度は何だ!』

 2人は衝撃波が来た古都中央へ顔を向ける。発生地点と思われる所には濃い土煙が空高く巻き上がっていた。
 
 「そんな・・・嘘だ・・・」

 ヨーゼフは目を大きく開き、口をわなわなと震わせた。
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